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==投射ニューロンと介在ニューロン== | ==投射ニューロンと介在ニューロン== | ||
[[ニューロン]]は[[細胞体]]と、外部から入力を受ける[[樹状突起]](dendrite)ならびに出力を担う[[軸索]](axon)から構成される。中枢神経ニューロンは軸索投射様式から、投射ニューロンと[[介在ニューロン]]に分類される。投射ニューロン [または主ニューロン(principal neuron)]は、軸索をそのニューロンが属している神経集団([[神経核]]や[[大脳皮質]]領野など)の中だけに限局せず遠方にも伸ばし、異なる領域間の情報伝達を担うニューロンである。一方、同じ神経集団の中でのみ軸索を広げ、近傍ニューロンとだけ情報伝達を行うものを介在ニューロン(interneuron)と呼ぶ。 | |||
投射ニューロンでは、感覚入力のように末梢から中枢、下位から上位中枢方向へ向かう投射を[[求心性]](afferent)または[[上行性]] (ascending)、運動出力のように逆に向かう投射を[[遠心性]] (efferent) または[[下行性]] (descending) と呼ぶ。 | |||
==中枢神経系の主な投射ニューロン== | ==中枢神経系の主な投射ニューロン== | ||
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細胞の形態はNeuroMorpho.Orgデータベースより引用した<ref name=ref2><pubmed>17728438</pubmed></ref>。スケールバー、50 μm。]] | 細胞の形態はNeuroMorpho.Orgデータベースより引用した<ref name=ref2><pubmed>17728438</pubmed></ref>。スケールバー、50 μm。]] | ||
投射ニューロンの[[神経伝達物質]](neurotransmitter)は領域ごとに異なるが、[[グルタミン酸]]や[[γ-アミノ酪酸]]([[GABA]], γ-amino butyric acid)が使われ、投射先のニューロンを直接に[[脱分極]]または[[過分極]]させることが多い<ref name=ref1>'''McCormick DA'''<br>Membrane properties and neurotransmitter actions. <br>In: The synaptic organization of the brain 5th ed.(Shepherd GM ed). pp39–78. ''Oxford University Press'', 2004</ref>。 | |||
一方、[[脳幹]](brainstem)にある投射ニューロンの中には、[[アセチルコリン]]、[[ドーパミン]]、[[ノルアドレナリン]]、[[セロトニン]]を拡散的に放出する[[拡散性伝達]]([[volume transmission]])を介し、広範囲な脳活動を調節する汎性投射系([[脳幹網様体賦活系]]の項目を参照)タイプのものがある。これらはその機能から、[[神経調節物質]](neuromodulator)と呼ばれることもある。汎性投射系は[[認知]]や[[覚醒]]レベルに影響するものが多く、神経疾患や[[精神疾患]]に対する薬物治療の標的となる。以下に、主な中枢神経系の投射ニューロンを説明する。 | |||
===グルタミン酸作動性=== | ===グルタミン酸作動性=== | ||
glutamatergic | |||
中枢神経系で速い興奮性伝達を担い、脳の広範囲で主に投射ニューロンとして機能する。軸索終末から放出されたグルタミン酸は、[[シナプス後膜]]の[[グルタミン酸受容体]]に結合し、脱分極や細胞内[[カルシウム]]上昇を引き起こす。このような興奮性入力が積算されることで、標的ニューロンに[[活動電位]]が誘起される。 | |||
代表的なグルタミン酸作動性の投射ニューロンとして、大脳[[新皮質]](neocortex)、[[海馬]](hippocampus)や[[扁桃体]][[外側基底核]](basolateral nucleus of amygdala)の[[錐体細胞]](pyramidal cell)、[[嗅球]](olfactory bulb)の[[僧帽細胞]](mitral cell)・[[房飾細胞]](tufted cell)や、[[視床]]の[[中継細胞]](relay cell)などがある(図1)<ref name=ref3 /> <ref name=ref4 /> <ref name=ref5 /> <ref name=ref6 /> <ref name=ref7 /> <ref name=ref2 />。 | |||
同一領域のグルタミン酸作動性投射ニューロンであっても、その投射先が多様なことがある。特に新皮質の錐体細胞では、同じ皮質領野であっても深さによって(層ごとに)軸索の行き先が異なる。第2/ | 同一領域のグルタミン酸作動性投射ニューロンであっても、その投射先が多様なことがある。特に新皮質の錐体細胞では、同じ皮質領野であっても深さによって(層ごとに)軸索の行き先が異なる。第2/3層の錐体細胞が他の皮質領野に投射する一方、それに加えて第5層では[[線条体]](striatum)、視床(thalamus)、[[橋核]](pontine nuclei)や脊髄(spinal cord)へ、第6層では視床へ投射する錐体細胞が見られる(錐体細胞の項目を参照)<ref name=ref8><pubmed>15217339</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>20556241</pubmed></ref> <ref name=ref10>'''Kawaguchi Y.'''<br> | ||
Hierarchical organization of neocortical neuron types. In: Cortical Development<br>(Kageyama R, Yamamori T, eds), pp181–202. ''Springer Japan'', 2013</ref>。 | Hierarchical organization of neocortical neuron types. In: Cortical Development<br>(Kageyama R, Yamamori T, eds), pp181–202. ''Springer Japan'', 2013</ref>。 | ||
===GABA作動性=== | ===GABA作動性=== | ||
GABAergic | |||
中枢神経系で速い抑制性伝達を担う。GABA作動性のニューロンは主に介在ニューロンとして機能するが、投射ニューロンとして働くものもある。代表的なGABA作動性の投射ニューロンとして、大脳基底核(basal ganglia)の入力部である線条体や[[側坐核]](nucleus accumbens)に分布する[[中型有棘細胞]] (medium spiny neuron) <ref name=ref11><pubmed>2585039</pubmed></ref> <ref name=ref12 />、[[小脳]]皮質(cerebellar cortex)からの唯一の出力として[[深部小脳核]](deep cerebellar nuclei)へ投射する[[プルキンエ細胞]](Purkinje cell)がある(図1)<ref name=ref13><pubmed>5910941</pubmed></ref> <ref name=ref14><pubmed>16759785</pubmed></ref> <ref name=ref15 />。また、近年、これまで介在ニューロンだと考えられてきた大脳皮質の一部のGABA作動性ニューロンが、投射ニューロンとしての性質を持ち合わせ、皮質領域間の投射に関与する可能性が示唆されている<ref name=ref16><pubmed>21151790</pubmed></ref> <ref name=ref17><pubmed>23394773</pubmed></ref>。 | |||
GABA作動性投射ニューロンは、直接的な抑制作用で標的ニューロンの発火を抑えるだけでなく、[[脱抑制]](disinhibition)や[[リバウンド発火]](rebound spike)によって、投射領域のニューロンに発火を誘発する場合がある<ref name=ref18><pubmed>1695403</pubmed></ref> <ref name=ref19><pubmed>20007467</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>22198670</pubmed></ref> <ref name=ref21><pubmed>23970855</pubmed></ref>。 | |||
脱抑制では、GABA作動性投射ニューロンが投射領域で抑制性介在ニューロンを抑制することで、間接的に他のニューロンを興奮させる。リバウンド発火では、標的ニューロンで一過性の過分極に引き続いて、発火が起きる。GABA作動性遠隔投射は、その投射ごとに固有の方法で領域間情報を伝えている可能性がある。 | |||
===コリン作動性=== | ===コリン作動性=== | ||
cholinergic | |||
アセチルコリンを伝達物質とするコリン作動性投射の主要な起始核は、前脳では[[前脳基底部]](basal forebrain)の[[マイネルト基底核]](nucleus basalis of Meynert)や[[中隔核]] (septal nucleus)がある。これらは大脳新皮質や海馬に広く投射し、[[アセチルコリン受容体]]を介して錐体細胞の細胞内カルシウム上昇と発火頻度の上昇を引き起こす。一方、錐体細胞が既に高頻度で発火している状態では、アセチルコリン受容体の活性化による細胞内カルシウム上昇は[[電位・カルシウム依存性カリウムチャネル]]の活性化を引き起こし、膜の興奮性を抑制する(cholinergic inhibition)ことが知られている<ref name=ref22><pubmed>14695351</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>16267239</pubmed></ref>。 | |||
脳幹の[[脚橋被蓋核]] | 脳幹の[[脚橋被蓋核]](pedunculopontine tegmental nucleus)(図1)<ref name=ref24 />と[[背外側被蓋核]](laterodorsal tegmental nucleus)にあるコリン作動性ニューロンは、線条体、側坐核、[[黒質]](substantia nigra)や視床へ投射する。線条体・側坐核・黒質への投射が運動機能や動機付けに、視床への投射は覚醒状態の調節に関与すると考えられている<ref name=ref25><pubmed>24671996</pubmed></ref> <ref name=ref26><pubmed>2388079</pubmed></ref>。 | ||
コリン作動性の広領域投射は運動機能、覚醒状態や認知・学習などに関係し、その障害は[[アルツハイマー病]] | コリン作動性の広領域投射は運動機能、覚醒状態や認知・学習などに関係し、その障害は[[アルツハイマー病]](Alzheimer's disease)や[[パーキンソン病]](Parkinson's disease)の病態と関与することから、これら疾患の治療薬の標的になっている。 | ||
また、中枢神経系で唯一神経以外の組織とシナプス結合する脊髄の[[運動ニューロン]](motor neuronまたはmotoneuron)(図1)<ref name=ref27 />もコリン作動性ニューロンである。[[神経筋接合部]](neuromuscular | また、中枢神経系で唯一神経以外の組織とシナプス結合する脊髄の[[運動ニューロン]](motor neuronまたはmotoneuron)(図1)<ref name=ref27 />もコリン作動性ニューロンである。[[神経筋接合部]](neuromuscular junction)を介して筋の[[運動終板]](end plate)へ投射し、アセチルコリンを放出することで筋収縮を引き起こす。 | ||
===モノアミン作動性=== | ===モノアミン作動性=== | ||
monoaminergic | |||
モノアミンを伝達物質として用いる投射ニューロンは[[ドーパミン]]作動性(dopaminergic)、[[ノルアドレナリン]]作動性(noradrenergic)、[[セロトニン]]作動性(serotonergic)ニューロンに分類でき、それぞれ脳の異なる神経核に局在している。[[中脳]]の[[黒質緻密部]](substantia nigra pars compacta)のドーパミン作動性ニューロン(図1)<ref name=ref28 />は大脳基底核への投射を介して運動発現の調節に関与する。パーキンソン病ではこれらが選択的に脱落していることが知られている。[[報酬]]や意思決定の表現にも重要な役割を持つと言われており、[[腹側被蓋野]](ventral tegmental area)のドーパミン作動性ニューロンの発火活動は予測した報酬と実際に得られた報酬の誤差([[報酬予測誤差]]、reward prediction error)を表現することが示唆されている<ref name=ref29><pubmed>9054347</pubmed></ref> <ref name=ref30><pubmed>26322583</pubmed></ref>。 | |||
主に橋の[[青斑核]] | 主に橋の[[青斑核]](locus coeruleus)に局在するノルアドレナリン作動性ニューロンの活動性は、覚醒や[[注意]]に関与する。[[ノルアドレナリン再取り込み阻害薬]]が[[抗鬱剤]]の一種として用いられるように、気分の形成にも重要な役割を持つ。 | ||
中脳、橋、延髄(medulla oblongata)の[[縫線核]](raphe nucleus)群に局在するセロトニン作動性投射ニューロンの発射は覚醒状態の維持に寄与する。また、気分の安定にも寄与することから、シナプスに作用するセロトニン量を上げる目的で、セロトニンの再取り込み阻害薬が抗鬱剤の一種として用いられている。 | 中脳、橋、延髄(medulla oblongata)の[[縫線核]](raphe nucleus)群に局在するセロトニン作動性投射ニューロンの発射は覚醒状態の維持に寄与する。また、気分の安定にも寄与することから、シナプスに作用するセロトニン量を上げる目的で、セロトニンの再取り込み阻害薬が抗鬱剤の一種として用いられている。 | ||
===ヒスタミン作動性=== | ===ヒスタミン作動性=== | ||
histaminergic | |||
[[視床下部]] | [[視床下部]](hypothalamus)の[[結節乳頭核]](tuberomammillary nucleus)は[[ヒスタミン]]作動性ニューロンを多く含む<ref name=ref31><pubmed>1846044</pubmed></ref>。これらのニューロンから大脳皮質への投射は直接的に皮質を活性化し、覚醒度を増加させる。また、前脳基底部などのコリン作動性ニューロンへの投射を介して大脳皮質へアセチルコリンを放出することにより、間接的に同様の作用を持つ。このため、アレルギー反応への対処として[[抗ヒスタミン]]薬を服用することで、眠気やふらつきなどの副作用が引き起こされる。 | ||
==多領域間を繋ぐ興奮・抑制投射のループ回路== | ==多領域間を繋ぐ興奮・抑制投射のループ回路== | ||
[[汎性投射系]]は広領域投射と拡散性伝達によって、複数の標的領域の活動を同時に調節することが考えられる。一方、グルタミン酸やGABA作動性の投射ニューロンは、領域間の相互結合や連鎖(ループ)結合によって、行動や認知機能を担っている。以下、グルタミン酸やGABA作動性の投射ニューロンを含む代表的な回路例を示す。 | |||
===大脳新皮質‐大脳基底核ループ回路=== | ===大脳新皮質‐大脳基底核ループ回路=== | ||
大脳新皮質からの出力が大脳基底核、視床を経て、再び大脳新皮質に入力されるループ回路が形成されている。大脳新皮質5層の錐体細胞の一群は大脳基底核の入力部である線条体に投射する。線条体の中型有棘細胞からの出力は直接、または[[淡蒼球外節]](external segment of globus pallidus)や[[視床下核]](subthalamic nucleus)を介して間接的に[[淡蒼球内節]](internal segment of globus pallidus)や[[黒質網様部]](substantia nigra pars reticulate)へ送られる。また、大脳皮質から視床下核への投射を介して、淡蒼球内節や黒質網様部に入力する経路も報告されている。これら大脳基底核の出力部の投射ニューロンはGABA作動性であるため、視床の中継細胞は大脳基底核からの抑制性出力を大脳皮質へ中継する<ref name=ref32><pubmed>10719151</pubmed></ref> <ref name=ref33>'''Jones EG.'''<br>The thalamus. 2nd ed.<br>Cambridge (UK): ''Cambridge University Press'', 2007</ref> <ref name=ref34><pubmed>19081243</pubmed></ref> <ref name=ref35><pubmed>23754982</pubmed></ref>。 | |||
===大脳新皮質‐小脳ループ回路=== | ===大脳新皮質‐小脳ループ回路=== | ||
大脳新皮質からの出力が橋核、小脳、視床を経て、再び大脳皮質に入力されるループ回路が形成されている。大脳新皮質5層の錐体細胞の一群からの出力は錐体路を下行して、橋核でシナプスを介した後、[[苔状線維]](mossy fiber)によって小脳皮質に送られる。小脳皮質のプルキンエ細胞からの抑制性出力を受ける深部小脳核ニューロンはグルタミン酸作動性の投射ニューロンであるため、視床の中継細胞は小脳からの興奮性出力を大脳皮質へ中継する<ref name=ref32 /> <ref name=ref33 /> <ref name=ref35 /> <ref name=ref36><pubmed>1253863</pubmed></ref>。 | |||
==標識技術による投射ニューロンの構造・機能解明== | ==標識技術による投射ニューロンの構造・機能解明== | ||
中枢神経ニューロンの投射様式は、[[神経トレーサー]]と呼ばれる軸索輸送される化学物質や、無毒化あるいは弱毒化したウイルスを使って調べることができる。標識は細胞体から軸索終末への輸送による[[順行性]](anterograde)のものと、軸索終末から細胞体への輸送による[[逆行性]](retrograde)のものがあり、前者の方法では投射先での軸索分布を、後者では投射ニューロンの細胞体分布を明らかにすることができる<ref name=ref37><pubmed>10856608</pubmed></ref> <ref name=ref38><pubmed>17659350</pubmed></ref>。投射ニューロンのシナプス伝達作用は、起始領域を電気刺激、あるいは起始投射ニューロンを選択的に光刺激し、投射先でのシナプス後ニューロンの活動変化を調べることで推測できる。 | |||
近年、領域特異的、さらには細胞種特異的に発現する遺伝子が数多く見つかってきている(外部リンクを参照)。このような遺伝子の選択的発現を使って、特定の投射ニューロンを選択的に標識したり光応答性の機能タンパク質を導入することで、それぞれのニューロンの出力様式や機能の解明が進んでいる([[光遺伝学]]の項目を参照)<ref name=ref39><pubmed>26308982</pubmed></ref>。 | 近年、領域特異的、さらには細胞種特異的に発現する遺伝子が数多く見つかってきている(外部リンクを参照)。このような遺伝子の選択的発現を使って、特定の投射ニューロンを選択的に標識したり光応答性の機能タンパク質を導入することで、それぞれのニューロンの出力様式や機能の解明が進んでいる([[光遺伝学]]の項目を参照)<ref name=ref39><pubmed>26308982</pubmed></ref>。 |