「抗不安薬」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
115行目: 115行目:
 服用後の[[健忘]](amnesia)([[前向性健忘]])(anterograde amnesia)が認められる。Barkerらによるメタ解析によると、ベンゾジアゼピン系薬服用者は、非服用者と比較して、[[認知的タスク]]、特に[[言語性記憶]](verbal memory)の領域が障害されていた。なお、ベンゾジアゼピン系薬を中止して6ヶ月後に認知機能がすべての領域において改善したが、過去にベンゾジアゼピン系薬を常用していた者は非服用者と比較して、認知的タスクの多くで劣り、特に言語性記憶の領域では障害が認められていた<ref name=ref18><pubmed>14731058</pubmed></ref>。認知機能障害が消失するまでには、かなりの期間が必要ということになる。
 服用後の[[健忘]](amnesia)([[前向性健忘]])(anterograde amnesia)が認められる。Barkerらによるメタ解析によると、ベンゾジアゼピン系薬服用者は、非服用者と比較して、[[認知的タスク]]、特に[[言語性記憶]](verbal memory)の領域が障害されていた。なお、ベンゾジアゼピン系薬を中止して6ヶ月後に認知機能がすべての領域において改善したが、過去にベンゾジアゼピン系薬を常用していた者は非服用者と比較して、認知的タスクの多くで劣り、特に言語性記憶の領域では障害が認められていた<ref name=ref18><pubmed>14731058</pubmed></ref>。認知機能障害が消失するまでには、かなりの期間が必要ということになる。


 精神運動性の遂行能力低下、実行速度の低下も見られる。同じ[[wikipedia:ja:メタ解析|メタ解析]]でも、ベンゾジアゼピン系薬は有意に交通事故を増加させることが判明している<ref name=ref18><pubmed>14731058</pubmed></ref>。ベンゾジアゼピン系薬の服用により、事故やけがの危険性が増すともされている<ref name=ref3 />。全ての抗不安薬の添付文書には、「自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させない」との記載がある。なおTsunodaら<ref name=ref19><pubmed>20054834</pubmed></ref>は、[[睡眠]]薬ではあるが高齢者においてベンゾジアゼピン系薬を漸減し、ほぼ中止することによって認知機能の改善を見たと報告している。
 精神運動性の遂行能力低下、実行速度の低下も見られる。同じ[[wikipedia:ja:メタ解析|メタ解析]]でも、ベンゾジアゼピン系薬は有意に交通事故を増加させることが判明している<ref name=ref18><pubmed>14731058</pubmed></ref>。ベンゾジアゼピン系薬の服用により、事故やけがの危険性が増すともされている<ref name=ref3 />。全ての抗不安薬の添付文書には、「自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させない」との記載がある。なおTsunodaら<ref name=ref20><pubmed>20054834</pubmed></ref>は、[[睡眠]]薬ではあるが高齢者においてベンゾジアゼピン系薬を漸減し、ほぼ中止することによって認知機能の改善を見たと報告している。


 またアルコールとの併用でこうした障害がより悪化することもあるため、アルコールは控えさせる必要がある。
 またアルコールとの併用でこうした障害がより悪化することもあるため、アルコールは控えさせる必要がある。
127行目: 127行目:
paradoxical reaction
paradoxical reaction


 ごくまれにベンゾジアゼピン系薬を投与するとかえって不安、 緊張が高まり、興奮や攻撃性が増すことがある。この奇異反応は、高用量を用いた場合に起こりやすいが、 特に若年者においての報告が多い<ref name=ref20><pubmed>20054834</pubmed></ref> <ref name=ref15 />。また、脱抑制(disinhibition)が生じ、興奮や過活動が生じることもある。その頻度はベンゾジアゼピン系薬服用者の1%未満から20%までと幅があり、患者背景やアルコールとの併用によって影響される<ref name=ref3 />。
 ごくまれにベンゾジアゼピン系薬を投与するとかえって不安、 緊張が高まり、興奮や攻撃性が増すことがある。この奇異反応は、高用量を用いた場合に起こりやすいが、 特に若年者においての報告が多い<ref name=ref21><pubmed>12779114</pubmed></ref> <ref name=ref15 />。また、脱抑制(disinhibition)が生じ、興奮や過活動が生じることもある。その頻度はベンゾジアゼピン系薬服用者の1%未満から20%までと幅があり、患者背景やアルコールとの併用によって影響される<ref name=ref3 />。


== セロトニン<sub>1A</sub>受容体部分作動薬 ==
== セロトニン<sub>1A</sub>受容体部分作動薬 ==
138行目: 138行目:


===作用機序===
===作用機序===
 セロトニン系抗不安薬の作用機序はベンゾジアゼピン系薬のそれとは全く異なる。セロトニン([[5-HT]])受容体のサブタイプの1つである5-HT<sub>1A</sub>受容体は、セロトニン系神経細胞の細胞体や樹状突起に存在し、セロトニンや5-HT<sub>1A</sub>受容体アゴニストの刺激により、[[cAMP]]合成を抑制し、[[Gタンパク質]]に共役した[[K+イオンチャネル|K<sup>+</sup>[[イオンチャネル]]|]]を刺激することで、神経細胞の過分極を引き起こす<ref name=ref21><pubmed>12779114</pubmed></ref>。前[[シナプス]]5-HT<sub>1A</sub>受容体は[[自己受容体]]であり、これが刺激されると[[セロトニン神経]]伝達は抑制される。一方、後シナプス5-HT<sub>1A</sub>受容体が刺激されると、5-HT<sub>1A</sub>受容体を介したセロトニン神経伝達は促進される。セロトニン系抗不安薬は、主に縫線核や扁桃体、海馬などの前シナプスの5-HT<sub>1A</sub>自己受容体に部分アゴニストとして作用することで抗不安効果を発揮する<ref name=ref11 /> <ref name=ref7 />。
 セロトニン系抗不安薬の作用機序はベンゾジアゼピン系薬のそれとは全く異なる。セロトニン([[5-HT]])受容体のサブタイプの1つである5-HT<sub>1A</sub>受容体は、セロトニン系神経細胞の細胞体や樹状突起に存在し、セロトニンや5-HT<sub>1A</sub>受容体アゴニストの刺激により、[[cAMP]]合成を抑制し、[[Gタンパク質]]に共役した[[K+イオンチャネル|K<sup>+</sup>[[イオンチャネル]]|]]を刺激することで、神経細胞の過分極を引き起こす<ref name=ref22><pubmed>11888546</pubmed></ref>。前[[シナプス]]5-HT<sub>1A</sub>受容体は[[自己受容体]]であり、これが刺激されると[[セロトニン神経]]伝達は抑制される。一方、後シナプス5-HT<sub>1A</sub>受容体が刺激されると、5-HT<sub>1A</sub>受容体を介したセロトニン神経伝達は促進される。セロトニン系抗不安薬は、主に縫線核や扁桃体、海馬などの前シナプスの5-HT<sub>1A</sub>自己受容体に部分アゴニストとして作用することで抗不安効果を発揮する<ref name=ref11 /> <ref name=ref7 />。


== 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 ==
== 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 ==
169行目: 169行目:


{| class="wikitable"
{| class="wikitable"
|+ 表4.不安障害治療に用いる薬物の比較<br>(天野ら, 2009を一部改変して引用)
|+ 表4.不安障害治療に用いる薬物の比較<br>(天野ら, 2009<ref name=ref23>'''天野雄平、塩入俊樹'''<br>【不安障害の生物学的基盤と薬物療法】 全般性不安障害(GAD)の生物学的基盤と薬物療法(解説/特集)<br>''臨床精神薬理'' : 2009、12(9);1905-1914</ref>を一部改変して引用)
|-
|-
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | 薬物
| style="background-color:#d3d3d3; text-align:center" | 薬物
3

回編集

案内メニュー