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<font size="+1">髙江洲義和</font><br> | |||
''東京医科大学 精神医学講座''<br> | |||
<font size="+1">井上雄一</font><br> | |||
''代々木睡眠クリニック''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月1日 原稿完成日:2012年5月24日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | |||
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英語名:sleep disorder 独:Schlafstörung 仏:trouble du sommeil | 英語名:sleep disorder 独:Schlafstörung 仏:trouble du sommeil | ||
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睡眠障害とは、夜よく眠れない[[不眠症]]のみならず、[[過眠症]]、[[概日リズム障害]]、[[睡眠時異常行動]]などの睡眠の量的・質的・リズム的に異常のある状態が含まれる。現在は、[[睡眠障害国際分類第2版]](The International classification of sleep disorders, second edition:ICSD-2)<ref>'''American Academy of Sleep Medicine'''<br>International classification of sleep disorders, 2nd ed.:Diagnostic and cording manual'' American Academy of Sleep Medicine'':2005</ref>が広く臨床利用されており、[[不眠症群]]、[[概日リズム睡眠障害群]]、[[睡眠関連呼吸障害群]]、[[中枢性過眠症群]]、[[睡眠時随伴症群]]、[[睡眠関連運動障害群]]に6大別される。 | 睡眠障害とは、夜よく眠れない[[不眠症]]のみならず、[[過眠症]]、[[概日リズム障害]]、[[睡眠時異常行動]]などの睡眠の量的・質的・リズム的に異常のある状態が含まれる。現在は、[[睡眠障害国際分類第2版]](The International classification of sleep disorders, second edition:ICSD-2)<ref>'''American Academy of Sleep Medicine'''<br>International classification of sleep disorders, 2nd ed.:Diagnostic and cording manual'' American Academy of Sleep Medicine'':2005</ref>が広く臨床利用されており、[[不眠症群]]、[[概日リズム睡眠障害群]]、[[睡眠関連呼吸障害群]]、[[中枢性過眠症群]]、[[睡眠時随伴症群]]、[[睡眠関連運動障害群]]に6大別される。 | ||
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== 睡眠調節のメカニズム == | == 睡眠調節のメカニズム == | ||
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前述したように、睡眠は体内時計に依存して発現する生体現象である。それゆえ、睡眠は、覚醒中の精神身体活動量などの内部または外部環境要因の影響だけでなく、睡眠覚醒リズムの維持に関わる体内時計リズムからの制御を強く受ける。概日リズム睡眠障害は、この体内時計機能の障害により発症するものである。 | 前述したように、睡眠は体内時計に依存して発現する生体現象である。それゆえ、睡眠は、覚醒中の精神身体活動量などの内部または外部環境要因の影響だけでなく、睡眠覚醒リズムの維持に関わる体内時計リズムからの制御を強く受ける。概日リズム睡眠障害は、この体内時計機能の障害により発症するものである。 | ||
睡眠覚醒、自律神経系、[[メラトニン]] | 睡眠覚醒、自律神経系、[[メラトニン]]、コルチゾールなどの内分泌系、代謝系活動にみられる約24時間周期のリズムは概日リズムと呼ばれ、体内時計によって支配されている。これらのリズムは、光刺激や運動、[[摂食]]など様々な外因によって修飾され、外界環境へ同調する。生物時計システムは、環境情報の変化を時計本体に伝える入力部、システムの中枢をなし自律的な24時間リズムを形成する時計本体、そして時計から発振される概日シグナルにより諸生理機能リズムを駆動する出力部から構成されている。 | ||
哺乳類の中枢時計は、SCNに存在するが、ほとんどの組織・器官の細胞にも生物時計(末梢時計)が備わっており、中枢時計SCNから発振される概日シグナルが末梢時計に階層的に作用し、生体リズムを統合している。もっとも強力な同調因子である光刺激は、その入力情報が[[網膜]]から[[網膜視床下部路]]を経由してSCNに直接伝えられ、これにより中枢リズムの位相がリセット(前進もしくは後退)されることで、個体の生体リズムが環境因子に順応する。体内時計システムに関わるほとんどの遺伝子は、SCNにおいて約24時間の転写日周リズムを示し、この時計遺伝子群の転写・翻訳制御のフィードバックループが体内時計発信機構の中核をなす。全身の時計遺伝子が自律的に作る約25時間の概日リズム(circadian rhythm)は朝の光で位相が毎日補正されて、24時間の外界周期に適応する。 | 哺乳類の中枢時計は、SCNに存在するが、ほとんどの組織・器官の細胞にも生物時計(末梢時計)が備わっており、中枢時計SCNから発振される概日シグナルが末梢時計に階層的に作用し、生体リズムを統合している。もっとも強力な同調因子である光刺激は、その入力情報が[[網膜]]から[[網膜視床下部路]]を経由してSCNに直接伝えられ、これにより中枢リズムの位相がリセット(前進もしくは後退)されることで、個体の生体リズムが環境因子に順応する。体内時計システムに関わるほとんどの遺伝子は、SCNにおいて約24時間の転写日周リズムを示し、この時計遺伝子群の転写・翻訳制御のフィードバックループが体内時計発信機構の中核をなす。全身の時計遺伝子が自律的に作る約25時間の概日リズム(circadian rhythm)は朝の光で位相が毎日補正されて、24時間の外界周期に適応する。 | ||
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メラトニン分泌が体内時計によって制御されている一方で、外部から投与したメラトニンも生体リズムの位相を変化させる働きがあることが明らかにされている。夕方にメラトニンを投与すると生体リズムの位相は早まり、朝に投与すると逆に遅れる。これは夕の光が生物時計を遅らせ、朝の光が体内時計を早めるのとちょうど反対の位相反応である。このような特徴から、概日リズム睡眠障害の治療に対するメラトニン投与の有効性が確立されている。実際の投与法については、0.5~1 mgを実際に入眠にできる時刻(前夜入眠した時刻)の6~7時間前、または望まれる入眠時刻の2~3時間前に投与する方法が主体である。 | メラトニン分泌が体内時計によって制御されている一方で、外部から投与したメラトニンも生体リズムの位相を変化させる働きがあることが明らかにされている。夕方にメラトニンを投与すると生体リズムの位相は早まり、朝に投与すると逆に遅れる。これは夕の光が生物時計を遅らせ、朝の光が体内時計を早めるのとちょうど反対の位相反応である。このような特徴から、概日リズム睡眠障害の治療に対するメラトニン投与の有効性が確立されている。実際の投与法については、0.5~1 mgを実際に入眠にできる時刻(前夜入眠した時刻)の6~7時間前、または望まれる入眠時刻の2~3時間前に投与する方法が主体である。 | ||
[[Image:Takaスライド4.PNG|thumb|300px|'''図4.光による位相反応曲線(Khalsa SB et al 2003)'''<br>光によるメラトニン分泌は、通常は午前2時〜3時頃が中点であり、その前後6時間で位相変化が最大となる。夕方に光を浴びるとリズムは後退し、午前中に光を浴びることでリズムは前進する。]] | [[Image:Takaスライド4.PNG|thumb|300px|'''図4.光による位相反応曲線(Khalsa SB et al 2003)'''<br>光によるメラトニン分泌は、通常は午前2時〜3時頃が中点であり、その前後6時間で位相変化が最大となる。夕方に光を浴びるとリズムは後退し、午前中に光を浴びることでリズムは前進する。]] | ||
=== 睡眠時無呼吸症候群 === | === 睡眠時無呼吸症候群 === | ||
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[[レストレスレッグス]](restless legs syndrome:RLS)は、安静時または夕方から夜間にかけて脚の不快感が生じ、これに伴い下肢を動かしたくなる衝動感にかられる感覚運動障害であり、これによる入眠障害を来すものである。本症の50~80%に[[周期性四肢運動障害]](Pediatric Limb Movement Disorder:PLMD)の合併がみられる。RLSでは、脳内ドパミン神経系の機能異常もしくは貯蔵鉄の欠乏が2大要因として挙げられる。また、家族内発症例が少なくないことから、遺伝的要因の関与も重要視される([[レストレスレッグス症候群]]参照)。 | [[レストレスレッグス]](restless legs syndrome:RLS)は、安静時または夕方から夜間にかけて脚の不快感が生じ、これに伴い下肢を動かしたくなる衝動感にかられる感覚運動障害であり、これによる入眠障害を来すものである。本症の50~80%に[[周期性四肢運動障害]](Pediatric Limb Movement Disorder:PLMD)の合併がみられる。RLSでは、脳内ドパミン神経系の機能異常もしくは貯蔵鉄の欠乏が2大要因として挙げられる。また、家族内発症例が少なくないことから、遺伝的要因の関与も重要視される([[レストレスレッグス症候群]]参照)。 | ||
== 関連項目 == | |||
* [[レム睡眠行動異常症]] | |||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
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