「ZOファミリー」の版間の差分

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<font size="+1">岩下 美里、*[http://researchmap.jp/kosodo 小曽戸 陽一]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/kosodo 小曽戸 陽一]</font><br>
''Korea Brain Research Institute(韓国)Mechanoneuroscience Lab''<br>
''Korea Brain Research Institute(韓国)Mechanoneuroscience Lab''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年3月21日 原稿完成日:2016年4月14日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年3月21日 原稿完成日:2016年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>*:責任著者
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>
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名称の由来:Zonula occludent family
名称の由来:Zonula occludens-1


同義語:tight junction protein
{{box|text=
 ZO-1はタイトジャンクションを構成する主要な分子である。細胞や組織のアピカル側に局在し、細胞極性形成に関わると考えられている。また、タイトジャンクションだけでなく、アドヘレンスジャンクションやギャップジャンクションにも局在が見られることから、広く細胞間接着構造の維持に関与する分子であると考えられる。近年では、ZO-1が細胞内シグナル伝達分子や転写調節因子として働き、細胞増殖を調節するという報告もなされている。


{{box|text= ZOファミリータンパク質はタイトジャンクションを構成する主要な分子である。細胞や組織のアピカル側に局在し、細胞極性形成に関わると考えられ ている。また、タイトジャンクションだけでなく、アドヘレンスジャンクションやギャップジャンクションにも局在が見られることから、広く細胞間結合構造の 維持に関与する分子であると考えられる。近年では、細胞内シグナル伝達分子や転写調節因子として働き、細胞増殖を調節するという報告もなされている。脳神 経系では、発生期の神経上皮組織において神経前駆細胞の極性形成に関わる。また、ギャップ結合を介したグリア細胞同士の細胞間コミュニケーションへの関与 も示唆されている。一方、血液脳関門や血液脳脊髄液関門などの組織と体液の境界領域において、様々な物質の透過を調節するバリアとして機能し、脳神経系の 恒常性の維持に寄与している。}}
 脳神経系では、ZO-1は発生期の神経上皮組織において神経前駆細胞の極性形成に関わる。また、ギャップ結合を介したグリア細胞どうしの細胞間コミュニケーションへの関与も示唆されている。一方、血液脳関門や血液脳脊髄液関門などの組織と体液の境界領域において、様々な物質の透過を調節するバリアとして機能し、脳神経系の恒常性の維持に寄与している。
{{PBB|geneid=7082}}{{PBB|geneid=9414}}{{PBB|geneid=27134}}
}}


==ZOファミリーとは==
==ZOタンパク質==
 ZO ファミリータンパク質は、上皮組織の密着結合に含まれるタンパク質として同定された表在性膜タンパク質である<ref name=ref11 /> <ref name=ref29 />。[[wikipedia:ja:多細胞生物|多細胞生物]][[wikipedia:ja:上皮組織|上皮組織]]では、[[wikipedia:ja:上皮細胞|上皮細胞]]が互いに接着したシート状構造を呈する。上皮シート構造の形成・維持には、頂端側に存在する[[密着結合]]・[[接着結合]]・デスモソーム結合といった、細胞間結合構造が重要な役割を果たしている。ZOファミリータンパク質は、細胞間結合構造の裏打ちタンパクとして働き、主に(1)細胞間結合構造の形成と維持、(2)物質透過の制御、(3)細胞極性形成などの役割を担っている。近年では、ZOタンパク質が核内に移動し、細胞内シグナル伝達や転写調節を担うことも報告されている<ref name=ref3><pubmed>20224657</pubmed></ref>。
[[image:zo-1-1.png|thumb|350px|'''図1.ZOタンパク質構造'''<ref name=ref4><pubmed>12141438</pubmed></ref>]]
[[image:zo-1-2.png|thumb|350px|'''図2.ZO-1タンパク質の構造'''<br>N末端側にPD domain(1,2,3の数字で示す)、SH3 domain、GUK(GK)domainが存在する。C末端側にはプロリンリッチな領域(P)、選択的スプライシング部位(α、β、γ)が存在する。+、-はそれぞれ塩基性領域、酸性領域を表す<ref name=ref11><pubmed>10966866</pubmed></ref>。]]


==構造ならびにファミリー==
 ZOタンパク質(図1)は、membrane-associated guanylate kinase(MAGUK)ファミリーに分類され、Tight junction protein(Tjp)とも呼ばれる。ZOタンパク質には、分子量220kDaのZO-1<ref name=ref29><pubmed>3528172</pubmed></ref> <ref name=ref18><pubmed>8486731</pubmed></ref>、160kDaのZO-2<ref name=ref12><pubmed>2014265</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>8132716</pubmed></ref>、130kDaの ZO-3<ref name=ref13><pubmed>9531559</pubmed></ref>の3種類がある。これらに共通の構造として、3個の[[PDZ]] domain、1個の[[Src]] homology 3(SH3)domain、1個のguanylated kinase(GUKまたはGK)domainが挙げられる。また、[[プロリン]]リッチ領域が、ZO-1、ZO-2ではカルボキシル末端側、ZO-3では2nd PDZ domainと 3rd PDZ domainの間に存在する<ref name=ref11 />。3種のZOタンパク質を区別するのはC末端領域の構造である。ZO-1のC末領域は他の2種よりも長い。また、ZO-1では選択的スプライシング部位が3カ所あるが、ZO-2では2カ所、ZO-3にはない<ref name=ref11 />。これらの違いが、3種のタンパク質の機能の違いを生み出すと考えられている。
[[image:zo-1-2.png|thumb|350px|'''図1.ZOファミリータンパク質の構造'''<br>N末端側にPDZドメイン(1、2、3の数字で示す)、SH3ドメイン、GUK(GK)ドメインが存在する。 ZO-1、ZO-2のC末端側およびZO-3のN末端側にはプロリンリッチな領域(P)が存在する。ZO-1とZO-2のC末端側には選択的スプライシング部位(α、β、γ)が存在する。+、-はそれぞれ塩基性領域、酸性領域を表す。▼は核局在シグナル領域、▽は核外移行シグナル領域を示す<ref name=ref11><pubmed>10966866</pubmed></ref>を一部改変。]]


 ZOファミリータンパク質('''図1''')は、[[membrane-associated guanylate kinase]](MAGUK)ファミリーに分類される。分子量220kDaの[[ZO-1]]<ref name=ref29><pubmed>3528172</pubmed></ref> <ref name=ref18><pubmed>8486731</pubmed></ref>、160kDaの[[ZO-2]]<ref name=ref12><pubmed>2014265</pubmed></ref> <ref name=ref20><pubmed>8132716</pubmed></ref>、130kDaの [[ZO-3]]<ref name=ref13><pubmed>9531559</pubmed></ref>の3種類がある。これらに共通の構造として、3個の[[PDZドメイン]]、1個の[[SH3ドメイン|Src homology 3(SH3)ドメイン]]、1個の[[グアニル酸キナーゼドメイン|グアニル酸キナーゼ (GUKまたはGK)ドメイン]]が挙げられる。また、プロリンリッチ領域が、ZO-1、ZO-2ではカルボキシル末端側、ZO-3では第2PDZドメインと第3PDZドメインの間に存在する<ref name=ref11 />。また、ZO-1およびZO-3は2つの[[核局在シグナル]]領域を、ZO-2は核局在シグナル領域と[[核外移行シグナル]]領域をひとつずつ持っている<ref name=ref11><pubmed>10966866</pubmed></ref> <ref name=ref10><pubmed>10094817</pubmed></ref>。
 多細胞生物の上皮組織では、上皮細胞が単層あるいは重層に配列し、互いに接着したシート状構造を呈する。上皮シート構造の形成・維持には、頂端側に存在する密着結合・接着結合・接着斑からなる接着複合体が重要な役割を果たしている。ZOタンパク質は、[[細胞膜]]側で密着結合や接着結合を構成するタンパク質群と結合し、細胞質側で[[細胞骨格]]と結合する。これにより、細胞間接着構造を細胞の適切な位置に維持している。また、密着結合の形成により[[膜タンパク質]]の拡散が抑えられ、細胞の頂端側と基底側で膜組成に差が生まれることから、細胞[[極性]]形成にも関与すると考えられる。近年では、ZOタンパク質が核内に移動することにより、細胞内シグナル伝達や転写調節を担うことも報告されている<ref name=ref3><pubmed>20224657</pubmed></ref>。


 3種のZOタンパク質を区別するのはC末端領域の構造である('''図1''')。ZO-1とZO-2のC末領域には[[選択的スプライシング]]部位があり、多様な[[スプライスバリアント]]が存在する<ref name=ref6><pubmed>9792688</pubmed></ref> <ref name=ref19><pubmed>9214391</pubmed></ref>。ZO-1には3カ所、ZO-2には2カ所が報告されているが、ZO-3には選択的スプライシング部位がない<ref name=ref11 />。 スプライスバリアントの多様性が、組織や細胞における発現の違いに反映されると考えられる<ref name=ref11 />。
===ZO-1の概要===
 ZO-1は、ZOタンパク質のひとつで、peripheral membrane protein表在性膜タンパク質に分類される<ref name=ref11 />。1986年に、密着結合に含まれるタンパク質として同定された<ref name=ref29 />。また、非上皮性の細胞や密着結合を欠く細胞では、接着結合部位でcadherinやcateninと結合する<ref name=ref18 /> <ref name=ref28><pubmed>8636221</pubmed></ref>。さらに、ギャップ結合において、connexinファミリータンパク質との結合が報告されている<ref name=ref9><pubmed>9707407</pubmed></ref>。これらの細胞間結合部位において、ZO-1は細胞膜側で細胞間結合を構成するタンパク質群と、細胞質側で細胞骨格成分と結合する。密着結合形成において、ZO-1はZO-2とともにclaudinsを細胞膜へ集積させる役割をもつ<ref name=ref30><pubmed>16923393</pubmed></ref>。


==結合タンパク質==
===タンパク質構造の特徴===
 ZOファミリータンパク質の主な結合パートナーは、膜タンパク質、[[細胞骨格]]、[[カドヘリン]]と複合体を形成するタンパク質群([[カテニン]])、およびZOファミリータンパク質である。細胞膜側で膜タンパク質と、細胞質側で細胞骨格、カテニン、ZOファミリーと結合する。
 ZOタンパク質に共通する構造(PDZ domain, SH3 domain, GUK domain)の他に、ZO-1は他2つのZOタンパク質に比べて長いC末領域を持つ(図2)。この領域にはactin binding regionがあり、細胞質側で細胞骨格系であるF-actinと結合する<ref name=ref6><pubmed>9792688</pubmed></ref> <ref name=ref19><pubmed>9214391</pubmed></ref>。さらに、C末端側には3カ所の選択的スプライシング部位α、β、γがあり、多様な[[スプライスバリアント]]が存在する<ref name=ref11 /> <ref name=ref5><pubmed>22083955</pubmed></ref>。また、ZO-1は1st PDZ domainおよびGUK領域に核移行シグナル領域をもつ<ref name=ref10><pubmed>10094817</pubmed></ref>。これらのことから、核内で遺伝子発現を調節する働きもあると考えられる。


 密着結合には[[クローディン]][[オクルディン]]といった膜貫通型タンパク質が存在する<ref name=ref30><pubmed>16923393</pubmed></ref>。各ZOファミリータンパク質は、第一PDZドメインを介してクローディンと結合する。オクルディンとの結合部位は、ZO-1ではGUKドメイン、ZO-2では第一PDZドメインからGUKドメインまでの、C末端を除いた領域である。ギャップ結合には、膜貫通型タンパクである[[コネクシン]]ファミリータンパク質が存在する。ZOファミリータンパク質は、PDZドメインを介してこれらと結合する<ref name=ref9><pubmed>9707407</pubmed></ref>
==神経組織における発現と機能==
===神経系形成初期における発現と機能===
 発生期の神経上皮では、[[脳室]]面が頂端(apical)側となる。ZO-1は神経系形成初期に[[神経板]]の脳室面において発現が見られる。神経板ではZO-1はoccludinと結合し、機能的な密着結合を形成している。[[神経管]]閉鎖時には脳室面におけるoccludinの発現が消失するが、ZO-1の発現は維持される<ref name=ref1><pubmed>8954735</pubmed></ref>。脳室面では、接着結合の構成タンパク質であるN-cadherin<ref name=ref14><pubmed>3515198</pubmed></ref>が発現してくる。


 一方、密着結合部位の細胞質側では、ZOファミリータンパク質はC末端側を介して細胞骨格である[[アクチン|F-アクチン]]と結合する<ref name=ref6><pubmed>9792688</pubmed></ref> <ref name=ref19><pubmed>9214391</pubmed></ref>。接着結合部位では、ZO-1はGUKドメインを介して[[α-カテニン]]と、ZO-2はC末端を除く部位でα-カテニンと、ZO-3はC末端側で[[P120カテニン]]と結合する<ref name=ref18><pubmed>8486731</pubmed></ref> <ref name=ref28><pubmed>8636221</pubmed></ref>。また、ZOタンパク間の結合は、PDZドメインを介して行われる。
===神経発生期における発現と機能===
 神経管閉鎖後の神経上皮組織では、[[神経前駆細胞]]から神経細胞が産生されるようになる。このとき、ZO-1は脳室面に発現が見られ<ref name=ref21><pubmed>17222817</pubmed></ref>、細胞レベルでは神経前駆細胞のapical processに発現している。神経前駆細胞が分裂するとき、ZO-1陽性のapical processが2つの娘細胞に分配される。apical processとbasal processを受け継いだ娘細胞は、自己複製能をもつ神経前駆細胞となる。一方で、apical processのみ受け継いだ娘細胞は、神経細胞もしくはbasal progenitorとなってSVZで分裂し、2つの神経細胞を産生する<ref name=ref22><pubmed>18084280</pubmed></ref>。したがって、ZO-1は、神経前駆細胞のapical-basalの極性形成に寄与すると考えられる。


==組織発現==
===グリア細胞における発現と機能===
 ZOファミリーの発現は主に上皮組織や間葉系組織で観察される。ZO-1の組織発現は、受精後から生体まで、幅広く報告されている。一方、ZO-2およびZO-3の組織発現については、胎生期から生後直後の時期に関する報告がほとんどである。
 [[アストロサイト]]や[[オリゴデンドロサイト]]において、ZO-1はギャップ結合に局在が見られる<ref name=ref17><pubmed>12717711</pubmed></ref> <ref name=ref27><pubmed>16045494</pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed>1539634</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>    15183511</pubmed></ref>。ギャップ結合では、connexin ファミリーに属するタンパク質(Cx-)と結合する<ref name=ref8><pubmed>15094344</pubmed></ref> 。アストロサイトのギャップ結合では、ZO-1はCx30, Cx43と結合する<ref name=ref9 /> <ref name=ref27 />。オリゴデンドロサイトのギャップ結合では、ZO-1はCx47と結合する<ref name=ref24 />。しかし、ギャップ結合形成におけるZO-1の役割は明らかになっていない。ZO-1がconnexinのmembrane traffic細胞内膜輸送に関与し、ギャップ結合のターンオーバーを担うという報告もあるが、まだ検証の余地を残している<ref name=ref23><pubmed>12149451</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>11964472</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>    14681018</pubmed></ref>。


 ZOファミリーの中で、組織発現に関する報告が最も多いのがZO-1である。ほとんどの上皮組織と血管に発現が見られる。中枢神経系においては、発生期の終脳・間脳・中脳・後脳・脊髄およびその髄膜、末梢では後根神経節などに発現している。ZO-2は、下顎臼歯間充織や女性生殖器を構成する上皮組織、泌尿器系の上皮組織などで発現が報告されている。また、中枢神経系では、発生期の後脳や脊髄で発現が確認されている。ZO-3は主に口腔上皮や下顎臼歯間充織、生殖器・泌尿器系組織の上皮で発現が確認されている<ref>[http://www.informatics.jax.org/ Mouse Genome Informatics]</ref>。


===神経組織における発現と機能===
===血液脳関門における発現と機能===
====神経系形成初期====
 血液脳関門[[Blood-Brain Barrier|Blood-brain barrier]][[BBB]])は、血管内皮細胞endothelial cell、アストロサイトastrocyte 、周皮細胞pericyteから構成される。最も内腔に位置する血管内皮細胞同士は密着結合で強固につながっている<ref name=ref2><pubmed>15207256</pubmed></ref>。この構造により、不要な物質や薬物、病原体の中枢神経系への進入を防いでいる。BBBにおける密着結合にはoccludin, claudins-1およびclaudins-5が局在する<ref name=ref26><pubmed>10508865</pubmed></ref> <ref name=ref25><pubmed>10965803</pubmed></ref>。ZO-1は細胞質側からこれらに結合し、密着結合を支えている。また、ZO-1は[[アクチン]]とも結合し、内皮細胞の形態保持に関わっている<ref name=ref13 />。
 発生期の[[神経上皮]]では、[[脳室]]面が頂端(apical)側となる。神経系形成初期の脳室面ではZO-1の発現が見られる。神経管が形成される前の[[神経板]]期ではZO-1は[[オクルディン]]と結合し、機能的な密着結合を形成している。[[神経管]]閉鎖時には脳室面におけるオクルディンの発現が消失し、その後、接着結合の構成タンパク質であるN-カドヘリン<ref name=ref14><pubmed>3515198</pubmed></ref>が発現してくる。このとき、脳室面でのZO-1の発現が維持される<ref name=ref1><pubmed>8954735</pubmed></ref>ことから、ZO-1は神経前駆細胞間の接着結合の維持にも関わると考えられる。


====神経発生期====
===脈絡叢における発現と機能===
 神経管閉鎖後の神経上皮組織では、[[神経前駆細胞]]から神経細胞が産生されるようになる。この時期には、脳室面においてZO-1の発現が観察される<ref name=ref21><pubmed>17222817</pubmed></ref>。細胞レベルでは[[神経前駆細胞]]のapical processに発現している。神経前駆細胞が分裂するとき、ZO-1陽性のapical processが2つの娘細胞に分配される。apical processとbasal processを受け継いだ娘細胞は、[[自己複製能]]をもつ神経前駆細胞となる。一方で、apical processのみ受け継いだ娘細胞は、神経細胞もしくはbasal progenitorとなって[[SVZ]]で分裂し、2つの神経細胞を産生する<ref name=ref22><pubmed>18084280</pubmed></ref>。したがって、ZO-1は、神経前駆細胞のapical-basalの極性形成に寄与すると考えられる。
 脈絡叢は一層の上皮細胞からなる。[[側脳室]]、[[第3脳室]]、[[第4脳室]]に存在し、[[脳脊髄液]](CSF)を産生・[[分泌]]する。頂端膜側は脳脊[[髄液]]に接し、[[基底膜]]側で血管に接している。脈絡叢の頂端膜側には密着結合が存在し、血液脳脊髄液関門blood-CSF barrierを形成する。密着結合の細胞質側でZO-1はClaudins-1, 2,11およびoccludinと結合し<ref name=ref31><pubmed>11427304</pubmed></ref>、血液-脳脊髄液間の物質の移動を制御することで脳の恒常性を維持している。
 
====グリア細胞====
 [[アストロサイト]]や[[オリゴデンドロサイト]]はギャップ結合を介した細胞間コミュニケーションを行う。この領域において、ZO-1の発現が報告されている<ref name=ref17><pubmed>12717711</pubmed></ref> <ref name=ref27><pubmed>16045494</pubmed></ref> <ref name=ref15><pubmed>1539634</pubmed></ref> <ref name=ref24><pubmed>15183511</pubmed></ref>。ギャップ結合において、ZO-1はコネクシンファミリーに属するタンパク質(Cx-)と結合する<ref name=ref8><pubmed>15094344</pubmed></ref>。アストロサイト側のギャップ結合では、ZO-1は[[Cx30]]、[[Cx43]]と結合する<ref name=ref9 /> <ref name=ref27 />。オリゴデンドロサイト側のギャップ結合では、ZO-1はコネクシン[[Cx47]]と結合する<ref name=ref24 />。しかし、ギャップ結合形成におけるZO-1の役割は明らかになっていない。ZO-1がコネクシンの[[細胞内膜輸送]]に関与し、ギャップ結合のターンオーバーを担うという報告もあるが、まだ検証の余地を残している<ref name=ref23><pubmed>12149451</pubmed></ref> <ref name=ref7><pubmed>11964472</pubmed></ref> <ref name=ref16><pubmed>14681018</pubmed></ref>。
 
====血液脳関門====
 [[血液脳関門]]([[Blood-Brain Barrier|Blood-brain barrier]];[[BBB]])は、[[血管内皮細胞]](endothelial cell)、アストロサイト(astrocyte) 、[[周皮細胞]](pericyte)から構成される。最も内腔に位置する血管内皮細胞同士は密着結合で強固につながっている<ref name=ref2><pubmed>15207256</pubmed></ref>。この構造は、不要な物質や薬物、病原体の中枢神経系への進入を防ぐために重要である。BBBにおける密着結合にはオクルディン、[[クローディン-1]]および[[クローディン-5]]が局在する<ref name=ref26><pubmed>10508865</pubmed></ref> <ref name=ref25><pubmed>10965803</pubmed></ref>。ZO-1は細胞質側からこれらの膜貫通型タンパク質に結合する。さらに、ZO-2およびZO-3がZO-1に結合することで、強固な結合構造を保っている。また、ZOファミリータンパク質は、細胞質側で[[アクチン]]と結合し、内皮細胞の形態保持に関わっている<ref name=ref13 />。
 
====脈絡叢====
 [[脈絡叢]]は一層の上皮細胞からなる。[[側脳室]]、[[第3脳室]]、[[第4脳室]]に存在し、[[脳脊髄液]](CSF)を産生・[[分泌]]する。頂端膜側は脳脊[[髄液]]に接し、[[基底膜]]側で血管に接している。脈絡叢の頂端膜側には密着結合が存在し、[[血液脳脊髄液関門]](blood-CSF barrier)を形成する。脈絡叢を構成する上皮細胞間の密着接合部位では、ZO-1の発現が見られる。密着結合の細胞質側でZO-1はクローディン-1、[[クローディン-2|2]]、[[クローディン-11|11]]およびオクルディンと結合し<ref name=ref31><pubmed>11427304</pubmed></ref>、血液-脳脊髄液間の物質の移動を制御することで脳の恒常性を維持している。


==関連項目==
==関連項目==

2016年3月23日 (水) 10:24時点における版

小曽戸 陽一
Korea Brain Research Institute(韓国)Mechanoneuroscience Lab
DOI:10.14931/bsd.7030 原稿受付日:2016年3月21日 原稿完成日:2016年月日
担当編集委員:大隅 典子(東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)

名称の由来:Zonula occludens-1

 ZO-1はタイトジャンクションを構成する主要な分子である。細胞や組織のアピカル側に局在し、細胞極性形成に関わると考えられている。また、タイトジャンクションだけでなく、アドヘレンスジャンクションやギャップジャンクションにも局在が見られることから、広く細胞間接着構造の維持に関与する分子であると考えられる。近年では、ZO-1が細胞内シグナル伝達分子や転写調節因子として働き、細胞増殖を調節するという報告もなされている。

 脳神経系では、ZO-1は発生期の神経上皮組織において神経前駆細胞の極性形成に関わる。また、ギャップ結合を介したグリア細胞どうしの細胞間コミュニケーションへの関与も示唆されている。一方、血液脳関門や血液脳脊髄液関門などの組織と体液の境界領域において、様々な物質の透過を調節するバリアとして機能し、脳神経系の恒常性の維持に寄与している。

ZOタンパク質

図1.ZOタンパク質構造[1]
図2.ZO-1タンパク質の構造
N末端側にPD domain(1,2,3の数字で示す)、SH3 domain、GUK(GK)domainが存在する。C末端側にはプロリンリッチな領域(P)、選択的スプライシング部位(α、β、γ)が存在する。+、-はそれぞれ塩基性領域、酸性領域を表す[2]

 ZOタンパク質(図1)は、membrane-associated guanylate kinase(MAGUK)ファミリーに分類され、Tight junction protein(Tjp)とも呼ばれる。ZOタンパク質には、分子量220kDaのZO-1[3] [4]、160kDaのZO-2[5] [6]、130kDaの ZO-3[7]の3種類がある。これらに共通の構造として、3個のPDZ domain、1個のSrc homology 3(SH3)domain、1個のguanylated kinase(GUKまたはGK)domainが挙げられる。また、プロリンリッチ領域が、ZO-1、ZO-2ではカルボキシル末端側、ZO-3では2nd PDZ domainと 3rd PDZ domainの間に存在する[2]。3種のZOタンパク質を区別するのはC末端領域の構造である。ZO-1のC末領域は他の2種よりも長い。また、ZO-1では選択的スプライシング部位が3カ所あるが、ZO-2では2カ所、ZO-3にはない[2]。これらの違いが、3種のタンパク質の機能の違いを生み出すと考えられている。

 多細胞生物の上皮組織では、上皮細胞が単層あるいは重層に配列し、互いに接着したシート状構造を呈する。上皮シート構造の形成・維持には、頂端側に存在する密着結合・接着結合・接着斑からなる接着複合体が重要な役割を果たしている。ZOタンパク質は、細胞膜側で密着結合や接着結合を構成するタンパク質群と結合し、細胞質側で細胞骨格と結合する。これにより、細胞間接着構造を細胞の適切な位置に維持している。また、密着結合の形成により膜タンパク質の拡散が抑えられ、細胞の頂端側と基底側で膜組成に差が生まれることから、細胞極性形成にも関与すると考えられる。近年では、ZOタンパク質が核内に移動することにより、細胞内シグナル伝達や転写調節を担うことも報告されている[8]

ZO-1の概要

 ZO-1は、ZOタンパク質のひとつで、peripheral membrane protein表在性膜タンパク質に分類される[2]。1986年に、密着結合に含まれるタンパク質として同定された[3]。また、非上皮性の細胞や密着結合を欠く細胞では、接着結合部位でcadherinやcateninと結合する[4] [9]。さらに、ギャップ結合において、connexinファミリータンパク質との結合が報告されている[10]。これらの細胞間結合部位において、ZO-1は細胞膜側で細胞間結合を構成するタンパク質群と、細胞質側で細胞骨格成分と結合する。密着結合形成において、ZO-1はZO-2とともにclaudinsを細胞膜へ集積させる役割をもつ[11]

タンパク質構造の特徴

 ZOタンパク質に共通する構造(PDZ domain, SH3 domain, GUK domain)の他に、ZO-1は他2つのZOタンパク質に比べて長いC末領域を持つ(図2)。この領域にはactin binding regionがあり、細胞質側で細胞骨格系であるF-actinと結合する[12] [13]。さらに、C末端側には3カ所の選択的スプライシング部位α、β、γがあり、多様なスプライスバリアントが存在する[2] [14]。また、ZO-1は1st PDZ domainおよびGUK領域に核移行シグナル領域をもつ[15]。これらのことから、核内で遺伝子発現を調節する働きもあると考えられる。

神経組織における発現と機能

神経系形成初期における発現と機能

 発生期の神経上皮では、脳室面が頂端(apical)側となる。ZO-1は神経系形成初期に神経板の脳室面において発現が見られる。神経板ではZO-1はoccludinと結合し、機能的な密着結合を形成している。神経管閉鎖時には脳室面におけるoccludinの発現が消失するが、ZO-1の発現は維持される[16]。脳室面では、接着結合の構成タンパク質であるN-cadherin[17]が発現してくる。

神経発生期における発現と機能

 神経管閉鎖後の神経上皮組織では、神経前駆細胞から神経細胞が産生されるようになる。このとき、ZO-1は脳室面に発現が見られ[18]、細胞レベルでは神経前駆細胞のapical processに発現している。神経前駆細胞が分裂するとき、ZO-1陽性のapical processが2つの娘細胞に分配される。apical processとbasal processを受け継いだ娘細胞は、自己複製能をもつ神経前駆細胞となる。一方で、apical processのみ受け継いだ娘細胞は、神経細胞もしくはbasal progenitorとなってSVZで分裂し、2つの神経細胞を産生する[19]。したがって、ZO-1は、神経前駆細胞のapical-basalの極性形成に寄与すると考えられる。

グリア細胞における発現と機能

 アストロサイトオリゴデンドロサイトにおいて、ZO-1はギャップ結合に局在が見られる[20] [21] [22] [23]。ギャップ結合では、connexin ファミリーに属するタンパク質(Cx-)と結合する[24] 。アストロサイトのギャップ結合では、ZO-1はCx30, Cx43と結合する[10] [21]。オリゴデンドロサイトのギャップ結合では、ZO-1はCx47と結合する[23]。しかし、ギャップ結合形成におけるZO-1の役割は明らかになっていない。ZO-1がconnexinのmembrane traffic細胞内膜輸送に関与し、ギャップ結合のターンオーバーを担うという報告もあるが、まだ検証の余地を残している[25] [26] [27]


血液脳関門における発現と機能

 血液脳関門Blood-brain barrierBBB)は、血管内皮細胞endothelial cell、アストロサイトastrocyte 、周皮細胞pericyteから構成される。最も内腔に位置する血管内皮細胞同士は密着結合で強固につながっている[28]。この構造により、不要な物質や薬物、病原体の中枢神経系への進入を防いでいる。BBBにおける密着結合にはoccludin, claudins-1およびclaudins-5が局在する[29] [30]。ZO-1は細胞質側からこれらに結合し、密着結合を支えている。また、ZO-1はアクチンとも結合し、内皮細胞の形態保持に関わっている[7]

脈絡叢における発現と機能

 脈絡叢は一層の上皮細胞からなる。側脳室第3脳室第4脳室に存在し、脳脊髄液(CSF)を産生・分泌する。頂端膜側は脳脊髄液に接し、基底膜側で血管に接している。脈絡叢の頂端膜側には密着結合が存在し、血液脳脊髄液関門blood-CSF barrierを形成する。密着結合の細胞質側でZO-1はClaudins-1, 2,11およびoccludinと結合し[31]、血液-脳脊髄液間の物質の移動を制御することで脳の恒常性を維持している。

関連項目

参考文献

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