「ROCK」の版間の差分

152 バイト追加 、 2016年4月21日 (木)
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===神経系での機能===
===神経系での機能===
====神経管形成====
====神経管形成====
 [[神経管]]は外胚葉に由来する[[神経板]]が背側方向に閉鎖することで形成されるが、この過程には神経板を構成する神経上皮細胞の頂端側での[[アクトミオシン]]収縮力が必要である。神経上皮細胞の頂端側で見られるミオシン軽鎖のリン酸化がROCK-IとROCK-IIの阻害薬であるY27632(Ref. 10)により消失すること21、さらにY-27632やMyosin IIの特異的阻害薬であるBlebbistatinがトリやマウスの胚の神経管閉鎖を阻害することが示された<ref name=ref21><pubmed>26040287</pubmed></ref> <ref name=ref22><pubmed>11532918</pubmed></ref>。以上の結果は、ROCKによるアクトミオシン収縮が神経管閉鎖に重要であることを示唆している。さらなる研究により、アダプタータンパク質Shroom3により神経管内腔側(神経上皮細胞の頂端側に相当する)にROCKが局在化し、さらに[[PDZ]]-RhoGEFにより活性化されたRhoがROCKを活性化することが示されている<ref name=ref23><pubmed>18339671</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>22632972</pubmed></ref>。
 [[神経管]]は外胚葉に由来する[[神経板]]が背側方向に閉鎖することで形成されるが、この過程には神経板を構成する[[神経上皮細胞]]の頂端側での[[アクトミオシン]]収縮力が必要である。神経上皮細胞の頂端側で見られるミオシン軽鎖のリン酸化がROCK-IとROCK-IIの阻害薬である[[Y27632]]<ref name=ref10>により消失すること<ref name=ref21>、さらにY-27632や[[ミオシンII]]の特異的[[阻害薬]]である[[ブレビスタチン]]がトリやマウスの胚の神経管閉鎖を阻害することが示された<ref name=ref21><pubmed>26040287</pubmed></ref> <ref name=ref22><pubmed>11532918</pubmed></ref>。以上の結果は、ROCKによるアクトミオシン収縮が神経管閉鎖に重要であることを示唆している。さらなる研究により、[[アダプタータンパク質]][[Shroom3]]により神経管内腔側(神経上皮細胞の頂端側に相当する)にROCKが局在化し、さらに[[PDZ-RhoGEF]]により活性化されたRhoがROCKを活性化することが示されている<ref name=ref23><pubmed>18339671</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>22632972</pubmed></ref>。


====神経突起の伸展====
====神経突起の伸展====
 神経突起の形成と伸展は、突起先端の[[成長円錐]]でのアクチン細胞骨格の再編成と、それに引き続く微小管の配向、安定化から成る。成長円錐は高い運動性を持った扇形の構造であり、[[軸索]]ガイダンス因子による軸索の伸長や退縮、さらに軸索伸長の方向の制御に深く関わる(参照:脳科学辞典 [[成長円錐]])。
 神経突起の形成と伸展は、突起先端の[[成長円錐]]でのアクチン細胞骨格の再編成と、それに引き続く微小管の配向、安定化から成る。成長円錐は高い運動性を持った扇形の構造であり、[[軸索ガイダンス]]因子による軸索の伸長や退縮、さらに軸索伸長の方向の制御に深く関わる(''詳細は[[成長円錐]]の項目参照'')。


 ROCK阻害薬Y-27632やミオシン阻害薬Blebbistatinを用いた実験から、アメフラシの成長円錐でのアクチン動態やアクトミオシン束の形成にROCKによるミオシン活性化が重要であることが示されている<ref name=ref25><pubmed>14659092</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed>16501565</pubmed></ref>。さらに、[[げっ歯類]]の[[初代培養神経]]細胞では、神経突起の伸展がROCK阻害薬Y-27632により促進し、ROCKの活性化変異体により抑制されることから、ROCKの活性化が神経突起の伸展を抑制することが明らかとなった<ref name=ref27><pubmed>15630019</pubmed></ref>。小脳顆粒細胞ではROCKが神経突起の伸展の開始を抑制し神経突起の数を決定すること、その過程にRho-ROCK-LIM kinase経路によるアクチン脱重合抑制が重要であることが示された<ref name=ref28><pubmed>10839361</pubmed></ref>。さらにROCKは軸索ガイダンス因子であるEphrinA5による軸索退縮に重要である。EphrinA5はEphAに結合し、Rho GEFであるEphexinを介してRhoを活性化する<ref name=ref29><pubmed>11336673</pubmed></ref>。Rhoにより活性化されたROCKは、アクトミオシン束を形成するとともに、CRMP-2による微小管重合を抑制する<ref name=ref13 />。[[CRMP-2]]は[[チュブリン]]二量体に結合して微小管形成を促進するタンパク質であり、ROCKによるリン酸化はその機能を抑制する。また、RhoAの活性化変異体やリゾホスファチジン酸(LPA)によるRhoの活性化は、樹状突起の複雑さを減少させる<ref name=ref30><pubmed>10884317</pubmed></ref>。この樹状突起の単純化は、ROCK阻害薬Y-27632で抑制され、ROCKの活性化変異体により[[模倣]]されることから、Rho-ROCK経路は樹状突起の枝分かれを抑制すると考えられている。
 ROCK阻害薬Y-27632やミオシン阻害薬ブレビスタチンを用いた実験から、[[アメフラシ]]の成長円錐でのアクチン動態やアクトミオシン束の形成にROCKによる[[ミオシン]]活性化が重要であることが示されている<ref name=ref25><pubmed>14659092</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed>16501565</pubmed></ref>。さらに、[[げっ歯類]]の[[初代培養神経]]細胞では、神経突起の伸展がROCK阻害薬Y-27632により促進し、ROCKの活性化変異体により抑制されることから、ROCKの活性化が神経突起の伸展を抑制することが明らかとなった<ref name=ref27><pubmed>15630019</pubmed></ref>。小脳顆粒細胞ではROCKが神経突起の伸展の開始を抑制し神経突起の数を決定すること、その過程にRho-ROCK-LIMキナーゼ経路によるアクチン脱重合抑制が重要であることが示された<ref name=ref28><pubmed>10839361</pubmed></ref>。さらにROCKは軸索ガイダンス因子であるエフリンA5による軸索退縮に重要である。エフリンA5はEphAに結合し、Rhoグアニンヌクレオチド交換因子GEFである[[エフェキシン]]を介してRhoを活性化する<ref name=ref29><pubmed>11336673</pubmed></ref>。Rhoにより活性化されたROCKは、アクトミオシン束を形成するとともに、CRMP-2による微小管重合を抑制する<ref name=ref13 />。[[CRMP-2]]は[[チュブリン]]二量体に結合して微小管形成を促進するタンパク質であり、ROCKによるリン酸化はその機能を抑制する。また、RhoAの活性化変異体やリゾホスファチジン酸(LPA)によるRhoの活性化は、樹状突起の複雑さを減少させる<ref name=ref30><pubmed>10884317</pubmed></ref>。この樹状突起の単純化は、ROCK阻害薬Y-27632で抑制され、ROCKの活性化変異体により[[模倣]]されることから、Rho-ROCK経路は樹状突起の枝分かれを抑制すると考えられている。


 [[軸索再生]]においてもROCKは抑制的に働く。[[脊髄損傷]]後の軸索再生は、[[myelin-associated glycoprotein]]([[MAG]])、[[Nogo]]-A、chondroitin sulfate proteoglycans (CSPGs)、oligodendrocyte myelin glycoprotein(OMgp)などの[[ミエリン]]および[[オリゴデンドロサイト]]由来の軸索伸展抑制因子により阻害される。これらの抑制因子の作用はROCK阻害薬Y-27632により抑制される<ref name=ref31><pubmed>25374504</pubmed></ref>。さらにROCK-II欠損マウス由来の後根神経節細胞では、Nogo-22やCSPGsによる軸索伸展抑制作用が減弱することから<ref name=ref32><pubmed>19955379</pubmed></ref>、これらの軸索伸展抑制因子の作用にはROCK-IIが必須である。興味深いことに、ROCKII欠損マウスでは、脊髄損傷後の軸索再生が促進されることも報告されており<ref name=ref32 />、脊髄損傷の治療薬としてのROCK阻害薬の可能性が検討されている<ref name=ref33><pubmed>23298675</pubmed></ref>。
 [[軸索再生]]においてもROCKは抑制的に働く。[[脊髄損傷]]後の軸索再生は、[[myelin-associated glycoprotein]]([[MAG]])、[[Nogo]]-A、chondroitin sulfate proteoglycans (CSPGs)、oligodendrocyte myelin glycoprotein(OMgp)などの[[ミエリン]]および[[オリゴデンドロサイト]]由来の軸索伸展抑制因子により阻害される。これらの抑制因子の作用はROCK阻害薬Y-27632により抑制される<ref name=ref31><pubmed>25374504</pubmed></ref>。さらにROCK-II欠損マウス由来の後根神経節細胞では、Nogo-22やCSPGsによる軸索伸展抑制作用が減弱することから<ref name=ref32><pubmed>19955379</pubmed></ref>、これらの軸索伸展抑制因子の作用にはROCK-IIが必須である。興味深いことに、ROCKII欠損マウスでは、脊髄損傷後の軸索再生が促進されることも報告されており<ref name=ref32 />、脊髄損傷の治療薬としてのROCK阻害薬の可能性が検討されている<ref name=ref33><pubmed>23298675</pubmed></ref>。