「意味性認知症」の版間の差分

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== 病因・病態 ==
== 病因・病態 ==
 意味性認知症では側頭葉極に強い脳萎縮を認め、相対的に前頭葉は保たれ、側頭前頭型の萎縮を呈する。この萎縮分布パターンを取れば病理背景に関わらず臨床的に意味性認知症を呈しうると考えられるが、実際には意味性認知症を呈する疾患で頻度が高いものはFTLD-TDPである。意味性認知症患者では[[タウ]]陽性[[封入体]]が出現する[[タウオパチー]]の頻度が低い<ref name=Snowden2007><pubmed>17569065</pubmed></ref>[30]。新皮質における[[TDP-43]]陽性病変は組織病理学的にtype Aからtype Dの4型がまず整理され('''表3'''、'''図4A−C''') <ref name=Cairns2007><pubmed>17579875</pubmed></ref><ref name=Mackenzie2011><pubmed>21644037</pubmed></ref>、後にtype Eが追加された<ref name=Lee2017><pubmed>28130640</pubmed></ref>('''表3''')。意味性認知症患者のTDP-43病理学的サブタイプは長い変性神経突起を多く認めるtype C病理が高頻度である('''図4C''')。Manchester大のシリーズでは意味性認知症を呈したFTLD-TDPの約90%を占め<ref name=Snowden2007 />、本邦でのFTLD-TDPの剖検シリーズでも同様の傾向を認める<ref name=Yokota2009><pubmed>19194716</pubmed></ref>。ただし、稀にtype A病理<ref name=Snowden2007 />や、type B病理<ref name=Yokota2009><pubmed>19194716</pubmed></ref>を有する例がある。特にtype B病理はTDP-43陽性封入体を有する[[筋萎縮性側索硬化症]]に強く関連する病理であるが、type Bで意味性認知症を呈する例で経過中に四肢や舌の筋萎縮が出現し('''図5A-C''')、病理学的に上位・下位運動ニューロンの変性('''図5D−F''')と運動ニューロンにTDP-43陽性病変('''図5G, H''')を認める場合があるため、臨床実地では注意を要する。
{| class="wikitable"
|+表3. FTLD-TDPのTDP-43陽性病変のサブタイプ<ref name=Cairns2007></ref><ref name=Mackenzie2011></ref>
! タイプ
! 病理所見
|-
! scope="row"|  Type A
|異常[[リン酸化]]したTDP-43が蓄積した小型の神経細胞体内封入体と短い変性[[神経突起]]が[[大脳皮質|皮質]]第2層に好発する。核内封入体も時々認められる('''図4A''')。
|-
! scope="row"|  Type B
|神経細体内にリン酸化TDP-43が異常蓄積する。封入体は皮質の全層に認められる。神経細体に瀰漫性に蓄積する場合と、円形封入体を形成する場合がある。変性神経突起はほとんど認められない('''図4B''')。
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! scope="row"|  Type C
|異常リン酸化したTDP-43が蓄積した長い変性神経突起が多数散在する。皮質の第2層に多い。TDP-43の神経細胞胞体内封入体は乏しく、核内封入体は認められない('''図4C''')。
|-
! scope="row"|  Type D
|[[valosin containing protein]] ([[VCP]]) 遺伝子変異を伴う[[骨Paget病]]および前頭側頭型認知症を伴う封入体ミオパチー]] (inclusion body myopathy with Paget’s disease of bone and frontotemporal dementia: IBMPFD)に特異的に認められ、多数のTDP-43陽性レンズ型核内封入体と多数の短い変性神経突起が皮質の全層に出現し、神経細胞胞体内封入体がほとんどない事が特徴である<ref name=Cairns2007></ref><ref name=Mackenzie2011></ref>。
|-
! scope="row"|  Type E
|2017年に報告されたサブタイプで、TDP-43陽性の顆粒状で線維形成される神経細胞内封入体 (granulofilamentous neuronal inclusion)と、[[ニューロピル]]に散在する微細な顆粒状構造、短い線維状の[[オリゴデンドログリア]]封入体を認める<ref name=Lee2017></ref>。 大脳新皮質全体、白質、線条体など深部の[[灰白質]]、[[辺縁系]]、[[黒質]]、[[橋核]]、[[下オリーブ核]]、[[脊髄]]等、[[中枢神経]]の広範囲に認められる。臨床的には3年以内に死亡する急速な進行と関係するとされる<ref name=Lee2017></ref>。
|}


 意味性認知症では側頭葉極に強い脳萎縮を認め、相対的に前頭葉は保たれ、側頭前頭型の萎縮を呈する。この萎縮分布パターンを取れば病理背景に関わらず臨床的に意味性認知症を呈しうると考えられるが、実際には意味性認知症を呈する疾患で頻度が高いものはFTLD-TDPである。意味性認知症患者ではタウ陽性封入体が出現するタウオパチーの頻度が低い<ref name=Snowden2007><pubmed>17569065</pubmed></ref>[30]。新皮質におけるTDP-43陽性病変は組織病理学的にtype Aからtype Dの4型がまず整理され(図4A~4C) <ref name=Cairns2007><pubmed>17579875</pubmed></ref><ref name=Mackenzie2011><pubmed>21644037</pubmed></ref>[31][32]、後にtype Eが追加された<ref name=Lee2017><pubmed>28130640</pubmed></ref>[33]、意味性認知症患者のTDP-43病理学的サブタイプは長い変性神経突起を多く認めるtype C病理が高頻度である(図4C)。Manchester大のシリーズでは意味性認知症を呈したFTLD-TDPの約90%を占め<ref name=Snowden2007 /> [30]、本邦でのFTLD-TDPの剖検シリーズでも同様の傾向を認める<ref name=Yokota2009><pubmed>19194716</pubmed></ref>[26]。ただし、稀にtype A病理<ref name=Snowden2007 /> [30]や、type B病理<ref name=Yokota2009><pubmed>19194716</pubmed></ref>[26]を有する例がある。特にtype B病理はTDP-43陽性封入体を有する筋萎縮性側索硬化症に強く関連する病理であるが、type Bで意味性認知症を呈する例で経過中に四肢や舌の筋萎縮が出現し(図5A、 5B、 5C)、病理学的に上位・下位運動ニューロンの変性(図5D、 5E、 5F)と運動ニューロンにTDP-43陽性病変(図5G、 5H)を認める場合があるため、臨床実地では注意を要する。
 3Rタウ陽性4Rタウ陰性の[[ピック小体]]を有するピック病で意味性認知症を呈する例はかなり稀であり、本邦の経過を追えた14例のシリーズでは意味性認知症を呈した例はおらず<ref name=Yokota2009><pubmed>19194716</pubmed></ref>[26]、米国のブレインバンクのピック病21例でも意味性認知症を呈した例はいなかった<ref name=Irwin2016><pubmed>26583316</pubmed></ref>[34]。英国の意味性認知症の剖検シリーズ24例においては、3例(12。5%)がピック小体を有するピック病、3例(12。5%)がアルツハイマー病で、残りの18例(75%)がユビキチン陽性封入体を有するFTLDと報告されている(うち13例でTDP-43を検討し全例がFTLD-TDPであった) <ref name=Hodges2010><pubmed>19805492</pubmed></ref>[35]


 3Rタウ陽性4Rタウ陰性のピック小体を有するピック病で意味性認知症を呈する例はかなり稀であり、本邦の経過を追えた14例のシリーズでは意味性認知症を呈した例はおらず<ref name=Yokota2009><pubmed>19194716</pubmed></ref>[26]、米国のブレインバンクのピック病21例でも意味性認知症を呈した例はいなかった<ref name=Irwin2016><pubmed>26583316</pubmed></ref>[34]。英国の意味性認知症の剖検シリーズ24例においては、3例(12。5%)がPick小体を有するピック病、3例(12。5%)がADで、残りの18例(75%)がubiquitin陽性封入体を有するFTLDと報告されている(うち13例でTDP-43を検討し全例がFTLD-TDPであった) <ref name=Hodges2010><pubmed>19805492</pubmed></ref>[35]
 FTLD-TDPに関しては[[C9orf72]]遺伝子、valosin-containing protein(VCP)遺伝子、[[progranulin]]遺伝子の変異を有する例がある。


 FTLD-TDPに関してはC9orf72遺伝子、valosin-containing protein(VCP)遺伝子、progranulin遺伝子の変異を有する例がある。
 嗜銀顆粒病は扁桃核や海馬といった[[辺縁系]]、それに連続する側頭葉皮質に病変が分布する疾患だが、意味性認知症を呈する例は極めて稀である。病理学的に[[皮質基底核変性症]]や[[進行性核上性麻痺]]と診断される例も生前に意味性認知症を呈することはなく、これも新皮質の萎縮が[[前頭葉穹隆面]]に強調され、側頭葉は極を含めて比較的よく保たれることと矛盾しない。
 
 嗜銀顆粒病は扁桃核や海馬といった辺縁系、それに連続する側頭葉皮質に病変が分布する疾患だが、意味性認知症を呈する例は極めて稀である。病理学的に皮質基底核変性症や進行性核上性麻痺と診断される例も生前に意味性認知症を呈することはなく、これも新皮質の萎縮が前頭葉穹隆面に強調され、側頭葉は極を含めて比較的よく保たれることと矛盾しない。


== 治療、経過、予後 ==
== 治療、経過、予後 ==

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