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英:''Paired box'' | 英:''Paired box'' (''Pax'') genes | ||
''Pax''遺伝子群は[[wikipedia:ja: 動物|動物]]の[[wikipedia:ja: 胎生|胎生]]期に、組織や器官の発生において中心的な役割を果たす遺伝子ファミリーである。[[wikipedia:ja: 脊椎動物|脊椎動物]]ではPax1〜Pax9の9種類が同定されている(表)。''Pax''遺伝子群は DNA結合ドメインであるペアードドメイン(PD)と呼ばれる領域を共通に持っている。また、''Pax''遺伝子にはオクタペプチドモチーフ(OP)を持つものや、DNA結合ドメインであるホメオドメイン、もしくはホメオドメインの一部を持つものがある。このような遺伝子配列(編集コメント:ドメイン構造の差異?)の違いから、''Pax''遺伝子群は4つのサブファミリーに分類される。 ''Pax''遺伝子群は[[wikipedia:ja: ヒト|ヒト]]や[[マウス]]に於いて、病気の原因遺伝子として同定されたものが多い。例えば、眼の発生のマスター制御遺伝子である''PAX6''は、無虹彩症の原因遺伝子である。 | |||
==構造== | ==構造== | ||
'' | ''Pax''遺伝子群は DNA結合ドメインであるペアードドメイン(PD)と呼ばれる領域を共通に持っている。また、''Pax''遺伝子にはオクタペプチドモチーフ(OP)を持つものや、DNA結合ドメインであるホメオドメイン、もしくはホメオドメインの一部を持つものがある。 | ||
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==発現 == | ==発現 == | ||
''Pax''遺伝子群の発現は、[[神経板]] | ''Pax''遺伝子群の発現は、[[神経板]]の形成などの神経発生初期から始まる。胎生期だけではなく、生後および成体脳においても認められる<ref name=ref2 /><ref name=ref10 /><ref name=ref11 /><ref name=ref14><pubmed> 15951811 </pubmed></ref><ref name=ref15><pubmed> 10328940 </pubmed></ref><ref name=ref16><pubmed> 16035109 </pubmed></ref><ref name=ref17><pubmed> 12202033 </pubmed></ref><ref name=ref18><pubmed> 14651488 </pubmed></ref><ref name=ref19><pubmed> 17301672 </pubmed></ref><ref name=ref20><pubmed> 17091300 </pubmed></ref>。 | ||
特にPax6は、[[神経板]]期(数体節期:マウスE8.5)に、前脳区画および前耳溝以後の[[菱脳]]・[[脊髄]]で発現が開始する。[[神経管]]閉鎖後、脳胞期(約30体節期: [[マウス]]E10.5)には、[[終脳]]背側(将来の[[大脳皮質]]領域)、[[間脳]]背側(将来の腹側・背側[[視床]])、[[菱脳]]・[[脊髄]]の腹外側で発現する。生後も脳室層、[[扁桃体]]、[[視床]]、[[海馬]]、[[小脳]]、[[下垂体]]などで発現が見られる。[[wikipedia:ja: 中枢神経系|中枢神経系]]以外では、[[wikipedia:ja: 水晶体|水晶体]]、角膜上皮、網膜神経上皮、嗅上皮、[[wikipedia:ja: 膵臓|膵臓]]に発現している。 | |||
==機能 == | ==機能 == | ||
''Pax'' | ''Pax''遺伝子群は他の転写遺伝子と協調し、[[wikipedia:ja: 神経系|神経系]]の発生初期では細胞の運命決定や[[脳の領域化]] <ref name=ref1><pubmed> 9230312 </pubmed></ref><ref name=ref2><pubmed> 9376315 </pubmed></ref><ref name=ref3><pubmed> 10804178 </pubmed></ref><ref name=ref4><pubmed> 9783474 </pubmed></ref><ref name=ref5><pubmed> 11003833 </pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed> 8126546 </pubmed></ref>、発生後期では[[細胞増殖]]、細胞移動、[[細胞分化]]に関わっている<ref name=ref7><pubmed> 9409667 </pubmed></ref><ref name=ref8><pubmed> 18661555 </pubmed></ref><ref name=ref9><pubmed> 10946068 </pubmed></ref><ref name=ref10><pubmed> 16049175 </pubmed></ref><ref name=ref11><pubmed> 16164600 </pubmed></ref><ref name=ref12><pubmed> 11301001 </pubmed></ref><ref name=ref13><pubmed> 12618140 </pubmed></ref>。 | ||
===脳の領域化、細胞の運命決定=== | ===脳の領域化、細胞の運命決定=== | ||
神経発生の初期では、シグナルセンターからの情報によって、[[前後軸]]、[[背腹軸]]が決定され、[[脳の領域化]]が起こる<ref name=ref21><pubmed> 8895453 </pubmed></ref><ref name=ref22><pubmed> 11746229 </pubmed></ref>。''Pax''遺伝子群はシグナルセンターから放出されるシグナル分子に反応し<ref name=ref1 /><ref name=ref23><pubmed> 8598907 </pubmed></ref><ref name=ref24><pubmed> 8929535 </pubmed></ref><ref name=ref25><pubmed> 18280463 </pubmed></ref><ref name=ref26><pubmed> 18429041 </pubmed></ref><ref name=ref27><pubmed> 8741855 </pubmed></ref><ref name=ref28><pubmed> 7553857 </pubmed></ref><ref name=ref29><pubmed> 8951076 </pubmed></ref>、[[脳の領域化]]や細胞の運命決定に寄与することがわかっている<ref name=ref2 /><ref name=ref4 /><ref name=ref7 /><ref name=ref30><pubmed> 10354469 </pubmed></ref><ref name=ref31><pubmed> 17173889 </pubmed></ref>。Pax6は、[[菱脳]]・[[脊髄]]における[[運動ニューロン]]・[[介在ニューロン]]分化に関して、classI HDタンパクとclassII HDタンパクとの間に正確な境界形成を行うことを通じて[[菱脳]]腹側の区画化を制御する<ref name=ref32><pubmed> 11880342 </pubmed></ref>。その他Pax6には、[[前脳]]のコンパートメント形成、神経路形成([[後交連]]、TPOC、嗅索、視床皮質路)、[[終脳]]背側ニューロン分化、[[小脳]]顆粒細胞の形成など多岐にわたる役割がある。 | |||
=== 神経前駆細胞の増殖および維持=== | === 神経前駆細胞の増殖および維持=== | ||
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=== 細胞移動=== | === 細胞移動=== | ||
複雑な神経回路を構築する過程である神経発生において、細胞移動は時空間的に正確でなければならない。''Pax''遺伝子群はこの細胞移動に関しても重要な役割を果たす。例えば、Pax3は[[神経堤]]細胞の移動に関わっている<ref name= | 複雑な神経回路を構築する過程である神経発生において、細胞移動は時空間的に正確でなければならない。''Pax''遺伝子群はこの細胞移動に関しても重要な役割を果たす。例えば、Pax3は[[神経堤]]細胞の移動に関わっている<ref name=ref38><pubmed> 11231058 </pubmed></ref><ref name=ref39><pubmed> 18308300 </pubmed></ref>。Pax6は[[大脳皮質]] <ref name=ref13 /><ref name=ref40><pubmed> 14501209 </pubmed></ref>や[[小脳]] <ref name=ref41><pubmed> 12534968 </pubmed></ref>において細胞移動に関わっている。 | ||
==疾患との関わり== | ==疾患との関わり== | ||
''Pax''遺伝子群は[[ヒト]] | ''Pax''遺伝子群は[[wikipedia:ja: ヒト|ヒト]]や[[マウス]]に於いて、病気の原因遺伝子として同定されたものが多い。例えば、眼の発生のマスター制御遺伝子である''PAX6''は、無虹彩症の原因遺伝子である。 | ||
==関連項目== | ==関連項目== | ||
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== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references /> | <references /> | ||
(執筆者:櫻井勝康、吉川貴子、大隅典子 担当編集委員:) |
2012年11月1日 (木) 09:44時点における版
Paired domain | |||||||||
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Inhibited fragment of ETS-1 (orange) and Paired domain of Pax5 (green) bound to DNA | |||||||||
Identifiers | |||||||||
Symbol | Pax | ||||||||
Pfam | PF00292 | ||||||||
PROSITE | PDOC00034 | ||||||||
SCOP | 1pdn | ||||||||
SUPERFAMILY | 1pdn | ||||||||
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英:Paired box (Pax) genes
Pax遺伝子群は動物の胎生期に、組織や器官の発生において中心的な役割を果たす遺伝子ファミリーである。脊椎動物ではPax1〜Pax9の9種類が同定されている(表)。Pax遺伝子群は DNA結合ドメインであるペアードドメイン(PD)と呼ばれる領域を共通に持っている。また、Pax遺伝子にはオクタペプチドモチーフ(OP)を持つものや、DNA結合ドメインであるホメオドメイン、もしくはホメオドメインの一部を持つものがある。このような遺伝子配列(編集コメント:ドメイン構造の差異?)の違いから、Pax遺伝子群は4つのサブファミリーに分類される。 Pax遺伝子群はヒトやマウスに於いて、病気の原因遺伝子として同定されたものが多い。例えば、眼の発生のマスター制御遺伝子であるPAX6は、無虹彩症の原因遺伝子である。
構造
Pax遺伝子群は DNA結合ドメインであるペアードドメイン(PD)と呼ばれる領域を共通に持っている。また、Pax遺伝子にはオクタペプチドモチーフ(OP)を持つものや、DNA結合ドメインであるホメオドメイン、もしくはホメオドメインの一部を持つものがある。
ファミリー
ドメイン構造の違いから、Pax遺伝子群は4つのサブファミリーに分類される。
Pax遺伝子 | 構造 | 発生期における発現組織/器官 |
Pax3 Pax7 |
中枢神経系、頭蓋顔面の組織、神経堤細胞、体節/骨格筋 中枢神経系、頭蓋顔面の組織、体節/骨格筋 | |
Pax4 Pax6 |
膵臓、腸 中枢神経系、膵臓、腸、鼻、目 | |
Pax2 Pax8 Pax5 |
中枢神経系、腎臓、耳 中枢神経系、腎臓、甲状腺 中枢神経系、腎臓、Bリンパ球 | |
Pax1 Pax9 |
骨格、胸腺、副甲状腺 骨格、胸腺、頭蓋顔面の組織、歯 |
PD: ペアードドメイン、OP: オクタペプチドモチーフ、HD: ホメオドメイン
遺伝子名はAllen Brain Atlasへリンクしている。
発現
Pax遺伝子群の発現は、神経板の形成などの神経発生初期から始まる。胎生期だけではなく、生後および成体脳においても認められる[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10]。 特にPax6は、神経板期(数体節期:マウスE8.5)に、前脳区画および前耳溝以後の菱脳・脊髄で発現が開始する。神経管閉鎖後、脳胞期(約30体節期: マウスE10.5)には、終脳背側(将来の大脳皮質領域)、間脳背側(将来の腹側・背側視床)、菱脳・脊髄の腹外側で発現する。生後も脳室層、扁桃体、視床、海馬、小脳、下垂体などで発現が見られる。中枢神経系以外では、水晶体、角膜上皮、網膜神経上皮、嗅上皮、膵臓に発現している。
機能
Pax遺伝子群は他の転写遺伝子と協調し、神経系の発生初期では細胞の運命決定や脳の領域化 [11][1][12][13][14][15]、発生後期では細胞増殖、細胞移動、細胞分化に関わっている[16][17][18][2][3][19][20]。
脳の領域化、細胞の運命決定
神経発生の初期では、シグナルセンターからの情報によって、前後軸、背腹軸が決定され、脳の領域化が起こる[21][22]。Pax遺伝子群はシグナルセンターから放出されるシグナル分子に反応し[11][23][24][25][26][27][28][29]、脳の領域化や細胞の運命決定に寄与することがわかっている[1][13][16][30][31]。Pax6は、菱脳・脊髄における運動ニューロン・介在ニューロン分化に関して、classI HDタンパクとclassII HDタンパクとの間に正確な境界形成を行うことを通じて菱脳腹側の区画化を制御する[32]。その他Pax6には、前脳のコンパートメント形成、神経路形成(後交連、TPOC、嗅索、視床皮質路)、終脳背側ニューロン分化、小脳顆粒細胞の形成など多岐にわたる役割がある。
神経前駆細胞の増殖および維持
脳の領域化の後、Pax遺伝子群は神経前駆細胞の増殖、維持および分化において重要な役割をはたすことがわかっている。例えば、Pax6は胎生期の脳[33][34][35][36]および成体脳[3][6]において、その発現量依存的に神経前駆細胞の増殖、維持、さらには分化に関わっている。また、Pax6はグリア細胞の一種であるアストロサイトの増殖・分化にも関わっている[37]。
細胞移動
複雑な神経回路を構築する過程である神経発生において、細胞移動は時空間的に正確でなければならない。Pax遺伝子群はこの細胞移動に関しても重要な役割を果たす。例えば、Pax3は神経堤細胞の移動に関わっている[38][39]。Pax6は大脳皮質 [20][40]や小脳 [41]において細胞移動に関わっている。
疾患との関わり
Pax遺伝子群はヒトやマウスに於いて、病気の原因遺伝子として同定されたものが多い。例えば、眼の発生のマスター制御遺伝子であるPAX6は、無虹彩症の原因遺伝子である。
関連項目
(ございましたらご指摘下さい)
参考文献
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(執筆者:櫻井勝康、吉川貴子、大隅典子 担当編集委員:)