「投射ニューロン」の版間の差分

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===グルタミン酸作動性(glutamatergic)===
===グルタミン酸作動性(glutamatergic)===
[[IMAGE:投射ニューロン_図 1.png|thumb|300px|'''図1.齧歯類投射ニューロンの神経伝達物質と形態多様性'''<br>
細胞体と樹状突起部の描画。投射ニューロンは、神経伝達物質が同じであっても、脳領域ごとに多様な樹状突起形態(入力機構)を示す。
(a-e) グルタミン酸作動性ニューロン (a-c) 錐体細胞 (a) 大脳皮質第5層(NeuroMorpho.Org ID, NMO_10161)[3] (b) 海馬CA1(NMO_00102)[4] (c) 扁桃体外側基底核(NMO_01913)[5] 尖端と基底の二種類の樹状突起を持つ (d) 主嗅球の房飾細胞(NMO_06210)[6] 尖端樹状突起は単一の糸球体(glomerulus)に集まる (e) 視床の中継細胞(NMO_01914)[7] 細胞体の周囲に樹状突起を広げる
(f-g) GABA作動性ニューロン (f) 線条体の中型有棘細胞(NMO_08478)[12] (g) 小脳のプルキンエ細胞(NMO_00861)[15]
(h-i) コリン作動性ニューロン (h) 脚橋被蓋核(NMO_10866)[24] (i) 脊髄の運動ニューロン(NMO_32021)[27]
(j) 中脳黒質緻密部のドーパミン作動性ニューロン(NMO_09578)[28]<br>
細胞の形態はNeuroMorpho.Orgデータベースより引用した[2]。スケールバー、50 μm。]]
 中枢神経系で速い[[興奮性]]伝達を担い、脳の広範囲で主に投射ニューロンとして機能する。[[軸索終末]]から放出されたグルタミン酸は、[[シナプス]]後膜の[[グルタミン酸受容体]]に結合し、脱分極や細胞内[[カルシウム]]上昇を引き起こす。このような興奮性入力が積算されることで、標的ニューロンに活動電位が誘起される。
 中枢神経系で速い[[興奮性]]伝達を担い、脳の広範囲で主に投射ニューロンとして機能する。[[軸索終末]]から放出されたグルタミン酸は、[[シナプス]]後膜の[[グルタミン酸受容体]]に結合し、脱分極や細胞内[[カルシウム]]上昇を引き起こす。このような興奮性入力が積算されることで、標的ニューロンに活動電位が誘起される。


 代表的なグルタミン酸作動性の投射ニューロンとして、大脳新皮質(neocortex)、[[海馬]](hippocampus)や[[扁桃体]]外側基底核(basolateral nucleus of amygdala)の[[錐体細胞]](pyramidal cell)、[[嗅球]](olfactory bulb)の僧帽細胞(mitral cell)・房飾細胞(tufted cell)や、視床の中継細胞(relay cell)などがある(図1)[2–7]。
 代表的なグルタミン酸作動性の投射ニューロンとして、大脳新皮質(neocortex)、[[海馬]](hippocampus)や[[扁桃体]]外側基底核(basolateral nucleus of amygdala)の[[錐体細胞]](pyramidal cell)、[[嗅球]](olfactory bulb)の僧帽細胞(mitral cell)・房飾細胞(tufted cell)や、視床の中継細胞(relay cell)などがある(図1)[2–7]。


 同一領域のグルタミン酸作動性投射ニューロンであっても、その投射先が多様なことがある。特に新皮質の錐体細胞では、同じ皮質領野であっても深さによって(層ごとに)軸索の行き先が異なる。第2/3層の錐体細胞が他の皮質領野に投射する一方、それに加えて第5層では線条体(striatum)、視床(thalamus)、橋核(pontine nuclei)や脊髄(spinal cord)へ、第6層では視床へ投射する錐体細胞が見られる(錐体細胞の項目を参照) [8–10]。
 同一領域のグルタミン酸作動性投射ニューロンであっても、その投射先が多様なことがある。特に新皮質の錐体細胞では、同じ皮質領野であっても深さによって(層ごとに)軸索の行き先が異なる。第2/3層の錐体細胞が他の皮質領野に投射する一方、それに加えて第5層では線条体(striatum)、視床(thalamus)、橋核(pontine nuclei)や脊髄(spinal cord)へ、第6層では視床へ投射する錐体細胞が見られる(錐体細胞の項目を参照) [8–10]。


===GABA作動性(GABAergic)===
===GABA作動性(GABAergic)===
 中枢神経系で速い[[抑制性]]伝達を担う。GABA作動性のニューロンは主に介在ニューロンとして機能するが、投射ニューロンとして働くものもある。代表的なGABA作動性の投射ニューロンとして、大脳基底核(basal ganglia)の入力部である線条体や側坐核(nucleus accumbens)に分布する中型有棘細胞 (medium spiny neuron) [11,12]、[[小脳]]皮質(cerebellar cortex)からの唯一の出力として深部小脳核(deep cerebellar nuclei)へ投射する[[プルキンエ細胞]](Purkinje cell)がある(図1)[13–15]。また、近年、これまで介在ニューロンだと考えられてきた大脳皮質の一部のGABA作動性ニューロンが、投射ニューロンとしての性質を持ち合わせ、皮質領域間の投射に関与する可能性が示唆されている[16,17]。
 中枢神経系で速い[[抑制性]]伝達を担う。GABA作動性のニューロンは主に介在ニューロンとして機能するが、投射ニューロンとして働くものもある。代表的なGABA作動性の投射ニューロンとして、大脳基底核(basal ganglia)の入力部である線条体や側坐核(nucleus accumbens)に分布する中型有棘細胞 (medium spiny neuron) [11,12]、[[小脳]]皮質(cerebellar cortex)からの唯一の出力として深部小脳核(deep cerebellar nuclei)へ投射する[[プルキンエ細胞]](Purkinje cell)がある(図1)[13–15]。また、近年、これまで介在ニューロンだと考えられてきた大脳皮質の一部のGABA作動性ニューロンが、投射ニューロンとしての性質を持ち合わせ、皮質領域間の投射に関与する可能性が示唆されている[16,17]。


 GABA作動性投射ニューロンは、直接的な抑制作用で標的ニューロンの発火を抑えるだけでなく、脱抑制(disinhibition)やリバウンド発火(rebound spike)によって、投射領域のニューロンに発火を誘発する場合がある[18–21]。脱抑制では、GABA作動性投射ニューロンが投射領域で抑制性介在ニューロンを抑制することで、間接的に他のニューロンを興奮させる。リバウンド発火では、標的ニューロンで一過性の過分極に引き続いて、発火が起きる。GABA作動性遠隔投射は、その投射ごとに固有の方法で領域間情報を伝えている可能性がある。
 GABA作動性投射ニューロンは、直接的な抑制作用で標的ニューロンの発火を抑えるだけでなく、脱抑制(disinhibition)やリバウンド発火(rebound spike)によって、投射領域のニューロンに発火を誘発する場合がある[18–21]。脱抑制では、GABA作動性投射ニューロンが投射領域で抑制性介在ニューロンを抑制することで、間接的に他のニューロンを興奮させる。リバウンド発火では、標的ニューロンで一過性の過分極に引き続いて、発火が起きる。GABA作動性遠隔投射は、その投射ごとに固有の方法で領域間情報を伝えている可能性がある。
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 アセチルコリンを伝達物質とするコリン作動性投射の主要な起始核は、[[前脳]]では[[前脳基底部]](basal forebrain)の[[マイネルト基底核]](nucleus basalis of Meynert)や中隔核 (septal nucleus)がある。これらは大脳新皮質や海馬に広く投射し、[[アセチルコリン受容体]]を介して錐体細胞の細胞内カルシウム上昇と発火頻度の上昇を引き起こす。一方、錐体細胞が既に高頻度で発火している状態では、アセチルコリン受容体の活性化による細胞内カルシウム上昇は電位・カルシウム依存性[[カリウムチャネル]]の活性化を引き起こし、膜の興奮性を抑制する(cholinergic inhibition)ことが知られている[22,23]。
 アセチルコリンを伝達物質とするコリン作動性投射の主要な起始核は、[[前脳]]では[[前脳基底部]](basal forebrain)の[[マイネルト基底核]](nucleus basalis of Meynert)や中隔核 (septal nucleus)がある。これらは大脳新皮質や海馬に広く投射し、[[アセチルコリン受容体]]を介して錐体細胞の細胞内カルシウム上昇と発火頻度の上昇を引き起こす。一方、錐体細胞が既に高頻度で発火している状態では、アセチルコリン受容体の活性化による細胞内カルシウム上昇は電位・カルシウム依存性[[カリウムチャネル]]の活性化を引き起こし、膜の興奮性を抑制する(cholinergic inhibition)ことが知られている[22,23]。


 脳幹の[[脚橋被蓋核]]([[pedunculopontine tegmental nucleus]])(図1)[24]と背外側被蓋核(laterodorsal tegmental nucleus)にあるコリン作動性ニューロンは、線条体、側坐核、黒質([[substantia nigra]])や視床へ投射する。線条体・側坐核・黒質への投射が運動機能や動機付けに、視床への投射は覚醒状態の調節に関与すると考えられている[25,26]。
 脳幹の[[脚橋被蓋核]]([[pedunculopontine tegmental nucleus]])(図1)[24]と背外側被蓋核(laterodorsal tegmental nucleus)にあるコリン作動性ニューロンは、線条体、側坐核、黒質([[substantia nigra]])や視床へ投射する。線条体・側坐核・黒質への投射が運動機能や動機付けに、視床への投射は覚醒状態の調節に関与すると考えられている[25,26]。


 コリン作動性の広領域投射は運動機能、覚醒状態や認知・学習などに関係し、その障害は[[アルツハイマー病]]([[Alzheimer's disease]])やパーキンソン病(Parkinson's disease)の病態と関与することから、これら疾患の治療薬の標的になっている。
 コリン作動性の広領域投射は運動機能、覚醒状態や認知・学習などに関係し、その障害は[[アルツハイマー病]]([[Alzheimer's disease]])やパーキンソン病(Parkinson's disease)の病態と関与することから、これら疾患の治療薬の標的になっている。


 また、中枢神経系で唯一神経以外の組織とシナプス結合する脊髄の[[運動ニューロン]](motor neuronまたはmotoneuron)(図1)[27]もコリン作動性ニューロンである。[[神経筋接合部]](neuromuscular junction)を介して筋の運動終板(end plate)へ投射し、アセチルコリンを放出することで筋収縮を引き起こす。
 また、中枢神経系で唯一神経以外の組織とシナプス結合する脊髄の[[運動ニューロン]](motor neuronまたはmotoneuron)(図1)[27]もコリン作動性ニューロンである。[[神経筋接合部]](neuromuscular junction)を介して筋の運動終板(end plate)へ投射し、アセチルコリンを放出することで筋収縮を引き起こす。


===モノアミン作動性(monoaminergic)===
===モノアミン作動性(monoaminergic)===
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 主に橋の[[青斑核]]([[locus coeruleus]])に局在するノルアドレナリン作動性ニューロンの活動性は、覚醒や注意に関与する。ノルアドレナリンの再取り込み阻害薬が抗鬱剤の一種として用いられるように、気分の形成にも重要な役割を持つ。
 主に橋の[[青斑核]]([[locus coeruleus]])に局在するノルアドレナリン作動性ニューロンの活動性は、覚醒や注意に関与する。ノルアドレナリンの再取り込み阻害薬が抗鬱剤の一種として用いられるように、気分の形成にも重要な役割を持つ。
 中脳、橋、延髄(medulla oblongata)の[[縫線核]](raphe nucleus)群に局在するセロトニン作動性投射ニューロンの発射は覚醒状態の維持に寄与する。また、気分の安定にも寄与することから、シナプスに作用するセロトニン量を上げる目的で、セロトニンの再取り込み阻害薬が抗鬱剤の一種として用いられている。
 中脳、橋、延髄(medulla oblongata)の[[縫線核]](raphe nucleus)群に局在するセロトニン作動性投射ニューロンの発射は覚醒状態の維持に寄与する。また、気分の安定にも寄与することから、シナプスに作用するセロトニン量を上げる目的で、セロトニンの再取り込み阻害薬が抗鬱剤の一種として用いられている。


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==標識技術による投射ニューロンの構造・機能解明==
==標識技術による投射ニューロンの構造・機能解明==
 中枢神経ニューロンの投射様式は、神経トレーサーと呼ばれる[[軸索輸送]]される化学物質や、無毒化あるいは弱毒化したウイルスを使って調べることができる。標識は細胞体から軸索終末への輸送による順行性(anterograde)のものと、軸索終末から細胞体への輸送による逆行性(retrograde)のものがあり、前者の方法では投射先での軸索分布を、後者では投射ニューロンの細胞体分布を明らかにすることができる[37,38]。投射ニューロンのシナプス伝達作用は、起始領域を電気刺激、あるいは起始投射ニューロンを選択的に光刺激し、投射先でのシナプス後ニューロンの活動変化を調べることで推測できる。
 中枢神経ニューロンの投射様式は、神経トレーサーと呼ばれる[[軸索輸送]]される化学物質や、無毒化あるいは弱毒化したウイルスを使って調べることができる。標識は細胞体から軸索終末への輸送による順行性(anterograde)のものと、軸索終末から細胞体への輸送による逆行性(retrograde)のものがあり、前者の方法では投射先での軸索分布を、後者では投射ニューロンの細胞体分布を明らかにすることができる[37,38]。投射ニューロンのシナプス伝達作用は、起始領域を電気刺激、あるいは起始投射ニューロンを選択的に光刺激し、投射先でのシナプス後ニューロンの活動変化を調べることで推測できる。
 近年、領域特異的、さらには細胞種特異的に発現する遺伝子が数多く見つかってきている(外部リンクを参照)。このような遺伝子の選択的発現を使って、特定の投射ニューロンを選択的に標識したり光応答性の機能蛋[[白質]]を導入することで、それぞれのニューロンの出力様式や機能の解明が進んでいる([[光遺伝学]]の項目を参照)[39]。
 近年、領域特異的、さらには細胞種特異的に発現する遺伝子が数多く見つかってきている(外部リンクを参照)。このような遺伝子の選択的発現を使って、特定の投射ニューロンを選択的に標識したり光応答性の機能蛋[[白質]]を導入することで、それぞれのニューロンの出力様式や機能の解明が進んでいる([[光遺伝学]]の項目を参照)[39]。


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==外部リンク==
==外部リンク==
・Allen Brain Atlas (http://www.brain-map.org/)
*[[http://www.brain-map.org/Allen Brain Atlas]]
脳の領域特異的な遺伝子発現や領域間結合などが参照できるデータベース
脳の領域特異的な遺伝子発現や領域間結合などが参照できるデータベース
・BrainInfo (http://braininfo.rprc.washington.edu/Default.aspx)
*[[http://braininfo.rprc.washington.edu/Default.aspx BrainInfo]]
主に[[霊長類]]の脳の領域名から構造や関連情報を[[検索]]できるデータベース
主に[[霊長類]]の脳の領域名から構造や関連情報を検索できるデータベース
・BraInSitu (http://www.nibb.ac.jp/brish/)
*[[http://www.nibb.ac.jp/brish/ BraInSitu]]
脳の領域特異的な遺伝子発現パターン・ISH染色法が参照できるデータベース
脳の領域特異的な遺伝子発現パターン・ISH染色法が参照できるデータベース
・NeuroMorpho.org (http://neuromorpho.org/index.jsp)
*[http://neuromorpho.org/index.jsp [NeuroMorpho.org]]
学術論文に掲載されたニューロンの形態情報が集積するデータベース
学術論文に掲載されたニューロンの形態情報が集積するデータベース
   
   
==参考文献==
==参考文献==
<references />
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