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英語名:telencephalon 仏:le télencéphale 独:Telenzephalon | 英語名:telencephalon 仏:le télencéphale 独:Telenzephalon | ||
{{box|text= | {{box|text= 終脳は神経管の最も吻側から形成される脳である。発生途中の胚の背側において、脊索からの誘導を受けて外胚葉から神経板が形成され、つづいて神経板の正中に生じる神経溝に沿って神経板は内側に陥入し、神経板の左右が癒着して神経管が形成される。初期の脳の形成では、神経管の前方において3箇所が膨らみ、前脳胞、中脳胞、菱脳胞の3つの脳胞とそれに続く神経管を肉眼的に認める(3脳胞期)。その後、前脳胞は終脳胞と間脳胞に、菱脳胞は後脳胞と髄脳胞に分かれ、尾方の神経管は脊髄となる(5脳胞期)。神経管の最吻側は前脳胞(間脳胞)の第三脳室終板であり、終脳胞は前脳胞が左右側方に膨らみ形成される。終脳胞から、ヒトでは発生とともに背側から後方に膨らみが形成され後頭葉が生じ、さらに終脳胞は弧状に回転して腹側から前方に伸展して側頭葉を形成する。終脳胞は最終的に大脳となることから、終脳は大脳と同等の意味を持つ。}} | ||
}} | |||
== 神経管の発生 == | == 神経管の発生 == | ||
中枢神経系の発生において最も初期に起こる出来事は、胚の背側部において神経板(neural plate)が生じ、この神経板から神経管(neural tube)が形成されることである。[[ | 中枢神経系の発生において最も初期に起こる出来事は、胚の背側部において神経板(neural plate)が生じ、この神経板から神経管(neural tube)が形成されることである。[[wj:ヒト|ヒト]]を含め[[wj:脊椎動物|脊椎動物]]の胚は発生のあるステージにおいては最外層から外胚葉(ectoderm)、中間層は[[wj:中胚葉|中胚葉]](mesoderm)および最内層は[[wj:内胚葉|内胚葉]](endoderm)の三胚葉からなる。 | ||
胚の背側の外胚葉に生じる神経板は、予定神経板領域に隣接する中胚葉から分泌される分子により外胚葉が肥厚して形成される。この神経板の形成過程を[[神経誘導]](neural induction)と呼ぶ。 | 胚の背側の外胚葉に生じる神経板は、予定神経板領域に隣接する中胚葉から分泌される分子により外胚葉が肥厚して形成される。この神経板の形成過程を[[神経誘導]](neural induction)と呼ぶ。 | ||
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== 3脳胞の形成 == | == 3脳胞の形成 == | ||
[[ファイル:終脳の発達図.jpg|thumb|220px|''' | [[ファイル:終脳の発達図.jpg|thumb|220px|'''図. 3脳胞期と5脳胞期''']] | ||
神経管の最前部では3つの中空の膨らみが形成され、この構造を3脳胞と言い、この時期を[[一次脳胞形成期]]と呼ぶ(図)。この中空の膨らみは吻側から前脳胞(prosencephalon)、中脳胞(mesencephalon)と菱脳胞(rhombencehanon)と呼ばれる。これら3つの脳胞に続く尾側の神経管は脳胞と比較し、分化が進まず脊髄(spinal cord)を形成する。ヒトでは受精後4週目でこれらの前脳胞、中脳胞、菱脳胞と脊髄に分かれることから、神経管の両端が閉塞する以前に3脳胞が形成される。また神経管は[[ | 神経管の最前部では3つの中空の膨らみが形成され、この構造を3脳胞と言い、この時期を[[一次脳胞形成期]]と呼ぶ('''図''')。この中空の膨らみは吻側から前脳胞(prosencephalon)、中脳胞(mesencephalon)と菱脳胞(rhombencehanon)と呼ばれる。これら3つの脳胞に続く尾側の神経管は脳胞と比較し、分化が進まず脊髄(spinal cord)を形成する。ヒトでは受精後4週目でこれらの前脳胞、中脳胞、菱脳胞と脊髄に分かれることから、神経管の両端が閉塞する以前に3脳胞が形成される。また神経管は[[wj:胎児|胎児]]の屈曲位に一致して曲がり、前脳胞と中脳胞の境界で[[頭屈]]が、菱脳胞と脊髄の境界で[[頚屈]]が生じる<ref name=martin>'''ジョン・H・マーティン=著、野村金子武嗣=監訳'''<br>マーティン 神経解剖学 テキストとアトラス 初版<br>''西村書店(東京)'':2007</ref>。 | ||
== 5脳胞の形成 == | == 5脳胞の形成 == | ||
3脳胞は更に分化し、前脳胞からは終脳胞(telencephalon)と間脳胞(diencephalon)、中脳胞からは中脳胞(mesencephalon, midbrain)、菱脳胞から後脳胞(metencephalon, hindbrain)と髄脳胞(myelencephalon)が形成される(図)。この5つの脳胞からなる構造を5脳胞と言い、またこの時期を二次脳胞形成期と呼ぶ。 | 3脳胞は更に分化し、前脳胞からは終脳胞(telencephalon)と間脳胞(diencephalon)、中脳胞からは中脳胞(mesencephalon, midbrain)、菱脳胞から後脳胞(metencephalon, hindbrain)と髄脳胞(myelencephalon)が形成される('''図''')。この5つの脳胞からなる構造を5脳胞と言い、またこの時期を二次脳胞形成期と呼ぶ。 | ||
ヒトでは受精後5週目に二次脳胞形成期に入る。形態的には前脳胞から左右に脳胞が形成されて終脳胞となり、左右の終脳胞に挟まれた脳胞が間脳胞となる。 | ヒトでは受精後5週目に二次脳胞形成期に入る。形態的には前脳胞から左右に脳胞が形成されて終脳胞となり、左右の終脳胞に挟まれた脳胞が間脳胞となる。 | ||
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前脳の発生が進むと背側側に大脳皮質と腹側側に[[基底核原基]]が形成され、終脳と成る。終脳の大脳皮質には[[興奮性神経細胞]]([[グルタミン酸]]作動性)と[[抑制性神経細胞]]([[GABA]]作動性)が存在している。前者は大脳皮質の[[脳室帯]]にて生まれ、法線方向(脳室から脳表面)に移動し、後者は基底核原基で生まれ、大脳皮質内には接線方向に移入して、大脳皮質を構成している<ref><pubmed>12042877</pubmed></ref>。近年、これらの興奮性神経細胞や抑制性神経細胞の分化を制御する転写因子や分泌因子が同定されている<ref><pubmed>16883309</pubmed></ref><ref><pubmed>17514196</pubmed></ref>。また興奮性神経細胞や抑制性神経細胞の細胞移動に関しても解明が進んでいる<ref><pubmed>11988760</pubmed></ref><ref><pubmed>17588709</pubmed></ref><ref><pubmed>19357392</pubmed></ref><ref><pubmed>19428236</pubmed></ref>。 | 前脳の発生が進むと背側側に大脳皮質と腹側側に[[基底核原基]]が形成され、終脳と成る。終脳の大脳皮質には[[興奮性神経細胞]]([[グルタミン酸]]作動性)と[[抑制性神経細胞]]([[GABA]]作動性)が存在している。前者は大脳皮質の[[脳室帯]]にて生まれ、法線方向(脳室から脳表面)に移動し、後者は基底核原基で生まれ、大脳皮質内には接線方向に移入して、大脳皮質を構成している<ref><pubmed>12042877</pubmed></ref>。近年、これらの興奮性神経細胞や抑制性神経細胞の分化を制御する転写因子や分泌因子が同定されている<ref><pubmed>16883309</pubmed></ref><ref><pubmed>17514196</pubmed></ref>。また興奮性神経細胞や抑制性神経細胞の細胞移動に関しても解明が進んでいる<ref><pubmed>11988760</pubmed></ref><ref><pubmed>17588709</pubmed></ref><ref><pubmed>19357392</pubmed></ref><ref><pubmed>19428236</pubmed></ref>。 | ||
中脳と後脳の境目の形成に関与する遺伝子として[[Otx2]]や[[Gbx2]]遺伝子が知られている。[[ | 中脳と後脳の境目の形成に関与する遺伝子として[[Otx2]]や[[Gbx2]]遺伝子が知られている。[[wj:マウス|マウス]]の胎生7.5日目においてOtx2は前方にGbx2が後方に発現し、[[前後軸]]が決定される<ref><pubmed>11063941</pubmed></ref>。このOtx2とGbx2の発現境界は中脳と後脳の境([[菱脳峡]])に一致し、菱脳峡では線維芽細胞増殖因子である[[Fgf8]]が発現する<ref><pubmed>7768185</pubmed></ref>。このFgf8は前方の中脳胞から[[視蓋]]を、また後方の菱脳胞から小脳を誘導する。Gbx2遺伝子を欠損したマウスでは、Otx2の発現が後脳側に拡大し、通常中脳と後脳の境目に発現するFgf8は菱脳で発現する<ref><pubmed>9247335</pubmed></ref>。 | ||
後脳では、発生の一時期に、[[菱脳節]](rhombomerer)と呼ばれる7ないし8個の膨らみが形成される。これらの菱脳節はそれぞれ異なる[[神経核]]を持ち、異なった性質を有している。この菱脳節の分節間の違いは発現する[[Homeobox遺伝子]]により制御されている。マウスでは[[ | 後脳では、発生の一時期に、[[菱脳節]](rhombomerer)と呼ばれる7ないし8個の膨らみが形成される。これらの菱脳節はそれぞれ異なる[[神経核]]を持ち、異なった性質を有している。この菱脳節の分節間の違いは発現する[[Homeobox遺伝子]]により制御されている。マウスでは[[wj:ゲノム|ゲノム]]4カ所に[[HoxA]]、[[HoxB]]、[[HoxC]]と[[HoxD]]という4つの[[ホメオティック遺伝子]]群のクラスターを持つ<ref><pubmed>17553908</pubmed></ref>。各クラスター内で遺伝子は全て同じ向きに転写され、前後軸に沿って発現する順番と遺伝子の並びが一致し、異なるHomeobox遺伝子の発現により菱脳節の分節間の違いが確立されている。ヒトの[[Hoxa1]]遺伝子の欠損は[[脳幹]]の一部の[[神経核]]が欠損し、[[自閉症]]に関与する事が示されている<ref><pubmed>11091361</pubmed></ref>。 | ||
== 関連項目 == | == 関連項目 == |