「セリンラセミ化酵素」の版間の差分

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 また、様々なタンパク質との結合により活性制御を受ける。[[Glutamate receptor interacting protein]] (GRIP)および[[Protein interacting with C kinase 1]] (PICK1)との結合はSRを活性化し、[[Golgi-localized protein]] (Golga 3)との結合は、SRの[[ユビキチン化]]を低下させることで、その分解を抑制する<ref><pubmed>16314870</pubmed></ref><ref><pubmed>12515328</pubmed></ref><ref><pubmed>16714286</pubmed></ref>。[[wikipedia:JA:細胞膜|細胞膜]]に存在する[[ホスファチジルイノシトール#PI.284.2C5.29P2|ホスファチジルイノシトール 4,5-二リン酸]] (PlP2)はSRと結合し、SRの活性を抑制する<ref><pubmed>19380732</pubmed></ref><ref><pubmed>19193859</pubmed></ref>。  
 また、様々なタンパク質との結合により活性制御を受ける。[[Glutamate receptor interacting protein]] (GRIP)および[[Protein interacting with C kinase 1]] (PICK1)との結合はSRを活性化し、[[Golgi-localized protein]] (Golga 3)との結合は、SRの[[ユビキチン化]]を低下させることで、その分解を抑制する<ref><pubmed>16314870</pubmed></ref><ref><pubmed>12515328</pubmed></ref><ref><pubmed>16714286</pubmed></ref>。[[wikipedia:JA:細胞膜|細胞膜]]に存在する[[ホスファチジルイノシトール#PI.284.2C5.29P2|ホスファチジルイノシトール 4,5-二リン酸]] (PlP2)はSRと結合し、SRの活性を抑制する<ref><pubmed>19380732</pubmed></ref><ref><pubmed>19193859</pubmed></ref>。  


 リコンビナントマウスSRを用いた''In vitro''の研究では、SRのデヒドラターゼ活性がセリンラセミ化活性の3.7倍であるが<ref name=ref2 />、''in vivo''でもデヒドラターゼ活性がセリンラセミ化活性より高いかどうかは不明である。
 リコンビナントマウスSRを用いた''in vitro''の研究では、SRのデヒドラターゼ活性がセリンラセミ化活性の3.7倍であるが<ref name=ref2 />、''in vivo''でもデヒドラターゼ活性がセリンラセミ化活性より高いかどうかは不明である。


== 構造  ==
== 構造  ==
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 [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/74357621 マウス脳におけるSRの発現]は発達過程に伴って変化し、脳部位によって異なる。[[大脳皮質]]および[[海馬]]では、生後7日から徐々に発現量が増加し、生後28日で成体レベルに達する。[[小脳]]では、生後14日から28日まで一過性に発現が増加した後、急速に減少する<ref name=ref12><pubmed>18698599</pubmed></ref>。成体マウス脳では、大脳皮質、海馬、[[線条体]]、[[嗅球]]などの[[終脳]]においてSRが強く発現する。細胞レベルでは、SRは主に[[神経細胞]]に発現し、大脳皮質や海馬では[[グルタミン酸]]作動性[[錐体細胞]]、線条体では[[GABA作動性]][[中型有棘ニューロン]]、小脳ではGABA作動性[[プルキンエ細胞]]に発現する<ref name=ref12></ref>。一方、マウス海馬の[[初代培養]]系では、SRは神経細胞と[[アストロサイト]]の両方に発現する<ref name=ref12></ref>。
 [http://mouse.brain-map.org/experiment/show/74357621 マウス脳におけるSRの発現]は発達過程に伴って変化し、脳部位によって異なる。[[大脳皮質]]および[[海馬]]では、生後7日から徐々に発現量が増加し、生後28日で成体レベルに達する。[[小脳]]では、生後14日から28日まで一過性に発現が増加した後、急速に減少する<ref name=ref12><pubmed>18698599</pubmed></ref>。成体マウス脳では、大脳皮質、海馬、[[線条体]]、[[嗅球]]などの[[終脳]]においてSRが強く発現する。細胞レベルでは、SRは主に[[神経細胞]]に発現し、大脳皮質や海馬では[[グルタミン酸]]作動性[[錐体細胞]]、線条体では[[GABA作動性]][[中型有棘ニューロン]]、小脳ではGABA作動性[[プルキンエ細胞]]に発現する<ref name=ref12></ref>。一方、マウス海馬の[[初代培養]]系では、SRは神経細胞と[[アストロサイト]]の両方に発現する<ref name=ref12></ref>。
== 生理機能  ==
== 生理機能  ==


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 NMDARのグリシンサイトには<SMALL>D</SMALL>-セリンのほかグリシンも結合するが、<SMALL>D</SMALL>-セリンはグリシンと比較して、リコンビナントNMDARに対して約3倍高い親和性を示す<ref><pubmed>7790891</pubmed></ref>。。脳スライスに<SMALL>D</SMALL>-セリンの分解酵素である<SMALL>D</SMALL>-アミノ酸酸化酵素(<small>D</small>-amino acid oxidase; DAO)を作用させ<SMALL>D</SMALL>-セリンのみを分解し、グリシンの量が変化しない実験条件において、NMDAR依存的な電流が減少し、LTPが誘導されない<ref><pubmed>14638938</pubmed></ref>。ことから、<SMALL>D</SMALL>-セリンがNMDARの生理的な内在性コ・アゴニストとして機能し、シナプス可塑性制御に関わると考えられている。
 NMDARのグリシンサイトには<SMALL>D</SMALL>-セリンのほかグリシンも結合するが、<SMALL>D</SMALL>-セリンはグリシンと比較して、リコンビナントNMDARに対して約3倍高い親和性を示す<ref><pubmed>7790891</pubmed></ref>。。脳スライスに<SMALL>D</SMALL>-セリンの分解酵素である<SMALL>D</SMALL>-アミノ酸酸化酵素(<small>D</small>-amino acid oxidase; DAO)を作用させ<SMALL>D</SMALL>-セリンのみを分解し、グリシンの量が変化しない実験条件において、NMDAR依存的な電流が減少し、LTPが誘導されない<ref><pubmed>14638938</pubmed></ref>。ことから、<SMALL>D</SMALL>-セリンがNMDARの生理的な内在性コ・アゴニストとして機能し、シナプス可塑性制御に関わると考えられている。


 現在、3系統のSRノックアウト(KO)マウスが確立されており、個体レベルにおけるSRの機能が明らかにされつつある。SRKOマウスでは、NMDAR 依存的な興奮性シナプス後電流(EPSCs)の減弱速度(decay) が遅くなり、海馬CA1のシナプスにおいてLTPが誘導されない<ref name=ref15></ref>。また、NMDAおよび[[アミロイドタンパク質|アミロイド]]β<sub>1-42</sub>(Aβ<sub>1-42</sub>)の脳内注入により誘導される[[神経細胞変性]]が野生型マウスに比べ有意に低下し、[[脳虚血]]により引き起こされる障害が緩和されることが報告されている<ref name=ref14></ref></ref><ref><pubmed>20107067</pubmed></ref>。これらの結果から、SRにより産生される内在性の<SMALL>D</SMALL>-セリンがNMDAR機能制御に関与すると考えられる。SRKOマウスでは、空間記憶の異常などの認知機能および社会性行動の障害も認められている<ref name=ref15></ref><ref><pubmed>19483194</pubmed></ref>。
 現在、3系統のSRノックアウト(KO)マウスが確立されており、個体レベルにおけるSRの機能が明らかにされつつある。SRKOマウスでは、NMDAR 依存的な興奮性シナプス後電流(EPSCs)の減弱速度(decay) が遅くなり、海馬CA1のシナプスにおいてLTPが誘導されない<ref name=ref15></ref>。また、NMDAおよび[[アミロイドタンパク質|アミロイド]]β<sub>1-42</sub>(Aβ<sub>1-42</sub>)の脳内注入により誘導される[[神経細胞変性]]が野生型マウスに比べ有意に低下し、[[脳虚血]]により引き起こされる障害が緩和されることが報告されている<ref name=ref14></ref></ref><ref><pubmed>20107067</pubmed></ref>。これらの結果から、SRにより産生される内在性の<SMALL>D</SMALL>-セリンがNMDAR機能制御に関与すると考えられる。SRKOマウスでは、[[空間記憶]]の異常などの認知機能および社会性行動の障害も認められている<ref name=ref15></ref><ref><pubmed>19483194</pubmed></ref>。


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==

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