「Forkhead box protein P2」の版間の差分
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<font size="+1">[http://researchmap.jp/Taku-Sugiyama 杉山 拓]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/Taku-Sugiyama 杉山 拓]</font><[[br]]> | ||
''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br> | ''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br> | ||
<font size="+1">[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子]</font><br> | ||
''東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野''<br> | ''東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2014年6月2日 原稿完成日:2014年月日<br> | |||
担当編集委員:<br> | 担当編集委員:<br> | ||
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{{box|text= FOXP2タンパク質は[[DNA]]結合領域をもつ[[転写制御因子]]であり、多くの遺伝子の発現を制御する。数世代間にわたって[[発話障害]]または[[言語障害]]をもつ家系の遺伝子解析から見出され、現在、[[ヒト]]の発話・言語機能の発達に関与する[[遺伝子]]として着目されている。言語機能とFOXP2との関連が見出された結果、主に言語学と心理学が対象としていたヒトの言語に対して、広範な神経科学の側面からのアプローチが可能となった。近年、FOXP2の制御下にある遺伝子群が網羅的に解析され、遺伝子ネットワークの重要性に注目が集まっている。発生期から成体期[[哺乳類]]の[[神経系]]において、FOXP2/Foxp2の発現は領域特異的に認められているが、それぞれの領域におけるFOXP2/Foxp2の詳細な機能はまだ不明な点が多い。これらのFOXP2/Foxp2発現領域間に形成される神経回路モデルが提唱されており、今後の研究によってその意義が解明されることが期待される。また、Foxp2は進化的に保存された遺伝子であり、[[鳴禽類]]の[[歌学習]]に関わる脳領域に発現が認められ、その機能解析が精力的に行われている。鳴禽類の歌学習に関与する神経回路はヒトの[[前頭葉]]と[[線条体]]に相同であることから、鳴禽類Foxp2の研究によって、ヒトの脳とFOXP2との機能的な関連が見出される可能性も期待されている。}}{{PBB/93986}} | {{box|text= FOXP2タンパク質は[[DNA]]結合領域をもつ[[転写制御因子]]であり、多くの遺伝子の発現を制御する。数世代間にわたって[[発話障害]]または[[言語障害]]をもつ家系の遺伝子解析から見出され、現在、[[ヒト]]の発話・言語機能の発達に関与する[[遺伝子]]として着目されている。言語機能とFOXP2との関連が見出された結果、主に言語学と心理学が対象としていたヒトの言語に対して、広範な神経科学の側面からのアプローチが可能となった。近年、FOXP2の制御下にある遺伝子群が網羅的に解析され、遺伝子ネットワークの重要性に注目が集まっている。発生期から成体期[[哺乳類]]の[[神経系]]において、FOXP2/Foxp2の発現は領域特異的に認められているが、それぞれの領域におけるFOXP2/Foxp2の詳細な機能はまだ不明な点が多い。これらのFOXP2/Foxp2発現領域間に形成される神経回路モデルが提唱されており、今後の研究によってその意義が解明されることが期待される。また、Foxp2は進化的に保存された遺伝子であり、[[鳴禽類]]の[[歌学習]]に関わる脳領域に発現が認められ、その機能解析が精力的に行われている。鳴禽類の歌学習に関与する神経回路はヒトの[[前頭葉]]と[[線条体]]に相同であることから、鳴禽類Foxp2の研究によって、ヒトの脳とFOXP2との機能的な関連が見出される可能性も期待されている。}}{{PBB/93986}} | ||
==FOXP2とは== | ==FOXP2とは== | ||
1900年に(編集コメント:1990年でしょうか)、3世代のメンバー約半数に重篤な発話障害または言語障害がある家系(KE家)が報告された<ref><pubmed> 2332125 </pubmed></ref>。詳細な遺伝学的解析から、KE家の発話・言語障害の原因となる遺伝子座(SPCH1)が第7染色体長腕上の7q31という領域にあることが同定された<ref><pubmed> 9462748 </pubmed></ref>。さらに、KE家とは血縁関係になく、KE家と類似の発話・言語機能障害を持つC.S.氏の遺伝子を解析することにより、発話・言語機能障害の原因となる遺伝子領域が絞りこまれ、発話・言語障害の原因遺伝子としてFOXP2が同定された<ref><pubmed> 10880297 </pubmed></ref> <ref name=Lai_2001><pubmed> 11586359 </pubmed></ref>。ヒトFOXP2の相同遺伝子Foxp2は[[サル]]、[[マウス]]、[[キンカチョウ]]等他の動物において同定されている<ref name=Ferland_2003><pubmed> 12687690 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 18461604 </pubmed></ref> <ref name=Teramitsu_2004><pubmed> 15056695 </pubmed></ref>。 | 1900年に(編集コメント:1990年でしょうか)、3世代のメンバー約半数に重篤な発話障害または言語障害がある家系(KE家)が報告された<ref><[[pubmed]]> 2332125 </pubmed></ref>。詳細な遺伝学的解析から、KE家の発話・言語障害の原因となる遺伝子座(SPCH1)が第7染色体長腕上の7q31という領域にあることが同定された<ref><pubmed> 9462748 </pubmed></ref>。さらに、KE家とは血縁関係になく、KE家と類似の発話・言語機能障害を持つC.S.氏の遺伝子を解析することにより、発話・言語機能障害の原因となる遺伝子領域が絞りこまれ、発話・言語障害の原因遺伝子としてFOXP2が同定された<ref><pubmed> 10880297 </pubmed></ref> <ref name=Lai_2001><pubmed> 11586359 </pubmed></ref>。ヒトFOXP2の相同遺伝子Foxp2は[[サル]]、[[マウス]]、[[キンカチョウ]]等他の動物において同定されている<ref name=Ferland_2003><pubmed> 12687690 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 18461604 </pubmed></ref> <ref name=Teramitsu_2004><pubmed> 15056695 </pubmed></ref>。 | ||
言語は単なる音声ではなく、意思疎通を取るためのコミュニケーションツールの一つである。言語は、[[視覚]]や[[聴覚]]という[[感覚系]]を介して脳に情報を入力し、発話や筆記、[[ジェスチャー]]といった運動系によって出力される。感覚系と運動系の間の脳における情報処理は、言語における重要な特質である。これまで言語の研究は伝統的には、言語学や心理学の観点から為されてきたが、[[fMRI]]等の脳画像情報が得られるようになり、認知科学者も参画するようになった。さらに、ヒトの発話・言語機能の発達に関わる遺伝子FOXP2の発見により、言語の起源や獲得、神経生物学的側面についても研究が進むようになった。 | 言語は単なる音声ではなく、意思疎通を取るためのコミュニケーションツールの一つである。言語は、[[視覚]]や[[聴覚]]という[[感覚系]]を介して脳に情報を入力し、発話や筆記、[[ジェスチャー]]といった運動系によって出力される。感覚系と運動系の間の脳における情報処理は、言語における重要な特質である。これまで言語の研究は伝統的には、言語学や心理学の観点から為されてきたが、[[fMRI]]等の脳画像情報が得られるようになり、認知科学者も参画するようになった。さらに、ヒトの発話・言語機能の発達に関わる遺伝子FOXP2の発見により、言語の起源や獲得、神経生物学的側面についても研究が進むようになった。 | ||
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==機能== | ==機能== | ||
===転写制御=== | ===転写制御=== | ||
FOXP2/Foxp2タンパクは転写制御因子として、標的遺伝子の転写調節領域に結合し、転写抑制の制御を行う<ref><pubmed> 14701752 </pubmed></ref> <ref name=Shu_2001 />。FOXP2/Foxp2がどのような遺伝子の発現を制御しているかについて網羅的な解析がなされ、そのうちのいくつか([[APOD]] | FOXP2/Foxp2タンパクは転写制御因子として、標的遺伝子の転写調節領域に結合し、転写抑制の制御を行う<ref><pubmed> 14701752 </pubmed></ref> <ref name=Shu_2001 />。FOXP2/Foxp2がどのような遺伝子の発現を制御しているかについて網羅的な解析がなされ、そのうちのいくつか([[アポリポタンパク質D]] ([[APOD]])、[[コレシストキニン]] ([[CCK]])、[[コレシストキニンA受容体]] ([[CCK-AR]])、[[サイクリンD2]]、([[CCND2]])、[[CD5]]、[[DISC1]]、[[ドーパミンD2受容体]] ([[DRD2]])、[[GABA受容体#GABAB.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|GABA<sub>B</sub>受容体]] ([[GABBR1]])、[[メタロチオネイン2A]] ([[MT2A]])、神経型[[一酸化窒素合成酵素]] ([[NOS1]])、[[paired-like homeobox 2b]] ([[PMX2B]])、[[トリプトファン-2,3-ジオキシゲナーゼ]] ([[TDO2]])、[[TIMELESS]]、[[Wnt1|WNT1]]、[[Znフィンガータンパク質74]] ([[ZNF74]]))は言語発達との関連があると言われている<ref><pubmed> 17999357 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 17999362 </pubmed></ref>。逆に、Foxp2自身を制御する上流因子もしくは相互作用する因子の候補として、脳の発生発達に重要な[[PAX6|Pax6]]が挙げられる<ref><pubmed> 21617155 </pubmed></ref>。 | ||
===言語機能との関わり=== | ===言語機能との関わり=== | ||