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英:somatoform disorders、独:somatoform-Unordnungen、仏:désordres du somatoform | 英:somatoform disorders、独:somatoform-Unordnungen、仏:désordres du somatoform | ||
{{box|text= | {{box|text= 身体表現性障害とは、[[身体化障害]]、[[転換性障害]]、[[疼痛性障害]]、[[心気症]]、[[身体醜形障害]]などを総称した症候群である。その診断基準として、①一般身体疾患を示唆する身体症状が存在するが、一般身体疾患、物質の直接的な作用、または他の精神疾患によっては完全に説明されない、②その症状は臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の領域における機能の障害を引き起こす、③身体症状は意図的でない。つまり、身体面で「器質的機能的な異常が見当たらない」のに、身体症状を訴え続ける精神障害である。機能的・器質的異常が存在する心身症とはその点で明確に区別される。}} | ||
==身体表現性障害とは== | ==身体表現性障害とは== | ||
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なお、[[ICD-10]]では以下の様な分類がなされている。 | なお、[[ICD-10]]では以下の様な分類がなされている。 | ||
{|class="wikitable" | {|class="wikitable" | ||
|+表1. ICD-10による身体表現性障害の分類。細分類は主なもののみ示した。全体は文献<ref name=ref2 />、[http://www.dis.h.u-tokyo.ac.jp/byomei/icd10/F00-F99.html 標準病名マスター作業班によるICD階層病名ブラウザ]などを参照。 | |+表1. ICD-10による身体表現性障害の分類。細分類は主なもののみ示した。全体は文献<ref name=ref2><b>世界保健機関</b><br>ICD‐10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン<br><i>医学書院(東京)</i>:2005</ref>、[http://www.dis.h.u-tokyo.ac.jp/byomei/icd10/F00-F99.html 標準病名マスター作業班によるICD階層病名ブラウザ]などを参照。 | ||
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|rowspan=12|F4 [[神経症性障害]]、[[ストレス関連障害]]及び身体表現性障害||rowspan=12|F45 身体表現性障害||colspan=2|F45.0 身体化障害 | |rowspan=12|F4 [[神経症性障害]]、[[ストレス関連障害]]及び身体表現性障害||rowspan=12|F45 身体表現性障害||colspan=2|F45.0 身体化障害 | ||
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|colspan=2|F45.2 心気障害 | |colspan=2|F45.2 心気障害 | ||
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|rowspan=6|F45.3 [[身体表現性自律神経機能不全]]||30 [[wj:心臓|心臓]]および[[wj:心血管系|心血管系]] | |rowspan="6"|F45.3 [[身体表現性自律神経機能不全]]||30 [[wj:心臓|心臓]]および[[wj:心血管系|心血管系]] | ||
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|31 上部[[wj:消化管|消化管]] | |31 上部[[wj:消化管|消化管]] | ||
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==身体表現性障害と神経症== | ==身体表現性障害と神経症== | ||
「身体表現性障害」が登場したのは[[DSM-III]](1980)からで、従来精神科で使用されてきた「[[神経症]]」([[ノイローゼ]])を廃し、神経症における身体的な[[不定愁訴]]を包含する役割を果たした。[[心気症]]は最もよく知られているノイローゼで、臨床場面では従来「[[心気神経症]]」と呼ばれていた。心気症は、重い病気に罹っているのではないかという考え(固着観念)にとらわれて、他者にそれを訴え続ける状態である。心気的固着観念は妄想的確信にまでは至らず、患者はいわば半信半疑のままとらわれ続けており、その意味では、「心気妄想」とは違うが、病理の深さの違いでありはっきりと区別できるものではない。 | |||
いずれにしろ、身体表現性障害は、医学的に説明できる器質的な異常が見あたらないにもかかわらず、身体疾患を[[模倣]]するようにして執拗に身体の異常を訴えるもので、心因性の神経症と同じように、患者の訴えは、心理的な問題の表現の一方法と考えることができる。 | いずれにしろ、身体表現性障害は、医学的に説明できる器質的な異常が見あたらないにもかかわらず、身体疾患を[[模倣]]するようにして執拗に身体の異常を訴えるもので、心因性の神経症と同じように、患者の訴えは、心理的な問題の表現の一方法と考えることができる。 | ||
==DSM-Vにおける身体表現性障害== | ==DSM-Vにおける身体表現性障害== | ||
[[DSM-V]]では、従来DSM- | [[DSM-V]]では、従来DSM-IVでの身体表現性障害の要件であった「身体医学的に説明できない身体症状」の判断には信頼性がないという理由で、新たに「[[身体症状障害]](somatic symptom disorders)」という用語を採用する予定である。そして、この「身体症状障害」の下位に、「身体表現性障害(somatoform disorders)」「[[虚偽性障害]](factitious disorders)」、そして「一般身体疾患に影響を与えている心理的要因(psychological factors affecting medical condition:PFAMC)」を入れるという改変が提案されている。また、従来「身体表現性障害」に含まれていた「身体化障害」「心気症」「鑑別不能型身体表現性障害」「疼痛性障害」の4つを、新たに「[[複合身体症状障害]](complex somatic symptom disorders)」にまとめるという提案がなされている。 | ||
==身体表現性障害の病理== | ==身体表現性障害の病理== | ||
上述のように、身体表現性障害はある病態生理に基づいてカテゴライズされた疾患ではなく、はっきりとした身体所見がないにもかかわらず、身体関連の執拗な訴えがある疾患群を総称している症候群である。虚偽性障害や[[詐病]]のように意図的に作り出されたりねつ造されたりしたものではない。背景に他の精神疾患があれば、その疾患の診断や病理の方をより重視することが多く、その部分症状あるいは不随症状とみなされることが多い。さらに診断基準の歴史的変遷により、その病理の追究を難しいものにしている。 | |||
身体化障害・疼痛性障害・心気症・身体醜形障害に共通しているのは、「とらわれ」「固着」である。身体化障害及び疼痛性障害は「身体症状の訴え」という模倣形で表出され、心気症・身体醜形障害([[疾病恐怖]]・[[醜形恐怖]]と俗に呼ばれるもの)は、「自己に対する心配・恐怖という固着観念」である。病理が深くなれば妄想に近くなるが、そういった意味では[[統合失調症]]の[[妄想]]と連続していると考える臨床家もいる(実際には、統合失調症・[[うつ病]]などに心気的な訴えをする患者も多い)。気質的には、「[[神経質]]」つまり内省的で物事を気にしやすい性質([[wj:森田正馬|森田正馬]]による「[[ヒポコンドリー性基調]]」)がある。 | |||
本障害の脳科学的な検証はまだまだなされていないのが現状である。身体化や疼痛については研究が散見される。[[PET]]や[[SPECT]]を使ってSomatization disorderの患者の血流を測定したもの<ref><pubmed> 11437810 </pubmed></ref><ref><pubmed> 12455936 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15246456 </pubmed></ref><ref><pubmed> 17109700 </pubmed></ref>があるが、まだ症例数・研究数が少なく、確定的なことは言えない。[[扁桃体]]の体積減少を指摘するものもあれば<ref><pubmed> 21651951 </pubmed></ref>、[[PTSD]]患者の[[島]]皮質周辺の体積変化が身体症状に関連していたとするものもある<ref><pubmed>17187377</pubmed></ref>。また、一般的に[[疼痛性障害]]や[[線維筋痛症]]などでは[[海馬]]の機能障害がみられ<ref><pubmed> 19553880 </pubmed></ref>、海馬がpain-networkの中に含まれることから、海馬の問題も指摘されている。例えば、[[機能的磁気共鳴画像]]([[fMRI]])を用いた研究で、痛みに対する予期不安が痛みの主観的な感覚を高めるのであるが、そのモジュレーションに海馬が関係し、その脳活動が全身的な身体化に関係していたとするデータがある<ref><pubmed> 22831862 </pubmed></ref>。いずれにしろ、身体化・疼痛性障害に関して少しずつ知見が集まりつつあるものの、その神経基盤の解明研究は途上である。また、心気症・醜形障害など「(恐怖)観念」に関するものは、極めて知見が少ない。今後の一層の研究が待たれる。 | |||
==診断== | ==診断== | ||
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==治療== | ==治療== | ||
有効な治療法は確立しておらず、困難なことが多い。本症候群では、恐怖・不安、抑うつの症状が伴うことが多く、[[抗不安薬]]、[[抗うつ薬]]が有効なケースもあるが、多くは[[心理的治療]]によらざるをえない。患者が問題にする症状や病気を頭から否定せず、苦痛の訴えに耳を傾けることが大切であるが、自分の身体が問題化している枠組みから脱却し、固着やこだわりを促進しないということも同時に必要で、患者へのバランスのとれた接し方が要求される。 | |||
==関連項目== | ==関連項目== | ||
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<references/> | <references/> | ||
10. '''加藤忠史'''<br> [[不安障害]]・身体表現性障害: 脳科学ライブラリー 脳と精神疾患 (p153-175)<br> | |||
''朝倉書店'' 東京 2009年 | ''朝倉書店'' 東京 2009年 |