「軸索分岐」の版間の差分

編集の要約なし
 
(同じ利用者による、間の3版が非表示)
12行目: 12行目:
 [[ニューロン]]の[[細胞体]]を起源とする[[軸索]]は神経系の発生期に成長し、分岐することによって複数の標的細胞と結合する。軸索分岐は、その様式によって[[紋切型分岐]](stereotyped branching)と[[終末分岐]](terminal branching)に分けることができる。
 [[ニューロン]]の[[細胞体]]を起源とする[[軸索]]は神経系の発生期に成長し、分岐することによって複数の標的細胞と結合する。軸索分岐は、その様式によって[[紋切型分岐]](stereotyped branching)と[[終末分岐]](terminal branching)に分けることができる。


 紋切型分岐では、軸索はその経路上に位置する特定の脳部位あるいは局所領域において分枝を形成する。例えば、[[大脳皮質運動野]]の第5層ニューロンから発する軸索は[[脊髄]]に投射するが、その途中で側枝を作り[[中脳]]や[[後脳]]のニューロンと結合する<ref name=Luo2005><pubmed> 16022592 </pubmed></ref>('''図1A''')。この分岐パターンは個体さらには種を越えても保存されている。
 紋切型分岐では、軸索はその経路上に位置する特定の脳部位あるいは局所領域において分枝を形成する。例えば、[[大脳皮質]][[運動野]]の第5層ニューロンから発する軸索は[[脊髄]]に投射するが、その途中で側枝を作り[[中脳]]や[[後脳]]のニューロンと結合する<ref name=Luo2005><pubmed> 16022592 </pubmed></ref>('''図1A''')。この分岐パターンは個体さらには種を越えても保存されている。


 一方、終末分岐では、軸索は標的領域に位置する複数の細胞とシナプス結合を形成するために、様々な数や複雑さで分枝を形成する。'''図1B'''に示すように、主軸索から数本の娘枝が出現し、それらの娘枝から孫枝が現れると言った様式で込み入った分枝が形成されるが、その数や複雑さは一定ではない。[[視覚系]]における[[網膜]]から中継核である[[外側膝状体]](lateral geniculate nucleus, LGN)への投射や外側膝状体から大脳皮質[[視覚野]]への投射における軸索分岐はこの終末分岐にあたる。紋切り型分岐によって出現した枝もその末端では終末分岐を形成し、多数の標的細胞と結合する('''図1A''')。
 一方、終末分岐では、軸索は標的領域に位置する複数の細胞とシナプス結合を形成するために、様々な数や複雑さで分枝を形成する。'''図1B'''に示すように、主軸索から数本の娘枝が出現し、それらの娘枝から孫枝が現れると言った様式で込み入った分枝が形成されるが、その数や複雑さは一定ではない。[[視覚系]]における[[網膜]]から中継核である[[外側膝状体]](lateral geniculate nucleus, LGN)への投射や外側膝状体から大脳皮質[[視覚野]]への投射における軸索分岐はこの終末分岐にあたる。紋切り型分岐によって出現した枝もその末端では終末分岐を形成し、多数の標的細胞と結合する('''図1A''')。
19行目: 19行目:


== 構成 ==
== 構成 ==
 軸索分岐は主として発生期に生ずるが、紋切型分岐が主として神経回路形成の初期に起こるのに対して、終末分岐は回路形成の比較的後期に見出される。いずれのモードにおいても、枝は成長途上の軸索先端([[成長円錐]])よりも後方から出現することがほとんどで、いわゆる側枝分岐(interstitial branching)の様相を呈する<ref name=Yamamoto1997><pubmed>9133388</pubmed></ref> 。また、軸索分岐は[[シナプス形成]]と連動し、発生期に軸索上に形成される[[前シナプス]]が起点となって枝が出現することが報告されている<ref name=Matsumoto2016><pubmed>26061995</pubmed></ref><ref name=Ruthazer2003><pubmed>12843386</pubmed></ref> 。
 軸索分岐は主として発生期に生ずるが、紋切型分岐が神経回路形成の比較的初期に起こるのに対して、終末分岐は回路形成の後期に見出される。いずれのモードにおいても、枝は成長途上の軸索先端([[成長円錐]])よりも後方から出現することがほとんどで、いわゆる側枝分岐(interstitial branching)の様相を呈する<ref name=Yamamoto1997><pubmed>9133388</pubmed></ref> 。また、軸索分岐は[[シナプス形成]]と連動し、発生期に軸索上に形成される[[前シナプス]]が起点となって枝が出現することが報告されている<ref name=Matsumoto2016><pubmed>26061995</pubmed></ref><ref name=Ruthazer2003><pubmed>12843386</pubmed></ref> 。


 分岐によって形成された枝は必ずしも固定化されている訳ではない。実際、終末分岐で分枝が複雑化する過程においては、枝は単に増えるだけでなく、一旦形成された枝が消える過程も同時平行的に生じている<ref name=Uesaka2007><pubmed>17494708</pubmed></ref> 。また、余分に形成された枝が局所的に消失する過程([[シナプスの刈り込み|刈り込み]], pruning)があることも知られている<ref name=Hashimoto2009><pubmed>19607796</pubmed></ref> 。このように、軸索分岐は正と負の2つの要因によって制御されている。
 分岐によって形成された枝は必ずしも固定化されている訳ではない。実際、終末分岐で分枝が複雑化する過程においては、枝は単に増えるだけでなく、一旦形成された枝が消える過程も同時平行的に生じている<ref name=Uesaka2007><pubmed>17494708</pubmed></ref> 。また、余分に形成された枝が局所的に消失する過程([[シナプスの刈り込み|刈り込み]], pruning)があることも知られている<ref name=Luo2005><pubmed> 16022592 </pubmed></ref><ref name=Hashimoto2009><pubmed>19607796</pubmed></ref> 。このように、軸索分岐は正と負の2つの要因によって制御されている。


== 分子機構 ==
== 分子機構 ==