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==定義== | ==定義== |
2016年4月14日 (木) 12:57時点における最新版
川﨑 伊織*
東北大学高次機能障害学
藤井 俊勝
東北福祉大学
DOI:10.14931/bsd.2596 原稿受付日:2016年1月24日 原稿完成日:2016年4月12日
担当編集委員:田中 啓治(国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
*corresponding author
英語名:procedural memory 独:prozedurales Gedächtnis 仏:mémoire procédurale
手続き記憶は、非陳述記憶のひとつで、自転車に乗れるようになるとか、うまく楽器の演奏ができるようになるというような記憶で、同じような経験の繰り返しにより獲得される。一旦形成されると、意識的な処理を伴わず自動的に機能し、長期間保存される。内容によって運動性技能、知覚性技能、認知性技能 (課題解決)の3種が区別されている。大脳基底核や小脳が中心的役割を果たす。
定義
手続き記憶は、自転車に乗れるようになるとか、うまく楽器の演奏ができるようになるというような記憶で、同じような経験の繰り返しにより獲得される。しかしその情報をいつ、どこで獲得したかについての文脈情報記憶は消失する。また記憶が一旦形成されると、意識的な処理を伴わず自動的に機能し、長期間保存されることも手続き記憶の特徴の一つとして知られている。一般的に長期記憶の内容による区分として、陳述記憶 (宣言的記憶とも呼ばれる)と非陳述記憶 (非宣言的記憶とも呼ばれる)があり、手続き記憶は非陳述記憶に分類される[1]。
手続き記憶には、その内容によって運動性技能、知覚性技能、認知性技能 (課題解決)の3種が区別されている。例えば、先に述べた自転車の運転や楽器の演奏などは運動技能であり、鏡文字の読み取りなどは知覚性技能、複雑なパズルの解き方などは認知性技能にあたる。いずれの場合も意識にはのぼらないが、反復により次第に習熟するような技能であり、行動に記憶が反映されることが特徴とされている[2]。
神経基盤
手続き記憶の神経基盤については、これまでの研究から、大脳基底核や小脳が中心的役割を果たすと考えられている[1]。エピソード記憶の選択的障害を呈する健忘症候群(例えば内側側頭葉病変後)では手続き記憶が保たれる一方[3] [4] [5]、パーキンソン病やハンチントン病、小脳変性症といった大脳基底核疾患・小脳疾患では重篤なエピソード記憶の障害はみられずに手続き記憶が障害される [6] [7]。
獲得する技能の種類 (運動性技能・知覚性技能・認知性技能)によって、大脳基底核や小脳以外の皮質領域が関わることも知られている。運動性技能は、回転する円盤上に設定した標的に針先を接触させておく回転盤追跡課題や、鏡に映し出された図形を見て、素早く正確に図形をなぞっていく鏡映描写課題などによって評価される。両側の内側側頭葉損傷後の重篤な健忘症患者やアルツハイマー病患者では、これらの運動性技能が獲得されたことが先行研究で報告された[3] [4] [5]。これらの知見から、運動技能学習には内側側頭葉や海馬以外の脳領域が関与することが示唆された。
一方、大脳基底核の障害を主病変とするパーキンソン病患者やハンチントン病患者では、回転円盤追跡課題や鏡映描写課題の学習が障害されることが報告されている[8]。他にも、複数の反応ボタンの中から視覚刺激に対応したボタンをあらかじめ決められた順番で素早く押していくような系列学習課題において、パーキンソン病患者や小脳変性症患者では学習効果が得られないことが報告されている[6]。さらに補足運動野損傷の患者でも、同様の系列学習課題で学習が成立しないという報告がある[9]。これらの知見から、運動性技能には大脳基底核、小脳以外に補足運動野などが関与していることが示唆されている。
知覚性技能の検討には、鏡映読字課題が頻繁に用いられる。この課題は鏡に映った裏文字を素早く読むことが要求される。同課題を施行した健忘症患者は学習効果が認められる一方で、パーキンソン病患者や脊髄小脳変性症患者では読みが順調に学習されなかったことが報告されている[4] [10]。このことから、運動性技能と同様に、知覚性技能の学習においても大脳基底核と小脳が中心的な役割を果たしていることが考えられる。さらに、健常者を対象にした機能的核磁気共鳴画像法 (functional magnetic resonance imaging: fMRI)を用いた研究では、鏡映読字課題の学習に尾状核 (大脳基底核の一部)や小脳、それ以外にも下前頭回、下側頭回、頭頂葉、後頭葉など複数の皮質領域が関与することが報告されている[11]。
認知性技能を評価する課題で最も頻繁に用いられる課題に、ハノイの塔がある。3本の柱のうち左端の1本に大きさの異なる円盤が大きいものから順序よく重ねられている。被験者はルールに従い、右端の柱に同じ順序で移し変えなければならない。ルールは、①1度に1つの円盤しか動かしてはいけない、②小さな円盤の上にそれより大きな円盤を置いてはいけない、の2点である。この複雑で高い知的能力を必要とする課題を健忘症患者は遂行することができ、解き方の手順も学習可能であることが報告されている[5]。
またトロントの塔というハノイの塔と類似の課題をパーキンソン病患者やハンチントン病患者に施行した先行研究もある。この研究では、パーキンソン病患者と健常対照群の課題成績を比較しており、パーキンソン病患者では明らかな成績低下が認められたことを報告している。さらにハンチントン病患者でも同様の障害を認めることが示されている[7]。ハノイの塔やトロントの塔では、課題遂行中に間違った手順に気が付く、最終的なゴールを意識しておくといった複雑な心理過程が関わっており、この複雑な手順や方略には前頭前野の関与が大きいと考えられている。前頭前野と線条体はいくつかの回路による連絡があり[12]、認知性技能の学習には線条体-前頭前野回路が重要な役割を果たしていることが推測される[2]。
関連項目
参考文献
- ↑ 1.0 1.1 1.2
Squire, L.R., & Zola, S.M. (1996).
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