「スフィンゴミエリン」の版間の差分

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== 疾患との関連 ==
== 疾患との関連 ==
 哺乳動物ミエリン膜では、脂質の含量が約70%と非常に高く<ref name=DeVries1981><pubmed>7240954</pubmed></ref><ref name=Gent1964><pubmed>14238160</pubmed></ref><ref name=Norton1965><pubmed>14313516</pubmed></ref><ref name=Norton1973><pubmed>4754856</pubmed></ref><ref name=Svennerholm1992><pubmed>1390872</pubmed></ref>、特徴的な脂質組成を示す。コレステロールとガラクトシルセラミドが、ミエリン鞘において、27-28%、20-24%の割合で存在するのに対し<ref name=Garbay2000><pubmed>10727776</pubmed></ref><ref name=Norton1973><pubmed>4754856</pubmed></ref><ref name=Ozgen2016><pubmed>27141942</pubmed></ref>、スフィンゴミエリンは、中枢、末梢神経系のミエリンにおいて、それぞれ6%、13%を占める<ref name=Poitelon2020><pubmed>32230947</pubmed></ref>。SGMS1あるいはSGMS2のノックアウトマウスでは、ミエリンに障害は観察されないが、酸性スフィンゴミエリナーゼの遺伝・薬理的阻害は、cuprizoneによる脱髄マウスモデルにおいて、有意なミエリンの回復が見られ、スフィンゴミエリンのミエリン鞘における役割が示唆されている<ref name=Chami2017><pubmed>28582448</pubmed></ref>。
=== 神経疾患 ===
==== 脱髄疾患 ====
 哺乳動物ミエリン膜では、脂質の含量が約70%と非常に高く<ref name=DeVries1981><pubmed>7240954</pubmed></ref><ref name=Gent1964><pubmed>14238160</pubmed></ref><ref name=Norton1965><pubmed>14313516</pubmed></ref><ref name=Norton1973><pubmed>4754856</pubmed></ref><ref name=Svennerholm1992><pubmed>1390872</pubmed></ref>、特徴的な脂質組成を示す。コレステロールと[[ガラクトシルセラミド]]が、髄鞘において、27-28%、20-24%の割合で存在するのに対し<ref name=Garbay2000><pubmed>10727776</pubmed></ref><ref name=Norton1973><pubmed>4754856</pubmed></ref><ref name=Ozgen2016><pubmed>27141942</pubmed></ref>、スフィンゴミエリンは、中枢、末梢神経系のミエリンにおいて、それぞれ6%、13%を占める<ref name=Poitelon2020><pubmed>32230947</pubmed></ref>。SGMS1あるいはSGMS2の[[ノックアウトマウス]]では、ミエリンに障害は観察されないが、酸性スフィンゴミエリナーゼの遺伝・薬理的阻害は、[[cuprizone]]による[[脱髄]]マウスモデルにおいて、有意なミエリンの回復が見られ、スフィンゴミエリンのミエリン鞘における役割が示唆されている<ref name=Chami2017><pubmed>28582448</pubmed></ref>。
==== アルツハイマー病 ====
 [[アルツハイマー病]]において、スフィンゴミエリンとコレステロールレベルが、γ―セクレターゼの活性制御を通して、[[アミロイド&beta;前駆体タンパク質]]([[APP]])の[[アミロイド&beta;]]([[A&beta;]])への切断をコントロールすること、また異なる切断産物が代謝酵素の制御を通じて、スフィンゴミエリンとコレステロールレベルを変化させることが報告されている<ref name=Grimm2005><pubmed>16227967</pubmed></ref>。
==== シャルコー・マリー・トゥース病 ====
 細胞膜外層のスフィンゴミエリンをフリップし、内層のスフィンゴミエリンプールを生じる[[PMP2]]をコードする遺伝子は、遺伝性の運動・感覚性神経障害、[[シャルコー・マリー・トゥース病]]([[Charcot-Marie-Tooth disease]]; [[CMT]])のうち、脱髄が顕著な[[CMT1]]の原因遺伝子の一つとして知られている。PMP2の点変異I43NはCMT1家系で[[常染色体顕性]]の病因性変異であることが示唆されている<ref name=Gonzaga-Jauregui2015><pubmed>26257172</pubmed></ref><ref name=Hong2016><pubmed>26828946</pubmed></ref>。PMP2 I43Nは野生型タンパク質に比べ、PI(4,5)P2へ高い親和性を示し、スフィンゴミエリンのフリップを亢進する、[[機能獲得]]型変異であることが示唆された<ref name=Abe2021><pubmed>34758297</pubmed></ref>。
==== ニーマン・ピック病 ====
 [[aSMase]](遺伝子[[SMPD1]])はリソソームにおいて、スフィンゴミエリンの異化を担う[[スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ]]([[sphingomyelin phosphodiesterase]], E.C. 3.1.4.12)であるが、常染色体劣性リソソーム病である[[ニーマン・ピック病]]A型およびB型([[Niemann-Pick disease]] type A/B, NPA/B)の原因遺伝子でもある<ref name=Schuchman2017><pubmed>28164782</pubmed></ref>。A型患者細胞では、酵素活性欠損により<ref name=Brady1966><pubmed>5220952</pubmed></ref>、基質であるスフィンゴミエリンがエンドソーム/リソソームに蓄積する<ref name=Kiyokawa2005><pubmed>15840575</pubmed></ref><ref name=Kiyokawa2004><pubmed>15274631</pubmed></ref><ref name=Yamaji1998><pubmed>9478988</pubmed></ref>。A型の患者は、生後1年以内に[[肝脾腫]]や発育不良を示し、急速に進行する神経変性を伴い、発達遅延が著しく、3年以内に死亡する。B型の患者では、中枢神経系の異常は見られないが、重度の肝脾腫や[[肝不全]]が現れ、血中の中性脂肪や低密度リポタンパク質(LDL) コレステロールレベルが高くなる<ref name=Schuchman2017><pubmed>28164782</pubmed></ref>。当該疾患では、後期エンドソーム・リソソームに局在するコレステロールトランスポーターNPC1、NPC2欠損によるニーマンピック病C型と同様、コレステロールの蓄積が観察されるが、これはaSMase欠損により蓄積したスフィンゴミエリンがコレステロールと相互作用することにより、NPC2によるコレステロール輸送を阻害していると考えられる<ref name=Oninla2014><pubmed>25339683</pubmed></ref>。
==== パーキンソン病 ====
 [[パーキンソン病]]において、ニーマンピック病のようなリソソームの脂質蓄積病との関連が示唆されており、リソソームの機能不全が&alpha;-シヌクレイン(&alpha;-Syn)の蓄積を引き起こすことが示唆されているが、発症機序は現段階では不明である<ref name=Signorelli2021><pubmed>34572524</pubmed></ref>。
==== 骨粗相症 ====
 SMS2は骨組織で高い発現レベルを示し、そのヘテロ接合変異が、常染色体顕性遺伝疾患、[[腓骨ドーナツ病変を伴う骨粗鬆症]]([[osteoporosis with calvarial doughnut lesions]], O0-CDL: OMIM #126550)の原因変異として同定されている<ref name=Pekkinen2019><pubmed>30779713</pubmed></ref>。シビアな変異I62SやM64Rをもつ病原性SMS2は小胞体から出ることができず、小胞体でスフィンゴミエリン を合成/蓄積することで、細胞内の脂質プロファイルに変化を生じる<ref name=Sokoya2022><pubmed>36102623</pubmed></ref>。
=== ウイルス感染症 ===
 ヒト免疫不全症候群ウイルス1型 (HIV-1, human immunodeficiency virus type-I)は、エンベロープウイルスであり、複製されたウイルスは、感染細胞の細胞膜で形成、出芽し、細胞外へ放出される。ウイルスエンベロープのリピドミクス解析では<ref name=Aloia1993><pubmed>8389472</pubmed></ref><ref name=Brugger2006><pubmed>16481622</pubmed></ref><ref name=Chan2008><pubmed>18799574</pubmed></ref><ref name=Lorizate2013><pubmed>23279151</pubmed></ref><ref name=Mucksch2019><pubmed>31776383</pubmed></ref>、スフィンゴミエリンが感染細胞の細胞膜に比べ濃縮されていることが報告されている<ref name=Chan2008><pubmed>18799574</pubmed></ref><ref name=Lorizate2013><pubmed>23279151</pubmed></ref>114]。これらの結果は、スフィンゴミエリン、コレステロールに特異的に結合するタンパク質(脂質プローブ)と先端顕微鏡技術の使用によって確認され、スフィンゴミエリン やコレステロールが細胞膜上のウイルス形成部位に濃縮されることが観察されている<ref name=Favard2019><pubmed>31616784</pubmed></ref><ref name=Sengupta2019><pubmed>30936472</pubmed></ref><ref name=Tomishige2023><pubmed>37990014</pubmed></ref>。セラミド合成酵素阻害剤fumonisin B1処理は、産生されたウイルスの感染性を減少する<ref name=Brugger2006><pubmed>16481622</pubmed></ref>。宿主由来の中性スフィンゴミエリナーゼ(nSMase2)がウイルスに取り込まれ、その活性がウイルス成熟に重要であることが報告された<ref name=Waheed2023><pubmed>37406093</pubmed></ref><ref name=Yoo2023><pubmed>37406092</pubmed></ref>。nSMase2の薬理的、遺伝的阻害は、ウイルスプロテアーゼ活性低下によるウイルス成熟を阻害し、ウイルスの感染性を低下させる<ref name=Waheed2023><pubmed>37406093</pubmed></ref><ref name=Yoo2023><pubmed>37406092</pubmed></ref>。


 アルツハイマー病において、スフィンゴミエリンとコレステロールレベルが、γ―セクレターゼの活性制御を通して、ベータアミロイド前駆体タンパク質(APP)のアミロイドベータ(A)への切断をコントロールすること、また異なる切断産物が代謝酵素の制御を通じて、スフィンゴミエリンとコレステロールレベルを変化させることが報告されている<ref name=Grimm2005><pubmed>16227967</pubmed></ref>。
 C型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus)のエンベロープのリピドミクス解析によって、スフィンゴミエリン、コレステロールエステルが濃縮されている一方で、PC、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)などが減少していることが明らかになっている<ref name=Merz2011><pubmed>21056986</pubmed></ref>。ウイルス粒子のスフィンゴミエリナーゼ処理は、ウイルスの取り込みを阻害し、ウイルスの感染性を低下する<ref name=Aizaki2008><pubmed>18367533</pubmed></ref>。また、細胞のスフィンゴ脂質生合成の阻害剤処理は、ウイルス産生を阻害する<ref name=Aizaki2008><pubmed>18367533</pubmed></ref>。


 細胞膜外層のスフィンゴミエリンをフリップし、内層のスフィンゴミエリンプールを生じるPMP2をコードする遺伝子は、遺伝性の運動・感覚性神経障害、シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease (CMT))のうち、脱髄が顕著なCMT1の原因遺伝子の一つとして知られている。PMP2の点変異I43NはCMT1家系で常染色体優性の病因性変異であることが示唆されている<ref name=Gonzaga-Jauregui2015><pubmed>26257172</pubmed></ref><ref name=Hong2016><pubmed>26828946</pubmed></ref>。PMP2 I43Nは野生型タンパク質に比べ、PI(4,5)P2へ高い親和性を示し、スフィンゴミエリンのフリップを亢進する、機能獲得型変異であることが示唆された<ref name=Abe2021><pubmed>34758297</pubmed></ref>。
 ウエストナイルウイルス(WNV)のエンベロープには、スフィンゴミエリンが濃縮されている<ref name=Martin-Acebes2014><pubmed>25122799</pubmed></ref>。感染細胞のnSMase阻害剤処理は、WNVの産生を減少する。WNVの感染はaSMase欠損マウスや、ニーマンピックA患者由来の細胞など、スフィンゴミエリンが蓄積していると考えられる細胞で増加する<ref name=Martin-Acebes2016><pubmed>26764042</pubmed></ref>。培養細胞へのスフィンゴミエリンの添加は、WNV感染を増加する一方で、スフィンゴミエリン合成阻害剤処理は、WNV感染を減少する。共焦点顕微鏡観察では、WNV感染細胞においてスフィンゴミエリンとWNV double-strand RNAが共局在する。このようにスフィンゴミエリンは、WNVの異なる二つのステップに重要な役割を果たしている。
 
インフルエンザA型ウイルス(IAV)もまた、感染細胞の細胞膜上の脂質マイクロドメイン“脂質ラフト”の感染と出芽への関与が報告されている<ref name=Eierhoff2010><pubmed>20844577</pubmed></ref><ref name=Verma2018><pubmed>30453689</pubmed></ref>。スフィンゴミエリン特異的な関与については、遺伝的あるいは薬理的にスフィンゴミエリンS1を阻害した細胞では、新しいウイルス粒子の成熟と産生が遅れることが報告されている <ref name=Tafesse2013><pubmed>23576732</pubmed></ref>。ウイルス粒子のスフィンゴミエリナーゼ処理は、感染性を低下し、ウイルスの膜への付着と細胞内への取り込みを阻害した。また、細胞のスフィンゴミエリナーゼ処理は、ウイルス感染、取り込みを減少し、細胞への外来性のスフィンゴミエリン添加は感染を亢進した<ref name=Audi2020><pubmed>32425895</pubmed></ref>。またスフィンゴミエリンとコレステロールの複合体に特異的に結合するタンパク質、NakanoriによりMDCK細胞からのウイルスの出芽が抑えられた<ref name=Makino2017><pubmed>27492925</pubmed></ref>
 aSMase(遺伝子SMPD1)はリソソームにおいて、スフィンゴミエリンの異化を担うホスホジエステラーゼ(SM phosphodiesterase, E.C. 3.1.4.12)であるが、常染色体劣性リソソーム病であるニーマンピック病A型およびB型(Niemann-Pick disease type A/B, NPA/B)の原因遺伝子でもある<ref name=Schuchman2017><pubmed>28164782</pubmed></ref>。NPA患者細胞では、酵素活性欠損により<ref name=Brady1966><pubmed>5220952</pubmed></ref>、基質であるスフィンゴミエリンがエンドソーム/リソソームに蓄積する<ref name=Kiyokawa2005><pubmed>15840575</pubmed></ref><ref name=Kiyokawa2004><pubmed>15274631</pubmed></ref><ref name=Yamaji1998><pubmed>9478988</pubmed></ref>。A型の患者は、生後1年以内に肝脾腫や発育不良を示し、急速に進行する神経変性を伴い、発達遅延が著しく、3年以内に死亡する。B型の患者では、中枢神経系の異常は見られないが、重度の肝脾腫や肝不全が現れ、血中の中性脂肪や低密度リポタンパク質(LDL) コレステロールレベルが高くなる<ref name=Schuchman2017><pubmed>28164782</pubmed></ref>。当該疾患では、後期エンドソーム・リソソームに局在するコレステロールトランスポーターNPC1、NPC2欠損によるニーマンピック病C型と同様、コレステロールの蓄積が観察されるが、これはaSMase欠損により蓄積したスフィンゴミエリンがコレステロールと相互作用することにより、NPC2によるコレステロール輸送を阻害していると考えられる<ref name=Oninla2014><pubmed>25339683</pubmed></ref>


=== その他 ===
 aSMaseと酸性セラミダーゼ(aCDase)が、炎症性サイトカインTNF-やIL-1刺激に応じたIL-6やCC-chemokine ligand5 (CCL5)の産生を正に調節する一方で、スフィンゴシンキナーゼ(SphK2)は負に調節していることが示されている<ref name=Jenkins2011><pubmed>21335555</pubmed></ref>。すなわち、スフィンゴシンがCCL5の産生に重要であることが示唆されている。CCL5の過剰産生は、動脈硬化、喘息やがんを含む疾患に関連付けられている<ref name=Jenkins2011><pubmed>21335555</pubmed></ref>。臨床では、血清中のaSMaseレベルにより全身性の炎症進展のリスクがある患者の死亡率を予見しうることが報告されている<ref name=Kott2014><pubmed>25384060</pubmed></ref>。
 aSMaseと酸性セラミダーゼ(aCDase)が、炎症性サイトカインTNF-やIL-1刺激に応じたIL-6やCC-chemokine ligand5 (CCL5)の産生を正に調節する一方で、スフィンゴシンキナーゼ(SphK2)は負に調節していることが示されている<ref name=Jenkins2011><pubmed>21335555</pubmed></ref>。すなわち、スフィンゴシンがCCL5の産生に重要であることが示唆されている。CCL5の過剰産生は、動脈硬化、喘息やがんを含む疾患に関連付けられている<ref name=Jenkins2011><pubmed>21335555</pubmed></ref>。臨床では、血清中のaSMaseレベルにより全身性の炎症進展のリスクがある患者の死亡率を予見しうることが報告されている<ref name=Kott2014><pubmed>25384060</pubmed></ref>。


 パーキンソン病において、ニーマンピック病のようなリソソームの脂質蓄積病との関連が示唆されており、リソソームの機能不全が-シヌクレイン(-Syn)の蓄積を引き起こすことが示唆されているが、発症機序は現段階では不明である<ref name=Signorelli2021><pubmed>34572524</pubmed></ref>。
 Sgms2-ノックアウトマウスでは、スフィンゴミエリンレベルが減少するが、インスリン感受性が亢進し、高脂質食誘導の肥満に耐性を示した<ref name=Li2011><pubmed>21844222</pubmed></ref>。Sgms1-ノックアウトマウスでは、インスリン分泌の減少、白色脂肪組織での酸化ストレス誘導が観察され、白色脂肪細胞の破壊と機能不全を生じた<ref name=Yano2013><pubmed>23593476</pubmed></ref>。
 Sgms2-ノックアウトマウスでは、スフィンゴミエリンレベルが減少するが、インスリン感受性が亢進し、高脂質食誘導の肥満に耐性を示した<ref name=Li2011><pubmed>21844222</pubmed></ref>。Sgms1-ノックアウトマウスでは、インスリン分泌の減少、白色脂肪組織での酸化ストレス誘導が観察され、白色脂肪細胞の破壊と機能不全を生じた<ref name=Yano2013><pubmed>23593476</pubmed></ref>。


 SMS2は骨組織で高い発現レベルを示し、そのヘテロ接合変異が、常染色体優性遺伝疾患、腓骨ドーナツ病変を伴う骨粗しょう症(osteoporosis with calvarial doughnut lesions, O0-CDL: OMIM #126550)の原因変異として同定されている<ref name=Pekkinen2019><pubmed>30779713</pubmed></ref>。シビアな変異I62SやM64Rをもつ病原性SMS2は小胞体から出ることができず、小胞体でスフィンゴミエリン を合成/蓄積することで、細胞内の脂質プロファイルに変化を生じる<ref name=Sokoya2022><pubmed>36102623</pubmed></ref>。
=== ウイルス感染との関連 ===
 ヒト免疫不全症候群ウイルス1型 (HIV-1, human immunodeficiency virus type-I)は、エンベロープウイルスであり、複製されたウイルスは、感染細胞の細胞膜で形成、出芽し、細胞外へ放出される。ウイルスエンベロープのリピドミクス解析では<ref name=Aloia1993><pubmed>8389472</pubmed></ref><ref name=Brugger2006><pubmed>16481622</pubmed></ref><ref name=Chan2008><pubmed>18799574</pubmed></ref><ref name=Lorizate2013><pubmed>23279151</pubmed></ref><ref name=Mucksch2019><pubmed>31776383</pubmed></ref>、スフィンゴミエリンが感染細胞の細胞膜に比べ濃縮されていることが報告されている<ref name=Chan2008><pubmed>18799574</pubmed></ref><ref name=Lorizate2013><pubmed>23279151</pubmed></ref>114]。これらの結果は、スフィンゴミエリン、コレステロールに特異的に結合するタンパク質(脂質プローブ)と先端顕微鏡技術の使用によって確認され、スフィンゴミエリン やコレステロールが細胞膜上のウイルス形成部位に濃縮されることが観察されている<ref name=Favard2019><pubmed>31616784</pubmed></ref><ref name=Sengupta2019><pubmed>30936472</pubmed></ref><ref name=Tomishige2023><pubmed>37990014</pubmed></ref>。セラミド合成酵素阻害剤fumonisin B1処理は、産生されたウイルスの感染性を減少する<ref name=Brugger2006><pubmed>16481622</pubmed></ref>。宿主由来の中性スフィンゴミエリナーゼ(nSMase2)がウイルスに取り込まれ、その活性がウイルス成熟に重要であることが報告された<ref name=Waheed2023><pubmed>37406093</pubmed></ref><ref name=Yoo2023><pubmed>37406092</pubmed></ref>。nSMase2の薬理的、遺伝的阻害は、ウイルスプロテアーゼ活性低下によるウイルス成熟を阻害し、ウイルスの感染性を低下させる<ref name=Waheed2023><pubmed>37406093</pubmed></ref><ref name=Yoo2023><pubmed>37406092</pubmed></ref>。
 C型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus)のエンベロープのリピドミクス解析によって、スフィンゴミエリン、コレステロールエステルが濃縮されている一方で、PC、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)などが減少していることが明らかになっている<ref name=Merz2011><pubmed>21056986</pubmed></ref>。ウイルス粒子のスフィンゴミエリナーゼ処理は、ウイルスの取り込みを阻害し、ウイルスの感染性を低下する<ref name=Aizaki2008><pubmed>18367533</pubmed></ref>。また、細胞のスフィンゴ脂質生合成の阻害剤処理は、ウイルス産生を阻害する<ref name=Aizaki2008><pubmed>18367533</pubmed></ref>。
 ウエストナイルウイルス(WNV)のエンベロープには、スフィンゴミエリンが濃縮されている<ref name=Martin-Acebes2014><pubmed>25122799</pubmed></ref>。感染細胞のnSMase阻害剤処理は、WNVの産生を減少する。WNVの感染はaSMase欠損マウスや、ニーマンピックA患者由来の細胞など、スフィンゴミエリンが蓄積していると考えられる細胞で増加する<ref name=Martin-Acebes2016><pubmed>26764042</pubmed></ref>。培養細胞へのスフィンゴミエリンの添加は、WNV感染を増加する一方で、スフィンゴミエリン合成阻害剤処理は、WNV感染を減少する。共焦点顕微鏡観察では、WNV感染細胞においてスフィンゴミエリンとWNV double-strand RNAが共局在する。このようにスフィンゴミエリンは、WNVの異なる二つのステップに重要な役割を果たしている。
インフルエンザA型ウイルス(IAV)もまた、感染細胞の細胞膜上の脂質マイクロドメイン“脂質ラフト”の感染と出芽への関与が報告されている<ref name=Eierhoff2010><pubmed>20844577</pubmed></ref><ref name=Verma2018><pubmed>30453689</pubmed></ref>。スフィンゴミエリン特異的な関与については、遺伝的あるいは薬理的にスフィンゴミエリンS1を阻害した細胞では、新しいウイルス粒子の成熟と産生が遅れることが報告されている <ref name=Tafesse2013><pubmed>23576732</pubmed></ref>。ウイルス粒子のスフィンゴミエリナーゼ処理は、感染性を低下し、ウイルスの膜への付着と細胞内への取り込みを阻害した。また、細胞のスフィンゴミエリナーゼ処理は、ウイルス感染、取り込みを減少し、細胞への外来性のスフィンゴミエリン添加は感染を亢進した<ref name=Audi2020><pubmed>32425895</pubmed></ref>。またスフィンゴミエリンとコレステロールの複合体に特異的に結合するタンパク質、NakanoriによりMDCK細胞からのウイルスの出芽が抑えられた<ref name=Makino2017><pubmed>27492925</pubmed></ref>
 
== 特異的標的毒素とその可視化技術への利用 ==
== 特異的標的毒素とその可視化技術への利用 ==
 スフィンゴミエリンをターゲットとし、多量体形成による細胞膜に孔を形成する毒素が知られている。これらの毒素は、変異導入や全長タンパク質の脂質結合ドメインへの短縮化により単量体・無毒化が図られ、細胞におけるスフィンゴミエリンの分布・動態可視化に用いられている<ref name=Kobayashi2021><pubmed>37366372</pubmed></ref><ref name=Tomishige2021><pubmed>33712198</pubmed></ref>。また、蛍光スフィンゴミエリン 類似体による可視化例についても総説を紹介する<ref name=Jamecna2024><pubmed>38488070</pubmed></ref><ref name=Kishimoto2016><pubmed>26993577</pubmed></ref><ref name=Kol2025><pubmed>39672331</pubmed></ref><ref name=Yamaji-Hasegawa2016><pubmed>26498396</pubmed></ref>。
 スフィンゴミエリンをターゲットとし、多量体形成による細胞膜に孔を形成する毒素が知られている。これらの毒素は、変異導入や全長タンパク質の脂質結合ドメインへの短縮化により単量体・無毒化が図られ、細胞におけるスフィンゴミエリンの分布・動態可視化に用いられている<ref name=Kobayashi2021><pubmed>37366372</pubmed></ref><ref name=Tomishige2021><pubmed>33712198</pubmed></ref>。また、蛍光スフィンゴミエリン 類似体による可視化例についても総説を紹介する<ref name=Jamecna2024><pubmed>38488070</pubmed></ref><ref name=Kishimoto2016><pubmed>26993577</pubmed></ref><ref name=Kol2025><pubmed>39672331</pubmed></ref><ref name=Yamaji-Hasegawa2016><pubmed>26498396</pubmed></ref>。

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