「カルシウム」の版間の差分

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脳神経系においても、[[神経伝達物質]]放出、[[シナプス可塑性]]、神経[[細胞死]]のトリガーとなるものであり、また各種[[グリア細胞]]機能の制御に不可欠である。本稿では、このCa<sup>2+</sup>依存性シグナルの基本的性質について解説する。  
脳神経系においても、[[神経伝達物質]]放出、[[シナプス可塑性]]、神経[[細胞死]]のトリガーとなるものであり、また各種[[グリア細胞]]機能の制御に不可欠である。本稿では、このCa<sup>2+</sup>依存性シグナルの基本的性質について解説する。  
<youtube>SssUVE1d9bY</youtube>
<youtube>SssUVE1d9bY</youtube>  
== 発見の歴史  ==
== 発見の歴史  ==


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さらにRoger Y Tsienによる[[カルシウム指示薬]]の開発<ref><pubmed>3838314</pubmed></ref>により、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度を生細胞にて[[蛍光イメージング]]法で測定することが可能になり、Ca<sup>2+</sup>ウェーブやCa<sup>2+</sup>オシレーションといった、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度の複雑な時空間動態が明らかとなった。  
さらにRoger Y Tsienによる[[カルシウム指示薬]]の開発<ref><pubmed>3838314</pubmed></ref>により、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度を生細胞にて[[蛍光イメージング]]法で測定することが可能になり、Ca<sup>2+</sup>ウェーブやCa<sup>2+</sup>オシレーションといった、細胞内Ca<sup>2+</sup>濃度の複雑な時空間動態が明らかとなった。  


== メカニズム  ==
== メカニズム  ==
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細胞内Ca<sup>2+</sup>シグナルの特筆すべき性質は、その局所性である。例えば単一の[[樹状突起スパイン]]に限局したCa<sup>2+</sup>濃度上昇が惹起され、これにより入力特異的なシナプス可塑性等の制御が実現されている。この局所性はCa<sup>2+</sup>チャネルの限局やスパインの構造のみならず、Ca<sup>2+</sup>ポンプによる速やかな除去や、高濃度のカルシウム結合蛋白質によるCa<sup>2+</sup>拡散の阻害、等が重要な寄与を果たしている。  
細胞内Ca<sup>2+</sup>シグナルの特筆すべき性質は、その局所性である。例えば単一の[[樹状突起スパイン]]に限局したCa<sup>2+</sup>濃度上昇が惹起され、これにより入力特異的なシナプス可塑性等の制御が実現されている。この局所性はCa<sup>2+</sup>チャネルの限局やスパインの構造のみならず、Ca<sup>2+</sup>ポンプによる速やかな除去や、高濃度のカルシウム結合蛋白質によるCa<sup>2+</sup>拡散の阻害、等が重要な寄与を果たしている。  


=== 細胞外からの流入  ===
=== 細胞外からの流入  ===
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また小胞体のCa<sup>2+</sup>枯渇により活性化されるストア作動性Ca<sup>2+</sup>チャネルもCa<sup>2+</sup>流入を担う。このストア作動性Ca<sup>2+</sup>チャネルについては長らく分子実体が不明であったが、近年Orai1が同定された<ref><pubmed>16921385</pubmed></ref><ref><pubmed>16921383</pubmed></ref>。  
また小胞体のCa<sup>2+</sup>枯渇により活性化されるストア作動性Ca<sup>2+</sup>チャネルもCa<sup>2+</sup>流入を担う。このストア作動性Ca<sup>2+</sup>チャネルについては長らく分子実体が不明であったが、近年Orai1が同定された<ref><pubmed>16921385</pubmed></ref><ref><pubmed>16921383</pubmed></ref>。  


=== 小胞体内腔からの放出  ===
=== 小胞体内腔からの放出  ===
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==== イノシトール3リン酸受容体  ====
==== イノシトール3リン酸受容体  ====


イノシトール3リン酸受容体は、その活性化にセカンドメッセンジャーである[[イノシトール3リン酸]]と細胞質Ca<sup>2+</sup>の両方を必要とする小胞体膜上Ca<sup>2+</sup>チャネルである。さらに特筆すべき点は、細胞質Ca<sup>2+</sup>濃度に対して二相性の反応曲線を示すことである<ref><pubmed>2373998</pubmed></ref>。つまり低Ca<sup>2+</sup>濃度域では濃度上昇に従い開口が促進されるが、ある濃度でそれがピークアウトし、それ以上の濃度域では濃度上昇に従い開口が阻害される。 グリア細胞のような電気的に非興奮性の細胞においては、主要なCa<sup>2+</sup>供給経路となる。また神経細胞においてもCa<sup>2+</sup>シグナルに関与する。 イノシトール3リン酸とCa<sup>2+</sup>の両方を必要とする性質により、二種類の入力を統合する機能を持ち得る。実際、小脳[[プルキンエ細胞]]における[[長期抑圧]]誘導時に、二種類のシナプス入力の[[同期検出]]を担っている<ref><pubmed>11100147</pubmed></ref>。  
イノシトール3リン酸受容体は、その活性化にセカンドメッセンジャーである[[イノシトール3リン酸]]と細胞質Ca<sup>2+</sup>の両方を必要とする小胞体膜上Ca<sup>2+</sup>チャネルである。さらに特筆すべき点は、細胞質Ca<sup>2+</sup>濃度に対して二相性の反応曲線を示すことである<ref><pubmed>2373998</pubmed></ref>。つまり低Ca<sup>2+</sup>濃度域では濃度上昇に従い開口が促進されるが、ある濃度でそれがピークアウトし、それ以上の濃度域では濃度上昇に従い開口が阻害される。 グリア細胞のような電気的に非興奮性の細胞においては、主要なCa<sup>2+</sup>供給経路となる。また神経細胞においてもCa<sup>2+</sup>シグナルに関与する。 イノシトール3リン酸とCa<sup>2+</sup>の両方を必要とする性質により、二種類の入力を統合する機能を持ち得る。実際、小脳[[プルキンエ細胞]]における[[長期抑圧]]誘導時に、二種類のシナプス入力の[[同期検出]]を担っている<ref><pubmed>11100147</pubmed></ref>。<br>
 


==== ミトコンドリアの寄与  ====


小胞体以外の細胞内小器官では、[[ミトコンドリア]]が細胞内カルシウムストアとして重要な役割を果たしている。また小胞体-ミトコンドリア間の密接な接合構造が知られており、ここでCa<sup>2+</sup>のやり取りが行なわれていると考えられる。詳細については [[ミトコンドリア]] の項を参照のこと。  
小胞体以外の細胞内小器官では、[[ミトコンドリア]]が細胞内カルシウムストアとして重要な役割を果たしている。また小胞体-ミトコンドリア間の密接な接合構造が知られており、ここでCa<sup>2+</sup>のやり取りが行なわれていると考えられる。詳細については [[ミトコンドリア]] の項を参照のこと。  


== 応用  ==
== 応用  ==


神経細胞では[[活動電位]]の発生に伴いCa<sup>2+</sup>流入が起こるので、カルシウム指示薬を用いて、神経細胞の活動を蛍光イメージングにより検出することが可能である。特に近年、[[2光子レーザー走査顕微鏡]]を用いることで、生体内の個々の神経細胞を解像して、その活動を可視化することが可能になった<ref><pubmed>15660108</pubmed></ref>。多数の神経細胞の位置情報と活動情報を一度にかつ正確に得るという、従来は非常に困難であったことを可能にした手法であり、近年活発な応用が進められている。  
神経細胞では[[活動電位]]の発生に伴いCa<sup>2+</sup>流入が起こるので、カルシウム指示薬を用いて、神経細胞の活動を蛍光イメージングにより検出することが可能である。特に近年、[[2光子レーザー走査顕微鏡]]を用いることで、生体内の個々の神経細胞を解像して、その活動を可視化することが可能になった<ref><pubmed>15660108</pubmed></ref>。多数の神経細胞の位置情報と活動情報を一度にかつ正確に得るという、従来は非常に困難であったことを可能にした手法であり、近年活発な応用が進められている。  


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==
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[[フォスフォリパーゼC]]  
[[フォスフォリパーゼC]]  


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==
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