「Forkhead box protein P2」の版間の差分

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====鳴禽の歌学習====
====鳴禽の歌学習====
[[ファイル:Sugiyama&Osumi_fig4.jpg|300px|thumb|'''図4.鳴禽類の歌学習に関わる神経回路の模式図''']]  
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 鳴禽は、生得的に歌うだけでなく、[[模倣]]することを通して歌学習を行う。鳴禽が歌うことに関わる脳領域にFoxP2の発現が見られることが報告されている(詳細は後述)。このことから種間を超えたFOXP2/FoxP2の類似点に注目が集まり、研究が進められてきた。進化の過程で哺乳類と鳥類が分かれたのは3億年前と言われている。鳴禽の一種であるゼブラフィンチ([[Taeniopygia guttata]])とマウスのFoxp2タンパク質の違いは5アミノ酸であり、ゼブラフィンチとヒトでは8アミノ酸異なる<ref name=Haesler2004 />[23]。つまり、ヒトとゼブラフィンチの間でFOXP2/FoxP2タンパク質は98%が同一である。また、ゼブラフィンチ脳内でのFoxP2の発現パターンはヒト胎児脳の発現パターンと非常に類似していることが報告されている<ref name=Teramitsu2004 />[7]。
 鳴禽は、生得的に歌うだけでなく、[[模倣]]することを通して歌学習を行う。鳴禽が歌うことに関わる脳領域にFoxP2の発現が見られることが報告されている(詳細は後述)。このことから種間を超えたFOXP2/FoxP2の類似点に注目が集まり、研究が進められてきた。進化の過程で哺乳類と鳥類が分かれたのは3億年前と言われている。鳴禽の一種であるゼブラフィンチ(''[[Taeniopygia guttata]]'')とマウスのFoxp2タンパク質の違いは5アミノ酸であり、ゼブラフィンチとヒトでは8アミノ酸異なる<ref name=Haesler2004 />[23]。つまり、ヒトとゼブラフィンチの間でFOXP2/FoxP2タンパク質は98%が同一である。また、ゼブラフィンチ脳内でのFoxP2の発現パターンはヒト胎児脳の発現パターンと非常に類似していることが報告されている<ref name=Teramitsu2004 />[7]。


 鳴禽の歌学習に関わる神経回路においてFoxP2が発現していることは非常に興味深い。ヒトの前頭葉-線条体経路と相同の神経回路が鳴禽の脳内に存在する。ヒトの大脳皮質に相当する鳥類の[[皮質領野]]([[high vocal center]], [[HVC]])とヒトの線条体に相当する鳥類の[[Area X]]にFoxP2が発現している[23]。HVCからArea Xへ、Area Xは視床の[[背外側視床内側核]]([[DLM]]核]])へ、DLM核は皮質の前線条体の[[外側大細胞部]]([[LMAN]])へと[[軸索]]が投射され、LMANは歌の生成に関わる神経回路に軸索投射する(図4)<ref name=Scharff2004><pubmed> 15313783 </pubmed></ref>[24]。またFoxP2はArea Xに発現があるだけでなく、鳴禽の歌学習時に発現量が上昇する<ref name=Haesler2004 />[23]。HVCとLMANからの投射がある[[終脳核]]([[robustus arcopallialis]], RA)は歌の機能に関わる[[運動ニューロン]]に投射する<ref name=Scharff2004 /><ref name=Teramitsu2004 />[24] [7]。
 鳴禽の歌学習に関わる神経回路においてFoxP2が発現していることは非常に興味深い。ヒトの前頭葉-線条体経路と相同の神経回路が鳴禽の脳内に存在する。ヒトの大脳皮質に相当する鳥類の[[皮質領野]]([[high vocal center]], [[HVC]])とヒトの線条体に相当する鳥類の[[Area X]]にFoxP2が発現している[23]。HVCからArea Xへ、Area Xは視床の[[背外側視床内側核]]([[DLM]]核]])へ、DLM核は皮質の前線条体の[[外側大細胞部]]([[LMAN]])へと[[軸索]]が投射され、LMANは歌の生成に関わる神経回路に軸索投射する('''図4''')<ref name=Scharff2004><pubmed> 15313783 </pubmed></ref>[24]。またFoxP2はArea Xに発現があるだけでなく、鳴禽の歌学習時に発現量が上昇する<ref name=Haesler2004 />[23]。HVCとLMANからの投射がある[[終脳核]]([[robustus arcopallialis]], RA)は歌の機能に関わる[[運動ニューロン]]に投射する<ref name=Scharff2004 /><ref name=Teramitsu2004 />[24] [7]。


 FoxP2が鳴禽の歌学習と歌の制御にどのような影響を与えるのか、[[ノックダウン]](KD)実験が行われた。胎生期からFoxp2遺伝子を欠損した遺伝子組換え動物では、Foxp2遺伝子が欠損した影響が蓄積してしまうため、特定の時期(例. 歌を学習する幼若期、歌の学習を完了した成熟期など)におけるFoxp2の機能を正確に調べることが難しい。そこでFoxP2の発現を抑制するタイミングを任意に決めることができる[[ウイルスベクター]]が用いられた。幼若期のゼブラフィンチは、成熟したゼブラフィンチの歌を模倣することで歌を学習する。[[レンチウイルスベクター]]によってArea Xに局在している神経細胞のFoxP2をKDすると、歌の模倣が阻害されるという結果が得られた<ref name=Haesler2007><pubmed>18052609</pubmed></ref>(Haesler et al., 2007)。
 FoxP2が鳴禽の歌学習と歌の制御にどのような影響を与えるのか、[[ノックダウン]](KD)実験が行われた。胎生期からFoxp2遺伝子を欠損した遺伝子組換え動物では、Foxp2遺伝子が欠損した影響が蓄積してしまうため、特定の時期(例. 歌を学習する幼若期、歌の学習を完了した成熟期など)におけるFoxp2の機能を正確に調べることが難しい。そこでFoxP2の発現を抑制するタイミングを任意に決めることができる[[ウイルスベクター]]が用いられた。幼若期のゼブラフィンチは、成熟したゼブラフィンチの歌を模倣することで歌を学習する。[[レンチウイルスベクター]]によってArea Xに局在している神経細胞のFoxP2をKDすると、歌の模倣が阻害されるという結果が得られた<ref name=Haesler2007><pubmed>18052609</pubmed></ref>(Haesler et al., 2007)。