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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0030547 池淵 恵美]</font><br> | |||
''帝京平成大学大学院臨床心理学研究科''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年1月17日 原稿完成日:2012年2月2日 一部修正日:2014年10月13日 全面改訂:2021年7月1日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学/医学部精神医学講座)<br> | |||
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英: insight 独: Krankheiteinsicht | |||
同義語: 疾病認識、障害認識、病覚、attitudes about illness、awareness of illness | |||
{{box|text=「精神障害によってもたらされる何らかの変化の気づき」つまり主観的な変化の体験の自覚のうち、医学的に妥当であるかどうかを客観的評価したものが病識であり、近年ではclinical insightと呼ばれるようになっている。専門家からの認識と乖離が生ずる時に病識不十分、もしくは病識欠如と評価される。特にこれは統合失調症で顕著で、しばしば治療抵抗性であり、予後の悪さとも関連性が高い。1990年代に客観的評価方法が開発され、脳機能や社会文化的要因との関連性についての研究が増加した。そしてclinical insight と並んで、メタ認知機能と関係の深いcognitive insightが注目され、介入プログラムが開発されているがまだ成果は十分ではない。病識は多要因であり、心理的な否認、医学的症状への誤った認知、スティグマを伴う社会的立場への反応なども関与している。心理教育や認知行動療法などとともに、cognitive insightへの薬物療法も特に慢性期において効果が不十分である。急性期から主観的な体験に寄り添って支援し、回復して来たら仲間とともに心理教育に参加し、さらに個々人の志向に沿ってメタ認知トレーニングや認知行動療法に参加することが望ましい。家族心理教育も重要である。}} | |||
==病識とは== | |||
1882年に[[w:Arnold Pick|Pick]]がinsightについて「精神状態やその一部の病的な状態について患者がある程度明確に認識していること」と述べている。さらに1914年に[[wj:ジョゼフ・ババンスキー|Babinsky]]による[[半身まひ]]の患者の[[病態失認]](anosognosia)の報告があった。その後1934年に[[w:Aubrey Lewis|Lewis]]<ref name=Lewis1934>'''Lewis, A. (1934).'''<br>The psychopathology of insight.<br>''Br J Medical Psychology''.14:333-348 [https://doi.org/10.1111/j.2044-8341.1934.tb01129.x PDF]</ref>が精神疾患で見られる病識欠如について記載し、「病識は自身の中におこる病気に伴う変化に正しく対応し、疾患は精神面で起こっていることを現実認識するもの」と定義し、病識概念が明確になった。 | |||
病識の評価方法は、1970年代までは患者の自由な陳述を臨床的に記載する方法で、「あり」「なし」に2分されていた。その後、Mental Status Exam が1980年代に開発され、一定の設問への応答を臨床的に記載した。1990年代になると操作的に定量する尺度である、[[The Schedule for the Assessment of insight-Expanded]] ([[SAI-E]]) <ref name=David1992><pubmed>1422606</pubmed></ref><ref name=酒井佳永2000>'''酒井佳永、金吉晴、秋山剛他 (2000)<br>''':病識評価尺度 (The Schedule for Assessment of Insight)日本語版 (SAI-J)の信頼性と妥当性の検討. ''臨床精神医学'' 29:177-183</ref>, [[The Scale of Assessment of Unawareness of Mental Disorder]] ([[SUMD]])<ref name=Amador1993><pubmed>8494061</pubmed></ref>が開発され、実証的研究が広がった。SAI-Eを開発したDavidらは、①何らかの変化があり[[精神疾患]]に基づくと考える、②治療に従う、③精神病症状を認識できる、の3要素がそれぞれ相対的に独立していることを実証した。この3要素は主に専門家の視点で治療の面から評価されるものであり、clinical insight(臨床面での病識)と呼称されるようになっている。 | |||
1990年代より、患者の主観的体験 (subjective experience)に関心がもたれるようになり、自記式の評価尺度が複数開発されている。Beckらによる[[The Beck Cognitive Insight Scale]] ([[BCIS]]) <ref name=Beck2004><pubmed> 15099613</pubmed></ref>は、誤認識の気づきとその修正可能性などの[[メタ認知]]機能を測定する尺度である。メタ認知機能は、それより低位の認知機能についてモニターやコントロールを行う機能と想定され(メタ認知の言葉は多義的であり、学問の領域によって異なる定義がされていることに留意する必要がある)、精神疾患の影響を受ける。Beckらの尺度では、自己認識とその確信度を測定して、その総合点をcognitive insight(自己認識の面での病識)と呼び、clinical insightと区別した。 | |||
病識についての研究は、[[統合失調症]]をはじめ精神病症状を持つ障害について主に行われてきたが、2000年代に入り、[[双極性障害]]、[[神経性食思不振症]]、[[認知症]]などの様々な精神疾患で研究が行われるようになり、疾患により機序は異なるものの、結果としてclinical insightがそこなわれることが明瞭になった。 | |||
Konsztowiczら<ref name=Konsztowicz2018><pubmed>29530378</pubmed></ref>は、165名の統合失調症を対象に、SUMDとSAI-Eを用いた準構造面接を行い、[[The Birchwood Insight Scale]] ([[BIS]]) <ref name=Birchwood1997><pubmed>9403906</pubmed></ref>とBCISを実施し、探索的因子分析を行ったところ、5因子が抽出された。固有値が大きなものから並べると、「疾病の認識と治療」「症状とその影響」「自己確信度」「客観性と誤謬傾向の認識」「誤謬傾向の気づきと修正可能性」となった。客観的な評価である clinical insight(疾病の認識と治療、病状とその影響)と、自己認識の他覚的評価であるcognitive insightがそれぞれ独立に抽出され、そのうちの4,5番目の因子はメタ認知の機能を反映していると考えられる。 | |||
メタ認知は受信した情報を集約し、内的な世界と統合する機能と考えられているが、メタ認知の機能が高いほど、clinical insightやcognitive insightが良好であり、症状の重症度とは独立していることが報告されている<ref name=Lysaker2011><pubmed>20696482</pubmed></ref>。Vohs<ref name=Vohs2015><pubmed>25900550</pubmed></ref>もメタ認知とclinical insight との相関は明確であるとしている。 | |||
== 病識に影響を与える諸要因 == | |||
=== 防衛機制 === | |||
歴史的に見れば、英語圏では病識は力動精神医学の視点から[[防衛機制]]と考えられてきた時代がある。[[精神病後抑うつ]]もその視点から解釈された。防衛機制の考え方は、病識欠如の一部を説明しており、実際のケースに治療的関わりを行っていく上で、現在でも有用であろう。 | |||
=== 神経認知機能 === | |||
主に左半身麻痺の人において、「[[麻痺]]があたかもないように振るまったり、麻痺の存在に関心を示さない」現象が観察されており、ある障害については自覚しているが、ある障害については気づかないといった選択性があることも知られている。1990年代には、[[神経認知機能]]が統合失調症の人の社会機能に大きな影響を与えるとして注目され、病識の客観的な尺度の開発と相まって、複数の実証的研究が報告された。しかし近年のメタ解析では、病識と神経認知機能の関連は小さいと報告されている<ref name=Nair2014><pubmed>24355529</pubmed></ref>。Cognitive insight についても同様である。そして、単一の神経認知機能では病識をうまく説明できないとして、2010年代には[[社会認知]]やメタ認知との関連性を検討する研究が増えてきた。Pijnenborgら<ref name=Pijnenborg2020><pubmed>32569706</pubmed></ref>は、21研究を[[メタ解析]]して、clinical insightは脳の特定の部位との関連は見出されず、全脳の[[灰白質]]及び[[白質]]の縮小と、前頭部の灰白質の減少と関連していたとしている。そもそも clinical insight は多様な脳機能を基盤にしていると思われる。一方cognitive insight は[[海馬]]及び[[背外側前頭前野]]の構造や機能との関連が見いだされ、自己に関連した情報を保持したり統合する機能と関連していると考えられる。 | |||
== | === 精神障害についてのスティグマ === | ||
病識と[[スティグマ]]の関連については複数の報告があり<ref name=Vidovic2016><pubmed>27333714</pubmed></ref>、clinical insight は文化圏によって異なってくるという報告がある<ref name=Berg2018><pubmed>26663787</pubmed></ref>。文化圏での受け止め方は直接に影響を与えるだけでなく、家族、友人など身近な人たちの精神疾患への態度となって、大きな影響を与える | |||
=== 誤った認知の影響 === | |||
[[認知療法]]を統合失調症に適用する過程で整理されてきた考え方であり、[[幻覚]]や[[妄想]]への誤った認知がその後の不快な感情や問題行動をもたらすと考える<ref name=Pogodina1975><pubmed>2002</pubmed></ref>。そして誤った認知に基づく病識も false beliefs(誤信念)となる。Birchwood<ref name=Birchwood2000><pubmed>10824654</pubmed></ref>は、幻覚によって生じる行動や感情は、患者が幻覚に対して抱いている信念 - 特に幻覚の力や権威に対してのもの - によっており、個人の自己価値や対人関係についてのスキーマに影響を受けることを報告した。 | |||
=== | === 精神障害についての体験学習(治療体験) === | ||
隔離や拘束などの精神医療のネガティブな体験を理解・受容できないなかで、精神障害そのものを否定しようとすることは臨床ではしばしば観察される。 | |||
=== 精神症状 === | |||
幻覚や[[妄想]]、[[解体症状]]、[[陰性症状]]などは病識との関連は弱い<ref name=Pousa2017><pubmed>28237605</pubmed></ref>。しかし抑うつ症状はその中では関連性がみられ、"insight paradox"(病識における逆説)と呼ばれている<ref name=BelvederiMurri2015><pubmed>25631453</pubmed></ref>。ただし精神症状と病識との関連についての研究の結果は必ずしも一貫しておらず、病識は精神症状とは相対的に独立した事象と考えるべきかもしれない。 | |||
=== | === メタ認知機能 === | ||
Amadorら<ref name=Amador1991><pubmed>2047782</pubmed></ref>は、障害認識はある特定の[[高次連合野]]の障害というよりは、[[言語]]、[[知覚]]、[[記憶]]などの機能の各単位と、[[作動記憶]]のような中心的な[[意識野]]との連合が不十分ではないかと推論している。メタ認知(自身や他者の行っていることや考えを統合的に表象する能力)が病識の形成に影響しているとの研究報告が近年増えている<ref name=Gaweda2015><pubmed>25775947</pubmed></ref>。 | |||
=== 多要因モデル === | |||
病識の複数の構成要素には、それぞれ様々な要因が影響している。Vohsら<ref name=Vohs2018><pubmed>29108671</pubmed></ref><ref name=Vohs2016><pubmed>27278672</pubmed></ref>)は、精神症状、神経認知、社会認知、メタ認知、スティグマがそれぞれ病識の低下に関連していると述べている。脳機能の変化によって外界の認識が変性し、奇妙な体験と感じたり、他者の内界を共感することができなくなったりすることが起こり、自己と世界との統合的な理解が障害されることが中軸にあり、心理社会的要因がそれを修飾しているのではないかと考えられる。病識欠如と脳構造を調査した研究では、さまざまな部位の体積低下(前頭部、側頭部、頭頂部、後頭部、[[視床]]、[[基底核]]、[[小脳]]など)との関連が報告されている<ref name=Lysaker2013><pubmed>23898850</pubmed></ref>。特に初発の統合失調症においては、[[前頭前野]]、[[側頭葉]]内側部、[[前頭前野眼窩部]]の灰白質の減少と病識欠如との関連性が報告されている<ref name=Shenton2010><pubmed>20954428</pubmed></ref>。 | |||
== 病識への治療的介入とその効果 == | |||
=== 薬物療法 === | |||
初発統合失調症への薬物療法の大規模な効果試験 The European First Episode Schizophrenia Trial (EUFEST)<ref name=Pijnenborg2015><pubmed>25907250</pubmed></ref>の二次解析で、455名の病識の改善度を[[陽性・陰性症状評価尺度]] ([[Positive and Negative Syndrome Scale]], [[PANSS]])のG12項目(現実検討と病識の評価項目)で検討したところ、急性症状の改善と並行して、特に治療開始3か月で明らかな改善が見られた。しかしPhahladira ら<ref name=Phahladira2019><pubmed>30385130</pubmed></ref>は、105名の初発の統合失調症圏(妄想性障害や統合失調感情障害を含む)の人を回復過程に沿って評価したところ、PANSS・G12項目は精神症状の回復とともに有意に改善したが、患者の評価したThe Birchwood Insight Scale(BIS)は、治療の必要性についての下位尺度のみが改善し、精神疾患についての気づきや、症状の原因帰属は有意な改善が見られなかった。Clinical antipsychotic trials of intervention effectiveness (CATIE)試験<ref name=Ozzoude2019><pubmed>30172739</pubmed></ref>の中で、373名の統合失調症について、PANSS・G12の改善は、血中濃度から推定した[[ドーパミン]][[D2受容体]]の占拠率からは予測することができなかった。 | |||
=== | === 個人精神療法 === | ||
治療関係の中で[[不安]]や挫折感を受け止めつつ、病気によって起こってきた変化や病感を一緒に確認し、病識へと高めていく[[個人精神療法]]のアプローチがこれまで行われてきた。Ruschら<ref name=Rusch2002><pubmed>12171279</pubmed></ref>は、[[動機づけ面接]] (motivational interviewing)で、個人的なゴール(たとえば服薬遵守)をめざす上での負担と利益や、そのためのさまざまなサービスの有利な点や不利な点を本人の立場から丁寧に検討することで、治療への動機を高めることを企図し、討論を避け共感を持って傾聴することの重要性について述べている。 | |||
1990年代より心理教育が活発に行われるようになると、個人精神療法はあまり顧みられなくなったが、近年再びメタ認知や cognitive insight などを高める目的の個人精神療法が注目されている。重い精神障害を持つ人の内省力を高めるために開発されたmetacognitive reflection and insight therapy, MERITは、無作為割り付け統制試験において、clinical insight が通常治療と比較して有意に改善することが報告されている<ref name=Vohs2016><pubmed>27278672</pubmed></ref>。Lysakerら<ref name=Lysaker2015><pubmed>26121151</pubmed></ref>は、病識欠如は複雑でトラウマになるかもしれない体験を妥当に認識できない状態であり、自らの体験を人生の中に位置づけるときに、明確な病識を持つことができるとし、単に精神疾患の情報を教育するだけでは、病識は改善しないとしている。Vohsら<ref name=Vohs2016><pubmed>27278672</pubmed></ref>は、これまでの多くの病識モデルでは、患者は受け身で人生を生きており、彼らに病気について教育する必要があると考えられてきたが、実際は病識が形成されるということは、個々の人生に自分なりに道筋をつけていく能動的な過程であると述べている。 | |||
病識欠如と治療の中断は関連が高いと考えられているが、Lysaker<ref name=Lysaker2013><pubmed>23898850</pubmed></ref>らは、うまく治療同盟を結べない理由として、当事者の特徴ではなく、病識に乏しい当事者に対する、治療者のネガティブな反応が考えられるとしている。 | |||
=== | === 心理教育 === | ||
精神障害の症状や治療法についての正確な情報を提供し、それが受けいれられるように援助する心理教育のアプローチは clinical insightを育てることが目的となっている。個人精神療法の役割が気づきを高めていくことにあるとすれば、心理教育はそれを客体化し、他者と共有可能にしていくといえよう。 | |||
2011年のCochraneレビュー<ref name=Xia2011><pubmed>21678337</pubmed></ref>では、1998~2008年に行われた44件の無作為割り付け統制研究をメタ解析し、通常の情報提供のみと比較して、再発や再入院の有意な減少、および服薬遵守の有意な向上を認めた。しかしLincolnら<ref name=Lincoln2007><pubmed>17826034</pubmed></ref>はメタ解析から、心理教育によって知識が増え、clinical insight の一部が改善しても、それが当事者の日常の生活に役立てられて、長期的な転帰が改善するところまでは達成できていないとしている。Cognitive insightへの介入を並行して実施する必要があるのかもしれない。 | |||
=== 認知行動療法 === | |||
[[認知行動療法]]では、病識欠如をより具体的かつ観察可能な対処行動のレベルでとらえ、改善の標的とする。Woodら<ref name=Wood2016><pubmed>27256518</pubmed></ref>は、内的スティグマへの認知行動療法、[[心理教育]]、[[社会生活スキルトレーニング]](social skills training, SST)もしくはこれらを組み合わせた心理社会的介入についてメタ解析を試み、自己効力感と病識が有意な改善を示したとしている。 | |||
== | === 相互受容のアプローチ === | ||
仲間体験を通して、精神障害やそれに伴うさまざまなハンディの受容をはぐくむ[[集団アプローチ]]や、[[セルフヘルプ]]の体験は、clinical insight の形成に有用と思われる。安永<ref name=安永浩1988>'''安永浩 (1988).'''<br>いわゆる病識から"姿勢"覚へ ''精神科治療学'' 3:43-50</ref>は、障害認識を[[姿勢覚]]になぞらえた上で、「この機能が多少とも進歩、分化するためには他者の運動観察とその取り入れ(同一化と再同一化)がきわめて重要である」と述べている。Rommeら<ref name=Romme1989><pubmed>2749184</pubmed></ref><ref name=Romme1996>'''Romme MAJ, Escher ADMAC. (1996)''': Empowering people who hear voices. In: G. Haddock, P.D.Slade eds. Cognitive-Behavioral Interventions with Psychotic Disorders. pp137-150, Routledge, London [https://doi.org/10.4324/9781315812663-8]</ref>は人々の「[[幻聴]]とのつきあい方」を調べて、幻聴を病気としてのサインではなく、その人の人生の中で必然的に生じた個性の一部としてとらえ、幻聴などと共存して生活している人たちがいることから、ヒアリング・ヴォイシーズと名付けたセルフヘルプの会を広めた。 | |||
=== 社会認知やメタ認知への介入 === | |||
Gawedaら<ref name=Gaweda2015><pubmed>25775947</pubmed></ref>は、[[メタ認知トレーニング]] (Metacognitive training)によって、clinical insightが改善したことを報告している(精神病症状、[[心の理論]]、理解力のバイアスには改善がなかった)。無作為割り付け統制研究で、cognitive insight に有意な改善は見られなかったなど、ネガティブな結果が複数みられる。Philippら<ref name=Philipp2019><pubmed>30456821</pubmed></ref>は、メタ認知への介入試験49件についてメタ解析しているが、Metacognitive trainingは[[認知機能リハビリテーション]]よりも有効であった。Pijnenborgら<ref name=Pijnenborg2019><pubmed>30429078</pubmed></ref>は、病識を改善するための介入(REFLEXと名付けられている)を開発したが、REFLEX実施群と認知機能リハビリテーション群ともに、終了直後及び追跡期間に、Clinical insightが改善し、群間差は認めなかった<ref name=Pijnenborg2019><pubmed>30429078</pubmed></ref>。 | |||
メタ認知や社会認知への介入治験は、おおむねサンプルサイズが小さく、さらに検証が必要な段階にある。 | |||
== | === 認知機能リハビリテーション === | ||
Lalovaら<ref name=Lalova2013><pubmed>23199566</pubmed></ref>は、63例の外来患者を、基本的な認知機能、[[自伝的記憶]]、メタ認知を標的とする3群に振り分けたが、3群ともclinical insight に改善がみられ、さらに自伝的記憶群とメタ認知群では、症状への気づき、症状の原因帰属などがより改善していた。神経性食思不振症においては、やせへのこだわりが顕著で、思考の柔軟性が乏しいところから、認知機能リハビリテーションが試みられている。 | |||
=== 環境や社会への介入 === | |||
Angermeyerら<ref name=Angermeyer2001><pubmed>11381474</pubmed></ref>によれば、1996年に世界精神医学会(World Psychiatric Association, WPA)による統合失調症への偏見と差別を減少させる取り組みが始まっている。地域の中で統合失調症を持つ人と出会う市民は、彼らのユニークな行動に戸惑うこともあり、単に一緒の地域で暮らすだけではなく、積極的に彼らをサポートし、彼らの苦労や回復への希望を知っていくことが大切と考えられている<ref name=Stamm1976><pubmed>2012</pubmed></ref>。差別には、直接的なもの、制度によるもの、内的な偏見があるが、それぞれ治療内容のモニターに当事者や家族も加わる仕組みや、制度の策定に彼らも参加できる仕組みや、セルフヘルプグループなどが試みられている。Morganら<ref name=Morgan2018><pubmed>29843003</pubmed></ref>は重い精神障害を持つ人たちへの偏見の改善を試みた62件のランダム化比較試験(randomized controlled trial, RCT)のメタ解析を行い、障害者と接触する機会を設けることや心理教育は、小さい~中程度の効果がみられるが、どの程度改善が持続するのかについては課題が残るとしている。 | |||
=== 包括的な介入 === | |||
これまで述べてきたように、病識は多要因であり、介入も情報提供だけでは不十分と考えられる。Guoら<ref name=Guo2010><pubmed>20819983</pubmed></ref>は、認知行動療法、家族療法、心理教育、スキルズトレーニングの組み合わせで、通常の治療と比較して、病識や治療への態度がより大きく改善することを報告している。こうした介入は、病相期に沿って計画的に実施される必要があるだろう。 | |||
==註== | |||
本項は、池淵恵美:統合失調症の「病識」を再考する。''精神医学'' 63:395-414, 2021 を参照して書かれたものである。医学書院許可済み。 | |||
== 参考文献 == | |||
<references/> |
2021年7月1日 (木) 19:17時点における最新版
池淵 恵美
帝京平成大学大学院臨床心理学研究科
DOI:10.14931/bsd.465 原稿受付日:2012年1月17日 原稿完成日:2012年2月2日 一部修正日:2014年10月13日 全面改訂:2021年7月1日
担当編集委員:加藤 忠史(順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学/医学部精神医学講座)
英: insight 独: Krankheiteinsicht
同義語: 疾病認識、障害認識、病覚、attitudes about illness、awareness of illness
「精神障害によってもたらされる何らかの変化の気づき」つまり主観的な変化の体験の自覚のうち、医学的に妥当であるかどうかを客観的評価したものが病識であり、近年ではclinical insightと呼ばれるようになっている。専門家からの認識と乖離が生ずる時に病識不十分、もしくは病識欠如と評価される。特にこれは統合失調症で顕著で、しばしば治療抵抗性であり、予後の悪さとも関連性が高い。1990年代に客観的評価方法が開発され、脳機能や社会文化的要因との関連性についての研究が増加した。そしてclinical insight と並んで、メタ認知機能と関係の深いcognitive insightが注目され、介入プログラムが開発されているがまだ成果は十分ではない。病識は多要因であり、心理的な否認、医学的症状への誤った認知、スティグマを伴う社会的立場への反応なども関与している。心理教育や認知行動療法などとともに、cognitive insightへの薬物療法も特に慢性期において効果が不十分である。急性期から主観的な体験に寄り添って支援し、回復して来たら仲間とともに心理教育に参加し、さらに個々人の志向に沿ってメタ認知トレーニングや認知行動療法に参加することが望ましい。家族心理教育も重要である。
病識とは
1882年にPickがinsightについて「精神状態やその一部の病的な状態について患者がある程度明確に認識していること」と述べている。さらに1914年にBabinskyによる半身まひの患者の病態失認(anosognosia)の報告があった。その後1934年にLewis[1]が精神疾患で見られる病識欠如について記載し、「病識は自身の中におこる病気に伴う変化に正しく対応し、疾患は精神面で起こっていることを現実認識するもの」と定義し、病識概念が明確になった。
病識の評価方法は、1970年代までは患者の自由な陳述を臨床的に記載する方法で、「あり」「なし」に2分されていた。その後、Mental Status Exam が1980年代に開発され、一定の設問への応答を臨床的に記載した。1990年代になると操作的に定量する尺度である、The Schedule for the Assessment of insight-Expanded (SAI-E) [2][3], The Scale of Assessment of Unawareness of Mental Disorder (SUMD)[4]が開発され、実証的研究が広がった。SAI-Eを開発したDavidらは、①何らかの変化があり精神疾患に基づくと考える、②治療に従う、③精神病症状を認識できる、の3要素がそれぞれ相対的に独立していることを実証した。この3要素は主に専門家の視点で治療の面から評価されるものであり、clinical insight(臨床面での病識)と呼称されるようになっている。
1990年代より、患者の主観的体験 (subjective experience)に関心がもたれるようになり、自記式の評価尺度が複数開発されている。BeckらによるThe Beck Cognitive Insight Scale (BCIS) [5]は、誤認識の気づきとその修正可能性などのメタ認知機能を測定する尺度である。メタ認知機能は、それより低位の認知機能についてモニターやコントロールを行う機能と想定され(メタ認知の言葉は多義的であり、学問の領域によって異なる定義がされていることに留意する必要がある)、精神疾患の影響を受ける。Beckらの尺度では、自己認識とその確信度を測定して、その総合点をcognitive insight(自己認識の面での病識)と呼び、clinical insightと区別した。
病識についての研究は、統合失調症をはじめ精神病症状を持つ障害について主に行われてきたが、2000年代に入り、双極性障害、神経性食思不振症、認知症などの様々な精神疾患で研究が行われるようになり、疾患により機序は異なるものの、結果としてclinical insightがそこなわれることが明瞭になった。
Konsztowiczら[6]は、165名の統合失調症を対象に、SUMDとSAI-Eを用いた準構造面接を行い、The Birchwood Insight Scale (BIS) [7]とBCISを実施し、探索的因子分析を行ったところ、5因子が抽出された。固有値が大きなものから並べると、「疾病の認識と治療」「症状とその影響」「自己確信度」「客観性と誤謬傾向の認識」「誤謬傾向の気づきと修正可能性」となった。客観的な評価である clinical insight(疾病の認識と治療、病状とその影響)と、自己認識の他覚的評価であるcognitive insightがそれぞれ独立に抽出され、そのうちの4,5番目の因子はメタ認知の機能を反映していると考えられる。 メタ認知は受信した情報を集約し、内的な世界と統合する機能と考えられているが、メタ認知の機能が高いほど、clinical insightやcognitive insightが良好であり、症状の重症度とは独立していることが報告されている[8]。Vohs[9]もメタ認知とclinical insight との相関は明確であるとしている。
病識に影響を与える諸要因
防衛機制
歴史的に見れば、英語圏では病識は力動精神医学の視点から防衛機制と考えられてきた時代がある。精神病後抑うつもその視点から解釈された。防衛機制の考え方は、病識欠如の一部を説明しており、実際のケースに治療的関わりを行っていく上で、現在でも有用であろう。
神経認知機能
主に左半身麻痺の人において、「麻痺があたかもないように振るまったり、麻痺の存在に関心を示さない」現象が観察されており、ある障害については自覚しているが、ある障害については気づかないといった選択性があることも知られている。1990年代には、神経認知機能が統合失調症の人の社会機能に大きな影響を与えるとして注目され、病識の客観的な尺度の開発と相まって、複数の実証的研究が報告された。しかし近年のメタ解析では、病識と神経認知機能の関連は小さいと報告されている[10]。Cognitive insight についても同様である。そして、単一の神経認知機能では病識をうまく説明できないとして、2010年代には社会認知やメタ認知との関連性を検討する研究が増えてきた。Pijnenborgら[11]は、21研究をメタ解析して、clinical insightは脳の特定の部位との関連は見出されず、全脳の灰白質及び白質の縮小と、前頭部の灰白質の減少と関連していたとしている。そもそも clinical insight は多様な脳機能を基盤にしていると思われる。一方cognitive insight は海馬及び背外側前頭前野の構造や機能との関連が見いだされ、自己に関連した情報を保持したり統合する機能と関連していると考えられる。
精神障害についてのスティグマ
病識とスティグマの関連については複数の報告があり[12]、clinical insight は文化圏によって異なってくるという報告がある[13]。文化圏での受け止め方は直接に影響を与えるだけでなく、家族、友人など身近な人たちの精神疾患への態度となって、大きな影響を与える
誤った認知の影響
認知療法を統合失調症に適用する過程で整理されてきた考え方であり、幻覚や妄想への誤った認知がその後の不快な感情や問題行動をもたらすと考える[14]。そして誤った認知に基づく病識も false beliefs(誤信念)となる。Birchwood[15]は、幻覚によって生じる行動や感情は、患者が幻覚に対して抱いている信念 - 特に幻覚の力や権威に対してのもの - によっており、個人の自己価値や対人関係についてのスキーマに影響を受けることを報告した。
精神障害についての体験学習(治療体験)
隔離や拘束などの精神医療のネガティブな体験を理解・受容できないなかで、精神障害そのものを否定しようとすることは臨床ではしばしば観察される。
精神症状
幻覚や妄想、解体症状、陰性症状などは病識との関連は弱い[16]。しかし抑うつ症状はその中では関連性がみられ、"insight paradox"(病識における逆説)と呼ばれている[17]。ただし精神症状と病識との関連についての研究の結果は必ずしも一貫しておらず、病識は精神症状とは相対的に独立した事象と考えるべきかもしれない。
メタ認知機能
Amadorら[18]は、障害認識はある特定の高次連合野の障害というよりは、言語、知覚、記憶などの機能の各単位と、作動記憶のような中心的な意識野との連合が不十分ではないかと推論している。メタ認知(自身や他者の行っていることや考えを統合的に表象する能力)が病識の形成に影響しているとの研究報告が近年増えている[19]。
多要因モデル
病識の複数の構成要素には、それぞれ様々な要因が影響している。Vohsら[20][21])は、精神症状、神経認知、社会認知、メタ認知、スティグマがそれぞれ病識の低下に関連していると述べている。脳機能の変化によって外界の認識が変性し、奇妙な体験と感じたり、他者の内界を共感することができなくなったりすることが起こり、自己と世界との統合的な理解が障害されることが中軸にあり、心理社会的要因がそれを修飾しているのではないかと考えられる。病識欠如と脳構造を調査した研究では、さまざまな部位の体積低下(前頭部、側頭部、頭頂部、後頭部、視床、基底核、小脳など)との関連が報告されている[22]。特に初発の統合失調症においては、前頭前野、側頭葉内側部、前頭前野眼窩部の灰白質の減少と病識欠如との関連性が報告されている[23]。
病識への治療的介入とその効果
薬物療法
初発統合失調症への薬物療法の大規模な効果試験 The European First Episode Schizophrenia Trial (EUFEST)[24]の二次解析で、455名の病識の改善度を陽性・陰性症状評価尺度 (Positive and Negative Syndrome Scale, PANSS)のG12項目(現実検討と病識の評価項目)で検討したところ、急性症状の改善と並行して、特に治療開始3か月で明らかな改善が見られた。しかしPhahladira ら[25]は、105名の初発の統合失調症圏(妄想性障害や統合失調感情障害を含む)の人を回復過程に沿って評価したところ、PANSS・G12項目は精神症状の回復とともに有意に改善したが、患者の評価したThe Birchwood Insight Scale(BIS)は、治療の必要性についての下位尺度のみが改善し、精神疾患についての気づきや、症状の原因帰属は有意な改善が見られなかった。Clinical antipsychotic trials of intervention effectiveness (CATIE)試験[26]の中で、373名の統合失調症について、PANSS・G12の改善は、血中濃度から推定したドーパミンD2受容体の占拠率からは予測することができなかった。
個人精神療法
治療関係の中で不安や挫折感を受け止めつつ、病気によって起こってきた変化や病感を一緒に確認し、病識へと高めていく個人精神療法のアプローチがこれまで行われてきた。Ruschら[27]は、動機づけ面接 (motivational interviewing)で、個人的なゴール(たとえば服薬遵守)をめざす上での負担と利益や、そのためのさまざまなサービスの有利な点や不利な点を本人の立場から丁寧に検討することで、治療への動機を高めることを企図し、討論を避け共感を持って傾聴することの重要性について述べている。
1990年代より心理教育が活発に行われるようになると、個人精神療法はあまり顧みられなくなったが、近年再びメタ認知や cognitive insight などを高める目的の個人精神療法が注目されている。重い精神障害を持つ人の内省力を高めるために開発されたmetacognitive reflection and insight therapy, MERITは、無作為割り付け統制試験において、clinical insight が通常治療と比較して有意に改善することが報告されている[21]。Lysakerら[28]は、病識欠如は複雑でトラウマになるかもしれない体験を妥当に認識できない状態であり、自らの体験を人生の中に位置づけるときに、明確な病識を持つことができるとし、単に精神疾患の情報を教育するだけでは、病識は改善しないとしている。Vohsら[21]は、これまでの多くの病識モデルでは、患者は受け身で人生を生きており、彼らに病気について教育する必要があると考えられてきたが、実際は病識が形成されるということは、個々の人生に自分なりに道筋をつけていく能動的な過程であると述べている。
病識欠如と治療の中断は関連が高いと考えられているが、Lysaker[22]らは、うまく治療同盟を結べない理由として、当事者の特徴ではなく、病識に乏しい当事者に対する、治療者のネガティブな反応が考えられるとしている。
心理教育
精神障害の症状や治療法についての正確な情報を提供し、それが受けいれられるように援助する心理教育のアプローチは clinical insightを育てることが目的となっている。個人精神療法の役割が気づきを高めていくことにあるとすれば、心理教育はそれを客体化し、他者と共有可能にしていくといえよう。
2011年のCochraneレビュー[29]では、1998~2008年に行われた44件の無作為割り付け統制研究をメタ解析し、通常の情報提供のみと比較して、再発や再入院の有意な減少、および服薬遵守の有意な向上を認めた。しかしLincolnら[30]はメタ解析から、心理教育によって知識が増え、clinical insight の一部が改善しても、それが当事者の日常の生活に役立てられて、長期的な転帰が改善するところまでは達成できていないとしている。Cognitive insightへの介入を並行して実施する必要があるのかもしれない。
認知行動療法
認知行動療法では、病識欠如をより具体的かつ観察可能な対処行動のレベルでとらえ、改善の標的とする。Woodら[31]は、内的スティグマへの認知行動療法、心理教育、社会生活スキルトレーニング(social skills training, SST)もしくはこれらを組み合わせた心理社会的介入についてメタ解析を試み、自己効力感と病識が有意な改善を示したとしている。
相互受容のアプローチ
仲間体験を通して、精神障害やそれに伴うさまざまなハンディの受容をはぐくむ集団アプローチや、セルフヘルプの体験は、clinical insight の形成に有用と思われる。安永[32]は、障害認識を姿勢覚になぞらえた上で、「この機能が多少とも進歩、分化するためには他者の運動観察とその取り入れ(同一化と再同一化)がきわめて重要である」と述べている。Rommeら[33][34]は人々の「幻聴とのつきあい方」を調べて、幻聴を病気としてのサインではなく、その人の人生の中で必然的に生じた個性の一部としてとらえ、幻聴などと共存して生活している人たちがいることから、ヒアリング・ヴォイシーズと名付けたセルフヘルプの会を広めた。
社会認知やメタ認知への介入
Gawedaら[19]は、メタ認知トレーニング (Metacognitive training)によって、clinical insightが改善したことを報告している(精神病症状、心の理論、理解力のバイアスには改善がなかった)。無作為割り付け統制研究で、cognitive insight に有意な改善は見られなかったなど、ネガティブな結果が複数みられる。Philippら[35]は、メタ認知への介入試験49件についてメタ解析しているが、Metacognitive trainingは認知機能リハビリテーションよりも有効であった。Pijnenborgら[36]は、病識を改善するための介入(REFLEXと名付けられている)を開発したが、REFLEX実施群と認知機能リハビリテーション群ともに、終了直後及び追跡期間に、Clinical insightが改善し、群間差は認めなかった[36]。
メタ認知や社会認知への介入治験は、おおむねサンプルサイズが小さく、さらに検証が必要な段階にある。
認知機能リハビリテーション
Lalovaら[37]は、63例の外来患者を、基本的な認知機能、自伝的記憶、メタ認知を標的とする3群に振り分けたが、3群ともclinical insight に改善がみられ、さらに自伝的記憶群とメタ認知群では、症状への気づき、症状の原因帰属などがより改善していた。神経性食思不振症においては、やせへのこだわりが顕著で、思考の柔軟性が乏しいところから、認知機能リハビリテーションが試みられている。
環境や社会への介入
Angermeyerら[38]によれば、1996年に世界精神医学会(World Psychiatric Association, WPA)による統合失調症への偏見と差別を減少させる取り組みが始まっている。地域の中で統合失調症を持つ人と出会う市民は、彼らのユニークな行動に戸惑うこともあり、単に一緒の地域で暮らすだけではなく、積極的に彼らをサポートし、彼らの苦労や回復への希望を知っていくことが大切と考えられている[39]。差別には、直接的なもの、制度によるもの、内的な偏見があるが、それぞれ治療内容のモニターに当事者や家族も加わる仕組みや、制度の策定に彼らも参加できる仕組みや、セルフヘルプグループなどが試みられている。Morganら[40]は重い精神障害を持つ人たちへの偏見の改善を試みた62件のランダム化比較試験(randomized controlled trial, RCT)のメタ解析を行い、障害者と接触する機会を設けることや心理教育は、小さい~中程度の効果がみられるが、どの程度改善が持続するのかについては課題が残るとしている。
包括的な介入
これまで述べてきたように、病識は多要因であり、介入も情報提供だけでは不十分と考えられる。Guoら[41]は、認知行動療法、家族療法、心理教育、スキルズトレーニングの組み合わせで、通常の治療と比較して、病識や治療への態度がより大きく改善することを報告している。こうした介入は、病相期に沿って計画的に実施される必要があるだろう。
註
本項は、池淵恵美:統合失調症の「病識」を再考する。精神医学 63:395-414, 2021 を参照して書かれたものである。医学書院許可済み。
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