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英語名:junctophilin 英語略名:JP  
英語名:junctophilin 英語略名:JP  


{{box|text=
{{box|text= 神経・筋などの興奮性細胞においては、細胞表層膜と小胞体膜とが近接した結合膜構造が存在し、両者の膜系に存在するチャネル分子が相互作用により共役している。ジャンクトフィリンは、その結合膜構造形成に必要な分子として単離されたタンパク質である。アミノ末端側に存在する14アミノ酸からなるMORNモチーフを介して細胞表層膜と結合する一方で、カルボキシル末端側の膜貫通セグメントにおいて小胞体膜を貫通することで、両膜を架橋し結合膜構造の形成に寄与すると考えられている。現在までに4種類のサブタイプが同定されている。JP-1は骨格筋特異的に発現が見られ、JP-2は心臓と骨格筋で発現レベルが特に高い。脳においては、JP-3およびJP-4が多くの神経細胞に重複して発現分布しており、それぞれ単独のノックアウトマウスでは際立った異常は認められないが、JP-3とJP-4の二重欠損マウスでは、個体、シナプス、神経細胞レベルでの機能阻害が報告されている。神経細胞では細胞表層膜/小胞体膜のイオンチャネル間の機能的共役効率の低下によるシナプス伝達・可塑性障害が認められる。}}
 [[神経]]・[[wikipedia:ja:筋|筋]]などの興奮性細胞においては、[[細胞膜|細胞表層膜]]と[[小胞体]]膜とが近接した結合膜構造が存在し、両者の膜系に存在する[[イオンチャネル|チャネル]]分子が相互作用により共役している。ジャンクトフィリンはその結合膜構造形成に必要な分子として単離されたタンパク質である<ref name="ref3"><pubmed>10949023</pubmed></ref>。[[遺伝子破壊動物]]では、筋肉では[[興奮収縮連関]]の効率の低下による筋力低下、神経細胞では細胞表層膜/小胞体膜の[[イオンチャネル]]間の機能的共役効率の低下による[[シナプス伝達]]・[[可塑性]]障害が認められる。
}}


== ジャンクトフィリンとは==
== ジャンクトフィリンとは==
 [[神経]]・[[wikipedia:ja:筋|筋]]などの興奮性細胞においては、[[細胞表層膜]]と[[小胞体]]膜とが近接した結合膜構造が存在する<ref><pubmed>1426638</pubmed></ref>。神経細胞では[[subsurface cistern]]と呼ばれるこの構造は、[[wikipedia:ja:筋|骨格筋]]細胞では[[triad junction]]と呼ばれ、骨格筋における[[興奮収縮連関]]との関連に着目した研究が進められている。
 [[神経]]・[[wj:筋|筋]]などの興奮性細胞においては、[[細胞表層膜]]と[[小胞体]]膜とが近接した結合膜構造が存在する<ref><pubmed>1426638</pubmed></ref>。神経細胞では[[subsurface cistern]]と呼ばれるこの構造は、[[wj:筋|骨格筋]]細胞では[[triad junction]]と呼ばれ、骨格筋における[[興奮収縮連関]]との関連に着目した研究が進められている。


 骨格筋興奮収縮連関においては、細胞表層膜上の[[電位依存性カルシウムチャネル]]である[[ジヒドロピリジン受容体]]([[L型カルシウムチャネル]])と、小胞体膜上のカルシウム放出チャネルである[[リアノジン受容体]]とが蛋白質間相互作用を介して共役することで、[[脱分極]]刺激による小胞体からのカルシウム放出が引き起こされ、筋収縮が起こる<ref><pubmed>16702757</pubmed></ref>。異なる二つの膜系に存在するチャネル分子が相互作用により共役するためには、上述の結合膜構造が形成され機能的なマイクロドメインが形成される必要があると考えられる。
 骨格筋興奮収縮連関においては、細胞表層膜上の[[電位依存性カルシウムチャネル]]である[[ジヒドロピリジン受容体]]([[L型カルシウムチャネル]])と、小胞体膜上のカルシウム放出チャネルである[[リアノジン受容体]]とが蛋白質間相互作用を介して共役することで、[[脱分極]]刺激による小胞体からのカルシウム放出が引き起こされ、筋収縮が起こる<ref><pubmed>16702757</pubmed></ref>。異なる二つの膜系に存在するチャネル分子が相互作用により共役するためには、上述の結合膜構造が形成され機能的なマイクロドメインが形成される必要があると考えられる。


 ジャンクトフィリン (junctophilin; JP) は、興奮性細胞における結合膜構造形成に必要な分子として単離された分子量72-90kDa程度のタンパク質である<ref name="ref3"><pubmed>10949023</pubmed></ref>。最初に発見された、骨格筋で特異的に発現する1型ジャンクトフィリン([[JP-1]])に加え、相同クローニングにより2型~4型ジャンクトフィリン ([[JP-2]]~[[JP-4]]) が発見され、現在までに4種類のサブタイプが同定されている<ref name="ref4"><pubmed>14559359</pubmed></ref>。脳においては、[[JP-3]]およびJP-4が多くの神経細胞に重複して発現分布しており、それぞれ単独のノックアウトマウスでは際立った異常は認められないが、JP-3とJP-4の二重欠損マウスでは、個体、[[シナプス]]、神経細胞レベルでの機能阻害が報告されている<ref name="ref5"><pubmed>18607668</pubmed></ref>。  
 ジャンクトフィリンは、興奮性細胞における結合膜構造形成に必要な分子として単離された分子量72-90kDa程度のタンパク質である<ref name="ref3"><pubmed>10949023</pubmed></ref>。最初に発見された、骨格筋で特異的に発現する1型ジャンクトフィリン([[JP-1]])に加え、相同クローニングにより2型~4型ジャンクトフィリン ([[JP-2]]~[[JP-4]]) が発見され、現在までに4種類のサブタイプが同定されている<ref name="ref4"><pubmed>14559359</pubmed></ref>。脳においては、[[JP-3]]およびJP-4が多くの神経細胞に重複して発現分布しており、それぞれ単独のノックアウトマウスでは際立った異常は認められないが、JP-3とJP-4の二重欠損マウスでは、個体、[[シナプス]]、神経細胞レベルでの機能阻害が報告されている<ref name="ref5"><pubmed>18607668</pubmed></ref>。  


== 構造  ==
== 構造  ==
 膜貫通セグメントはカルボキシル末端に1箇所のみ存在し、アミノ末端には[[wikipedia:ja:シグナル配列|シグナル配列]]が存在しない。一方、アミノ末端側には14アミノ酸よりなる[[MORNモチーフ]]と命名された繰り返し配列が8回現れる(図1)。In vitro合成mRNAを注入した[[wikipedia:ja:両生類|両生類]]初期胚の細胞ではJP-1の発現が細胞表層膜直下に[[wikipedia:ja:抗体染色|抗体染色]]法により観察されるが、部分欠損体の発現実験により、このJP-1の細胞表層膜との結合にはMORNモチーフが必要であることが示されている。したがって、MORNモチーフを介して細胞表層膜と結合する一方で、カルボキシル末端側の膜貫通セグメントにおいて小胞体膜を貫通することで、ジャンクトフィリンは両膜を架橋し、結合膜構造の形成に寄与すると考えられている(図2)<ref name="ref3" />。  
 膜貫通セグメントはカルボキシル末端に1箇所のみ存在し、アミノ末端には[[wj:シグナル配列|シグナル配列]]が存在しない。一方、アミノ末端側には14アミノ酸よりなる[[MORNモチーフ]]と命名された繰り返し配列が8回現れる(図1)。In vitro合成mRNAを注入した[[wj:両生類|両生類]]初期胚の細胞ではJP-1の発現が細胞表層膜直下に[[wj:抗体染色|抗体染色]]法により観察されるが、部分欠損体の発現実験により、このJP-1の細胞表層膜との結合にはMORNモチーフが必要であることが示されている。したがって、MORNモチーフを介して細胞表層膜と結合する一方で、カルボキシル末端側の膜貫通セグメントにおいて小胞体膜を貫通することで、ジャンクトフィリンは両膜を架橋し、結合膜構造の形成に寄与すると考えられている(図2)<ref name="ref3" />。  


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== サブタイプ  ==
== サブタイプ  ==
 現在まで、JP-1~JP-4まで、4種類のサブタイプが同定されている。[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]では、アミノ酸数は、JP-1が660、JP-2が696、JP-3が744、JP-4が628であり<ref name="ref4" />、サブタイプ間の相同性は約40%程度である<ref name="ref3" />。[[wikipedia:ja:ウェスタンブロット|ウェスタンブロット]]から推測される分子量は72~95kDaであり、ジャンクトフィリン分子全体的に、アミノ酸数から推測される分子量よりも大きくなる傾向があるが、その原因は解明されていない<ref name="ref4" />。MORN配列、およびカルボキシル末端側の膜貫通領域は、サブタイプ間の相同性がそれぞれ80%、50%と、相対的に高くなっている領域である。しかし、カルボキシル末端側にある膜貫通領域を除けば、MORN配列を含め、相同性の高い部分はアミノ酸番号400番台前半までの部分に集中しており<ref name="ref4" />、C末側の膜貫通領域直前の約250個のアミノ酸配列の相同性は、約6%程度と相対的に低くなっている<ref name="ref3" />。マウスジャンクトフィリンの各サブタイプにおけるアミノ酸配列の具体的な相違については、Nishi et al. 2003<ref name="ref4" />を参照されたい。  
 現在まで、JP-1~JP-4まで、4種類のサブタイプが同定されている。[[wj:マウス|マウス]]では、アミノ酸数は、JP-1が660、JP-2が696、JP-3が744、JP-4が628であり<ref name="ref4" />、サブタイプ間の相同性は約40%程度である<ref name="ref3" />。[[wj:ウェスタンブロット|ウェスタンブロット]]から推測される分子量は72~95kDaであり、ジャンクトフィリン分子全体的に、アミノ酸数から推測される分子量よりも大きくなる傾向があるが、その原因は解明されていない<ref name="ref4" />。MORN配列、およびカルボキシル末端側の膜貫通領域は、サブタイプ間の相同性がそれぞれ80%、50%と、相対的に高くなっている領域である。しかし、カルボキシル末端側にある膜貫通領域を除けば、MORN配列を含め、相同性の高い部分はアミノ酸番号400番台前半までの部分に集中しており<ref name="ref4" />、C末側の膜貫通領域直前の約250個のアミノ酸配列の相同性は、約6%程度と相対的に低くなっている<ref name="ref3" />。マウスジャンクトフィリンの各サブタイプにおけるアミノ酸配列の具体的な相違については、Nishi et al. 2003<ref name="ref4" />を参照されたい。  


== 発現分布  ==
== 発現分布  ==
 ジャンクトフィリンは興奮性細胞において、各サブタイプの発現が見られる。JP-1は骨格筋特異的に発現が見られる。JP-2は[[wikipedia:ja:心臓|心臓]]と骨格筋で発現レベルが特に高いほか、[[wikipedia:ja:消化管|消化管]]や[[wikipedia:ja:気管|気管]]の[[wikipedia:ja:平滑筋|平滑筋]]でも発現が確認され、筋細胞全般に分布すると推測される<ref name="ref3" />。
 ジャンクトフィリンは興奮性細胞において、各サブタイプの発現が見られる。JP-1は骨格筋特異的に発現が見られる。JP-2は[[wj:心臓|心臓]]と骨格筋で発現レベルが特に高いほか、[[wj:消化管|消化管]]や[[wj:気管|気管]]の[[wj:平滑筋|平滑筋]]でも発現が確認され、筋細胞全般に分布すると推測される<ref name="ref3" />。


 一方、JP-3、JP-4の発現は脳に限局的であり、両者の発現部位には重複性が見られるが<ref name="ref4" />、このことは、後述のノックアウトマウアスの表現型において、JP-3、JP-4それぞれの単独ノックアウトマウスでは顕著な異常が現れないことと互いに矛盾しない。脳内におけるJP-3、JP-4の発現レベルには部位による違いが見られ、[[海馬]]の[[CA1]]~[[CA3]]領域や[[歯状回]]、[[小脳]][[顆粒細胞層]]などでは、JP-3、JP-4ともに高レベルの発現が見られる。尚、JP-3、JP-4の脳内分布に関する詳細については、Nishi et al. (2003)<ref name="ref4" />を参考にされたい。
 一方、JP-3、JP-4の発現は脳に限局的であり、両者の発現部位には重複性が見られるが<ref name="ref4" />、このことは、後述のノックアウトマウアスの表現型において、JP-3、JP-4それぞれの単独ノックアウトマウスでは顕著な異常が現れないことと互いに矛盾しない。脳内におけるJP-3、JP-4の発現レベルには部位による違いが見られ、[[海馬]]の[[CA1]]~[[CA3]]領域や[[歯状回]]、[[小脳]][[顆粒細胞層]]などでは、JP-3、JP-4ともに高レベルの発現が見られる。尚、JP-3、JP-4の脳内分布に関する詳細については、Nishi et al. (2003)<ref name="ref4" />を参考にされたい。
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=== JP-1欠損マウス ===
=== JP-1欠損マウス ===


 [[wikipedia:ja:母乳|母乳]]を吸うことが出来ず、出生24時間以内に死亡する新生致死性を示す。JP-1欠損骨格筋では、[[wikipedia:ja:電子顕微鏡|電子顕微鏡]]観察により、結合膜構造 (triad junction) の形成不全が見とめられる。また張力測定では、JP-1欠損骨格筋はほぼ正常な最大張力を示すが、刺激頻度と発生張力とのプロットが正常なものより高頻度側にシフトしている。したがって、結合膜構造の形成不全により、L型カルシウムチャネルとRyR1との機能的カップリングに不備が生じて、興奮収縮連関の効率が低下しているものと考えられる<ref><pubmed>11535622</pubmed></ref>。  
 [[wj:母乳|母乳]]を吸うことが出来ず、出生24時間以内に死亡する新生致死性を示す。JP-1欠損骨格筋では、[[wj:電子顕微鏡|電子顕微鏡]]観察により、結合膜構造 (triad junction) の形成不全が見とめられる。また張力測定では、JP-1欠損骨格筋はほぼ正常な最大張力を示すが、刺激頻度と発生張力とのプロットが正常なものより高頻度側にシフトしている。したがって、結合膜構造の形成不全により、L型カルシウムチャネルとRyR1との機能的カップリングに不備が生じて、興奮収縮連関の効率が低下しているものと考えられる<ref><pubmed>11535622</pubmed></ref>。  


=== JP-2欠損マウス ===
=== JP-2欠損マウス ===


 受精後9.5日には心臓拍動の減弱が確認され、その翌日頃には心停止に至る、胎生致死が見とめられる。JP-2欠損心筋細胞では、細胞表層膜と[[wikipedia:ja:筋小胞体|筋小胞体]]膜が近接した結合膜構造であるperipheral couplingの形成が極端に減少しており、このことに由来すると推測される心筋細胞内カルシウム濃度の一過的上昇([[カルシウムトランジェント]])の異常により、心不全となる<ref name="ref3" />。  
 受精後9.5日には心臓拍動の減弱が確認され、その翌日頃には心停止に至る、胎生致死が見とめられる。JP-2欠損心筋細胞では、細胞表層膜と[[wj:筋小胞体|筋小胞体]]膜が近接した結合膜構造であるperipheral couplingの形成が極端に減少しており、このことに由来すると推測される心筋細胞内カルシウム濃度の一過的上昇([[カルシウムトランジェント]])の異常により、心不全となる<ref name="ref3" />。  


=== JP-3欠損マウス、JP-4欠損マウス ===
=== JP-3欠損マウス、JP-4欠損マウス ===

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