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<font size="+1">[http://researchmap.jp/tanakasj 田中 慎二]、[http://researchmap.jp/Hirohide_Iwasaki/ 岩﨑広英]、[http://researchmap.jp/shigeookabe 岡部 繁男](著者の順序がこれで良いかご確認下さい)</font><br>
<font size="+1">清水 夕貴、[http://researchmap.jp/tanakasj 田中 慎二]、[http://researchmap.jp/shigeookabe 岡部 繁男]</font><br>
''東京大学大学院医学系研究科''<br>
''東京大学大学院医学系研究科''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年10月24日 原稿完成日:2013年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年10月24日 原稿完成日:2013年11月20日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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{{box|text= 足場タンパク質とはPDZドメインやSH3ドメインなどタンパク質同士の結合に関わる複数のドメインで構成され、タンパク質複合体形成の足場となるタンパク質のことである。主にシグナル伝達に関わる分子を結びつける機能があり、シグナル伝達経路の混線を防ぐとともに構成するタンパク質の活性を触媒するなど細胞内シグナルの調節に重要な役割を果たす。また、シグナルの調節とは直接は関係なくタンパク質を適切に配置する足場として働く場合もある。特にシナプスには受容体、接着分子、シグナル分子など多様なタンパク質が存在するが、足場タンパク質が多様なタンパク質で構成される複合体を形成することで、シナプス構造や適切なシグナル伝達に重要な役割を果たしている。(編集部作成。内容をご確認下さい)
英語名:scaffold protein 独:Gerüstprotein 仏:protéine d'échafaudage
}}
 
{{box|text= 足場タンパク質とは、タンパク質複合体形成の足場となるタンパク質のことである。多くの場合、[[PDZドメイン]]や[[SH3ドメイン]]などタンパク質同士の結合に関わる複数のドメインで構成される。[[シグナル伝達]]に関わる分子を結びつける機能があり、シグナル伝達経路の混線を防ぐとともに、構成するタンパク質の活性を触媒するなど[[細胞内シグナル]]の調節に重要な役割を果たす。また、タンパク質を適切に配置する足場として働く場合もある。特に[[シナプス]]には[[受容体]]、[[接着分子]]、[[シグナル分子]]など多様なタンパク質が存在するが、足場タンパク質が多様なタンパク質で構成される複合体を形成することで、シナプス構造や適切なシグナル伝達に重要な役割を果たしている。}}


==足場タンパク質とは==
==足場タンパク質とは==
 足場タンパク質とはPDZドメインやSH3ドメインなどタンパク質同士の結合に関わる複数のドメインで構成され、タンパク質複合体形成の足場となるタンパク質のことである。足場タンパク質は主にシグナル伝達に関わる分子を結びつける機能があり、これによりシグナル伝達経路の混線を防ぐとともに構成するタンパク質の活性を触媒するなど細胞内シグナルの調節に重要な役割を果たす。また、シグナルの調節とは直接は関係なくタンパク質を適切に配置する足場として働く場合もある。ただし足場としての働きと触媒作用を併せ持つタンパク質が存在する事や適切な配置そのものがシグナルの伝達効率を上げるという事もあり、この二つの側面の厳密な区別は難しい<ref name=ref1><pubmed>10712921</pubmed></ref>。神経細胞同士の情報伝達を担う構造であるシナプスには受容体、接着分子、シグナル分子など多様なタンパク質が存在する。


 特にシナプスには足場タンパク質が多く存在し、多様なタンパク質で構成される複合体を形成することで、シナプス構造や適切なシグナル伝達に重要な役割を果たしている。例えば、シナプス後部にはタンパク質が密集した[[シナプス後肥厚部]](postsynaptic dendsity; [[PSD]])が存在し、多くの足場タンパク質が集積している。シナプス後部における足場タンパク質は特に神経伝達物質受容体の配置を決めるうえで重要な役割を果たすと考えられている。近年、光褪色後蛍光回復法(fluorescence recovery after photobleaching; FRAP)や単一粒子追跡法(single particle tracking; SPT)などの手法を用いたイメージング実験により、受容体タンパク質はシナプス外の膜上では早く拡散するが、シナプスでは固定されやすいことが示されている。この際、足場タンパク質が受容体の拡散速度を緩めて位置を定める事で受容体の安定性が保たれると考えられている<ref name=ref2><pubmed>18832033</pubmed></ref>。
 足場タンパク質とは、タンパク質複合体形成の足場となるタンパク質のことである。多くの場合、PDZドメインやSH3ドメインなどタンパク質同士の結合に関わる複数のドメインで構成される。


===興奮性シナプス後部の足場タンパク質===
 主にシグナル伝達に関わる分子を結びつける機能があり、これによりシグナル伝達経路の混線を防ぐとともに構成するタンパク質の活性を触媒するなど細胞内シグナルの調節に重要な役割を果たす。また、シグナルの調節とは直接は関係なくタンパク質を適切に配置する足場として働く場合もある。ただし足場としての働きと触媒作用を併せ持つタンパク質が存在する事や適切な配置そのものがシグナルの伝達効率を上げるという事もあり、この二つの側面の厳密な区別は難しい<ref name=ref1><pubmed>10712921</pubmed></ref>。
 [[興奮性シナプス]]のシナプス後部には[[抑制性シナプス]]の後部と比べて厚く複雑なPSDがあり、様々な足場タンパク質を含む。[[興奮性]]ポストシナプスに含まれる主な足場タンパク質にはPSD-95、PSD-93、SAP97、SAP102、[[Shank|SHANK]]、CASK、[[GKAP]]、Homer、 GRIP1、densin-180などがある<ref name=ref3><pubmed>12324263</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>17596209</pubmed></ref>。
[[ファイル:PSD proteins.jpg|thumb|300px|right|'''図1. 興奮性シナプスのPSDタンパク質'''<ref name=sheng_ann_rev_biochem><pubmed> 17243894 </pubmed></ref><br>Reprinted, with permission, from the Annual Review of Biochemistry, Volume 76 © 2007 by Annual Reviews www.annualreviews.org]]


====PSD-95 ====
 神経細胞同士の情報伝達を担う構造であるシナプスには受容体、接着分子、シグナル分子など多様なタンパク質が存在する。これらの分子は、足場タンパク質の働きで多様なタンパク質で構成される複合体を形成することで、シナプス構造や適切なシグナル伝達に重要な役割を果たしている。例えば、シナプス後部にはタンパク質が密集した[[シナプス後肥厚部]](postsynaptic dendsity; [[PSD]])が存在し、多くの足場タンパク質が集積している。シナプス後部における足場タンパク質は特に[[神経伝達物質]]受容体の配置を決めるうえで重要な役割を果たすと考えられている。
 MAGUK(membrane-associated guanylate kinase homologs)ファミリー分子に属し、興奮性シナプスの主要な足場タンパク質の一つである。MAGUKファミリーの多くはPDZドメイン3つとSH3ドメイン、GUKドメインから成るが、PSD-95もこの構造を持つ。興奮性シナプスのPSDに広く分布し、neuroliginやNMDA受容体、AMPA受容体など多くのタンパク質の足場となっている。詳細はPSD-95の項を参照。


====Shank====
 近年、[[光褪色後蛍光回復法]](fluorescence recovery after photobleaching; FRAP)や[[単一粒子追跡法]](single particle tracking; SPT)などの手法を用いたイメージング実験により、受容体タンパク質はシナプス外の膜上では早く拡散するが、シナプスでは固定されやすいことが示されている。この際、足場タンパク質が受容体の拡散速度を緩めて位置を定める事で受容体の安定性が保たれると考えられている<ref name=ref2><pubmed>18832033</pubmed></ref>。
 PSD-95と同じくPSDで多く見られ、PSD−95よりも[[細胞膜]]から離れた位置で広範囲に局在する足場タンパク質である。アンキリンリピートドメイン、SH3ドメイン、PDZドメイン、高プロリン領域、SAM(sterile alpha motif)ドメインからなり、それぞれのドメインを介してGKAP、Homer、GRIPといった足場タンパク質と結合しPSDの主要な構成要素となっている。また高プロリン領域でコルタクチン、αフォドリン、ABP1といった[[アクチン]]結合タンパク質と相互作用することでアクチン[[細胞骨格]]ともつながっている<ref name=ref5><pubmed>10806096</pubmed></ref>
[[ファイル:PSD proteins.jpg|thumb|300px|right|'''図1. 興奮性シナプスの足場タンパク質'''<ref name=sheng_ann_rev_biochem><pubmed> 17243894 </pubmed></ref><br>Reprinted, with permission, from the Annual Review of Biochemistry, Volume 76 © 2007 by Annual Reviews www.annualreviews.org]]
[[ファイル:Scaffolding proteins 1.jpg|thumb|300px|right|'''図2. 興奮性シナプスの足場タンパク質のドメイン構造'''<br>GK: グアニル酸キナーゼ相同性ドメイン、ANK: アンキリンリピートドメイン、SAM: Sterile alpha motifドメイン、CC: コイルドコイルドメイン]]


====Homer====
==興奮性シナプス後部==
 HomerはPDZドメインを持たない足場タンパク質である。EVH1ドメインとロイシンジッパーのCC(coiled coil)ドメインから成るlong HomerとCCドメインを持たないshort Homerがあり、long HomerはCCドメインにより四量体を形成する<ref name=ref6><pubmed>16914674</pubmed></ref>。HomerはEVH1ドメインを介してShankと結合しPSDの網目構造を複雑化してスパインの形態を維持する働きがある<ref name=ref7><pubmed>19345194</pubmed></ref>。
 [[興奮性シナプス]]の[[シナプス後部]]には[[抑制性シナプス]]の後部と比べて厚く複雑なPSDがあり、様々な足場タンパク質を含む(図1, 2)。[[興奮性]]ポストシナプスに含まれる主な足場タンパク質には[[PSD-95]]、[[PSD-93]]、[[SAP97]]、[[SAP102]]、[[Shank|SHANK]]、[[CASK]]、[[GKAP]]、[[Homer]]、 [[GRIP1]]、[[densin-180]]などがある<ref name=ref3><pubmed>12324263</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>17596209</pubmed></ref>。


===抑制性シナプス後部の足場タンパク質===
===PSD-95 ===
 [[抑制性]]ポストシナプスの主要な足場タンパク質としてゲフィリンが知られている。ゲフィリンはEドメイン、Cドメイン、Gドメインの3つのドメインから成り、抑制性シナプスの後膜で[[グリシン]]受容体や[[GABA受容体]]のクラスターを形成している<ref name=ref8><pubmed>18403029</pubmed></ref>。
 [[MAGUK]][[membrane-associated guanylate kinase homologs]])ファミリー分子に属し、[[興奮性シナプス]]の主要な足場タンパク質の一つである。MAGUKファミリーの多くはPDZドメイン3つとSH3ドメイン、GKドメインから成るが、PSD-95もこの構造を持つ。興奮性シナプスのPSDに広く分布し、[[ニューロリギン]]や[[NMDA型グルタミン酸受容体]]、[[AMPA型グルタミン酸受容体]]など多くのタンパク質の足場となっている。


==シナプス前部における足場タンパク質==
 ''詳細は[[PSD-95]]の項を参照。''


 プレシナプスに存在するアクティブゾーンも多くの足場タンパク質が含まれる<ref name=ref9><pubmed>16865347</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>11229820</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>10851173</pubmed></ref>。これまでに解析されてきた主な足場タンパク質にはMunc13、RIM、Bassoon、Piccolo、ELKS/CAST/ERC、リプリンαがある。[[シナプス前膜]]ではシナプス小胞の放出と使用済みの小胞の回収が行われているが、足場タンパク質は小胞の[[エキソサイトーシス]]とエンドサイトーシスの制御に重要な役割を果たす。
===Shank===
 PSD-95と同じくPSDで多く見られ、PSD−95よりも[[細胞膜]]から離れた位置で広範囲に局在する足場タンパク質である。[[アンキリンリピートドメイン]]、SH3ドメイン、PDZドメイン、高プロリン領域、[[SAMドメイン|SAM(sterile alpha motif)ドメイン]]からなり、それぞれのドメインを介してGKAP、Homer、[[GRIP]]といった足場タンパク質と結合しPSDの主要な構成要素となっている。また高プロリン領域で[[コルタクチン]]、[[αフォドリン]]、[[ABP1]]といった[[アクチン]]結合タンパク質と相互作用することでアクチン[[細胞骨格]]ともつながっている<ref name=ref5><pubmed>10806096</pubmed></ref>。
 
 ''詳細は[[Shank]]の項を参照。''
 
===Homer===
 HomerはPDZドメインを持たない足場タンパク質である。[[EVH1ドメイン]]([[WHドメイン]])と[[ロイシンジッパー]]の[[コルドコイルドメイン]]から成るlong Homerとコルドコイルドメインを持たないshort Homerがあり、long HomerはCCドメインにより四量体を形成する<ref name=ref6><pubmed>16914674</pubmed></ref>。HomerはEVH1ドメインを介してShankと結合しPSDの網目構造を複雑化してスパインの形態を維持する働きがある<ref name=ref7><pubmed>19345194</pubmed></ref>。
[[ファイル:図4足場タンパク質.png|thumb|right|300px|<b>図3. 抑制性シナプスにおけるゲフィリン</b><br><ref><pubmed>12671642</pubmed></ref>より許可を得て転載。]]
[[ファイル:Scaffolding proteins2.jpg|thumb|right|300px|<b>図4. ゲフィリンのドメイン構造</b>]]
==抑制性シナプス後部==
 [[抑制性シナプス]]後部の主要な足場タンパク質として[[ゲフィリン]]が知られている(図3, 4)。ゲフィリンはEドメイン、Cドメイン、Gドメインの3つのドメインから成り、抑制性シナプスの後膜で[[グリシン受容体]]や[[GABA受容体]]のクラスターを形成している<ref name=ref8><pubmed>18403029</pubmed></ref>。
 
==シナプス前部==
 
[[ファイル:図5足場タンパク質.png|thumb|right|300px|<b>図5.シナプス前部の足場タンパク質</b>]]
 
[[ファイル:Scaffolding proteins3.jpg|thumb|right|300px|<b>図6.シナプス前部における足場タンパク質</b><br>MHD: MUNC13相同性ドメイン、CaM: カルモジュリン結合領域、RabBD: Rab結合ドメイン、Zn: Znフィンガードメイン]]
 [[シナプス前部]]に存在する[[アクティブゾーン]]も多くの足場タンパク質が含まれる<ref name=ref9><pubmed>16865347</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>11229820</pubmed></ref> <ref name=ref11><pubmed>10851173</pubmed></ref>(図5,  6)。これまでに解析されてきた主な足場タンパク質には[[Munc13]]、[[RIM]]、[[Bassoon]]、[[Piccolo]]、[[ELKS]]/[[CAST]]/[[ERC]]、[[リプリンα]]がある。[[シナプス前膜]]では[[シナプス小胞]]の放出と使用済みの小胞の回収が行われているが、足場タンパク質は小胞の[[エキソサイトーシス]]と[[エンドサイトーシス]]の制御に重要な役割を果たす。


===Munc13===
===Munc13===
 Munc13-1から-4まで4種類のアイソフォームがあり、MUNドメインが2つのC2ドメインに挟まれた構造、二次メッセンジャーのDAGやβ−PEと結合するC1ドメインおよびカルモジュリン結合領域は全てに共通している。短期のシナプス可塑性において神経伝達物質の放出を促進する働きがある。
 Munc13-1から-4まで4種類のアイソフォームがあり、[[MUNC13相同性ドメイン]]が2つの[[C2ドメイン]]に挟まれた構造、二次メッセンジャーの[[ジアシルグリセロール]]や[[β−ホルボールエステル]]と結合するC1ドメインおよび[[カルモジュリン]]結合領域は全てに共通している<ref name=ref9 />。短期の[[シナプス可塑性]]において神経伝達物質の放出を促進する働きがある<ref name=add1><pubmed>11832228</pubmed></ref>。


===RIM===
===RIM===
 RIMファミリーにはジンクフィンガードメイン、PDZドメイン、高プロリンSH3ドメイン結合領域の有無やC2ドメインの個数の違いにより6種類のアイソフォームが存在し、これらは様々なシナプスタンパク質と相互作用する事が知られている。ジンクフィンガードメインにはMunc13とシナプス小胞上に結合しているGタンパク質のRab3が結合する部位がそれぞれ分かれて存在し、3つのタンパク質からなる複合体を形成する。この複合体はシナプス小胞を[[プライミング]]領域に運ぶ際に重要と考えられている。
 RIMファミリーには[[Znフィンガー]]ドメイン、PDZドメイン、高プロリンSH3ドメイン結合領域の有無やC2ドメインの個数の違いにより6種類のアイソフォームが存在し、これらは様々なシナプスタンパク質と相互作用する事が知られている<ref name=add2><pubmed>22794257</pubmed></ref>。ジンクフィンガードメインにはMunc13とシナプス小胞上に結合している[[Gタンパク質]]の[[Rab3]]が結合する部位がそれぞれ分かれて存在し、3つのタンパク質からなる複合体を形成する<ref name=add3><pubmed>9252191</pubmed></ref> <ref name=add4><pubmed>11343654</pubmed></ref> <ref name=add5><pubmed>16052212</pubmed></ref>。この複合体はシナプス小胞を[[プライミング]]領域に運ぶ際に重要と考えられている<ref name=add5 />。


===Bassoon、Piccolo===
===Bassoon、Piccolo===
 BassoonおよびPiccoloはアクティブゾーンの中で最も大きなタンパク質である。ジンクフィンガードメイン、PBH(Piccolo bassoon homology)ドメイン、CCドメインが共通の配置で並んだよく似た構造を持ち、ともにELKSと相互作用する。Piccoloのみに見られる構造としては、高プロリン領域、PDZドメイン、C2ドメインがあり、PDZドメインとC2ドメインはそれぞれ[[cAMP]]-GEF2、Cav 1.2 [[L型電位依存性カルシウムチャネル]]と相互作用する事が知られている。この事からPiccoloはシナプス小胞のエンドサイトーシスとエキソサイトーシスを制御するシグナルをまとめる働きがあると考えられる。
 BassoonおよびPiccoloはアクティブゾーンの中で最も大きなタンパク質である<ref name=ref9 />。ジンクフィンガードメイン、[[PBHドメイン|Piccolo bassoon homology (PBH)ドメイン]]、コルドコイルドメインが共通の配置で並んだよく似た構造を持ち、ともに[[ELKS]]と相互作用する<ref name=add6><pubmed>14734538</pubmed></ref>。Piccoloのみに見られる構造としては、高プロリン領域、PDZドメイン、C2ドメインがあり、PDZドメインとC2ドメインはそれぞれ[[cAMP-GEF2]]、[[L型電位依存性カルシウムチャネル]][[Cav 1.2]]と相互作用する事が知られている(ref)。この事からPiccoloはシナプス小胞のエンドサイトーシスとエキソサイトーシスを制御するシグナルをまとめる働きがあると考えられる<ref name=ref9 />。


===ELKS/CAST/ERC===
===ELKS/CAST/ERC===
 哺乳類ではELKS1A、ELKS1B、ELKS2の3種類がこのファミリーに含まれる。ELKSはという名称はこのタンパク質が多く含む[[グルタミン酸]](E)、ロイシン(L)、リシン(K)、セリン(S)から命名されている。いずれも4つのCCドメインを持ち、この部分でリプリンα、Piccolo、Bassoonと結合する。またELKS1BとELKS2はC末端にRIM1αのPDZドメインと結合する領域が存在し、RIMを局在化させるのに必要なタンパク質であると考えられている。
 
[[ファイル:図7足場タンパク質.png|thumb|right|250px|<b>図7.シナプス以外での足場タンパク質</b><br>モータータンパク質と輸送小胞のアダプターとして機能する足場タンパク質。モーターからシナプスへの移行は直接(A)あるいは間接的(B)な経路が想定されている。<br>
<ref name=ref12><pubmed>15643447</pubmed></ref>より許可を得て転載。]]
 
 哺乳類ではELKS1と[[ELKS2]]がこのファミリーに含まれ、ELKS1は[[ELKS1A]]と[[ELKS1B]]のスプライシングアイソフォームを持つ<ref name=ref9 />。ELKSはという名称はこのタンパク質が多く含む[[グルタミン酸]](E)、[[wj:ロイシン|ロイシン]](L)、[[wj:リシン|リシン]](K)、[[wj:セリン|セリン]](S)から命名されている。いずれも4つのコイルドコイルドメインを持ち、この部分でリプリンα、Piccolo、Bassoonと結合する<ref name=add6 /> <ref name=add7><pubmed>12923177</pubmed></ref>。またELKS1BとELKS2はC末端にRIM1αのPDZドメインと結合する領域が存在し、RIMを局在化させるのに必要なタンパク質であると考えられている<ref name=add8><pubmed>16095618</pubmed></ref> <ref name=add9><pubmed>12391317</pubmed></ref>。


==シナプス以外での足場タンパク質の機能==
==シナプス以外での足場タンパク質の機能==
 受容体などの輸送においてそのタンパク質とモータータンパク質をつなぎ、アダプタータンパク質として機能する足場タンパク質が存在する。AMPA受容体のサブユニットであるGluR2はKIF5によってシナプスに運ばれるが、このときGRIP1が二つをつないで複合体を形成しており、PSDに運ばれてからはAMPA受容体をシナプス後膜に固定する足場となる。またGRIP1はKIF5の方向性を定めて輸送をコントロールする働きがあるとも考えられている。同様に抑制性シナプスの足場タンパク質であるゲフィリンもグリシン受容体が微小管を伝って膜上から取り除かれる際に、モータータンパク質であるDlc1(Dynein light chain1)やDlc2(Dynein light chain2)との結合を仲介する役目がある<ref name=ref12><pubmed>15643447</pubmed></ref>。
 受容体などの輸送においてそのタンパク質とモータータンパク質をつなぎ、アダプタータンパク質として機能する足場タンパク質が存在する。AMPA型グルタミン酸受容体のサブユニットである[[GluR2]]は[[KIF5]]によってシナプスに運ばれるが、このときGRIP1が二つをつないで複合体を形成しており、PSDに運ばれてからはAMPA型グルタミン酸受容体をシナプス後膜に固定する足場となる<ref name=ref15><pubmed>11986669</pubmed></ref>。またGRIP1はKIF5の方向性を定めて輸送をコントロールする働きがあるとも考えられている<ref name=ref15 />。
 
 同様に抑制性シナプスの足場タンパク質であるゲフィリンもグリシン受容体が[[微小管]]を伝って膜上から取り除かれる際に、[[モータータンパク質]]である[[ダイニン軽鎖1]] ([[dynein light chain1]], [[Dlc1]])や[[ダイニン軽鎖2]] ([[dynein light chain2]], [[Dlc2]])との結合を仲介する役目がある<ref name=ref12 />。


==関連項目==
*[[シナプス後肥厚]]
*[[アクティブゾーン]]
*[[PSD-95]]
*[[Shank]]
== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
<references />

2014年6月26日 (木) 13:56時点における最新版

清水 夕貴、田中 慎二岡部 繁男
東京大学大学院医学系研究科
DOI:10.14931/bsd.1104 原稿受付日:2013年10月24日 原稿完成日:2013年11月20日
担当編集委員:林 康紀(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

英語名:scaffold protein 独:Gerüstprotein 仏:protéine d'échafaudage

 足場タンパク質とは、タンパク質複合体形成の足場となるタンパク質のことである。多くの場合、PDZドメインSH3ドメインなどタンパク質同士の結合に関わる複数のドメインで構成される。シグナル伝達に関わる分子を結びつける機能があり、シグナル伝達経路の混線を防ぐとともに、構成するタンパク質の活性を触媒するなど細胞内シグナルの調節に重要な役割を果たす。また、タンパク質を適切に配置する足場として働く場合もある。特にシナプスには受容体接着分子シグナル分子など多様なタンパク質が存在するが、足場タンパク質が多様なタンパク質で構成される複合体を形成することで、シナプス構造や適切なシグナル伝達に重要な役割を果たしている。

足場タンパク質とは

 足場タンパク質とは、タンパク質複合体形成の足場となるタンパク質のことである。多くの場合、PDZドメインやSH3ドメインなどタンパク質同士の結合に関わる複数のドメインで構成される。

 主にシグナル伝達に関わる分子を結びつける機能があり、これによりシグナル伝達経路の混線を防ぐとともに構成するタンパク質の活性を触媒するなど細胞内シグナルの調節に重要な役割を果たす。また、シグナルの調節とは直接は関係なくタンパク質を適切に配置する足場として働く場合もある。ただし足場としての働きと触媒作用を併せ持つタンパク質が存在する事や適切な配置そのものがシグナルの伝達効率を上げるという事もあり、この二つの側面の厳密な区別は難しい[1]

 神経細胞同士の情報伝達を担う構造であるシナプスには受容体、接着分子、シグナル分子など多様なタンパク質が存在する。これらの分子は、足場タンパク質の働きで多様なタンパク質で構成される複合体を形成することで、シナプス構造や適切なシグナル伝達に重要な役割を果たしている。例えば、シナプス後部にはタンパク質が密集したシナプス後肥厚部(postsynaptic dendsity; PSD)が存在し、多くの足場タンパク質が集積している。シナプス後部における足場タンパク質は特に神経伝達物質受容体の配置を決めるうえで重要な役割を果たすと考えられている。

 近年、光褪色後蛍光回復法(fluorescence recovery after photobleaching; FRAP)や単一粒子追跡法(single particle tracking; SPT)などの手法を用いたイメージング実験により、受容体タンパク質はシナプス外の膜上では早く拡散するが、シナプスでは固定されやすいことが示されている。この際、足場タンパク質が受容体の拡散速度を緩めて位置を定める事で受容体の安定性が保たれると考えられている[2]

図1. 興奮性シナプスの足場タンパク質[3]
Reprinted, with permission, from the Annual Review of Biochemistry, Volume 76 © 2007 by Annual Reviews www.annualreviews.org
図2. 興奮性シナプスの足場タンパク質のドメイン構造
GK: グアニル酸キナーゼ相同性ドメイン、ANK: アンキリンリピートドメイン、SAM: Sterile alpha motifドメイン、CC: コイルドコイルドメイン

興奮性シナプス後部

 興奮性シナプスシナプス後部には抑制性シナプスの後部と比べて厚く複雑なPSDがあり、様々な足場タンパク質を含む(図1, 2)。興奮性ポストシナプスに含まれる主な足場タンパク質にはPSD-95PSD-93SAP97SAP102SHANKCASKGKAPHomerGRIP1densin-180などがある[4] [5]

PSD-95

 MAGUKmembrane-associated guanylate kinase homologs)ファミリー分子に属し、興奮性シナプスの主要な足場タンパク質の一つである。MAGUKファミリーの多くはPDZドメイン3つとSH3ドメイン、GKドメインから成るが、PSD-95もこの構造を持つ。興奮性シナプスのPSDに広く分布し、ニューロリギンNMDA型グルタミン酸受容体AMPA型グルタミン酸受容体など多くのタンパク質の足場となっている。

 詳細はPSD-95の項を参照。

Shank

 PSD-95と同じくPSDで多く見られ、PSD−95よりも細胞膜から離れた位置で広範囲に局在する足場タンパク質である。アンキリンリピートドメイン、SH3ドメイン、PDZドメイン、高プロリン領域、SAM(sterile alpha motif)ドメインからなり、それぞれのドメインを介してGKAP、Homer、GRIPといった足場タンパク質と結合しPSDの主要な構成要素となっている。また高プロリン領域でコルタクチンαフォドリンABP1といったアクチン結合タンパク質と相互作用することでアクチン細胞骨格ともつながっている[6]

 詳細はShankの項を参照。

Homer

 HomerはPDZドメインを持たない足場タンパク質である。EVH1ドメイン(WHドメイン)とロイシンジッパーコルドコイルドメインから成るlong Homerとコルドコイルドメインを持たないshort Homerがあり、long HomerはCCドメインにより四量体を形成する[7]。HomerはEVH1ドメインを介してShankと結合しPSDの網目構造を複雑化してスパインの形態を維持する働きがある[8]

図3. 抑制性シナプスにおけるゲフィリン
[9]より許可を得て転載。
図4. ゲフィリンのドメイン構造

抑制性シナプス後部

 抑制性シナプス後部の主要な足場タンパク質としてゲフィリンが知られている(図3, 4)。ゲフィリンはEドメイン、Cドメイン、Gドメインの3つのドメインから成り、抑制性シナプスの後膜でグリシン受容体GABA受容体のクラスターを形成している[10]

シナプス前部

図5.シナプス前部の足場タンパク質
図6.シナプス前部における足場タンパク質
MHD: MUNC13相同性ドメイン、CaM: カルモジュリン結合領域、RabBD: Rab結合ドメイン、Zn: Znフィンガードメイン

 シナプス前部に存在するアクティブゾーンも多くの足場タンパク質が含まれる[11] [12] [13](図5, 6)。これまでに解析されてきた主な足場タンパク質にはMunc13RIMBassoonPiccoloELKS/CAST/ERCリプリンαがある。シナプス前膜ではシナプス小胞の放出と使用済みの小胞の回収が行われているが、足場タンパク質は小胞のエキソサイトーシスエンドサイトーシスの制御に重要な役割を果たす。

Munc13

 Munc13-1から-4まで4種類のアイソフォームがあり、MUNC13相同性ドメインが2つのC2ドメインに挟まれた構造、二次メッセンジャーのジアシルグリセロールβ−ホルボールエステルと結合するC1ドメインおよびカルモジュリン結合領域は全てに共通している[11]。短期のシナプス可塑性において神経伝達物質の放出を促進する働きがある[14]

RIM

 RIMファミリーにはZnフィンガードメイン、PDZドメイン、高プロリンSH3ドメイン結合領域の有無やC2ドメインの個数の違いにより6種類のアイソフォームが存在し、これらは様々なシナプスタンパク質と相互作用する事が知られている[15]。ジンクフィンガードメインにはMunc13とシナプス小胞上に結合しているGタンパク質Rab3が結合する部位がそれぞれ分かれて存在し、3つのタンパク質からなる複合体を形成する[16] [17] [18]。この複合体はシナプス小胞をプライミング領域に運ぶ際に重要と考えられている[18]

Bassoon、Piccolo

 BassoonおよびPiccoloはアクティブゾーンの中で最も大きなタンパク質である[11]。ジンクフィンガードメイン、Piccolo bassoon homology (PBH)ドメイン、コルドコイルドメインが共通の配置で並んだよく似た構造を持ち、ともにELKSと相互作用する[19]。Piccoloのみに見られる構造としては、高プロリン領域、PDZドメイン、C2ドメインがあり、PDZドメインとC2ドメインはそれぞれcAMP-GEF2L型電位依存性カルシウムチャネルCav 1.2と相互作用する事が知られている(ref)。この事からPiccoloはシナプス小胞のエンドサイトーシスとエキソサイトーシスを制御するシグナルをまとめる働きがあると考えられる[11]

ELKS/CAST/ERC

図7.シナプス以外での足場タンパク質
モータータンパク質と輸送小胞のアダプターとして機能する足場タンパク質。モーターからシナプスへの移行は直接(A)あるいは間接的(B)な経路が想定されている。
[20]より許可を得て転載。

 哺乳類ではELKS1とELKS2がこのファミリーに含まれ、ELKS1はELKS1AELKS1Bのスプライシングアイソフォームを持つ[11]。ELKSはという名称はこのタンパク質が多く含むグルタミン酸(E)、ロイシン(L)、リシン(K)、セリン(S)から命名されている。いずれも4つのコイルドコイルドメインを持ち、この部分でリプリンα、Piccolo、Bassoonと結合する[19] [21]。またELKS1BとELKS2はC末端にRIM1αのPDZドメインと結合する領域が存在し、RIMを局在化させるのに必要なタンパク質であると考えられている[22] [23]

シナプス以外での足場タンパク質の機能

 受容体などの輸送においてそのタンパク質とモータータンパク質をつなぎ、アダプタータンパク質として機能する足場タンパク質が存在する。AMPA型グルタミン酸受容体のサブユニットであるGluR2KIF5によってシナプスに運ばれるが、このときGRIP1が二つをつないで複合体を形成しており、PSDに運ばれてからはAMPA型グルタミン酸受容体をシナプス後膜に固定する足場となる[24]。またGRIP1はKIF5の方向性を定めて輸送をコントロールする働きがあるとも考えられている[24]

 同様に抑制性シナプスの足場タンパク質であるゲフィリンもグリシン受容体が微小管を伝って膜上から取り除かれる際に、モータータンパク質であるダイニン軽鎖1 (dynein light chain1, Dlc1)やダイニン軽鎖2 (dynein light chain2, Dlc2)との結合を仲介する役目がある[20]

関連項目

参考文献

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