「スフィンゴミエリン」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
76行目: 76行目:


=== ウイルス感染症 ===
=== ウイルス感染症 ===
 ヒト免疫不全症候群ウイルス1型 (HIV-1, human immunodeficiency virus type-I)は、エンベロープウイルスであり、複製されたウイルスは、感染細胞の細胞膜で形成、出芽し、細胞外へ放出される。ウイルスエンベロープのリピドミクス解析では<ref name=Aloia1993><pubmed>8389472</pubmed></ref><ref name=Brugger2006><pubmed>16481622</pubmed></ref><ref name=Chan2008><pubmed>18799574</pubmed></ref><ref name=Lorizate2013><pubmed>23279151</pubmed></ref><ref name=Mucksch2019><pubmed>31776383</pubmed></ref>、スフィンゴミエリンが感染細胞の細胞膜に比べ濃縮されていることが報告されている<ref name=Chan2008><pubmed>18799574</pubmed></ref><ref name=Lorizate2013><pubmed>23279151</pubmed></ref>114]。これらの結果は、スフィンゴミエリン、コレステロールに特異的に結合するタンパク質(脂質プローブ)と先端顕微鏡技術の使用によって確認され、スフィンゴミエリン やコレステロールが細胞膜上のウイルス形成部位に濃縮されることが観察されている<ref name=Favard2019><pubmed>31616784</pubmed></ref><ref name=Sengupta2019><pubmed>30936472</pubmed></ref><ref name=Tomishige2023><pubmed>37990014</pubmed></ref>。セラミド合成酵素阻害剤fumonisin B1処理は、産生されたウイルスの感染性を減少する<ref name=Brugger2006><pubmed>16481622</pubmed></ref>。宿主由来の中性スフィンゴミエリナーゼ(nSMase2)がウイルスに取り込まれ、その活性がウイルス成熟に重要であることが報告された<ref name=Waheed2023><pubmed>37406093</pubmed></ref><ref name=Yoo2023><pubmed>37406092</pubmed></ref>。nSMase2の薬理的、遺伝的阻害は、ウイルスプロテアーゼ活性低下によるウイルス成熟を阻害し、ウイルスの感染性を低下させる<ref name=Waheed2023><pubmed>37406093</pubmed></ref><ref name=Yoo2023><pubmed>37406092</pubmed></ref>。
==== ヒト免疫不全症候群ウイルス1型 ====
 [[ヒト免疫不全症候群ウイルス1型]] ([[HIV-1]], [[human immunodeficiency virus type-I]])は、[[エンベロープウイルス]]であり、複製されたウイルスは、感染細胞の細胞膜で形成、出芽し、細胞外へ放出される。ウイルスエンベロープの[[リピドミクス]]解析では<ref name=Aloia1993><pubmed>8389472</pubmed></ref><ref name=Brugger2006><pubmed>16481622</pubmed></ref><ref name=Chan2008><pubmed>18799574</pubmed></ref><ref name=Lorizate2013><pubmed>23279151</pubmed></ref><ref name=Mucksch2019><pubmed>31776383</pubmed></ref>、スフィンゴミエリンが感染細胞の細胞膜に比べ濃縮されていることが報告されている<ref name=Chan2008><pubmed>18799574</pubmed></ref><ref name=Lorizate2013><pubmed>23279151</pubmed></ref><ref name=Mucksch2019><pubmed>31776383</pubmed></ref>。これらの結果は、スフィンゴミエリン、コレステロールに特異的に結合するタンパク質(脂質プローブ)と先端顕微鏡技術の使用によって確認され、スフィンゴミエリンやコレステロールが細胞膜上のウイルス形成部位に濃縮されることが観察されている<ref name=Favard2019><pubmed>31616784</pubmed></ref><ref name=Sengupta2019><pubmed>30936472</pubmed></ref><ref name=Tomishige2023><pubmed>37990014</pubmed></ref>。セラミド合成酵素[[阻害剤]][[fumonisin B1]]処理は、産生されたウイルスの感染性を減少する<ref name=Brugger2006><pubmed>16481622</pubmed></ref>。宿主由来の中性スフィンゴミエリナーゼ(nSMase2)がウイルスに取り込まれ、その活性がウイルス成熟に重要であることが報告された<ref name=Waheed2023><pubmed>37406093</pubmed></ref><ref name=Yoo2023><pubmed>37406092</pubmed></ref>。nSMase2の薬理的、遺伝的阻害は、ウイルスプロテアーゼ活性低下によるウイルス成熟を阻害し、ウイルスの感染性を低下させる<ref name=Waheed2023><pubmed>37406093</pubmed></ref><ref name=Yoo2023><pubmed>37406092</pubmed></ref>。


 C型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus)のエンベロープのリピドミクス解析によって、スフィンゴミエリン、コレステロールエステルが濃縮されている一方で、PC、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)などが減少していることが明らかになっている<ref name=Merz2011><pubmed>21056986</pubmed></ref>。ウイルス粒子のスフィンゴミエリナーゼ処理は、ウイルスの取り込みを阻害し、ウイルスの感染性を低下する<ref name=Aizaki2008><pubmed>18367533</pubmed></ref>。また、細胞のスフィンゴ脂質生合成の阻害剤処理は、ウイルス産生を阻害する<ref name=Aizaki2008><pubmed>18367533</pubmed></ref>。
==== C型肝炎ウイルス ====
 [[C型肝炎ウイルス]]([[hepatitis C virus]])のエンベロープのリピドミクス解析によって、スフィンゴミエリン、コレステロールエステルが濃縮されている一方で、ホスファチジルコリン、[[ホスファチジルエタノールアミン]](PE)、[[ホスファチジルセリン]](PS)、[[ホスファチジルイノシトール]](PI)などが減少していることが明らかになっている<ref name=Merz2011><pubmed>21056986</pubmed></ref>。ウイルス粒子のスフィンゴミエリナーゼ処理は、ウイルスの取り込みを阻害し、ウイルスの感染性を低下する<ref name=Aizaki2008><pubmed>18367533</pubmed></ref>。また、細胞のスフィンゴ脂質生合成の阻害剤処理は、ウイルス産生を阻害する<ref name=Aizaki2008><pubmed>18367533</pubmed></ref>。


 ウエストナイルウイルス(WNV)のエンベロープには、スフィンゴミエリンが濃縮されている<ref name=Martin-Acebes2014><pubmed>25122799</pubmed></ref>。感染細胞のnSMase阻害剤処理は、WNVの産生を減少する。WNVの感染はaSMase欠損マウスや、ニーマンピックA患者由来の細胞など、スフィンゴミエリンが蓄積していると考えられる細胞で増加する<ref name=Martin-Acebes2016><pubmed>26764042</pubmed></ref>。培養細胞へのスフィンゴミエリンの添加は、WNV感染を増加する一方で、スフィンゴミエリン合成阻害剤処理は、WNV感染を減少する。共焦点顕微鏡観察では、WNV感染細胞においてスフィンゴミエリンとWNV double-strand RNAが共局在する。このようにスフィンゴミエリンは、WNVの異なる二つのステップに重要な役割を果たしている。
==== ウエストナイルウイルス ====
インフルエンザA型ウイルス(IAV)もまた、感染細胞の細胞膜上の脂質マイクロドメイン“脂質ラフト”の感染と出芽への関与が報告されている<ref name=Eierhoff2010><pubmed>20844577</pubmed></ref><ref name=Verma2018><pubmed>30453689</pubmed></ref>。スフィンゴミエリン特異的な関与については、遺伝的あるいは薬理的にスフィンゴミエリンS1を阻害した細胞では、新しいウイルス粒子の成熟と産生が遅れることが報告されている <ref name=Tafesse2013><pubmed>23576732</pubmed></ref>。ウイルス粒子のスフィンゴミエリナーゼ処理は、感染性を低下し、ウイルスの膜への付着と細胞内への取り込みを阻害した。また、細胞のスフィンゴミエリナーゼ処理は、ウイルス感染、取り込みを減少し、細胞への外来性のスフィンゴミエリン添加は感染を亢進した<ref name=Audi2020><pubmed>32425895</pubmed></ref>。またスフィンゴミエリンとコレステロールの複合体に特異的に結合するタンパク質、NakanoriによりMDCK細胞からのウイルスの出芽が抑えられた<ref name=Makino2017><pubmed>27492925</pubmed></ref>
 [[ウエストナイルウイルス]](WNV)のエンベロープには、スフィンゴミエリンが濃縮されている<ref name=Martin-Acebes2014><pubmed>25122799</pubmed></ref>。感染細胞のnSMase阻害剤処理は、ウエストナイルウイルスの産生を減少する。ウエストナイルウイルスの感染はaSMase欠損マウスや、ニーマン・ピックA患者由来の細胞など、スフィンゴミエリンが蓄積していると考えられる細胞で増加する<ref name=Martin-Acebes2016><pubmed>26764042</pubmed></ref>。培養細胞へのスフィンゴミエリンの添加は、WNV感染を増加する一方で、スフィンゴミエリン合成阻害剤処理は、ウエストナイルウイルス感染を減少する。共焦点顕微鏡観察では、ウエストナイルウイルス感染細胞においてスフィンゴミエリンとWNV double-strand RNAが共局在する。このようにスフィンゴミエリンは、ウエストナイルウイルスの異なる二つのステップに重要な役割を果たしている。
 
==== インフルエンザA型ウイルス ====
 [[インフルエンザA型ウイルス]](IAV)もまた、感染細胞の細胞膜上の脂質マイクロドメイン“脂質ラフト”の感染と出芽への関与が報告されている<ref name=Eierhoff2010><pubmed>20844577</pubmed></ref><ref name=Verma2018><pubmed>30453689</pubmed></ref>。スフィンゴミエリン特異的な関与については、遺伝的あるいは薬理的にスフィンゴミエリンS1を阻害した細胞では、新しいウイルス粒子の成熟と産生が遅れることが報告されている <ref name=Tafesse2013><pubmed>23576732</pubmed></ref>。ウイルス粒子のスフィンゴミエリナーゼ処理は、感染性を低下し、ウイルスの膜への付着と細胞内への取り込みを阻害した。また、細胞のスフィンゴミエリナーゼ処理は、ウイルス感染、取り込みを減少し、細胞への外来性のスフィンゴミエリン添加は感染を亢進した<ref name=Audi2020><pubmed>32425895</pubmed></ref>。またスフィンゴミエリンとコレステロールの複合体に特異的に結合するタンパク質、[[Nakanori]]により[[MDCK細胞]]からのウイルスの出芽が抑えられた<ref name=Makino2017><pubmed>27492925</pubmed></ref>


=== その他 ===
=== その他 ===

ナビゲーション メニュー