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脳梁(corpus callosum)は哺乳類(単孔類や有袋類では脳梁を欠く)において左右の大脳半球をつなぐ交連線維の束であり、両大脳半球間の情報連絡を行う。脳を頭頂から観察すると大脳縦列の底に存在する。矢状方向の断面でみると大脳皮質帯状回と側脳室もしくは正中では透明中隔に挟まれた位置にあり、各領域は前方から脳梁吻、脳梁膝、脳梁幹、脳梁膨大と呼ばれている。ヒトの脳では約2億本の神経線維(軸索)からなる。自閉症スペクトラム障害において再現性よく交連ニューロンの低形成による脳梁形成不全が観察される(Minshew and Williams, 2007; Mcalonan et al., 2009; Freitag et al., 2009; Vidal et al., 2006; Egaas et al., 1995)。脳梁の形成不全や外科的な脳梁切断によって認知障害、高次脳機能障害が生じる(Paul et al., 2007)。主に脳梁は左右の大脳皮質灰白質に含まれる交連ニューロンの軸索とそれをとりまく髄鞘からなる。
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<font size="+1">[http://researchmap.jp/yukatsuyama 勝山 裕]</font><br>
''滋賀医科大学 解剖学講座''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年1月9日 原稿完成日:2014年11月9日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noriko1128 大隅 典子](東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)<br>
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交連ニューロンの分化:大脳皮質を構成する興奮性投射ニューロンは初期には脳室帯(ventricular zone)から、大脳皮質の発生が進むにつれ脳室下帯(subventricular zone)から産生され、これらニューロン産生帯における神経前駆細胞はそれぞれapical progenitor, basal progenitorと呼ばれる。大脳皮質の興奮性ニューロンは放射方向に6層の細胞層をなすが、室帯側の神経幹細胞から産生されるニューロンはより早く分化したニューロンがより脳室側(深層)に、より遅く分化したニューロンは軟膜側(浅層)に配置されるinside-outパターンを取る。交連ニューロンはより遅く産まれるニューロン群であり、そのほとんどが大脳皮質II/III層に位置し、一部はV層、VI層にも見られる(Aboitiz and Montiel, 2003)。よって交連ニューロンは皮質形成期を通じて産生される。VI層に位置する交連ニューロンはマウスではE (embryonic day)12.5に、V層に位置する交連ニューロンはE13.5に産まれる。しかしほとんどの交連ニューロンは浅層に位置し、これらはE15.5-E17.5に産生される(Angevine and Sidman, 1961)。この様に交連ニューロンの産生が大脳皮質発生過程のほとんどの時期にわたることは交連ニューロンが広汎な神経前駆細胞から生み出されることを意味するのみでなく、進化過程で大脳皮質の増大と交連ニューロンの産生量が増えることが関連していることを示唆している。哺乳類の浅層ニューロンは基本的に脳室下帯(SVZ)から産生され、霊長類では内側脳室下帯と外側脳室下帯とに分けることができる(Tomasch, 1954; Smart et al., 2002)。ヒトではとくにSVZが著しく拡張されて外側脳室下帯となり、交連ニューロンの数を更に増大させることで、皮質全体のサイズ、神経回路やニューロン種の複雑さを作り、脳機能の発達の進化発生学的原因となっている可能性がある(Hansen et al., 2010)
英:development of corpus callosum 独:Entwicklung des Corpus Callosum 仏:développement du corps calleux


交連ニューロンの軸索は前脳正中部にむかった後、反対側の大脳皮質へ投射する。この線維の束が脳梁となる。発生初期(マウスの場合、胎生期E14-E15)における正中部での左右半球の融合が起きない場合は脳梁形成が障害される(Lindwall et all., 2007)。この融合には正中部のグリア細胞が必要であると考えられている(Silver etal., 1993; Shu et al., 2001)。マウスではE15頃になると帯状皮質領域深層に位置する早生まれ交連ユーロンの軸索が正中部に到達する。この軸索は後に続く交連軸索の投射のためのパイオニア線維として働くと考えられている(Silver et al., 1982)。E16頃には交連ニューロンの軸索は正中域を通過し反対側大脳皮質に侵入する。Fgfr1変異マウスでみられるような灰白層グリア(indusium griseum glia)とglial wedgeと言ったグリア性の構造の欠損によって交連線維は正中を超える事ができなくなる(Smith et al., 2006)。交連線維の交差には以下の様な多くのガイダンス分子が関わっている事が実験的に示されている。
{{box|text= 脳梁は大脳の両半球をつなぐ交連繊維からなる構造である。この繊維は大脳皮質のII/III層を形成するニューロン(交連ニューロン)の軸索である。脳梁の発生はこれらニューロンの分化から始まる。大脳皮質において浅層(脳表面に近い層)のニューロンは深層(脳室、白質に近いニューロン)に較べて遅く分化する。交連ニューロンの軸索は大脳半球では白質に向かった後、正中において交差し脳梁を形成する。この軸索伸張を制御する様々なシグナル分子が報告されている。脳梁発生異常とヒト精神疾患との関連が指摘されている。}}[[Image:Corpus callosum.gif|thumb|right|300px|<b>図 脳梁(赤)</b><br />Wikipediaより]]
== 脳梁とは ==


FGF: FGF受容体Fgfr1ノックアウトマウスのヘテロ変異体では正中グリア構造に異常はみられないが、交連線維は正中を超える事ができない。よってFGFシグナルはグリア性構造を作るのみでなく、脳梁線維の走行に直接に働いている可能性が示唆される (Tole et al. 2006)。
 [[wj:哺乳類|哺乳類]]([[wj:単孔類|単孔類]]や[[wj:有袋類|有袋類]]では脳梁を欠く)において左右の[[大脳半球]]をつなぐ[[交連線維]]の束であり、両大脳半球間の情報連絡を行う。脳を頭頂から観察すると大脳縦列の底に存在する。矢状方向の断面でみると[[大脳皮質]][[帯状回]]と[[側脳室]]もしくは正中では[[透明中隔]]に挟まれた位置にあり、各領域は前方から[[脳梁吻]]、[[脳梁膝]]、[[脳梁幹]]、[[脳梁膨大]]と呼ばれている。[[wj:ヒト|ヒト]]の脳では約2億本の神経線維([[軸索]])からなる。[[自閉症スペクトラム障害]]において再現性よく交連ニューロンの低形成による脳梁形成不全が観察される<ref><pubmed> 17620483</pubmed></ref><ref><pubmed> 19409535</pubmed></ref><ref><pubmed> 16460701 </pubmed></ref><ref><pubmed> 7639631 </pubmed></ref><ref><pubmed>19356262</pubmed></ref>。脳梁の形成不全や外科的な脳梁切断によって[[認知障害]]、[[高次脳機能障害]]が生じる<ref><pubmed> 17375041 </pubmed></ref>。主に脳梁は左右の大脳皮質[[灰白質]]に含まれる交連ニューロンの軸索とそれをとりまく[[髄鞘]]からなる。


Slit: Slit2連合軸索が交差する領域に多く発現しており、交連軸索にはSlitの受容体であるRobo1/Robo2ダブルノックアウトマウスでは交差せず正中付近で腹側へ延びる交連軸索が観察される(Lopez-Bendito et al., 2007)。
== 交連ニューロンの分化 ==


Wnt: Wnt5aが交連繊維の形成に必要であることが示されており、Wnt受容体としてはFrizzled3, 受容体型チロシンキナーゼRykが働いている。
 大脳皮質を構成する興奮性投射ニューロンは初期には[[脳室帯]](ventricular zone)から、大脳皮質の発生が進むにつれ[[脳室下帯]](subventricular zone)から産生され、これらニューロン産生帯における[[神経前駆細胞]]はそれぞれ[[Apical progenitor]], [[Basal progenitor]]と呼ばれる。大脳皮質の興奮性ニューロンは放射方向に6層の細胞層をなすが、室帯側の[[神経幹細胞]]から産生されるニューロンはより早く分化したニューロンがより脳室側(深層)に、より遅く分化したニューロンは軟膜側(浅層)に配置されるinside-outパターンを取る。交連ニューロンはより遅く産まれるニューロン群であり、そのほとんどが大脳皮質II/III層に位置し、一部はV層、VI層にも見られる<ref><pubmed> 12700818 </pubmed></ref>。よって交連ニューロンは皮質形成期を通じて産生される。VI層に位置する交連ニューロンはマウスではE (embryonic day)12.5に、V層に位置する交連ニューロンはE13.5に産まれる。しかしほとんどの交連ニューロンは浅層に位置し、これらはE15.5-E17.5に産生される<ref><pubmed>17533671</pubmed></ref>。この様に交連ニューロンの産生が大脳皮質発生過程のほとんどの時期にわたることは交連ニューロンが広汎な神経前駆細胞から生み出されることを意味するのみでなく、進化過程で大脳皮質の増大と交連ニューロンの産生量が増えることが関連していることを示唆している。


Netrin: Netrin1ノックアウトマウスでは脳梁が形成されない(Serafini et al., 1996)。受容体であるDCCは交連ニューロンで発現している(Shu et al., 2000)。Draxinノックアウトマウスでは脳梁が形成されない。またIGGが形成されない。Draxinは正中域グリア細胞で発現しており、とくにglial wedgeが発現するDraxinよる神経線維の伸張抑制効果が交連繊維の交差に必要であると考えられる(Islam et al., 2009)。DraxinはDCCと結合することから、この受容体をNetrinと共用して軸索ガイダンスに関わっていると考えられる(Ahmed et al., 2011)
 哺乳類の浅層ニューロンは基本的に脳室下帯から産生され、[[wj:霊長類|霊長類]]では内側脳室下帯と外側脳室下帯とに分けることができる<ref><pubmed>13181005</pubmed></ref><ref><pubmed> 11734531 </pubmed></ref>。ヒトではとくにSVZが著しく拡張されて外側脳室下帯となり、交連ニューロンの数を更に増大させることで、皮質全体のサイズ、神経回路やニューロン種の複雑さを作り、脳機能の発達の進化発生学的原因となっている可能性がある<ref><pubmed> 20154730 </pubmed></ref>。  


Ephrin: EphB2, EphB3ノックアウトマウスでは脳梁繊維の走行に異常が見られる。EphA5の細胞内ドメインを欠損させたマウスでは交連繊維の交差しなくなる。EphrinB3ノックアウトマウスでも交連繊維が交差しなくなり、軸索は正中手前で絡み合った神経繊維の束(Probst’s bundle)を生じる (Mendes et al., 2006)。
== 交連線維の形成 ==


Semaphorin/Neuropilin: Neuropilin1のドミナントネガティブ分子を交連ニューロンに発現させると、軸索は正中に向かわなくなる(Hatanaka et al., 2009)。Neuropilin1は帯状皮質ニューロンにおいて発現しており、脳梁形成域ではクラス3Semaphorinが発現している。帯状皮質から投射されるNeuropilin1陽性繊維は脳梁形成のパイオニア軸索と考えられる(Piper et al., 2009)。
 交連ニューロンの軸索は前脳正中部にむかった後、反対側の大脳皮質へ投射する。この線維の束が脳梁となる。発生初期([[wj:マウス|マウス]]の場合、胎生期E14-E15)における正中部での左右半球の融合が起きない場合は脳梁形成が障害される<ref><pubmed> 17275286 </pubmed></ref>。この融合には正中部の[[グリア細胞]]が必要であると考えられている<ref><pubmed> 8087547 </pubmed></ref><ref><pubmed> 11306627 </pubmed></ref>。マウスではE15頃になると帯状皮質領域深層に位置する早生まれ交連ユーロンの軸索が正中部に到達する。この軸索は後に続く交連軸索の投射のための[[パイオニア線維]]として働くと考えられている<ref><pubmed> 7130467 </pubmed></ref>。E16頃には交連ニューロンの軸索は正中域を通過し反対側大脳皮質に侵入する。[[Fgfr1]]変異マウスでみられるような[[灰白層グリア]](indusium griseum glia)とglial wedgeと言ったグリア性の構造の欠損によって交連線維は正中を超える事ができなくなる<ref><pubmed> 16715082 </pubmed></ref>。
 
== 脳梁形成に関わる分子 ==
 
 交連線維の交差には以下の様な多くの[[ガイダンス分子]]が関わっている事が実験的に示されている。
 
*[[FGF]]<br> [[FGF受容体]]Fgfr1[[ノックアウトマウス]]のヘテロ変異体では正中グリア構造に異常はみられないが、交連線維は正中を超える事ができない。よってFGFシグナルはグリア性構造を作るのみでなく、脳梁線維の走行に直接に働いている可能性が示唆される<ref><pubmed> 16309667 </pubmed></ref>。
 
*[[Slit]]<br> [[Slit2]]連合軸索が交差する領域に多く発現しており、交連軸索にはSlitの受容体である[[Robo1]]/[[Robo2]]ダブルノックアウトマウスでは交差せず正中付近で腹側へ延びる交連軸索が観察される<ref><pubmed> 17392456 </pubmed></ref>。
 
*[[Wnt]]<br> [[Wnt5a]]が交連線維の形成に必要であることが示されており、[[Wnt]][[受容体]]としては[[Frizzled3]], [[受容体型チロシンキナーゼ]][[Ryk]]が働いている(文献をお願い致します)。
 
*[[Netrin]]<br> [[Netrin1]]ノックアウトマウスでは脳梁が形成されない<ref><pubmed> 8978605 </pubmed></ref>。受容体である[[DCC]]は交連ニューロンで発現している<ref><pubmed> 10581466 </pubmed></ref>。[[Draxin]]ノックアウトマウスでは脳梁が形成されない。また[[IGG]]が形成されない。Draxinは正中域グリア細胞で発現しており、とくに[[Glial wedge]]が発現するDraxinよる神経線維の伸張抑制効果が交連線維の交差に必要であると考えられる(Islam et al., 2009)。DraxinはDCCと結合することから、この受容体をNetrinと共用して軸索ガイダンスに関わっていると考えられる<ref><pubmed> 21957262 </pubmed></ref>。
 
*[[Ephrin]]<br> [[EphB2]], [[EphB3]]ノックアウトマウスでは脳梁線維の走行に異常が見られる。[[EphA5]]の細胞内ドメインを欠損させたマウスでは交連線維の交差しなくなる。[[EphrinB3]]ノックアウトマウスでも交連線維が交差しなくなり、軸索は正中手前で絡み合った神経線維の束(Probst’s bundle)を生じる<ref><pubmed> 16421308 </pubmed></ref>。
 
*[[Semaphorin]]/[[Neuropilin]]<br> [[Neuropilin1]]の[[ドミナントネガティブ]]分子を交連ニューロンに発現させると、軸索は正中に向かわなくなる<ref><pubmed> 19296474 </pubmed></ref>。Neuropilin1は帯状皮質ニューロンにおいて発現しており、脳梁形成域ではクラス3 Semaphorinが発現している。帯状皮質から投射されるNeuropilin1陽性線維は脳梁形成のパイオニア軸索と考えられる<ref><pubmed> 19357391 </pubmed></ref>
 
== 関連項目 ==
*[[軸索伸長]]
*[[交叉性ニューロン]]
 
== 参考文献  ==
 
<references />

2021年7月23日 (金) 20:29時点における最新版

勝山 裕
滋賀医科大学 解剖学講座
DOI:10.14931/bsd.1255 原稿受付日:2013年1月9日 原稿完成日:2014年11月9日
担当編集委員:大隅 典子(東北大学 大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 脳神経科学コアセンター 発生発達神経科学分野)

英:development of corpus callosum 独:Entwicklung des Corpus Callosum 仏:développement du corps calleux

 脳梁は大脳の両半球をつなぐ交連繊維からなる構造である。この繊維は大脳皮質のII/III層を形成するニューロン(交連ニューロン)の軸索である。脳梁の発生はこれらニューロンの分化から始まる。大脳皮質において浅層(脳表面に近い層)のニューロンは深層(脳室、白質に近いニューロン)に較べて遅く分化する。交連ニューロンの軸索は大脳半球では白質に向かった後、正中において交差し脳梁を形成する。この軸索伸張を制御する様々なシグナル分子が報告されている。脳梁発生異常とヒト精神疾患との関連が指摘されている。

図 脳梁(赤)
Wikipediaより

脳梁とは

 哺乳類単孔類有袋類では脳梁を欠く)において左右の大脳半球をつなぐ交連線維の束であり、両大脳半球間の情報連絡を行う。脳を頭頂から観察すると大脳縦列の底に存在する。矢状方向の断面でみると大脳皮質帯状回側脳室もしくは正中では透明中隔に挟まれた位置にあり、各領域は前方から脳梁吻脳梁膝脳梁幹脳梁膨大と呼ばれている。ヒトの脳では約2億本の神経線維(軸索)からなる。自閉症スペクトラム障害において再現性よく交連ニューロンの低形成による脳梁形成不全が観察される[1][2][3][4][5]。脳梁の形成不全や外科的な脳梁切断によって認知障害高次脳機能障害が生じる[6]。主に脳梁は左右の大脳皮質灰白質に含まれる交連ニューロンの軸索とそれをとりまく髄鞘からなる。

交連ニューロンの分化

 大脳皮質を構成する興奮性投射ニューロンは初期には脳室帯(ventricular zone)から、大脳皮質の発生が進むにつれ脳室下帯(subventricular zone)から産生され、これらニューロン産生帯における神経前駆細胞はそれぞれApical progenitor, Basal progenitorと呼ばれる。大脳皮質の興奮性ニューロンは放射方向に6層の細胞層をなすが、室帯側の神経幹細胞から産生されるニューロンはより早く分化したニューロンがより脳室側(深層)に、より遅く分化したニューロンは軟膜側(浅層)に配置されるinside-outパターンを取る。交連ニューロンはより遅く産まれるニューロン群であり、そのほとんどが大脳皮質II/III層に位置し、一部はV層、VI層にも見られる[7]。よって交連ニューロンは皮質形成期を通じて産生される。VI層に位置する交連ニューロンはマウスではE (embryonic day)12.5に、V層に位置する交連ニューロンはE13.5に産まれる。しかしほとんどの交連ニューロンは浅層に位置し、これらはE15.5-E17.5に産生される[8]。この様に交連ニューロンの産生が大脳皮質発生過程のほとんどの時期にわたることは交連ニューロンが広汎な神経前駆細胞から生み出されることを意味するのみでなく、進化過程で大脳皮質の増大と交連ニューロンの産生量が増えることが関連していることを示唆している。

 哺乳類の浅層ニューロンは基本的に脳室下帯から産生され、霊長類では内側脳室下帯と外側脳室下帯とに分けることができる[9][10]。ヒトではとくにSVZが著しく拡張されて外側脳室下帯となり、交連ニューロンの数を更に増大させることで、皮質全体のサイズ、神経回路やニューロン種の複雑さを作り、脳機能の発達の進化発生学的原因となっている可能性がある[11]

交連線維の形成

 交連ニューロンの軸索は前脳正中部にむかった後、反対側の大脳皮質へ投射する。この線維の束が脳梁となる。発生初期(マウスの場合、胎生期E14-E15)における正中部での左右半球の融合が起きない場合は脳梁形成が障害される[12]。この融合には正中部のグリア細胞が必要であると考えられている[13][14]。マウスではE15頃になると帯状皮質領域深層に位置する早生まれ交連ユーロンの軸索が正中部に到達する。この軸索は後に続く交連軸索の投射のためのパイオニア線維として働くと考えられている[15]。E16頃には交連ニューロンの軸索は正中域を通過し反対側大脳皮質に侵入する。Fgfr1変異マウスでみられるような灰白層グリア(indusium griseum glia)とglial wedgeと言ったグリア性の構造の欠損によって交連線維は正中を超える事ができなくなる[16]

脳梁形成に関わる分子

 交連線維の交差には以下の様な多くのガイダンス分子が関わっている事が実験的に示されている。

  • FGF
     FGF受容体Fgfr1ノックアウトマウスのヘテロ変異体では正中グリア構造に異常はみられないが、交連線維は正中を超える事ができない。よってFGFシグナルはグリア性構造を作るのみでなく、脳梁線維の走行に直接に働いている可能性が示唆される[17]
  • Slit
     Slit2連合軸索が交差する領域に多く発現しており、交連軸索にはSlitの受容体であるRobo1/Robo2ダブルノックアウトマウスでは交差せず正中付近で腹側へ延びる交連軸索が観察される[18]
  • Netrin
     Netrin1ノックアウトマウスでは脳梁が形成されない[19]。受容体であるDCCは交連ニューロンで発現している[20]Draxinノックアウトマウスでは脳梁が形成されない。またIGGが形成されない。Draxinは正中域グリア細胞で発現しており、とくにGlial wedgeが発現するDraxinよる神経線維の伸張抑制効果が交連線維の交差に必要であると考えられる(Islam et al., 2009)。DraxinはDCCと結合することから、この受容体をNetrinと共用して軸索ガイダンスに関わっていると考えられる[21]
  • Ephrin
     EphB2, EphB3ノックアウトマウスでは脳梁線維の走行に異常が見られる。EphA5の細胞内ドメインを欠損させたマウスでは交連線維の交差しなくなる。EphrinB3ノックアウトマウスでも交連線維が交差しなくなり、軸索は正中手前で絡み合った神経線維の束(Probst’s bundle)を生じる[22]
  • Semaphorin/Neuropilin
     Neuropilin1ドミナントネガティブ分子を交連ニューロンに発現させると、軸索は正中に向かわなくなる[23]。Neuropilin1は帯状皮質ニューロンにおいて発現しており、脳梁形成域ではクラス3 Semaphorinが発現している。帯状皮質から投射されるNeuropilin1陽性線維は脳梁形成のパイオニア軸索と考えられる[24]

関連項目

参考文献

  1. Minshew, N.J., & Williams, D.L. (2007).
    The new neurobiology of autism: cortex, connectivity, and neuronal organization. Archives of neurology, 64(7), 945-50. [PubMed:17620483] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  2. Freitag, C.M., Luders, E., Hulst, H.E., Narr, K.L., Thompson, P.M., Toga, A.W., ..., & Konrad, C. (2009).
    Total brain volume and corpus callosum size in medication-naïve adolescents and young adults with autism spectrum disorder. Biological psychiatry, 66(4), 316-9. [PubMed:19409535] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  3. Vidal, C.N., Nicolson, R., DeVito, T.J., Hayashi, K.M., Geaga, J.A., Drost, D.J., ..., & Thompson, P.M. (2006).
    Mapping corpus callosum deficits in autism: an index of aberrant cortical connectivity. Biological psychiatry, 60(3), 218-25. [PubMed:16460701] [WorldCat] [DOI]
  4. Egaas, B., Courchesne, E., & Saitoh, O. (1995).
    Reduced size of corpus callosum in autism. Archives of neurology, 52(8), 794-801. [PubMed:7639631] [WorldCat] [DOI]
  5. McAlonan, G.M., Cheung, C., Cheung, V., Wong, N., Suckling, J., & Chua, S.E. (2009).
    Differential effects on white-matter systems in high-functioning autism and Asperger's syndrome. Psychological medicine, 39(11), 1885-93. [PubMed:19356262] [WorldCat] [DOI]
  6. Paul, L.K., Brown, W.S., Adolphs, R., Tyszka, J.M., Richards, L.J., Mukherjee, P., & Sherr, E.H. (2007).
    Agenesis of the corpus callosum: genetic, developmental and functional aspects of connectivity. Nature reviews. Neuroscience, 8(4), 287-99. [PubMed:17375041] [WorldCat] [DOI]
  7. Aboitiz, F., & Montiel, J. (2003).
    One hundred million years of interhemispheric communication: the history of the corpus callosum. Brazilian journal of medical and biological research = Revista brasileira de pesquisas medicas e biologicas, 36(4), 409-20. [PubMed:12700818] [WorldCat] [DOI]
  8. Angevine, J.B., & Sidman, R.L. (1961).
    Autoradiographic study of cell migration during histogenesis of cerebral cortex in the mouse. Nature, 192, 766-8. [PubMed:17533671] [WorldCat] [DOI]
  9. TOMASCH, J. (1954).
    Size, distribution, and number of fibres in the human corpus callosum. The Anatomical record, 119(1), 119-35. [PubMed:13181005] [WorldCat] [DOI]
  10. Smart, I.H., Dehay, C., Giroud, P., Berland, M., & Kennedy, H. (2002).
    Unique morphological features of the proliferative zones and postmitotic compartments of the neural epithelium giving rise to striate and extrastriate cortex in the monkey. Cerebral cortex (New York, N.Y. : 1991), 12(1), 37-53. [PubMed:11734531] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  11. Hansen, D.V., Lui, J.H., Parker, P.R., & Kriegstein, A.R. (2010).
    Neurogenic radial glia in the outer subventricular zone of human neocortex. Nature, 464(7288), 554-561. [PubMed:20154730] [WorldCat] [DOI]
  12. Lindwall, C., Fothergill, T., & Richards, L.J. (2007).
    Commissure formation in the mammalian forebrain. Current opinion in neurobiology, 17(1), 3-14. [PubMed:17275286] [WorldCat] [DOI]
  13. Silver, J. (1993).
    Glia-neuron interactions at the midline of the developing mammalian brain and spinal cord. Perspectives on developmental neurobiology, 1(4), 227-36. [PubMed:8087547] [WorldCat]
  14. Shu, T., & Richards, L.J. (2001).
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  15. Silver, J., Lorenz, S.E., Wahlsten, D., & Coughlin, J. (1982).
    Axonal guidance during development of the great cerebral commissures: descriptive and experimental studies, in vivo, on the role of preformed glial pathways. The Journal of comparative neurology, 210(1), 10-29. [PubMed:7130467] [WorldCat] [DOI]
  16. Smith, K.M., Ohkubo, Y., Maragnoli, M.E., Rasin, M.R., Schwartz, M.L., Sestan, N., & Vaccarino, F.M. (2006).
    Midline radial glia translocation and corpus callosum formation require FGF signaling. Nature neuroscience, 9(6), 787-97. [PubMed:16715082] [WorldCat] [DOI]
  17. Tole, S., Gutin, G., Bhatnagar, L., Remedios, R., & Hébert, J.M. (2006).
    Development of midline cell types and commissural axon tracts requires Fgfr1 in the cerebrum. Developmental biology, 289(1), 141-51. [PubMed:16309667] [WorldCat] [DOI]
  18. López-Bendito, G., Flames, N., Ma, L., Fouquet, C., Di Meglio, T., Chedotal, A., ..., & Marín, O. (2007).
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