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<font size="+1">[http://researchmap.jp/hota-koba 小林 穂高]、[http://researchmap.jp/read0210534 福田 光則]</font><br> | |||
''東北大学 大学院生命科学研究科 生命機能科学専攻''<br> | |||
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年4月11日 原稿完成日:2012年5月17日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br> | |||
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Rabは[[Ras]]スーパーファミリーに属する[[低分子量GTP結合タンパク質]](グアニンヌクレオチド結合タンパク質)であり、[[wikipedia:JA:GTP|GTP]](グアニンヌクレオチド三リン酸)を結合した活性化型と[[wikipedia:JA:GDP|GDP]](グアニンヌクレオチド二リン酸)を結合した不活性化型とをサイクルすることで、[[小胞輸送]](メンブレントラフィックあるいは膜トラフィッキング)を制御する分子スイッチとして機能している<ref name=ref1><pubmed>11697911</pubmed></ref><ref name=ref2><pubmed>11252952</pubmed></ref><ref name=ref3><pubmed>19603039</pubmed></ref>。Rabは小胞輸送を介して細胞内で起こる様々な物質輸送を時空間的に制御しており、神経機能をはじめとする様々な生命現象において重要な役割を果たしている。 | Rabは[[Ras]]スーパーファミリーに属する[[低分子量GTP結合タンパク質]](グアニンヌクレオチド結合タンパク質)であり、[[wikipedia:JA:GTP|GTP]](グアニンヌクレオチド三リン酸)を結合した活性化型と[[wikipedia:JA:GDP|GDP]](グアニンヌクレオチド二リン酸)を結合した不活性化型とをサイクルすることで、[[小胞輸送]](メンブレントラフィックあるいは膜トラフィッキング)を制御する分子スイッチとして機能している<ref name=ref1><pubmed>11697911</pubmed></ref><ref name=ref2><pubmed>11252952</pubmed></ref><ref name=ref3><pubmed>19603039</pubmed></ref>。Rabは小胞輸送を介して細胞内で起こる様々な物質輸送を時空間的に制御しており、神経機能をはじめとする様々な生命現象において重要な役割を果たしている。 | ||
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== 小胞輸送の分子スイッチRab == | == 小胞輸送の分子スイッチRab == | ||
[[image:Rab図1.png|thumb|png|330px|''' | [[image:Rab図1.png|thumb|png|330px|'''図1.Rabによる小胞輸送の制御メカニズム'''<br>RabはGTPを結合した活性化型とGDPを結合した不活性化型とをサイクルすることで、小胞輸送の分子スイッチとして機能している。Rabの活性化と不活性化は、活性化因子GEFと不活性化因子GAPにより制御されている。活性化型のRabはRabエフェクターと呼ばれるパートナー分子をオルガネラ上へとリクルートすることで小胞輸送を促進する。]] | ||
RabはRasスーパーファミリーに属する低分子量Gタンパク質で、GTPを結合した活性化型とGDPを結合した不活性化型とをサイクルする細胞内の分子スイッチである<ref name=ref1><pubmed>11697911</pubmed></ref><ref name=ref2><pubmed>11252952</pubmed></ref><ref name=ref3><pubmed>19603039</pubmed></ref>(図1)。細胞質で合成されたRabは、C末端領域が[[wikipedia:Rab geranylgeranyltransferase|Rabゲラニルゲラニル転移酵素]](Rab-GGT)によって[[脂質化修飾]](ゲラニルゲラニル化)されたのち、細胞内の特定のオルガネラ膜に局在することが可能となる。しかし、不活性化型のRabは細胞質で[[wikipedia:Rab GDP dissociation inhibitors|Rab GDP-dissociation inhibitor]](Rab-GDI)と結合するため、[[wikipedia:Geranylgeranylation|ゲラニルゲラニル基]]が覆い隠されている。このため、Rabは不活性化型のときには細胞質に留まり、活性化されたときにのみオルガネラ膜に局在し、小胞輸送を促進する分子スイッチとして機能する。 | RabはRasスーパーファミリーに属する低分子量Gタンパク質で、GTPを結合した活性化型とGDPを結合した不活性化型とをサイクルする細胞内の分子スイッチである<ref name=ref1><pubmed>11697911</pubmed></ref><ref name=ref2><pubmed>11252952</pubmed></ref><ref name=ref3><pubmed>19603039</pubmed></ref>(図1)。細胞質で合成されたRabは、C末端領域が[[wikipedia:Rab geranylgeranyltransferase|Rabゲラニルゲラニル転移酵素]](Rab-GGT)によって[[脂質化修飾]](ゲラニルゲラニル化)されたのち、細胞内の特定のオルガネラ膜に局在することが可能となる。しかし、不活性化型のRabは細胞質で[[wikipedia:Rab GDP dissociation inhibitors|Rab GDP-dissociation inhibitor]](Rab-GDI)と結合するため、[[wikipedia:Geranylgeranylation|ゲラニルゲラニル基]]が覆い隠されている。このため、Rabは不活性化型のときには細胞質に留まり、活性化されたときにのみオルガネラ膜に局在し、小胞輸送を促進する分子スイッチとして機能する。 | ||
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== Rabの活性化・不活性化を担うRab-GEF・Rab-GAP == | == Rabの活性化・不活性化を担うRab-GEF・Rab-GAP == | ||
Rabの活性化と不活性化は、Rab活性化因子である[[wikipedia:RABGEF1|Rab グアニンヌクレオチド交換因子]] (Rab guanine-nucleotide exchange factor, Rab-GEF) とRab不活性化因子である[[wikipedia:RAB3GAP1|Rab GTPアーゼ活性化タンパク質]] (Rab GTPase activating protein, Rab-GAP)によって制御されている<ref name=ref13><pubmed>19706500</pubmed></ref><ref name=ref14><pubmed>20466531</pubmed></ref><ref name=ref15><pubmed>21250943</pubmed></ref> | Rabの活性化と不活性化は、Rab活性化因子である[[wikipedia:RABGEF1|Rab グアニンヌクレオチド交換因子]] (Rab guanine-nucleotide exchange factor, Rab-GEF) とRab不活性化因子である[[wikipedia:RAB3GAP1|Rab GTPアーゼ活性化タンパク質]] (Rab GTPase activating protein, Rab-GAP)によって制御されている<ref name=ref13><pubmed>19706500</pubmed></ref><ref name=ref14><pubmed>20466531</pubmed></ref><ref name=ref15><pubmed>21250943</pubmed></ref>(図1)。 | ||
Rab-GEFは不活性化型のRab に結合したGDPを取り除きGTPに置き換えることでRabを活性化型へと移行させる。Rab-GEFの機能を果たすドメインとしては、[[wikipedia:DENN domain|DENNドメイン]]や[[wikipedia:VPS9 domain|VPS9ドメイン]]などが報告されている。 | Rab-GEFは不活性化型のRab に結合したGDPを取り除きGTPに置き換えることでRabを活性化型へと移行させる。Rab-GEFの機能を果たすドメインとしては、[[wikipedia:DENN domain|DENNドメイン]]や[[wikipedia:VPS9 domain|VPS9ドメイン]]などが報告されている。 | ||
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==Rabと神経機能 == | ==Rabと神経機能 == | ||
[[image:Rab図2.png|thumb|png|400px|''' | [[image:Rab図2.png|thumb|png|400px|'''図2.神経機能・神経疾患に関与するRab'''<br>*2012年4月1日の時点でPubMedに収録されている文献を参照。今後さらに増えるものと予想される。]] | ||
Rabは小胞輸送を介して、神経細胞の移動・神経細胞の形態形成・神経細胞間の情報伝達など様々な神経機能を制御することが明らかになってきている<ref name=ref20><pubmed>18485483</pubmed></ref> | Rabは小胞輸送を介して、神経細胞の移動・神経細胞の形態形成・神経細胞間の情報伝達など様々な神経機能を制御することが明らかになってきている<ref name=ref20><pubmed>18485483</pubmed></ref>(図2)。 | ||
=== 神経細胞移動=== | === 神経細胞移動=== | ||
神経細胞が複雑なネットワークを形成するためには、適切な位置への神経細胞の移動・配置が重要である。例えば、[[wikipedia:JA:哺乳類|哺乳類]]の[[大脳皮質]](新皮質)は、形態や機能の異なる六つの神経細胞の層により成り立っており、その発生の過程で、[[脳室]]側で新しく生まれた神経細胞が表層の適切な位置まで移動する。大脳皮質の神経細胞の多くは、[[放射状グリア細胞]]の突起に沿って移動するが、その際細胞の後方から[[細胞接着因子]]がエンドサイトーシスによって取り込まれ、細胞の前方へと輸送されることが必要である。実際、Rab5はN-[[カドヘリン]] | 神経細胞が複雑なネットワークを形成するためには、適切な位置への神経細胞の移動・配置が重要である。例えば、[[wikipedia:JA:哺乳類|哺乳類]]の[[大脳皮質]](新皮質)は、形態や機能の異なる六つの神経細胞の層により成り立っており、その発生の過程で、[[脳室]]側で新しく生まれた神経細胞が表層の適切な位置まで移動する。大脳皮質の神経細胞の多くは、[[放射状グリア細胞]]の突起に沿って移動するが、その際細胞の後方から[[細胞接着因子]]がエンドサイトーシスによって取り込まれ、細胞の前方へと輸送されることが必要である。実際、Rab5はN-[[カドヘリン]]のエンドサイトーシスを制御することで、放射状突起に沿った[[神経細胞移動]]を制御することが報告されている<ref name=ref21><pubmed>20797536</pubmed></ref>。 | ||
=== 神経細胞の形態形成=== | === 神経細胞の形態形成=== | ||
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==神経疾患との関わり== | ==神経疾患との関わり== | ||
一部のRabは神経機能において必須の役割を果たすため、その機能の破綻はヒトやマウスの遺伝病を引き起こす<ref name=ref35><pubmed>11796263</pubmed></ref> | 一部のRabは神経機能において必須の役割を果たすため、その機能の破綻はヒトやマウスの遺伝病を引き起こす<ref name=ref35><pubmed>11796263</pubmed></ref>。図2に示すように、Rab18、Rab39Bなどの変異により精神遅延を含む神経疾患を伴う遺伝病が発症することが報告されている<ref name=ref36><pubmed>20159109</pubmed></ref><ref name=ref37><pubmed>21473985</pubmed></ref>。また、Rabのみならず、Rabの制御因子、例えばRab-GDIやRab3-GAP p130 の変異によっても神経疾患を伴う遺伝病が発症することが知られている<ref name=ref35><pubmed>11796263</pubmed></ref><ref name=ref38><pubmed>15696165</pubmed></ref>。 | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
<references/> | <references/> | ||