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''九州大学 大学院医学研究院 応用幹細胞医科学部門 基盤幹細胞学分野''<br> | ''九州大学 大学院医学研究院 応用幹細胞医科学部門 基盤幹細胞学分野''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2023年4月26日 原稿完成日:2023年5月XX日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0192882 古屋敷 智之](神戸大学大学院医学研究科・医学部 薬理学分野)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0192882 古屋敷 智之](神戸大学大学院医学研究科・医学部 薬理学分野)<br> | ||
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2023年5月9日 (火) 17:38時点における版
中川 拓海、中島 欽一
九州大学 大学院医学研究院 応用幹細胞医科学部門 基盤幹細胞学分野
DOI:10.14931/bsd.10200 原稿受付日:2023年4月26日 原稿完成日:2023年5月XX日
担当編集委員:古屋敷 智之(神戸大学大学院医学研究科・医学部 薬理学分野)
英:histone demethylase
ヒストン脱メチル化酵素とは、メチル化されたヒストン尾部から、メチル基を除去する脱メチル化反応を触媒する酵素である。これまでに同定されたヒストン脱メチル化酵素として、リジン特異的脱メチル化酵素ファミリーとJumonjiドメイン含有タンパク質ファミリーが知られている。神経系においては、胎生期神経前駆細胞や神経幹細胞の増殖及び分化の制御や、ニューロンの成熟や保護などへ関与し、様々な神経疾患との関連が報告されている。
歴史・背景
ヒストン脱メチル化酵素の探索は、1964年に遊離モノ/ジメチル化リジン(図1)を脱メチル化する酵素の存在が報告されたことに始まる[1]。その後、メチル化ヒストンを脱メチル化する酵素の存在を示唆する報告もなされ[2][3]、小分子の脱メチル化が酸化酵素によって触媒されることなどから、脱メチル化反応も酸化酵素によって誘導されるのではと考えられるようになった[4][5]。しかし、その分子実体は長年にわたり不明であった。
そのような中、Shiらの研究グループは、フラビンアデニンジヌクレオチド (flavin adenine dinucleotide, FAD)依存的アミン酸化酵素に配列が類似しているKIAA0601というタンパク質が、様々なヒストン脱アセチル化酵素複合体の構成因子であることに注目し、この分子のヒストン脱メチル化酵素としての可能性を調査した。その結果、KIAA0601がモノ/ジメチル化されたヒストン3の4番目のリジン(H3K4)の脱メチル化反応を触媒する酵素であることを示し、リジン特異的脱メチル化酵素 (lysine-specific demethylase 1, LSD1)と名付け、2004年に報告した[6]。またこの発見により、それまで不可逆的な修飾であると考えられていたヒストンのメチル化は、アセチル化同様に可逆的な修飾であることが証明された。
最初のヒストン脱メチル化酵素の発見から2年後、Zhangらの研究グループによって、ヒストンH3の36番目のリジン残基(H3K36)を特異的に脱メチル化する新規酵素Jumonjiドメイン含有タンパク質ファミリー (JmjC Domain-Containing Histone Demethylation Protein 1, JHDM1/FBXL11)が、クロマトグラフィーを用いた生化学的手法により精製された[7]。また、JHDM1が持っているJumonji-C (Jmjc)ドメインは、Fe(II)及びα-ケトグルタル酸依存的にヒストン脱メチル化を誘導し、この酵素活性が酵母からヒトまで保存されていることが明らかにされた[7]。
サブファミリーと構造
LSDファミリー
LSD1とLSD2が属し、共にヒストン脱メチル化酵素活性を持つ。LSD familyは、アミンオキシダーゼ様(AOL)ドメインと、クロマチン関連タンパク質に特有のSWI3、RSC8、Moira (SWIRM)ドメインを持っている。AOLドメインは、FAD結合ドメインと基質結合ドメインに分かれており、触媒活性を持っている。LSD1はTowerドメインを、LSD2は2種類のzinc finger(ZFs)ドメインを特異的に持っている(表)。また、LSD2のSWIRMドメインには、LSD1には無いAOLに隣接するcoil loop(residues 273-278)が存在しており、LSD2の酵素活性に必要であることが報告されている[8]。
JmjCドメイン含有タンパク質ファミリー
共通してJmjCドメインを持つが、各々が保持する他のドメインや構造から、さらにいくつかのサブファミリーに分類される[9]。酵素活性を持たない、もしくは報告されていないものが存在するが、ここでは酵素活性を持つものについて、各サブファミリーの構造[9]や各酵素が標的とするヒストン修飾を表にまとめた。
遺伝子名 | 標的 | 遺伝子発現の組織特異性 The Human Protein Atlasより |
構造[8][9] | |
---|---|---|---|---|
リジン特異的脱メチル化酵素 (lysine specific demethylase, LSD)ファミリー | ||||
LSD1 (KDM1A) | H3K4/K9me1, me2 | 低 (多くの組織) | ||
LSD2 (KDM1B) | H3K4me1, me2 H3K9me1, me2 |
低 (多くの組織) | ||
Jumonji (JmjC)ドメイン含有タンパク質ファミリー | ||||
FBXL11 (KDM2A) | H3K36me2 | 低 (多くの組織) | ||
FBXL10 (KDM2B) | H3K36me1, me2 H3K4me3 |
低 (多くの組織) | ||
JMJD1A (KDM3A) | H3K9me1, me2 | 低 (多くの組織) | ||
JMJD1B (KDM3B) | H3K9me2 | 低 (多くの組織) | ||
HR | H3K9me2,me1 | 食道、皮膚で高発現 | ||
JMJD2A (KDM4A) | H3K9/K36me3 H1.4K26me3 |
低 (多くの組織) | ||
JMJD2B (KDM4B) | H3K9/K36 me3 H1.4K26me3 |
低 (多くの組織) | ||
JMJD2C (KDM4C) | H3K9/K36me3 H1.4K26me3 |
低 (多くの組織) | ||
JMJD2D (KDM4D) | H3K9me2, me3 H1.4K26me2,me3 |
精巣で高発現 | ||
JARID1A (KDM5A, RBP2) | H3K4me2, me3 | 腸管で高発現 | ||
JARID1B (KDM5B, PLU1) | H3K4me1, me2, me3 | 精巣で高発現 | ||
JARID1C (KDM5C, SMCX) | H3K4me2, me3 | 低 (多くの組織) | ||
JARID1D (KDM5D, SMCY) | H3K4me2, me3 | 低 (多くの組織) | ||
UTX (KDM6A) | H3K27me2, me3 | 低 (多くの組織) | ||
JMJD3 (KDM6B) | H3K27me2, me3 | 低 (多くの組織) | ||
KIAA1718 (KDM7A) | H3K9me1,me2 H3K27me2 H4K20me1 |
低 (多くの組織) | ||
PHF8 (KDM7B) | H3K9me2,me1 H3K27me2 H4K20me1 |
精巣上体で高発現 | ||
PHF2 (KDM7C) | H3K9me2,me1 | 低 (多くの組織) | ||
JMJD5 (KDM8) | H3K36me2 | 肝臓で高発現 | ||
NO66 | H3K4me1, me3 H3K36me3, me2 |
低 (多くの組織) |
凡例
H3K4me2:ヒストン3の4番目のジメチルリジンを標的とする。
LSDファミリー: :SWI3、RSC8、Moira (SWIRM)ドメイン
:アミンオキシダーゼ様(AOL)ドメイン
:Towerドメイン
:Zinc Finger (ZF)ドメイン
:Zinc finger CW (ZF_CW)ドメイン
Jumonjiドメイン含有タンパク質ファミリー: :Jumonji C (JmjC)ドメイン :Jumonji N (JmjN)ドメイン :plant homeobox ドメイン (PHD) :F-box (FBOX)ドメイン :Bright/Aridドメイン :C5HC2 zinc finger (C5HC2-ZF)ドメイン :Tudorドメイン :CXXC zinc finger (CXXC-ZF)ドメイン :tetracopeptide repeat (TPR)ドメイン :Zinc-finger like (ZF-like)ドメイン
組織分布
多くのヒストン脱メチル化酵素は、広汎の組織で発現しているが、腸管や精巣などに特異的に高発現しているものも存在する。その概要をHuman Protein Atlas, Tissue RNA expression "Tissue specificity"から抜粋して表にまとめた。
機能
LSDファミリー
分子機能
LSD1及びLSD2は、FAD依存的な酸化反応により、リジンからのメチル基除去を触媒する(図2)。この反応は、側鎖上のプロトン化された窒素原子に依存しているため、LSDはモノ及びジメチル化されたリジンを脱メチル化できるが、トリメチル化されたリジンを脱メチル化できない。
LSD1はヒストン尾部上のメチル化リジンのほかに、転写因子p53(K370)、E2F1 (K185)、 DNAメチル基転移酵素1(DNA methyltransferase 1, DNMT1; K1096)のメチル化リジンを脱メチル化することが報告されている[11][12][13]。
LSD1は、SWIRMドメインを介して他のタンパク質と相互作用するが、相互作用分子依存的に脱メチル化のターゲットが変化する。例えば、アンドロゲン受容体(AR)と結合すると、前立腺特異抗原 (prostate specific antigen, PSA)遺伝子座のプロモーター領域におけるH3K9me2及びH3K9me1の脱メチル化を誘導し[14]、CoRESTと複合体を形成するとH3K4me2及びH3K4me1の脱メチル化を誘導することが知られている[15]。
LSD2は、SWIRMドメインを介してグリオキシル酸レダクターゼ1ホモログ (glyoxylate reductase 1 homolog, GLYR1/NPAC)と結合するだけでなく、この結合によって自身の脱メチル化活性が増強される[8]。
個体での機能
Lsd1(Kdm1a)欠損マウスは、胎生(E)7.5日以前に胎生致死となる[16]。
Lsd1欠損ES細胞では、メチル化Dnmt1の脱メチル化が減少することでDnmt1の安定性が低下し、ゲノム全体のDNAメチル化レベルが減少する[13]。この結果から、Lsd1は間接的にDNAのメチル化レベルも制御していると考えられる。
下垂体前駆細胞マーカー遺伝子であるpaired like homeodomain 1 (Pitx1)を発現した細胞特異的にLsd1を欠損させたマウスでは、正常の下垂体が形成されるが、終末分化のマーカーである成長ホルモンと甲状腺刺激ホルモンβ、性腺刺激ホルモン産生細胞(ゴナドトローフ)と副腎皮質刺激ホルモン産生細胞(コルチコトローフ)のそれぞれマーカーである黄体形成ホルモンβとプロオピオメラノコルチンなどの発現が、消失もしくは減少する。したがって、Lsd1は下垂体ホルモンの正しい発現に必須であると考えられている[16]。
ES細胞でLsd1は、ニューロン分化に重要な遺伝子 (paired box 3 (Pax3), achaete-scute family bHLH transcription factor 1 (Ascl1), Zic family member 1 (Zic1), Zic4, neurogenin 1 (Neurog1))のプロモーターのH3K4me2やH3K4me1を脱メチル化し、これらの遺伝子の発現を抑制することでES細胞の未分化性を維持している[17]。またこのLsd1による未分化性の維持機能は、E3ユビキチンリガーゼであるjade family PHD finger 2 (Jade2)によってLsd1がユビキチン―プロテアソーム経路を介して分解されることで解除され、ES細胞が神経系細胞系譜に分化可能になる[17]。
Lsd1は、神経幹細胞や胎生期神経前駆細胞における機能がいくつか報告されている。神経幹細胞でLsd1は、核内受容体であるnuclear receptor subfamily 2 group E member 1 (NR2E1/Tlx)の標的遺伝子のプロモーターにhistone deacetylase 5 (Hdac5)と共に誘引され、それらの遺伝子の発現を抑制し神経幹細胞の増殖を維持している[18]。胎生期マウス神経前駆細胞でLsd1は、recombination signal binding protein for immunoglobulin kappa J region (Rbpjk)及びCoRESTと複合体を形成しHes family bHLH transcription factor 1 (Hes1)プロモーターに結合している。しかしNotchシグナルが活性化されると、Notchの細胞内領域(Notch intracellular domain; NICD)がタンパク質切断により細胞膜から遊離し、Rbpjkに結合することで、Lsd1とRbpjkの結合を解離させる(図3)。また、Lsd1とCoRESTのノックダウンによってHes1陽性細胞や神経前駆/幹細胞マーカーであるSRY-box transcription factor 2 (Sox2)及びeomesodermin (Tbr2)陽性細胞の割合が増加し、ニューロン分化を誘導するNeurog2の陽性細胞の割合が減少する。これらの結果から、Lsd1は胎生期神経前駆細胞において、Notchシグナルを抑制しニューロンの分化を促進するように働いていると考えられている[19]。
また、胎生期の網膜でもLsd1は同様の機能を発揮すると報告されている[20]。
分化したニューロンでは、選択的スプライシングにより4アミノ酸から成るexonを特異的に含んだアイソフォーム(Lsd1-E8a)の発現が増加する。Lsd1-E8aは成熟中のニューロンにおいて、ニューロン特異的エクソン(E8a)内の2番目のトレオニンがリン酸化されてCoRESTとHdac2との複合体から解離し[21]、神経突起の分岐と伸長を促進する[21][22]。さらにこのLsd1-E8aは会合するパートナーによって、脱メチル化する標的ヒストンを変える。成長中のニューロンでは、Lsd1-E8aはSupervillin(Svil)と相互作用することにより、H3K9me2の脱メチル化活性を得る。そして、ニューロン分化過程で発現が増加する遺伝子のプロモーターのH3K9me2の脱メチル化を誘導し、それらの遺伝子の発現を促進している[23]。一方、Svilがほとんど発現していない成熟したニューロンでは、Lsd1-E8aはcAMP responsive element binding protein (CREB)と相互作用することにより、H4K20me2の脱メチル化活性を得て、ニューロンの活性化に反応する遺伝子の転写の開始及び伸長を誘導している(図4)。加えて、LSD1-E8aを神経系細胞特異的にノックアウトし、ニューロンでこのアイソフォームを発現しないようにしたマウス(Nestin-CRE: loxP-Lsd1(exon 8a)-loxPマウス)は、空間学習及び記憶能力が減少する[24]。
成体マウスの全身性にLsd1を欠損させた場合、海馬や大脳皮質のニューロンに重度の変性がみられ、麻痺などの運動障害が観察された[25]。しかし、大脳の他の神経系細胞や小脳のプルキンエ細胞には影響がみられず、さらに、肝臓の肝細胞や腎臓のネフロン細胞も細胞死などの形態的な兆候を示さなかったことから、Lsd1は海馬や大脳皮質のニューロン特異的に細胞を保護する機能を持っているのではないかと推測された[25]。
Lsd2を欠損した母親マウスの卵母細胞ではインプリンティング異常が起こり、Lsd2欠損母親マウスゲノムを受け継いだ仔マウスは、重度の胎盤欠陥と成長障害、神経管欠損、心膜水腫など様々な胚異常を示し、E10.5日を超えて生存できない[26]。
JmjCドメイン含有タンパク質ファミリー
分子機能
水酸化反応により脱メチル化を触媒する水酸化酵素である。JmjC ドメイン含有タンパク質は,補酵素として Fe(II)とαケトグルタル酸を用いて,水酸基をメチル基に導入する(図5)。この結果生成された不安定なカルビノールアミン中間体はホルムアルデヒドを放出し脱メチル化が完了する(図5)。この反応は LSD familyのように,トリメチル化リジンからは脱メチル化できないという制限は無い。
個体での機能
Fbxl10(Kdm2b)はE8.5から神経上皮や頭蓋領域の神経堤が発生する部位に発現する。そして、E9.5では前脳、中脳、後脳、頭蓋間充織にまでその発現が広がり、E10.5では神経管や視蓋で、E14.5では大脳皮質の神経前駆細胞から成る脳室帯で強く発現するようになる[27]。Fbxl10欠損マウスは、中脳及び後脳の神経管閉鎖不全による外脳症となり、生後すぐに死亡する。E9.5のFbxl10欠損胚の神経堤細胞とその周囲の間充織に多くのアポトーシスマーカー陽性細胞がみられたことから、神経上皮と神経堤間充織組織における過剰な細胞死が原因ではないかと考えられている。また、E14.5の大脳皮質脳室帯や網膜では、神経前駆細胞の増加がみられたことから、Fbxl10はマウスの神経前駆細胞でアポトーシス及び増殖を負に制御していると考えられている[27]。
Utx(Kdm6a)を神経幹細胞特異的に欠損させたマウスは、学習記憶障害を示し、海馬のニューロンの機能異常及び形態異常がみられる[28]。
ES細胞において、各細胞種への分化に必要な遺伝子のプロモーターでは、転写促進型ヒストン修飾であるH3K4me3と転写抑制型ヒストン修飾H3K27me3が共存しており、各遺伝子は低発現状態に保たれている(bivalent state)。Jmjd3(Kdm6b)は、マウスES細胞が神経系細胞に分化する際、神経前駆/幹細胞マーカーであるNestinプロモーターのH3K4me3とH3K27me3のうち、H3K27me3を脱メチル化することが報告されている。このことから、Jmjd3はNestinプロモーターのbivalent state を解き、神経系への分化過程の適切な時期にNestinが発現するために必要であると考えられている[29]。Jmjd3 (Kdm6b)は他にも、ニューロン新生を制御することが報告されている[30][31]。ニワトリ脊髄の胎生期神経前駆細胞では、ニューロン分化を促進するtransforming Growth Factor-β(TGFβ)シグナルの下流因子Smad3と共に、標的遺伝子のプロモーター領域のH3K27me3を脱メチル化し、ニューロン分化に重要な遺伝子の転写を活性化させ、ニューロン分化を誘導する。また、成体マウス大脳皮質脳室下帯 (subventricular zone, SVZ)の神経幹細胞では、ニューロン分化関連遺伝子(myelin transcription factor 1 (Myt1), solute carrier family 32 member 1 (Slc32a1), gap junction protein beta 6 (Gjb6))のプロモーター領域や、SVZ神経幹細胞のニューロン分化に重要なdistal-less homeobox 2 (Dlx2)のエンハンサー領域のH3K27me3を脱メチル化し、ニューロン分化を誘導する[31]。
疾患との関わり
LSDファミリー
成体マウスニューロンでLsd1が欠損したマウスの海馬や大脳皮質に重度の神経変性がみられ、記憶・学習などの認知機能が低下する[25]。また、リン酸化タウ(pTau)の凝集体がみられるアルツハイマー病患者のニューロンでは、LSD1がこれらの凝集体と細胞質に共局在していることや[25]、pTauの蓄積がみられるタウオパチーモデルマウスでも同様に細胞質での共局在が観察されることから[32]、核内からの隔離によるLSD1の機能阻害がアルツハイマー病などのタウを介した神経変性疾患に関連しているのではないかと考えられている。
一方で、Lsd1阻害剤を投与することによって、自閉スペクトラム症モデルマウスの症状改善[33]やアルツハイマー病モデルマウスの認知機能回復[34]がみられるという報告もある。
JmjCドメイン含有タンパク質ファミリー
FBXL10(KDM2B)とヒストンメチル化酵素SET domain containing 1B, histone lysine methyltransferase, (SETD1B)の両方を含むゲノム領域である12a24.31の欠失が知的障害を引き起こし[35]、JMJD1C(KDM3C)の複数の変異が、自閉スペクトラム症、レット症候群、知的障害の患者においてみられることが報告されている[36]。
Jmjd2(Kdm4)阻害剤であるジメチルオキサリルグリシン(DMOG)を10日間腹腔内投与したマウスは、ストレスに晒されなくてもうつ様行動や不安様行動を示す[37]。
JARID1C(KDM5C)の機能不全が起こる変異は、家族性X連鎖精神遅滞 (X-linked intellectual developmental disorder, XLID)の原因の一つとして報告されている[38]。Kdm5c欠損マウスでは、社会的行動の障害、記憶障害や攻撃性の増加など、XLIDで観察される異常がみられる[39]。Kdm5c欠損マウス由来のニューロンは神経突起の分岐やスパインの形態に異常がみられ、XLID関連の変異を導入したKdm5cを神経芽細胞株(Neuro2a)で過剰発現させると、同様の神経突起の発達不全がみられたことから、Kdm5cの機能不全によるニューロンの発達不全がXLID の症状の一因ではないかと考えられている[40]。
PHF8(KDM7B)の変異もXLIDと関連があると報告されている[41]。マウスを用いた解析では、Phf8(Kdm7b)を欠損させると学習記憶障害や海馬長期増強(long-term potentiation, LTP)障害を示すことが報告されている[41]。またこれらの障害は、mTORシグナルの活性化因子であるribosomal Protein S6 Kinase A1 (Rps6ka1)遺伝子の転写開始点におけるH4K20me1の脱メチル化がPhf8の欠損によって阻害され、Rps6ka1の発現が増加しmTORシグナルが亢進することで引き起こされる[42]。
関連語
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