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Junko kurahashi (トーク | 投稿記録) |
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これらの領域はどの個体でも配置が変わることがないため、「パターン」と呼ばれており、そのパターン決定は、RP([[蓋板]])やFP([[底板]])からそれぞれ分泌されるBMP、Wnt、ソニック・ヘッジホッグ(Sonic Hedgehog; Shh)といったモルフォゲンの濃度勾配によっている。つまり、これら各領域の細胞の分化方向はモルフォゲンの種類と濃度という位置情報によって決定されるのであり、その意味で神経管の背腹軸は位置情報を解析する上で良いモデル系である。 | これらの領域はどの個体でも配置が変わることがないため、「パターン」と呼ばれており、そのパターン決定は、RP([[蓋板]])やFP([[底板]])からそれぞれ分泌されるBMP、Wnt、ソニック・ヘッジホッグ(Sonic Hedgehog; Shh)といったモルフォゲンの濃度勾配によっている。つまり、これら各領域の細胞の分化方向はモルフォゲンの種類と濃度という位置情報によって決定されるのであり、その意味で神経管の背腹軸は位置情報を解析する上で良いモデル系である。 | ||
== | == ソニック・ヘッジホッグの動的な濃度勾配の変化と、細胞の分化方向の決定 == | ||
発生期におけるパターン形成は、発生過程のある時期に瞬間的に形成されるのではなく、モルフォゲンの時期的な濃度勾配の動的変化に従って徐々に形成されていくものである。この過程で、未分化な状態(または分化度が低い状態)で発現している遺伝子が徐々に他の遺伝子に置き換わっていく。 | |||
モルフォゲンのうち、神経管のパターン形成について解析が進んでいるのは、ソニック・ヘッジホッグ(Sonic Hedgehog; Shh)と腹側神経前駆領域のパターン形成である。Shhは、神経管の[[底板領域]](FP: floor plate)とその下部にある中胚葉性の組織、[[脊索]](NT: notochord)に発現し、神経管の中で濃度勾配を形成して、主に[[p0領域]]から腹側の領域の決定に重要な役割を果たしている(図2A)<ref name=Ribes2009 />11。Shhのノックアウトマウスでは腹側神経領域のほとんどが消失し、胚性致死となる<ref name=Ribes2009 /><ref><pubmed>8837770</pubmed></ref>11,14。 | |||
しかし、Shhが神経管内で突然濃度勾配を形成するわけではない。神経管が形成された初期には、Shhは神経管の下部に位置する中胚葉由来の組織、脊策から分泌され、神経管の腹側のごく限られた領域に分布している。この領域には、まず低濃度領域に発現する遺伝子の発現(例えば[[Nkx6.1]]や[[Dbx1]])が開始する<ref><pubmed>20532235</pubmed></ref>15。その後、Shhの発現が持続するにつれて、発生源である底板領域の発現量は高くなって遠くまで濃度勾配が形成されるようになり、高濃度領域の遺伝子の発現が開始する。この過程において、Nkx6.1、[[Nkx2.2]]、[[FoxA2]]の遺伝子の発現は、Shhシグナルを細胞内で仲介する転写因子[[Gli]]によって制御されているが、それぞれの遺伝子の発現制御領域に存在するGliの結合配列(DNA配列)が異なるために、アフィニティー(結合力)に違いがあることが示唆されている<ref><pubmed> 23153497 </pubmed></ref><ref><pubmed>23589857</pubmed></ref>16,17。つまり、Shhシグナルに対する敏感さの違いが遺伝子発現とパターン形成を決定していると言える。 | |||
一方、転写因子のネットワークが重要だとするモデルも提唱されている(図2B)。神経管の発生初期には神経前駆細胞全体に転写因子の1つ[[Pax6]]が発現している。Pax6の発現自体は、[[神経誘導因子]](細胞に「神経」という運命を与える因子)によって誘導される(図2C, time 1)。次に、Pax6は[[Olig2]]によって発現抑制される関係にあるため、Olig2がShhによって発現誘導されると、Pax6の発現が抑制される(図2C, time 2)。一方、Nkx2.2はOlig2と同じくShhのターゲット遺伝子であるが、初期にはPax6によってその発現が抑制されており、発現しない(図2C, time 2)。しかしOlig2がPax6の発現を抑制するとPax6がNkx2.2を抑制する作用が弱まり、結果的にNkx2.2の発現が開始する(図2C, time 3)。最後にNkx2.2とOlig2の相互抑制関係によって[[pMN]]と[[p3]]の領域が明確に分離し(図2C, time 4)、Pax6、Olig2(pMN領域)、Nkx2.2(p3領域)による神経管のパターン形成が完成するのである<ref name=Balaskas2012><pubmed> 22265416 </pubmed></ref>18。この関係は常微分方程式によって数理モデル化されており、ShhによるOlig2とNkx2.2発現誘導効果が同等であってもパターン形成は成立する<ref name =Balaskas2012 />18。つまり、Gliのアフィニティー(結合力)の違いによる発現誘導とは異なるメカニズムで遺伝子発現が制御されていると言える。 | |||
上述のパターン形成で議論した細胞はすべて前駆細胞であり、機能的神経細胞に分化するには[[Neurogenin]]などの神経化転写因子が必要である。最近、Olig2が[[Hes1]],[[Hes5]]という転写因子の発現抑制を介してNeurogenin2の発現を誘導するという転写制御システムが提唱されるようになった。 | |||
== 蓋板(Roof plate; RP)から分泌されるWnt、BMPによる背側神経管細胞の分化方向の決定と、濃度勾配の必要性 == | == 蓋板(Roof plate; RP)から分泌されるWnt、BMPによる背側神経管細胞の分化方向の決定と、濃度勾配の必要性 == |