「Forkhead box protein P2」の版間の差分

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 現生人類の祖先と[[ネアンデルタール人]]とは400,000 - 700,000年前に分かれたと考えられている。[[w:Johannes Krause|Krause]]らの研究によって、現生人類とネアンデルタール人の''FOXP2''配列(Exon7の911と977番目の塩基を含むDNA領域。このDNA領域から、現生人類特有のアミノ酸配列が生み出される。)は非常に類似していることが明らかにされた<ref name=Krause2007><pubmed>17949978</pubmed></ref>(Krause et al., Curr Biol, 2007)。この結果は、''FOXP2''の選択的スイープが生じたのが比較的最近とするEnardらの仮説(100,000 - 200,000年前)に反するものであった。Krauseらの研究によって、現生人類とネアンデルタール人の共通の祖先の時代に、''FOXP2''の選択的スイープが生じたことが示唆された。
 現生人類の祖先と[[ネアンデルタール人]]とは400,000 - 700,000年前に分かれたと考えられている。[[w:Johannes Krause|Krause]]らの研究によって、現生人類とネアンデルタール人の''FOXP2''配列(Exon7の911と977番目の塩基を含むDNA領域。このDNA領域から、現生人類特有のアミノ酸配列が生み出される。)は非常に類似していることが明らかにされた<ref name=Krause2007><pubmed>17949978</pubmed></ref>(Krause et al., Curr Biol, 2007)。この結果は、''FOXP2''の選択的スイープが生じたのが比較的最近とするEnardらの仮説(100,000 - 200,000年前)に反するものであった。Krauseらの研究によって、現生人類とネアンデルタール人の共通の祖先の時代に、''FOXP2''の選択的スイープが生じたことが示唆された。


 さらに、近年、''FOXP2''の選択的スイープが比較的最近生じたとする仮説を支持しないさらなる知見が提示された。巨大な次世代型遺伝情報データベース ([[https://www.internationalgenome.org The 1000 Genomes project Consortium]])<ref name=Henn2016><pubmed>26712023</pubmed></ref>(Hann et al., 2016; the 1000 Genomes project Consortium)を用いたAtkinsonらの研究から、現生人類とネアンデルタール人との間には、現生人類特有のFOXP2のアミノ酸配列の変化は認められない、という結果が示された<ref name=Atkinson2018><pubmed>30078708</pubmed></ref>(Atkinson et al., Cell, 2018)。また、Atkinsonらは、サンプルの大きさと構成(75%のサンプルを非アフリカ系のヒト由来にする等)を変化させるとEnardら<ref name=Enard2002 />(2002)の結果を再現できることを示した。つまり、サンプルのサイズが小さく、サンプルの構成に偏りがあったためにEnardら<ref name=Enard2002 />(2002)の結果に有意差が生じた可能性が高い。従って、''FOXP2''の選択的スイープが比較的最近生じたとする仮説(100,000 - 200,000年前)は支持されず、現生人類とネアンデルタール人との共通祖先の時期(400,000 - 700,000年前)に選択的スイープは生じたとする仮説が支持されるようになった<ref name=Fisher2019><pubmed>30668952</pubmed></ref>(Fisher, Curr Biol, 2019)。
 さらに、近年、''FOXP2''の選択的スイープが比較的最近生じたとする仮説を支持しないさらなる知見が提示された。巨大な次世代型遺伝情報データベース ([https://www.internationalgenome.org The 1000 Genomes project Consortium])<ref name=Henn2016><pubmed>26712023</pubmed></ref>(Hann et al., 2016; the 1000 Genomes project Consortium)を用いたAtkinsonらの研究から、現生人類とネアンデルタール人との間には、現生人類特有のFOXP2のアミノ酸配列の変化は認められない、という結果が示された<ref name=Atkinson2018><pubmed>30078708</pubmed></ref>(Atkinson et al., Cell, 2018)。また、Atkinsonらは、サンプルの大きさと構成(75%のサンプルを非アフリカ系のヒト由来にする等)を変化させるとEnardら<ref name=Enard2002 />(2002)の結果を再現できることを示した。つまり、サンプルのサイズが小さく、サンプルの構成に偏りがあったためにEnardら<ref name=Enard2002 />(2002)の結果に有意差が生じた可能性が高い。従って、''FOXP2''の選択的スイープが比較的最近生じたとする仮説(100,000 - 200,000年前)は支持されず、現生人類とネアンデルタール人との共通祖先の時期(400,000 - 700,000年前)に選択的スイープは生じたとする仮説が支持されるようになった<ref name=Fisher2019><pubmed>30668952</pubmed></ref>(Fisher, Curr Biol, 2019)。


 ''FOXP2''はヒトの言語・発話機能において非常に重要な役割を果たしていることは明らかである。しかし、たった1つの遺伝子によってヒトの言語・発話機能が進化したと考えるのではなく、より多くの遺伝子によってこの進化が起きたのではないか、という提案がなされている<ref name=Hunter2019><pubmed>30635342</pubmed></ref>(Hunter, 2019)。これからの研究で、ヒト特有の言語・発話機能がどのようにして進化してきたのか、その解明が期待される。
 ''FOXP2''はヒトの言語・発話機能において非常に重要な役割を果たしていることは明らかである。しかし、たった1つの遺伝子によってヒトの言語・発話機能が進化したと考えるのではなく、より多くの遺伝子によってこの進化が起きたのではないか、という提案がなされている<ref name=Hunter2019><pubmed>30635342</pubmed></ref>(Hunter, 2019)。これからの研究で、ヒト特有の言語・発話機能がどのようにして進化してきたのか、その解明が期待される。

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