「シンタキシン」の版間の差分

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<div align="right">
<font size="+1">[http://researchmap.jp/tnishiki/?lang=japanese 西木 禎一]</font><br>
''岡山大学 大学院 医歯薬学総合研究科 細胞生理学分野''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年12月22日 原稿完成日:2015年2月4日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
</div>
英語名:syntaxin 英略語:STX
同義語:p35, HPC-1, synaptocanalin
{{box|text= シンタキシンは、開口放出を含め細胞内小胞輸送において膜融合に関わるタンパク質ファミリーおよびそのメンバーである。ヒトを含む哺乳類では、少なくとも16種類のアイソフォームが同定されている。基本的に分子の大部分を細胞質に向けて存在する非常にαへリックスに富んだ分子量約35,000の膜タンパク質である。多くのアイソフォームは脳を含め広く生体内に分布している一方で、脳に特異的に発現するものもある。神経細胞におけるシンタキシンの役割はアイソフォームによって異なり、神経伝達物質の開口放出、カルシウムチャネルの機能調節、シナプス後膜へのグルタミン酸受容体の輸送調節、神経突起の伸長など多岐にわたる。脳での発現が認められていないアイソフォームもあるが、それらを含めシンタキシンファミリーについて概説するとともに、神経機能に重要な役割を果たしているアイソフォームを中心に詳しく説明する。}}
{{Pfam_box
| Symbol = シンタキシン
| Name = シンタキシン
| image = 1br0.pdb
| width =
| caption = シンタキシン1AのN末端領域<ref name=ref1></ref>
| Pfam = PF00804
| InterPro = IPR006011
| SMART = SM00503
| PROSITE =
| SCOP = 1br0
| TCDB =
| OPM family = 218
| OPM protein = 3hd7
| PDB = {{PDB2|1br0}}, {{PDB2|1ez3}}, {{PDB2|1fio}}, {{PDB2|1hs7}}, {{PDB2|1s94}}
}}
== シンタキシンとは ==
== シンタキシンとは ==
 シンタキシンは、細胞内[[小胞輸送]]において膜融合をつかさどるタンパク質ファミリーおよびそのメンバーである。最初に同定されたアイソフォームは、[[シナプス小胞]]タンパク質[[シナプトタグミン]]と結合する分子量約35,000の[[膜タンパク質]]p35Aおよびp35Bとして[[ラット]]脳から単離された<ref name=ref2><pubmed>1321498</pubmed></ref>。両者は異なる遺伝子によりコードされているが、どちらも288個のアミノ酸からなり、その配列は約80%の相同性をもつ。[[シナプス]]小胞のドッキングと[[開口放出]]に関わるとの予測から、「順番に整理して一緒に並べること」を意味する古代ギリシャ語σψνταξισ (syntaxis) にちなみシンタキシンsyntaxinと命名された。ほぼ同時期に複数のグループにより同定されたので、HPC-1<ref><pubmed>1587842 </pubmed></ref>あるいはsynaptocanalin<ref><pubmed>9137572</pubmed></ref>とも呼ばれる。
 シンタキシンは、細胞内[[小胞輸送]]において膜の融合に関わるタンパク質ファミリーおよびそのメンバーである。[[ヒト]]では、少なくとも18種類のアイソフォームが同定されている。シンタキシンファミリーメンバーの大部分が脳にも発現しているが、この項ではニューロンの機能の大きな特徴である神経伝達物質の放出を担うアイソフォーム1について述べる。
 
 シンタキシンファミリーは、[[SNARE]] ([[soluble ''N''-etylmaleimide sensitive fusion protein attachment protein receptor]]の略) と総称される[[膜融合]]関連タンパク質スーパーファミリーの一員でもある。SNAREは、輸送小胞に局在する[[v-SNARE]] (vはvesicularのv) と、標的膜に存在しv-SNAREの受容体となる[[t-SNARE]] (tはtarget-membraneのt) の2種類に大別される<ref><pubmed>8455717</pubmed></ref>。シンタキシンはその局在(後述)からt-SNAREに属するとともに、SNAREモチーフの中央に[[グルタミン]]残基を持つことから、そのアミノ酸一文字表記にならい[[Q-SNARE]]とも分類される<ref><pubmed>9861047</pubmed></ref>。
 
== ファミリーメンバー ==
[[ファイル:Syntaxin Fig0.png|300px|サムネイル|右|'''図1. 哺乳類のシンタキシンの系統樹'''<br>文献<ref name=ref7><pubmed>11737951</pubmed></ref>の図を基に改変、作成。]]


 [[ヒト]]では少なくとも16種類のアイソフォームが存在し、そのうちの多くが[[線虫]]から[[哺乳類]]に至るまで進化的に保存されている('''図1'''、'''表''')<ref name=ref7><pubmed>11737951</pubmed></ref>。なお、シンタキシン12、13、および14はオルソログである。また、ESTデータベースの検索結果から2種類のcDNA断片がシンタキシンのアイソフォームとして同定され、それぞれシンタキシン9([http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nucest/1721869/?report=genbank AA150357])および15([http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nucest/1875469/ AA244750])と命名されている<ref><pubmed>9144278</pubmed></ref>。
 シンタキシン1は、[[シナプス小胞]]タンパク質[[シナプトタグミン]]と結合する分子量約35,000の内在性[[膜タンパク質]]p35AおよびBとして[[ラット]]脳可溶化画分から同定された。シンタキシン1のAとBは異なる遺伝子によりコードされているが、どちらも288個のアミノ酸からなり、両者のアミノ酸配列は84%の相同性をもつ。[[シナプス]]小胞のドッキングと[[開口放出]]に関わるとの予測から、「順番に整理して一緒に並べること」を意味する古代ギリシャ語σψνταξισ (syntaxis) にちなみ命名された。ほぼ同時期に複数のグループにより同定されたので、HPC-1あるいはsynaptocanalinとも呼ばれる。


{| class="wikitable" 
 シンタキシンファミリーは、SNARE (soluble ''N''-etylmaleimide sensitive fusion protein attachment protein receptorの略) と総称される[[膜融合]]関連タンパク質スーパーファミリーの一員でもある。SNAREは、輸送小胞に局在するv-SNARE (vはvesicularのv) と標的膜に存在するt-SNARE (tはtarget-membraneのt) の2種類に大別される。シンタキシン1はその局在(後述)からt-SNAREに属するとともに、SNAREモチーフの中央にグルタミン残基を持つことから、そのアミノ酸一文字表記にならいQ-SNAREとも分類される。
|+ 表.シンタキシンアイソフォームの発現分布と主な[[動物]]種のホモログのGENE ID
|-
|style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" |アイソフォーム<sup>注)</sup>
|style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" |生体内分布
|style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" |細胞内局在
|style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" |ヒト
|style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" |[[マウス]]
|style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" |[[ラット]]
|style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" |[[ショウジョウバエ]]
|style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" |線虫
 
|-
|<b>[[シンタキシン1A|1A]]</b><ref name=ref2><pubmed>1321498</pubmed></ref>
|神経組織、[[分泌]]組織
|[[細胞膜]]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=6804 6804]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=20907 20907]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=116470 116470]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=42854 42854]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=176743 176743]
|-
|<b>[[シンタキシン1B|1B]]</b><ref name=ref2><pubmed>1321498</pubmed></ref>
|神経組織、分泌組織
|細胞膜
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=112755 112755]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=56216 56216]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=24923 24923]
|なし
|なし
|-
|[[シンタキシン2|2]]<ref name=ref9><pubmed>7690687</pubmed></ref>
(別名[[エピモルフィン]])
|広範な器官
(特に[[脾臓]]、[[肝臓]]、[[精巣]])
|細胞膜
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=2054 2054]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=13852 13852]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=25130 25130]
|なし
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=181505 181505]
|-
|<b>[[シンタキシン3|3]]</b><ref name=ref9><pubmed>7690687</pubmed></ref>
|広範な器官
(特に脾臓、肺、[[腎臓]])
|細胞膜
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=6809 6809]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=20908 20908]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=81802 81802]
|なし
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=3565871 3565871]
|-
|<b>[[シンタキシン4|4]]</b><ref name=ref9><pubmed>7690687</pubmed></ref>
|広範な器官
(特に[[心臓]])
|細胞膜
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=6810 6810]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=20909 20909]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=81803 81803]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=31269 31269]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=177647 177647]
|-
|[[シンタキシン5|5]]<ref name=ref9><pubmed>7690687</pubmed></ref>
|広範な器官
(特に脾臓、肝臓、精巣)
|[[小胞体]]–[[ゴルジ体]]中間区画
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=6811 6811]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=56389 56389]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=65134 65134]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=34966 34966]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=179611 179611]
|-
|<b>[[シンタキシン6|6]]</b><ref><pubmed>8663448</pubmed></ref>
|広範な器官
|[[トランスゴルジ網]](TGN)
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=10228 10228]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=58244 58244]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=60562 60562]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=40373 40373]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=259698 259698]
|-
|<b>[[シンタキシン7|7]]</b><ref><pubmed>9358037</pubmed></ref>
|広範な器官
|初期および後期[[エンドソーム]]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=8417 8417]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=53331 53331]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=60466 60466]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=36173 36173]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=172718 172718]
|-
|<b>[[シンタキシン8|8]]</b><ref name=ref13><pubmed>9852078</pubmed></ref>
|広範な器官
(特に心臓)
|初期および[[後期エンドソーム]]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=9482 9482]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=55943 55943]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=59074 59074]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=39847 39847]
|なし
|-
|[[シンタキシン10|10]]<ref><pubmed>9446797</pubmed></ref>
|広範な器官
(特に心臓、[[骨格筋]]、[[膵臓]])
|トランス[[ゴルジ]]網(TGN)
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=8677 8677]
|なし
|なし
|なし
|なし
|-
|[[シンタキシン11|11]]<ref><pubmed>9571206</pubmed></ref>
|広範な器官
(特に心臓、[[胎盤]])
|トランスゴルジ網(TGN)
後期エンドソーム
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=8676 8676]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=74732 74732]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=292483 292483]
|なし
|なし
|-
|<b>[[シンタキシン12|12]]</b><ref><pubmed>9507000</pubmed></ref>/<b>[[シンタキシン13|13]]</b><ref><pubmed>9553086</pubmed></ref>/[[シンタキシン14|14]]
 
|広範な器官
|初期エンドソーム
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=23673 23673]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=100226 100226]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=65033 65033]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=39485 39485]
|なし
|-
|<b>[[シンタキシン16|16]]</b><ref><pubmed>9464276</pubmed></ref>
|広範な器官
(特に心臓、膵臓)
|トランスゴルジ網(TGN)
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=8675 8675]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=228960 228960]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=362283 362283]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=33034 33034]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=175712 175712]
|-
|<b>[[シンタキシン17|17]]</b><ref name=ref13><pubmed>9852078</pubmed></ref>
|広範な器官
(特に肝臓、精巣)
|小胞体
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=55014 55014]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=67727 67727]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=252853 252853]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=38541 38541]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=172663 172663]
|-
|<b>[[シンタキシン18|18]]</b><ref><pubmed>10788491</pubmed></ref>
|少なくとも脳
|小胞体
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=53407 53407]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=71116 71116]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=360953 360953]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=42933 42933]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=179055 179055]
|-
|[[シンタキシン19|19]]
|不明
|不明
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=415117 415117]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=68159 68159]
|[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=685180 685180]
|なし
|なし
|}
 
<sup>注)</sup>太字は脳での発現が確認されているものを示す。


== 構造 ==
== 構造 ==
[[ファイル:Syntaxin Fig1.png|300px|サムネイル|右|'''図2. 代表的なシンタキシンのドメイン構造''']]
 シンタキシン1は、4つのドメインがフレキシブルな短いリンカーでつながれた構造をしている。アミノ末端のNペプチドモチーフ(1-19)は、Munc-18との結合に関わる (後述)。二番目のHabcと呼ばれるドメイン(27-146)は、逆平行の3本のαへリックスが束になっている。Habcは、次のH3ドメインに折り重なることよりSNARE複合体による膜融合を制御する負の調節ドメインとして働く。
 
 シンタキシンは、約250から300アミノ酸からなる膜タンパク質(膜貫通ドメインを欠くアイソフォーム11を除く)である。主にαへリックスからなる複数のドメインがリンカーでつながれた構造をしている('''図2''')。カルボキシ末端の一箇所の膜貫通ドメイン(アイソフォーム7は二箇所)が膜に埋め込まれ、分子の大部分を細胞質に向けて存在している。


 アイソフォーム6、8、10以外のシンタキシンは、アミノ末端に[[Munc-18]]との結合に関わる約20のアミノ酸残基からなるNペプチドモチーフをもつ(後述)<ref><pubmed>21139055</pubmed></ref>。
 シンタキシン1のカルボキシ末端側3分の1は、膜融合能を発揮するのに必要最小限の領域である。SNAREモチーフを含むH3ドメイン(202-254)は、SNAP-25ならびにシナプトブレビンと結合し、膜融合能をもつSNARE複合体を形成する。続く膜貫通ドメイン(266-288)は、[[細胞膜]]に埋め込まれているが貫通はしない。これら両ドメインを含む組換えフラグメントを全長のSNAP-25ととともに再構成した人工脂質小胞は、シナプトブレビンを再構成した人工脂質小胞と自発的に融合する。


 アミノ末端側のHabcと呼ばれるドメインでは、3本の[[wj:αへリックス|αへリックス]]が逆平行に結合し束になっている<ref name=ref1><pubmed>9753330</pubmed></ref><ref><pubmed>10913252</pubmed></ref>。Habcに続くリンカーはフレキシブルで<ref><pubmed>12680753</pubmed></ref>、Habcは次のH3ドメインに折り重なることよりシンタキシンの膜融合能を制御する負の調節ドメインとして働く<ref><pubmed>10535962</pubmed></ref>。
 モノメリックなシンタキシン1は、活性化状態と不活性状態を移行する。活性化状態では、HabcとH3が解離したいわゆる開いた構造をとり、SNAP-25およびシナプトブレビンと結合できる。これに対し、HabcがH3に折り重なった閉じた構造になると不活性型となり、SNARE複合体を形成できない。
 
 シンタキシンのカルボキシ末端側3分の1は、膜融合能を発揮するのに必要最小限の領域である。SNAREモチーフを含むH3ドメインは対になる他のSNAREと結合し、膜融合能をもつ[[SNARE複合体]]を形成する<ref name=ref9100028><pubmed>9100028</pubmed></ref>。実際、H3ドメインと膜貫通ドメインからなるシンタキシン1の組換えフラグメントを[[SNAP-25]]ととともに再構成した人工脂質小胞は、[[シナプトブレビン]]2を再構成した人工脂質小胞と自発的に融合する<ref><pubmed>9529252</pubmed></ref>。
 
 単量体のシンタキシンは、活性化状態と不活性状態を移行する<ref><pubmed>14668446</pubmed></ref>。活性化状態では、HabcとH3が解離したいわゆる開いた構造をとり、対になるSNAREと結合できる。これに対し、HabcがH3に折り重なった閉じた構造になると不活性型となり、SNARE複合体を形成できない<ref><pubmed>18458823</pubmed></ref><ref><pubmed>10449403 </pubmed></ref>。


== 生体内および細胞内分布 ==
== 生体内および細胞内分布 ==
 生体内においてシンタキシンの大部分のアイソフォームは広範な器官に分布しており、そのうちアイソフォーム3、4、6、7、8、12/13、16、17および18は脳にも発現している(表)。一方、シンタキシン1Aおよび1Bは、脳などの神経組織および副腎髄質などの分泌組織に特異的に発現している。
 シンタキシン1は神経系に特異的に発現する。組織染色において[[大脳皮質]]、[[海馬]]、[[小脳]]、脊髄、網膜のシナプスが豊富な領域に観察される。有郭乳頭味蕾、[[蝸牛]]内のコルチ器、松果体細胞にも存在する。神経系だけでなく、発生学的にニューロンと同じ外胚葉由来の副腎髄質にも発現している。1Aと1Bは異なる組織分布を示す。


 神経系においてシンタキシン1は、[[大脳皮質]]、[[海馬]]、[[小脳]]、[[脊髄]]、[[網膜]]のシナプスが豊富な領域に観察される<ref><pubmed>8361334</pubmed></ref>。[[有郭乳頭味蕾]]<ref><pubmed>17447252</pubmed></ref>、[[蝸牛]]内の[[コルチ器]]<ref><pubmed>10103074</pubmed></ref>、[[松果体]]細胞<ref><pubmed>8593674</pubmed></ref> にも存在する。神経系だけでなく、発生学的にニューロンと同じ外胚葉由来の[[副腎髄質]]にも発現している<ref name=ref7818508><pubmed>7818508</pubmed></ref>。[[中枢神経系]]および[[末梢神経系]]の両方において、1Aと1Bの分布は異なる<ref><pubmed>10197765</pubmed></ref><ref><pubmed>8996803</pubmed></ref>。
 ニューロンにおいてシンタキシン1は、主に[[シナプス前膜]]を含む細胞膜内面に局在する一方、シナプス小胞膜にも認められる。小脳皮質においては、ほとんどの[[グルタミン酸]]作動性終末と、一部の[[GABA作動性]]シナプスに局在する。その他にも、視索上核のオキシトシンニューロンでは[[軸索終末]]だけでなく細胞体や樹状突起に発現が見られるとともに、ヒヨコの[[毛様体神経節]]のカリックス型[[シナプス前部]]、[[カエル]]の運動[[神経終末]]にも存在する。アストロサイトにも発現している。
 
 細胞内において、16種類のアイソフォームのうちシンタキシン1(AおよびB)から4までの5種類は[[形質膜]]に局在しており、残りは小胞体、[[ゴルジ体]]、トランスゴルジ網、[[エンドソーム]]などに局在している(表)。
 
 ニューロンにおいてシンタキシン1は、主に[[シナプス前膜]]を含む細胞膜に局在する一方、シナプス小胞膜にも認められる<ref><pubmed>8301329</pubmed></ref><ref><pubmed>7698978</pubmed></ref><ref><pubmed>23821748 </pubmed></ref>。小脳皮質においては、ほとんどの[[グルタミン酸]]作動性終末と、一部の[[GABA]]作動性シナプスに局在する<ref><pubmed>22094010 </pubmed></ref>。その他にも、[[視索上核]]の[[オキシトシン]]ニューロンでは[[軸索終末]]だけでなく[[細胞体]]や[[樹状突起]]に発現が見られるとともに<ref><pubmed>21988098</pubmed></ref>、[[ヒヨコ]][[毛様体神経節]]の杯状シナプス前部<ref><pubmed>15102922</pubmed></ref>、[[カエル]]の[[運動神経終末]]<ref><pubmed>8963446</pubmed></ref>にも存在する。[[アストロサイト]]にも発現している<ref><pubmed>9098527</pubmed></ref><ref><pubmed>21656854</pubmed></ref>。
 
 [[初代培養]]した海馬ニューロンにおいて、シンタキシン3は細胞体や樹状突起に加え[[成長円錐]]にも<ref name=ref44><pubmed>16598260</pubmed></ref>、シンタキシン4<ref name=ref45><pubmed>20434989</pubmed></ref>および12/13<ref name=ref46><pubmed>20098723</pubmed></ref>および16<ref><pubmed>17852734</pubmed></ref>はスパインを含め樹状突起に存在する。金魚の網膜のリボンシナプスには、シンタキシン3の選択的スプライシングアイソフォームBが発現している<ref name=ref48><pubmed>20060037</pubmed></ref>。


== 翻訳後修飾 ==
== 翻訳後修飾 ==
 シンタキシン1は、[[PKC]]および[[CaMKII]]<ref name=ref8876242><pubmed>8876242</pubmed></ref><ref name=ref9930733><pubmed>9930733</pubmed></ref> 、[[カゼインキナーゼ1]]および[[カゼインキナーゼ2|2]]<ref><pubmed> 11846792</pubmed></ref><ref name=ref2></ref><ref name=ref9930733></ref><ref><pubmed> 10844023 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15822905 </pubmed></ref>により[[リン酸化]]される。[[PKA]]については議論が分かれている<ref name=ref8876242></ref><ref name=ref9930733></ref>。リン酸化以外に、[[ニトロ化]]<ref><pubmed> 10913827 </pubmed></ref>、[[Sニトロシル化]]<ref><pubmed>18452404</pubmed></ref>、[[パルミトイル化]]<ref><pubmed> 19508429 </pubmed></ref>を受け、[[ユビキチン]]-[[プロテアソーム]]経路により分解される<ref><pubmed>12121982</pubmed></ref>。
 シンタキシン1は、PKC、[[CaMKII]]、カゼインキナーゼ1および2によりリン酸化される。[[PKA]]については議論が分かれている。リン酸化以外に、ニトロ化、Sニトロシル化、[[パルミトイル化]]を受け、ユビキチン-[[プロテアソーム]]経路により分解される。


== 結合タンパク質 ==
== 結合タンパク質 ==
 シンタキシンは自身と同じ膜に局在する別のt-SNAREと結合するとともに、さらに輸送されて来る小胞に局在するv-SNAREとも結合して[[SNARE複合体]]を形成し膜融合能を発揮する。さらにシンタキシンには、[[SNARE複合体]]形成を制御するタンパク質の多くが結合する。この節では、他の分子との結合が最も良く調べられているシンタキシン1の主な結合タンパク質を紹介する。他のアイソフォームでは、シンタキシ4はF[[アクチン]]と<ref><pubmed>18285343</pubmed></ref>、シンタキシン13はシナプス後部の[[足場タンパク質]]Homer1c(別名Vesl-1L)<ref><pubmed>10833436</pubmed></ref>、NEEP21(neuron-enriched endosomal protein of 21 kDa)<ref><pubmed>12070131</pubmed></ref>、およびGRASP-1(GRIP-associated protein-1))<ref name=ref46 />と結合することが報告されている。
 ''in vitro''においてシンタキシン1は、約50種類ものタンパク質と結合することが示されている。ここでは、神経伝達物質の放出に関与しているものを中心に取上げる。


=== SNARE(SNAP-25およびシナプトブレビン) ===  
=== SNARE(SNAP-25およびシナプトブレビン) ===  
 シンタキシン1は、同じくt-SNAREである[[SNAP-25]]と自身のH3ドメインを介し結合する<ref name=ref9100028><pubmed>9100028</pubmed></ref>。会合比により2種類の複合体が存在する。1:1で結合したt-SNAREヘテロニ量体は、v-SNAREである[[シナプトブレビン]](別名VAMP)と結合し[[SNARE複合体]]を形成する。一方、シンタキシン二分子に[[SNAP-25]]が一分子結合した2:1複合体(通称)は、シナプトブレビンと結合できない<ref><pubmed>9346956</pubmed></ref>。したがって、[[シナプス前終末]]の放出部位では、別の分子により1:1複合体の状態が維持されていると予想される。
 シンタキシン1は、同じくt-SNAREであるSNAP-25と自身のH3ドメインを介し結合する。会合比により2種類の複合体が存在する。1:1で結合したt-SNAREヘテロニ量体は、v-SNAREであるシナプトブレビンと結合しSNARE複合体を形成する。一方、シンタキシン二分子にSNAP-25が一分子結合した2:1複合体(通称)は、シナプトブレビンと結合できない。したがって、[[シナプス前終末]]の放出部位では、別の分子により1:1複合体の状態が維持されていると予想される。
 
[[ファイル:Syntaxin Fig.png|300px|サムネイル|右|'''図3. 開口放出前に形成されるSNARE複合体の立体構造模式図''' <br>シンタキシンは赤で描いている。緑はSNAP-25を、青はシナプトブレビンをそれぞれ示す。明らかにされているSNARE複合体とHabcドメインの立体構造に、膜貫通ドメインを表す円柱とリンカー等を表す点線を書き加えた。]]
 
 シンタキシン1、[[SNAP-25]]、および[[シナプトブレビン]]が1:1:1の比で結合した[[SNARE複合体]]は、[[wikipedia:ja:コイルドコイル構造|コイルドコイル構造]]をもつ<ref><pubmed>9759724</pubmed></ref>。よく目にするシナプス小胞膜と[[シナプス前]]膜との間で形成されている[[SNARE複合体]]の模式図は、シンタキシンのH3ドメインと[[SNAP-25]]および[[シナプトブレビン]]の細胞質フラグメントからなる複合体の立体構造解析結果に膜貫通領域などを描き足したものである(図3)。組織を可溶化した後などに溶液中に存在する[[SNARE複合体]]は強固に結合しており、強力な[[wikipedia:ja:界面活性剤|界面活性剤]]に対しても耐性を持ち、[[wikipedia:ja:ラウリル硫酸ナトリウム|ラウリル硫酸ナトリウム]](SDS)存在下でも煮沸しない限り解離しない<ref><pubmed>7957071</pubmed></ref>。


 SNAP-25およびシナプトブレビンと1:1:1の比で結合したSNARE複合体は、コイルドコイル構造をしている。よく目にするシナプス小胞膜と[[シナプス前]]膜との間で形成されているSNARE複合体の模式図は、シンタキシンのH3ドメインとSNAP-25およびシナプトブレビンの細胞質フラグメントからなる複合体のX線構造解析結果に膜貫通領域などを描き足したものである。組織を可溶化した後などに溶液中に存在するSNARE複合体は強固に結合しており、強力な界面活性剤に対しても耐性を持ち、SDS存在下でも煮沸しない限り解離しない。
=== シナプトタグミン ===
=== シナプトタグミン ===
 シンタキシン1は、H3ドメインを介して神経伝達物質放出の[[カルシウムイオン]]センサーと考えられている[[シナプトタグミン]]1と結合する<ref><pubmed>18275379</pubmed></ref><ref><pubmed>22068972</pubmed></ref>。カルシウムイオン非存在下では、シナプトタグミンのC<sub>2</sub>Bドメインと結合する<ref><pubmed>12496268</pubmed></ref><ref><pubmed>22008253 </pubmed></ref>。[[wikipedia:ja:大腸菌|大腸菌]]で発現させた組換えタンパク質同士の結合は、結合実験に用いるフラグメントの大きさや付加するタグによって、特にカルシウムイオンの要求性に、大きな影響を受ける<ref><pubmed>8604041</pubmed></ref>。ある条件下ではシンタキシンとシナプトタグミンの結合はカルシウム依存性であり<ref><pubmed>7791877</pubmed></ref>、シナプトタグミンのC<sub>2</sub>Aドメインへのカルシウムイオンの結合が必須である<ref><pubmed>9010211</pubmed></ref>。しかし、C<sub>2</sub>Aのカルシウム結合能を欠失させた変異シナプトタグミンを発現させたニューロンで神経伝達物質の放出に異常が認められないことから<ref><pubmed>12110845</pubmed></ref>、シンタキシンとシナプトグミンの[[カルシウム]]依存性結合の伝達物質放出における意義は不明である。
 シンタキシン1は、H3ドメインを介して神経伝達物質放出のカルシウムイオンセンサーの最有力候補シナプトタグミン1と結合する。大腸菌で発現させた組換えタンパク質同士の結合は、結合実験に用いるフラグメントの大きさや付加するタグによって、特にカルシウムイオンの要求性に、大きな影響を受ける。カルシウムイオン非存在下では、シナプトタグミンのC<sub>2</sub>Bドメインと結合する。


===コンプレキシン ===
===コンプレキシン ===
 シンタキシンは、SNARE複合体による膜融合を一時停止させる役割を持つとされるシナプスタンパク質[[コンプレキシン]](別名[[シナフィン]])とH3を介して結合する<ref><pubmed>7553862</pubmed></ref><ref><pubmed>9302098</pubmed></ref>。シンタキシン1を含むSNARE複合体とコンプレキシンの中央部分の結合状態の立体構造が明らかにされている<ref><pubmed>11832227</pubmed></ref>。シンタキシン1と同じく細胞膜に局在するシンタキシン2および3もコンプレキシンと結合するが、シンタキシン4は結合能を欠く<ref><pubmed>10777504</pubmed></ref>。
 シンタキシンは、コンプレキシン(別名シナフィン)とH3を介して結合する。コンプレキシンは、SNARE複合体による膜融合を一時停止させる役割を持つとされるシナプス前終末タンパク質である。コンプレキシンの中央部分とSNARE複合体の結合状態の立体構造が明らかにされている。


=== Munc-18 ===
=== Munc-18 ===
 小胞のドッキングあるいはプライミングに関与する[[Munc-18]](別名n-Sec1)のシンタキシンへの結合は、当初SNARE複合体の形成を阻害するとされていた<ref><pubmed>8247129</pubmed></ref><ref><pubmed>8108429</pubmed></ref>。これは、単純化された結合実験において、シンタキシン1のNペプチドにMunc18が結合している時はその閉構造が安定化し<ref><pubmed>23561535</pubmed></ref>、SNAP-25と結合できないためである<ref><pubmed>18337752</pubmed></ref> 。しかしその後、Munc-18と結合したシンタキシン1でも[[Munc-13]]存在下では開構造へと変形し<ref><pubmed>10366611</pubmed></ref>、SNARE複合体を形成できることが明らかにされた(後述)<ref><pubmed>17002520</pubmed></ref><ref><pubmed>17301226</pubmed></ref><ref><pubmed>17264080</pubmed></ref>。このように、Munc-18は、シンタキシン1の開閉構造に応じた二種類の結合様式でモノメリックなシンタキシン1とSNARE複合体中のシンタキシン1の両方に結合することができる。シンタキシン1とMunc-18の結合は、両者のリン酸化<ref><pubmed>8631738</pubmed></ref><ref><pubmed>9478941</pubmed></ref><ref><pubmed>12730201</pubmed></ref><ref><pubmed>19748891</pubmed></ref>や、[[アラキドン酸]]<ref><pubmed>17363971</pubmed></ref>および[[スフィンゴシン]]<ref><pubmed>19390577</pubmed></ref>により制御される。シンタキシンとMunc-18の複合体の立体構造も明らかにされている<ref><pubmed>10746715</pubmed></ref> 。
 小胞のドッキングあるいは[[プライミング]]に関与するMunc-18(別名n-Sec1)のシンタキシンへの結合は、当初SNARE複合体の形成を阻害するとされていた。これは、単純化された結合実験において、シンタキシン1のNペプチドにMunc18が結合している時はその閉構造が安定化し、SNAP-25と結合できないためである。しかし後述のように、Munc-18と結合したシンタキシン1でもMunc-13存在下では開構造へと変形し、SNARE複合体を形成できることがその後明らかにされた。このように、Munc-18は、シンタキシン1の開閉構造に応じた二種類の結合様式でモノメリックなシンタキシン1とSNARE複合体中のシンタキシン1の両方に結合することができる。シンタキシン1とMunc-18の結合は、両者のリン酸化や、アラキドン酸およびスフィンゴシンにより制御される。シンタキシンとMunc-18の複合体の立体構造も明らかにされている。


=== Munc-13 ===
=== Munc-13 ===
 Munc-13は、シンタキシンを閉構造から開構造へ変換することで、Munc18と結合したシンタキシンをSNARE複合体が形成できるようにする<ref><pubmed>17645391</pubmed></ref><ref><pubmed>21499244</pubmed></ref>。このタンパク質間相互作用は、シナプス小胞のドッキングおよび[[プライミング]]に関与するとされている<ref><pubmed>18250196 </pubmed></ref><ref><pubmed>11460165</pubmed></ref>。
 Munc-13は、シンタキシンを閉構造から開構造へ変換することで、Munc18と結合したシンタキシンをSNARE複合体が形成できるようにする。このタンパク質間相互作用は、シナプス小胞のドッキングおよびプライミングに関与しているとされている。
 
=== カルシウムチャネル ===
=== [[カルシウムチャネル]] ===
 シンタキシン1は多様な[[カルシウムチャネル]]と結合する<ref><pubmed>10212477</pubmed></ref>
 シンタキシンは多様な[[カルシウム]]チャネルと結合する。中でもN型 カルシウムチャネルとの結合は良く調べられていて、チャネルの細胞質内ループ中のシンプリントsynprintと呼ばれる部位とシンタキシンのNペプチドがカルシウムイオン濃度依存性に結合する。また、これとは別にシンタキシンの膜貫通領域とその直前の細胞質領域が調節に関与している。Gタンパク質によるカルシウムチャネルの機能調節は、シンタキシンとG<sub>β</sub>とG<sub>γ</sub>からなるヘテロ二量体との直接結合により促進される。
<ref><pubmed>10414292</pubmed></ref>
 
<ref><pubmed>12832834</pubmed></ref>
 その他にもシンタキシンは、[[CAPS]]、VAP-A、-fodrin、CaMKII、granuphilin、staring、amisyn、D53、taxillin、各種伝達物質トランスポーター、Death-associated protein (DAP) kinase、ある種のKチャネル、syntabulin、ミオシンVa、Class C Vps complex、オトフェリン、HSP-70、IP3 receptor、M-channel、DCC (deleted in colorectal cancer)、PRIP (phospholipase C-related but catalytically inactive protein)、Septin CCCrel-1、cysteine-string protein (CSP) 、GLYT1/GLYT2、[[チューブリン]]、syncollin、presenilin-1、ダイナミン、-SNAP、シナプトブレビン、syntaphilin、tomosyn、
。中でも[[N型カルシウムチャネル]]との結合は良く調べられていて<ref><pubmed>8119979</pubmed></ref><ref><pubmed>1334074</pubmed></ref>、チャネルの細胞質内ループ中のシンプリントsynprintと呼ばれる部位とシンタキシン1のNペプチドがカルシウムイオン濃度依存性に結合する<ref><pubmed>7993624</pubmed></ref><ref><pubmed>12221094</pubmed></ref><ref><pubmed>8559250</pubmed></ref>。また、これとは別にシンタキシン1の膜貫通領域とその直前の細胞質領域が調節に関与している<ref><pubmed>11087812</pubmed></ref>。[[Gタンパク質]]によるカルシウムチャネルの機能調節は、シンタキシン1と[[Gβ|G<sub>β</sub>]]と[[Gγ|G<sub>γ</sub>]]からなるヘテロ二量体との直接結合により促進される<ref><pubmed>10692440</pubmed></ref>。
あるいは[[dopamine transporter]]([[DAT]])/the receptor for activated C kinases (RACK1) と結合する。
 
 その他にもシンタキシン1は、[[アミシン]]、[[α-ホドリン]]、[[α-SNAP]]、[[CAPS]]、[[CaMKII]]、[[CCCrel-1]]、[[CSP]] ([[cysteine-string protein]]) 、[[D53]]、 [[DAP]]([[death-associated protein]]) キナーゼ、[[DCC]] ([[deleted in colorectal cancer]])、[[グラニュフィリン]]、[[HSP70]]、[[IP3受容体|IP<sub>3</sub>受容体]]、[[Mチャネル]]、[[RACK1]] ([[the receptor for activated C kinases]])、 [[PRIP]] ([[phospholipase C-related but catalytically inactive protein]])、[[プレセニリン-1]]、[[スタリング]]、[[シンコリン]]、[[シンタブリン]]、[[シンタフィリン]]、[[タキシリン]]、[[トモシン]]、[[VAP-A]]、ある種の[[Kチャネル]][[オトフェリン]]、[[モノアミン]]トランスポーター、[[グリシン]]トランスポーター、クラス[[C-Vps複合体]]、シナプトブレビン、[[ダイナミン]]、[[チューブリン]]、あるいは[[ミオシンVa]]と結合する。


== 機能 ==
== 機能 ==
 神経系において細胞体に発現しているシンタキシンは、他の細胞においてと同様、小胞体膜同士の融合、小胞体からゴルジ体への膜輸送、エンドソームからゴルジ体への膜輸送などの細胞内膜輸送に関与していると思われる<ref name=ref7><pubmed>11737951</pubmed></ref>。一方、神経系に特異的に発現しているアイソフォームを含めいくつかのシンタキシンは、神経突起に局在しニューロンに特異的な機能を担っている。
シナプス前膜に存在するシンタキシン1は、エンドサイトーシスを含めシナプス小胞の循環のいくつかの過程に直接、または間接的に関わる。その中でもCa2+依存性の小胞開口放出過程における役割について、最も研究が進められている。シンタキシン1は、シナプス前膜と小胞膜との間でSNAP-25およびシナプトブレビンとSNARE複合体を形成し、両方の膜を限りなく近づけて融合させ神経伝達物質を開口放出させる。[[マウス]]の内耳[[有毛細胞]]からの伝達物質放出には関与しないという例外はあるが、実験材料として使われる多くの神経標本における伝達物質放出にはシンタキシン1が必須である。
 
===神経伝達物質の放出===
 シナプス前膜に存在するシンタキシン1は、[[エンドサイトーシス]]を含め<ref><pubmed>23643538</pubmed></ref>シナプス小胞の循環のいくつかの過程に直接または間接的に関わる。その中でもカルシウム依存性の小胞開口放出過程における役割について最も研究が進んでおり、シンタキシン1はシナプス前膜と小胞膜との間でSNAP-25およびシナプトブレビンとSNARE複合体を形成し、両方の膜を限りなく近づけて融合させ神経伝達物質を開口放出させると考えられている<ref><pubmed>10219238</pubmed></ref>。マウスの[[内耳]][[有毛細胞]]からの伝達物質放出には関与しないという例外はあるが<ref><pubmed>21378973</pubmed></ref>、実験材料として使われる多くの神経標本および開口放出のモデル細胞における伝達物質放出にはシンタキシン1が必須である<ref name=ref7818508><pubmed>7818508</pubmed></ref><ref><pubmed>7609887</pubmed></ref><ref><pubmed>9692742</pubmed></ref><ref><pubmed>7612024</pubmed></ref><ref name=ref9342384><pubmed>9342384</pubmed></ref>。金魚の網膜のリボンシナプスにおけるシナプス小胞の開口放出には、シンタキシン3の選択的スプライシングバリアント3Bが関与する<ref name=ref48 />。
 
 シンタキシン1は、開口放出に先立ちシナプス小胞や[[有芯小胞]]を放出部位へドッキングさせる。実際、カエルの[[神経筋接合部]]<ref name=ref14622203><pubmed>14622203</pubmed></ref>ならびに[[副腎髄質]][[クロマフィン細胞]]<ref name=ref17205130><pubmed>17205130</pubmed></ref>においてシンタキシンを切断あるいは破壊すると小胞のドッキングが阻害される。一方、ニューロン間のシナプスではシンタキシンの機能を阻害してもドッキングに影響はない<ref name=ref14622203><pubmed>14622203</pubmed></ref><ref name=ref17205130><pubmed>17205130</pubmed></ref><ref name=ref9342384><pubmed>9342384</pubmed></ref>。
 
 刺激に応じた小胞の開口放出はカルシウム依存性だが、シンタキシン1を含むSNAREにはカルシウム[[イオン]]結合能はない。しかし、シンタキシン自身は、カルシウムチャネルへの結合を介して小胞を放出部位へドッキングさせる<ref><pubmed>18060067</pubmed></ref>。一方で、カルシウムチャネルの機能を抑制することから<ref><pubmed>8524397</pubmed></ref><ref><pubmed>10548106</pubmed></ref>、伝達物質放出のカルシウムイオンによる制御において相反する二種類の働きを併せ持つ<ref><pubmed>17215385</pubmed></ref>。
 
 それ以外にも、開口放出時に形成されると考えられているフュージョンポアへの関与<ref><pubmed>15016962</pubmed></ref> 、[[学習]]と[[記憶]]に関与する可能性<ref><pubmed>8921297 </pubmed></ref><ref><pubmed>9200718</pubmed></ref><ref><pubmed>9749751</pubmed></ref><ref><pubmed>20563839</pubmed></ref>が示唆されている。
 
===AMPA型グルタミン酸受容体の輸送===
 シナプスの長期増強が生じる際、[[AMPA型グルタミン酸受容体]]がそれらを含むリサイクリング[[エンドソーム]]の開口放出によりシナプス後膜へ組み込まれる。いくつかのシンタキシンはこのシナプス後部におけるAMPA受容体の輸送に関与し、シナプスの伝達効率を調節している。


 シンタキシン3および4は、海馬ニューロンにおいて[[長期増強]]など神経活動の亢進時に、AMPA受容体のスパインへの組込みに関与し、シナプス可塑性に重要な役割を果たしている<ref name=ref45 /><ref><pubmed>20959521</pubmed></ref><ref name=ref124><pubmed>23395379</pubmed></ref>。シンタキシン4については議論が分かれており<ref name=ref124><pubmed>23395379</pubmed></ref>、長期増強誘導時ではなく[[レチノイン酸]]によるシナプス可塑性においてAMPA受容体の組み込みに関与するという説もある<ref><pubmed>25843403 </pubmed></ref>。
 シンタキシン1は、開口放出に先立ちシナプス小胞や[[有芯小胞]]を放出部位へドッキングさせる。実際、カエルの[[神経筋接合部]]ならびに副腎髄質クロマフィン細胞においてシンタキシンを切断あるいは破壊すると小胞のドッキングが阻害される。一方、ニューロン間のシナプスではシンタキシンを破壊してもドッキングに影響はない。


 シンタキシン13は、AMPA受容体の細胞内輸送に関与する[[GRIP-associated protein 1]] ([[GRASP-1]])と協働して、エンドサイトーシスにより取込まれた初期エンドソームから[[リサイクリングエンドソーム]]への輸送に関与する可能性が示されている<ref name=ref46 />。
 刺激に応じた小胞の開口放出はCa2+依存性だが、シンタキシン1を含むSNAREにはCa2+結合能はない。しかし、シンタキシン自身は、Caチャネルへの結合を介して小胞を放出部位へドッキングさせる。一方で、[[Ca2+チャネル]]の機能を抑制することから、伝達物質放出のCa2+による制御において相反する二種類の働きを持合せる。
 
それ以外にも、開口放出時に形成されると言われているフュージョンポアへの関与、神経突起の伸長、学習と記憶に関与する可能性が示唆されている。
===神経突起の伸長===
 シンタキシン1<ref><pubmed>8698815</pubmed></ref><ref><pubmed>10900079</pubmed></ref><ref><pubmed>21593320</pubmed></ref>、3<ref name=ref44 />、13<ref><pubmed>10886332</pubmed></ref>、および16<ref><pubmed>20589833</pubmed></ref>は[[神経突起]]の伸長に関与する。


== 疾患との関わり ==
== 疾患との関わり ==
 [[ボツリヌス中毒]]の主な症状である[[弛緩性麻痺]]は、運動[[神経終末]]からの[[アセチルコリン]]の放出阻害による。これは、中毒の原因である[[ボツリヌス菌]]が産生する神経[[毒素]]のもつ[[タンパク質分解酵素]]活性によるSNAREの切断に起因する。7種類存在する[[ボツリヌス毒素]]の中、[[C型毒素]]はシンタキシ1をカルボキシ末端付近の1箇所、[[リジン]]残基と[[アラニン]]残基(1Aでは253番目と254番目、1Bでは252番目と253番目)の間で切断する<ref><pubmed>7901002</pubmed></ref><ref><pubmed>7737992</pubmed></ref>。
 ボツリヌス中毒の主な症状である弛緩性麻痺は、運動神経終末からの[[アセチルコリン]]の放出阻害による。これは、中毒の原因である[[ボツリヌス菌]]が産生する毒素のもつタンパク質分解酵素活性によるSNAREの切断に起因する。7種類存在する[[ボツリヌス毒素]]の中、C型毒素はシンタキシ1をカルボキシ末端付近の1箇所、リシン残基とアラニン残基(1Aでは253番目と254番目;1Bでは252番目と253番目)の間で切断する。


 中枢ならびに末梢神経系疾患との関連性も示唆されている。[[統合失調症]]<ref><pubmed>15219469</pubmed></ref><ref><pubmed>19748077</pubmed></ref><ref><pubmed>21669024</pubmed></ref>、[[高機能自閉症]]<ref><pubmed>18593506</pubmed></ref>、[[脳虚血]]後<ref><pubmed>19344701</pubmed></ref>においてシンタキシン1の発現量が増加していることが報告されている。[[末梢神経障害]]による[[異痛症]]にシンタキシン1の発現低下が関与している可能性も言われている<ref><pubmed>21129445</pubmed></ref>。
 中枢ならびに末梢神経系疾患との関連性も示唆されている。統合失調症、高機能[[自閉症]]、脳虚血後においてシンタキシン1の発現量が増加していることが報告されている。末梢神経障害による異痛症にシンタキシン1の発現低下が関与している可能性も言われている。


== 遺伝子操作動物 ==
== 遺伝子操作動物 ==
 シンタキシン1Aの[[ノックアウトマウス]]は生育可能だが、[[恐怖条件づけ]]記憶の阻害に加え、[[セロトニン]]作動性神経系の異常と考えられる行動異常と[[視床下部-下垂体-副腎系]]の機能不全を呈す<ref><pubmed>16723534</pubmed></ref><ref><pubmed>20576034</pubmed></ref><ref><pubmed>21910766</pubmed></ref>。
 シンタキシン1Aの[[ノックアウトマウス]]は生育可能だが、[[恐怖条件付け]]記憶の阻害に加え、[[セロトニン]]作動性神経系の異常と考えられる行動異常と[[視床下部-下垂体-副腎系]]の機能不全を呈す。恒常的に開構造をとる変異シンタキシン1遺伝子を強制発現させたノックインマウスは生育可能だが、2-3ヶ月齢で全身痙攣を呈し死にいたる。[[ショウジョウバエ]]では、遺伝子破壊体、温度感受性変異体、SNAREモチーフ中に変異を導入した変異体が作製されている。
 
 これに対し、シンタキシン1Bのノックアウトマウスは生後2週間までしか生存できず、[[グルタミン酸]]あるいは[[GABA]]の放出においてシナプス小胞の正常な開口放出と[[即時放出可能プール]]の形成が阻害されている<ref><pubmed>24587181</pubmed></ref>。恒常的に開構造をとる変異シンタキシン1B遺伝子を強制発現させた[[ノックインマウス]]は生育可能だが、2-3ヶ月齢で全身[[痙攣]]を呈し死にいたる<ref><pubmed>18703708</pubmed></ref>。[[ショウジョウバエ]]では、遺伝子破壊体<ref><pubmed>7834751</pubmed></ref><ref><pubmed>7546745</pubmed></ref><ref><pubmed>10433270</pubmed></ref><ref><pubmed>11095753</pubmed></ref>、[[温度感受性変異体]]<ref><pubmed>9728921</pubmed></ref>、SNAREモチーフ中に変異を導入した変異体<ref><pubmed>11717347</pubmed></ref>が作製されており、いずれもシナプス伝達が著しく阻害されている。
 
== 関連項目 ==
*[[AMPA型グルタミン酸受容体]]
*[[SNAP-25]]
*[[SNARE複合体]]
*[[エクソサイトーシス]]
*[[コンプレキシン]]
*[[シナプス顆粒]]
*[[シナプス前終末]]
*[[シナプトタグミン]]
*[[シナプトブレビン]]
*[[長期増強]]
*[[ボツリヌス毒素]]
*[[膜融合]]
*[[有芯顆粒]]
 
== 参考文献 ==
<references />

2015年12月17日 (木) 15:35時点における版

シンタキシンとは

 シンタキシンは、細胞内小胞輸送において膜の融合に関わるタンパク質ファミリーおよびそのメンバーである。ヒトでは、少なくとも18種類のアイソフォームが同定されている。シンタキシンファミリーメンバーの大部分が脳にも発現しているが、この項ではニューロンの機能の大きな特徴である神経伝達物質の放出を担うアイソフォーム1について述べる。

 シンタキシン1は、シナプス小胞タンパク質シナプトタグミンと結合する分子量約35,000の内在性膜タンパク質p35AおよびBとしてラット脳可溶化画分から同定された。シンタキシン1のAとBは異なる遺伝子によりコードされているが、どちらも288個のアミノ酸からなり、両者のアミノ酸配列は84%の相同性をもつ。シナプス小胞のドッキングと開口放出に関わるとの予測から、「順番に整理して一緒に並べること」を意味する古代ギリシャ語σψνταξισ (syntaxis) にちなみ命名された。ほぼ同時期に複数のグループにより同定されたので、HPC-1あるいはsynaptocanalinとも呼ばれる。

 シンタキシンファミリーは、SNARE (soluble N-etylmaleimide sensitive fusion protein attachment protein receptorの略) と総称される膜融合関連タンパク質スーパーファミリーの一員でもある。SNAREは、輸送小胞に局在するv-SNARE (vはvesicularのv) と標的膜に存在するt-SNARE (tはtarget-membraneのt) の2種類に大別される。シンタキシン1はその局在(後述)からt-SNAREに属するとともに、SNAREモチーフの中央にグルタミン残基を持つことから、そのアミノ酸一文字表記にならいQ-SNAREとも分類される。

構造

 シンタキシン1は、4つのドメインがフレキシブルな短いリンカーでつながれた構造をしている。アミノ末端のNペプチドモチーフ(1-19)は、Munc-18との結合に関わる (後述)。二番目のHabcと呼ばれるドメイン(27-146)は、逆平行の3本のαへリックスが束になっている。Habcは、次のH3ドメインに折り重なることよりSNARE複合体による膜融合を制御する負の調節ドメインとして働く。

 シンタキシン1のカルボキシ末端側3分の1は、膜融合能を発揮するのに必要最小限の領域である。SNAREモチーフを含むH3ドメイン(202-254)は、SNAP-25ならびにシナプトブレビンと結合し、膜融合能をもつSNARE複合体を形成する。続く膜貫通ドメイン(266-288)は、細胞膜に埋め込まれているが貫通はしない。これら両ドメインを含む組換えフラグメントを全長のSNAP-25ととともに再構成した人工脂質小胞は、シナプトブレビンを再構成した人工脂質小胞と自発的に融合する。

 モノメリックなシンタキシン1は、活性化状態と不活性状態を移行する。活性化状態では、HabcとH3が解離したいわゆる開いた構造をとり、SNAP-25およびシナプトブレビンと結合できる。これに対し、HabcがH3に折り重なった閉じた構造になると不活性型となり、SNARE複合体を形成できない。

生体内および細胞内分布

 シンタキシン1は神経系に特異的に発現する。組織染色において大脳皮質海馬小脳、脊髄、網膜のシナプスが豊富な領域に観察される。有郭乳頭味蕾、蝸牛内のコルチ器、松果体細胞にも存在する。神経系だけでなく、発生学的にニューロンと同じ外胚葉由来の副腎髄質にも発現している。1Aと1Bは異なる組織分布を示す。

 ニューロンにおいてシンタキシン1は、主にシナプス前膜を含む細胞膜内面に局在する一方、シナプス小胞膜にも認められる。小脳皮質においては、ほとんどのグルタミン酸作動性終末と、一部のGABA作動性シナプスに局在する。その他にも、視索上核のオキシトシンニューロンでは軸索終末だけでなく細胞体や樹状突起に発現が見られるとともに、ヒヨコの毛様体神経節のカリックス型シナプス前部カエルの運動神経終末にも存在する。アストロサイトにも発現している。

翻訳後修飾

 シンタキシン1は、PKC、CaMKII、カゼインキナーゼ1および2によりリン酸化される。PKAについては議論が分かれている。リン酸化以外に、ニトロ化、Sニトロシル化、パルミトイル化を受け、ユビキチン-プロテアソーム経路により分解される。

結合タンパク質

 in vitroにおいてシンタキシン1は、約50種類ものタンパク質と結合することが示されている。ここでは、神経伝達物質の放出に関与しているものを中心に取上げる。

SNARE(SNAP-25およびシナプトブレビン)

 シンタキシン1は、同じくt-SNAREであるSNAP-25と自身のH3ドメインを介し結合する。会合比により2種類の複合体が存在する。1:1で結合したt-SNAREヘテロニ量体は、v-SNAREであるシナプトブレビンと結合しSNARE複合体を形成する。一方、シンタキシン二分子にSNAP-25が一分子結合した2:1複合体(通称)は、シナプトブレビンと結合できない。したがって、シナプス前終末の放出部位では、別の分子により1:1複合体の状態が維持されていると予想される。

 SNAP-25およびシナプトブレビンと1:1:1の比で結合したSNARE複合体は、コイルドコイル構造をしている。よく目にするシナプス小胞膜とシナプス前膜との間で形成されているSNARE複合体の模式図は、シンタキシンのH3ドメインとSNAP-25およびシナプトブレビンの細胞質フラグメントからなる複合体のX線構造解析結果に膜貫通領域などを描き足したものである。組織を可溶化した後などに溶液中に存在するSNARE複合体は強固に結合しており、強力な界面活性剤に対しても耐性を持ち、SDS存在下でも煮沸しない限り解離しない。

シナプトタグミン

 シンタキシン1は、H3ドメインを介して神経伝達物質放出のカルシウムイオンセンサーの最有力候補シナプトタグミン1と結合する。大腸菌で発現させた組換えタンパク質同士の結合は、結合実験に用いるフラグメントの大きさや付加するタグによって、特にカルシウムイオンの要求性に、大きな影響を受ける。カルシウムイオン非存在下では、シナプトタグミンのC2Bドメインと結合する。

コンプレキシン

 シンタキシンは、コンプレキシン(別名シナフィン)とH3を介して結合する。コンプレキシンは、SNARE複合体による膜融合を一時停止させる役割を持つとされるシナプス前終末タンパク質である。コンプレキシンの中央部分とSNARE複合体の結合状態の立体構造が明らかにされている。

Munc-18

 小胞のドッキングあるいはプライミングに関与するMunc-18(別名n-Sec1)のシンタキシンへの結合は、当初SNARE複合体の形成を阻害するとされていた。これは、単純化された結合実験において、シンタキシン1のNペプチドにMunc18が結合している時はその閉構造が安定化し、SNAP-25と結合できないためである。しかし後述のように、Munc-18と結合したシンタキシン1でもMunc-13存在下では開構造へと変形し、SNARE複合体を形成できることがその後明らかにされた。このように、Munc-18は、シンタキシン1の開閉構造に応じた二種類の結合様式でモノメリックなシンタキシン1とSNARE複合体中のシンタキシン1の両方に結合することができる。シンタキシン1とMunc-18の結合は、両者のリン酸化や、アラキドン酸およびスフィンゴシンにより制御される。シンタキシンとMunc-18の複合体の立体構造も明らかにされている。

Munc-13

 Munc-13は、シンタキシンを閉構造から開構造へ変換することで、Munc18と結合したシンタキシンをSNARE複合体が形成できるようにする。このタンパク質間相互作用は、シナプス小胞のドッキングおよびプライミングに関与しているとされている。

カルシウムチャネル

 シンタキシンは多様なカルシウムチャネルと結合する。中でもN型 カルシウムチャネルとの結合は良く調べられていて、チャネルの細胞質内ループ中のシンプリントsynprintと呼ばれる部位とシンタキシンのNペプチドがカルシウムイオン濃度依存性に結合する。また、これとは別にシンタキシンの膜貫通領域とその直前の細胞質領域が調節に関与している。Gタンパク質によるカルシウムチャネルの機能調節は、シンタキシンとGβとGγからなるヘテロ二量体との直接結合により促進される。

 その他にもシンタキシンは、CAPS、VAP-A、-fodrin、CaMKII、granuphilin、staring、amisyn、D53、taxillin、各種伝達物質トランスポーター、Death-associated protein (DAP) kinase、ある種のKチャネル、syntabulin、ミオシンVa、Class C Vps complex、オトフェリン、HSP-70、IP3 receptor、M-channel、DCC (deleted in colorectal cancer)、PRIP (phospholipase C-related but catalytically inactive protein)、Septin CCCrel-1、cysteine-string protein (CSP) 、GLYT1/GLYT2、チューブリン、syncollin、presenilin-1、ダイナミン、-SNAP、シナプトブレビン、syntaphilin、tomosyn、 あるいはdopamine transporter(DAT)/the receptor for activated C kinases (RACK1) と結合する。

機能

シナプス前膜に存在するシンタキシン1は、エンドサイトーシスを含めシナプス小胞の循環のいくつかの過程に直接、または間接的に関わる。その中でもCa2+依存性の小胞開口放出過程における役割について、最も研究が進められている。シンタキシン1は、シナプス前膜と小胞膜との間でSNAP-25およびシナプトブレビンとSNARE複合体を形成し、両方の膜を限りなく近づけて融合させ神経伝達物質を開口放出させる。マウスの内耳有毛細胞からの伝達物質放出には関与しないという例外はあるが、実験材料として使われる多くの神経標本における伝達物質放出にはシンタキシン1が必須である。

 シンタキシン1は、開口放出に先立ちシナプス小胞や有芯小胞を放出部位へドッキングさせる。実際、カエルの神経筋接合部ならびに副腎髄質クロマフィン細胞においてシンタキシンを切断あるいは破壊すると小胞のドッキングが阻害される。一方、ニューロン間のシナプスではシンタキシンを破壊してもドッキングに影響はない。

 刺激に応じた小胞の開口放出はCa2+依存性だが、シンタキシン1を含むSNAREにはCa2+結合能はない。しかし、シンタキシン自身は、Caチャネルへの結合を介して小胞を放出部位へドッキングさせる。一方で、Ca2+チャネルの機能を抑制することから、伝達物質放出のCa2+による制御において相反する二種類の働きを持合せる。 それ以外にも、開口放出時に形成されると言われているフュージョンポアへの関与、神経突起の伸長、学習と記憶に関与する可能性が示唆されている。

疾患との関わり

 ボツリヌス中毒の主な症状である弛緩性麻痺は、運動神経終末からのアセチルコリンの放出阻害による。これは、中毒の原因であるボツリヌス菌が産生する毒素のもつタンパク質分解酵素活性によるSNAREの切断に起因する。7種類存在するボツリヌス毒素の中、C型毒素はシンタキシ1をカルボキシ末端付近の1箇所、リシン残基とアラニン残基(1Aでは253番目と254番目;1Bでは252番目と253番目)の間で切断する。

 中枢ならびに末梢神経系疾患との関連性も示唆されている。統合失調症、高機能自閉症、脳虚血後においてシンタキシン1の発現量が増加していることが報告されている。末梢神経障害による異痛症にシンタキシン1の発現低下が関与している可能性も言われている。

遺伝子操作動物

 シンタキシン1Aのノックアウトマウスは生育可能だが、恐怖条件付け記憶の阻害に加え、セロトニン作動性神経系の異常と考えられる行動異常と視床下部-下垂体-副腎系の機能不全を呈す。恒常的に開構造をとる変異シンタキシン1遺伝子を強制発現させたノックインマウスは生育可能だが、2-3ヶ月齢で全身痙攣を呈し死にいたる。ショウジョウバエでは、遺伝子破壊体、温度感受性変異体、SNAREモチーフ中に変異を導入した変異体が作製されている。