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 上述のパターン形成で議論した細胞はすべて前駆細胞であり、機能的神経細胞に分化するには[[Neurogenin]]などの神経化転写因子が必要である。最近、Olig2が[[Hes1]],[[Hes5]]という転写因子の発現抑制を介してNeurogenin2の発現を誘導するという転写制御システムが提唱されるようになった。
 上述のパターン形成で議論した細胞はすべて前駆細胞であり、機能的神経細胞に分化するには[[Neurogenin]]などの神経化転写因子が必要である。最近、Olig2が[[Hes1]],[[Hes5]]という転写因子の発現抑制を介してNeurogenin2の発現を誘導するという転写制御システムが提唱されるようになった。


== 蓋板(Roof plate; RP)から分泌されるWnt、BMPによる背側神経管細胞の分化方向の決定と、濃度勾配の必要性 ==
== 蓋板から分泌されるWnt、BMPによる背側神経管細胞の分化方向の決定と、濃度勾配の必要性 ==
神経管の背側については、各領域に特異的に発現する遺伝子があまり同定されていないこともあり、蓋板から分泌される因子と個々の領域に発現する転写因子との関係は、腹側神経領域ほどは詳細に知られていない。しかし、主にWnt/BMPシグナルと背側神経管の領域決定の関係について、ノックアウトマウスやニワトリ胚を用いた研究が進んでいる。
 神経管の背側については、各領域に特異的に発現する遺伝子があまり同定されていないこともあり、蓋板(Roof plate; RP)から分泌される因子と個々の領域に発現する転写因子との関係は、腹側神経領域ほどは詳細に知られていない。しかし、主にWnt/BMPシグナルと背側神経管の領域決定の関係について、[[ノックアウト]][[マウス]]や[[ニワトリ]]胚を用いた研究が進んでいる。
まず、そもそも蓋板領域が背側神経管のパターン形成に必須であることが、蓋板領域を遺伝的に破壊したマウスで示されている19。次に、蓋板に発現する遺伝子として、Wnt1/3Aのほか、BMP4/5/6/7、さらにBMPと同じくTGFファミリーに属するGDF7があり、これらが背側神経管のパターン形成に必須の役割を果たしている19 ,20-22。Wnt1/3Aのダブルノックアウトマウスでは、dI1、dI2領域が消失し、逆にdI3領域が拡大する。23。このノックアウトマウスではBMPの濃度勾配の形成は影響を受けないことから、WntとBMPが独立に濃度勾配を形成することが示唆される。また、ノックアウトマウスの表現型からは、Wntは背腹軸全体のパターン形成に関与するのではなく、背側神経管内(dP1-dP3)のバランス維持に重要であることが示唆される。また、Wnt1/3aシグナルは、Shhシグナルの仲介因子であるGli3の発現に必須であるため21、WntはShhシグナルを、(たんぱく質同士の直接の相互作用ではなく)転写を介して制御していると言える。
 
 まず、そもそも蓋板領域が背側神経管のパターン形成に必須であることが、蓋板領域を遺伝的に破壊したマウスで示されている<ref name=Lee2000><pubmed>10693795</pubmed></ref>19。次に、蓋板に発現する遺伝子として、Wnt1/3Aのほか、BMP4/5/6/7、さらにBMPと同じくTGFβファミリーに属する[[GDF7]]があり、これらが背側神経管のパターン形成に必須の役割を果たしている<ref name=Lee2000 />19 ,20-22。Wnt1/3Aのダブルノックアウトマウスでは、dI1、dI2領域が消失し、逆にdI3領域が拡大する。23。このノックアウトマウスではBMPの濃度勾配の形成は影響を受けないことから、WntとBMPが独立に濃度勾配を形成することが示唆される。また、ノックアウトマウスの表現型からは、Wntは背腹軸全体のパターン形成に関与するのではなく、背側神経管内(dP1-dP3)のバランス維持に重要であることが示唆される。また、Wnt1/3aシグナルは、Shhシグナルの仲介因子であるGli3の発現に必須であるため21、WntはShhシグナルを、(たんぱく質同士の直接の相互作用ではなく)転写を介して制御していると言える。
 一方、蓋板に発現するBMPシグナル分子に関しては、少なくともBMP4/5/6/7が発現しているほか、これらと同様にTGFスーパーファミリーに属するGDF7が存在する19-21。BMPシグナルを全体をブロックするためにBMPレセプターのノックアウトが行われており、このノックアウトマウスはdI1/dI2領域が欠損することが明らかになっている24が、Wnt1/3aは(若干発現量が減少するものの)発現は維持されている。また、GDF7のノックアウトマウスでは背側の介在神経前駆細胞(dP1-dP6; 図2A)のほとんどの分化が抑制されるが、Wnt1/3aの発現は影響を受けていない25。したがって、WntとBMPはいずれも背側神経管のパターン形成に重要だが、互いの発現には大きな影響を及ぼさず、独立に背側のパターン形成に役割を担っていると考えられる。
 一方、蓋板に発現するBMPシグナル分子に関しては、少なくともBMP4/5/6/7が発現しているほか、これらと同様にTGFスーパーファミリーに属するGDF7が存在する19-21。BMPシグナルを全体をブロックするためにBMPレセプターのノックアウトが行われており、このノックアウトマウスはdI1/dI2領域が欠損することが明らかになっている24が、Wnt1/3aは(若干発現量が減少するものの)発現は維持されている。また、GDF7のノックアウトマウスでは背側の介在神経前駆細胞(dP1-dP6; 図2A)のほとんどの分化が抑制されるが、Wnt1/3aの発現は影響を受けていない25。したがって、WntとBMPはいずれも背側神経管のパターン形成に重要だが、互いの発現には大きな影響を及ぼさず、独立に背側のパターン形成に役割を担っていると考えられる。
 それでは濃度の勾配は重要であろうか。実際には、WntやBMPの濃度勾配が背側神経管のパターン形成に必須であるというデータがある23,26 。その一方最近、濃度勾配よりもシグナル因子の種類そのものの違いが細胞の分化方向を決定している(例えばBMP4 はdI1を強く誘導する一方で、BMP5はdI3を、BMP6とGDF7はdI1とdI3の分化を誘導する)という主張も存在する。したがって、蓋板から発現する様々なBMP/Wnt因子が独立に濃度勾配を形成し、その組み合わせが領域の多様性を生み出すと考えられる。
 それでは濃度の勾配は重要であろうか。実際には、WntやBMPの濃度勾配が背側神経管のパターン形成に必須であるというデータがある23,26 。その一方最近、濃度勾配よりもシグナル因子の種類そのものの違いが細胞の分化方向を決定している(例えばBMP4 はdI1を強く誘導する一方で、BMP5はdI3を、BMP6とGDF7はdI1とdI3の分化を誘導する)という主張も存在する。したがって、蓋板から発現する様々なBMP/Wnt因子が独立に濃度勾配を形成し、その組み合わせが領域の多様性を生み出すと考えられる。

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