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=== 骨格筋===
=== 骨格筋===
 アクチビンと構造上類似したマイオスタチンは骨格筋により産生され全身の骨格筋に作用し筋肉量を負に調節していることが、マウス、家畜牛、羊、魚類で確認されている<ref name=Kresak2023><pubmed>36642816</pubmed></ref><ref name=Lee1999><pubmed>10508689</pubmed></ref>。マイオカインの1種である。アクチビンも筋量を調節しており、特にヒトを含めた霊長類ではマイオスタチンと共にアクチビンが筋量を調節している可能性が高い<ref name=Latres2017><pubmed>28452368</pubmed></ref><ref name=Lee2007><pubmed>17726519</pubmed></ref><ref name=Lee2010><pubmed>20810712</pubmed></ref>。
 アクチビンと構造上類似した[[マイオスタチン]]は[[骨格筋]]により産生され全身の骨格筋に作用し筋肉量を負に調節していることが、[[マウス]]、[[ウシ]]、[[ヒツジ]]、[[魚類]]で確認されている<ref name=Kresak2023><pubmed>36642816</pubmed></ref><ref name=Lee1999><pubmed>10508689</pubmed></ref>。[[マイオカイン]]の1種である。アクチビンも筋量を調節しており、特に[[ヒト]]を含めた[[霊長類]]ではマイオスタチンと共にアクチビンが筋量を調節している可能性が高い<ref name=Latres2017><pubmed>28452368</pubmed></ref><ref name=Lee2007><pubmed>17726519</pubmed></ref><ref name=Lee2010><pubmed>20810712</pubmed></ref>。


 加齢にともなう筋萎縮であるサルコペニア誘導やがん悪液質では、アクチビンシグナルが過剰に働いており、その阻害によって病態改善効果が期待されている<ref name=Chen2014><pubmed>24378873</pubmed></ref><ref name=Lee2011><pubmed>21798080</pubmed></ref><ref name=Zhou2010><pubmed>20723755</pubmed></ref>。
 加齢にともなう筋萎縮である[[サルコペニア]]誘導や[[がん]][[悪液質]]では、アクチビンシグナルが過剰に働いており、その阻害によって病態改善効果が期待されている<ref name=Chen2014><pubmed>24378873</pubmed></ref><ref name=Lee2011><pubmed>21798080</pubmed></ref><ref name=Zhou2010><pubmed>20723755</pubmed></ref>。


=== ノックアウト動物 ===
=== ノックアウト動物 ===
 アクチビンと関連する受容体については、遺伝子破壊ノックアウト(KO)マウスが作製され解析されている。
 アクチビンと関連する受容体については、遺伝子破壊ノックアウト(KO)マウスが作製され解析されている。


 アクチビンA(アクチビンβA遺伝子)のKOマウスは、生後24時間以内に死亡する。マウスの解析から、アクチビンAは口蓋、頬鬚、下顎切歯形成、頭蓋顔面形成に関与する<ref name=Matzuk1995><pubmed>7885474</pubmed></ref>。
 アクチビンA(アクチビンβA遺伝子)のKOマウスは、生後24時間以内に死亡する。マウスの解析から、アクチビンAは[[口蓋]]、[[頬鬚]]、[[下顎]][[切歯]]形成、[[頭蓋]]顔面形成に関与する<ref name=Matzuk1995><pubmed>7885474</pubmed></ref>。


 アクチビンB(アクチビンβB遺伝子)のKOマウスは、胎生後期に眼瞼融合障害が見られる。胎児の発育不全を主とした生殖異常が見られる<ref name=Vassalli1994><pubmed>8125256</pubmed></ref>。
 アクチビンB(アクチビンβB遺伝子)のKOマウスは、胎生後期に[[眼瞼]]融合障害が見られる。胎児の発育不全を主とした生殖異常が見られる<ref name=Vassalli1994><pubmed>8125256</pubmed></ref>。


 ActRIIAのKOマウスでは、血中のFSH値が低下し、生殖能低下も見られる。FSHレベルの調節に必須の受容体である<ref name=Matzuk1995><pubmed>7885474</pubmed></ref>。歯形成異常はアクチビンAのKOと同様である。しかし一致しない表現型もあるため、生体内ではアクチビン以外のリガンドの受容体として働くことが示唆された。
 ActRIIAのKOマウスでは、血中のFSH値が低下し、生殖能低下も見られる。FSHレベルの調節に必須の受容体である<ref name=Matzuk1995><pubmed>7885474</pubmed></ref>。歯形成異常はアクチビンAのKOと同様である。しかし一致しない表現型もあるため、生体内ではアクチビン以外のリガンドの受容体として働くことが示唆された。


 ActRIIBのKOマウスでは、左右軸発生異常、心房および心室中隔欠損、肺や脾臓の低形成が見られる<ref name=Oh1997><pubmed>9242489</pubmed></ref>。
 ActRIIBのKOマウスでは、左右軸発生異常、[[心房]]および[[心室中隔欠損]]、[[肺]]や[[脾臓]]の低形成が見られる<ref name=Oh1997><pubmed>9242489</pubmed></ref>。


 ActRIB(ALK4)のKOマウスでは、原始線条形成異常が見られ、胎生致死である<ref name=Gu1998><pubmed>9512518</pubmed></ref>。ACVR1B遺伝子の細胞内領域のフレームシフトや欠損による早期翻訳停止等の体性変異が、膵がん、胃がん、肝がんで見られる<ref name=Reissmann2001><pubmed>11485994</pubmed></ref>。
 ActRIB(ALK4)のKOマウスでは、[[原始線条]]形成異常が見られ、胎生致死である<ref name=Gu1998><pubmed>9512518</pubmed></ref>。ACVR1B遺伝子の細胞内領域のフレームシフトや欠損による早期翻訳停止等の体性変異が、[[膵がん]]、[[胃がん]]、[[肝がん]]で見られる<ref name=Reissmann2001><pubmed>11485994</pubmed></ref>。


 ActRIC(ALK7)は、神経系、分化脂肪細胞等に高発現する。ActRICのKOマウスは、生存や繁殖には問題がないが、脂肪沈着の低下と摂食性肥満に対して部分的な抵抗性を示す<ref name=Andersson2008><pubmed>18480259</pubmed></ref>。この表現型はGdf3-/-と類似している<ref name=Bertolino2008><pubmed>18480258</pubmed></ref><ref name=Shen2009><pubmed>19008465</pubmed></ref>。また、加齢に伴う高インスリン血症と肝硬変が観察される。これはアクチビンβBのKOマウスの表現型と類似している<ref name=Tsuchida2004><pubmed>15196700</pubmed></ref><ref name=Bertolino2008><pubmed>18480258</pubmed></ref>。GDF-3とアクチビンBの生体内でのI型受容体がActRIC(ALK7)であることを示している。さらに、ACVR1C(ALK7)はNodalの受容体としても作用する<ref name=Nadeem2011><pubmed>21356369</pubmed></ref>。
 ActRIC(ALK7)は、神経系、成熟[[脂肪細胞]]等に高発現する。KOマウスは、生存や繁殖には問題がないが、脂肪沈着の低下と摂食性[[肥満]]に対して部分的な抵抗性を示す<ref name=Andersson2008><pubmed>18480259</pubmed></ref>。この表現型は[[Gdf3]]KOマウスの表現系と類似している<ref name=Bertolino2008><pubmed>18480258</pubmed></ref><ref name=Shen2009><pubmed>19008465</pubmed></ref>。また、加齢に伴う高[[インスリン]]血症と[[肝硬変]]が観察される。これはアクチビンβBのKOマウスの表現型と類似している<ref name=Tsuchida2004><pubmed>15196700</pubmed></ref><ref name=Bertolino2008><pubmed>18480258</pubmed></ref>。GDF3とアクチビンBの生体内でのI型受容体がActRIC(ALK7)であることを示している。さらに、ACVR1C(ALK7)はノーダルの受容体としても作用する<ref name=Nadeem2011><pubmed>21356369</pubmed></ref>。


== 疾患との関わり ==
== 疾患との関わり ==