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アグリンは、大脳、海馬、扁桃体において高発現の[[細胞外プロテアーゼ]]、[[ニューロトリプシン]]によって切断される、それによって生じた断片が樹状突起[[フィロポディア]]の成長を誘導することが示されている<ref name="ref10"><pubmed> 20944663 </pubmed></ref>。 | |||
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2012年7月9日 (月) 15:33時点における版
英語:extracellular matrix、英略語:ECM
細胞外マトリックス(ECM)は組織を裏打ちする基底膜や、細胞間隙に存在する糖とタンパク質の複合体である。脳においては神経細胞の分化や移動、軸索伸長、髄鞘化、損傷に対する応答といった細胞の挙動をはじめ、シナプス新生やシナプス可塑性の制御といった機能もある。
ECMの種類
ECMには、プロテオグリカンファミリー(アグリン、アグレカン、シンデカン、ニューロカン、バーシカン、フォスファカン、ブレビカンなど)、コラーゲン、テネイシンC、テネイシンR、トロンボスポンジン、ヒアルロン酸、フィブロネクチン、ラミニン、リーリンなどがある。プロテオグリカンは、コアタンパク質に、多糖であるグリコサミノグリカン(Glycosaminoglycan; GAG)鎖が枝分かれするようにつながった糖タンパク質である。GAG鎖は、糖の種類や硫酸化の部位により多くの種類が存在し、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(Chondroitin sulfate proteoglycan; CSPG)、へパラン硫酸プロテオグリカン(Heparan sulfate proteoglycan; HPSG)などがある。
ECMが形成する構造
基底膜
ラミニンなどが主な構成成分となり、シート状構造の基底膜が形成される。基底膜は、神経幹細胞ニッチ[1]や血液脳関門などの血管内皮細胞直下に存在する[2]。
グリア瘢痕
中枢神経損傷のとき、損傷を受けた細胞、特にアストロサイトからコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)が分泌され、CSPGを主な構成成分とした高密度の瘢痕組織であるグリア瘢痕を形成する[3]。これにより、損傷部位はそのまわりの環境から隔てられる。
ペリニューロナルネット
ペリニューロナルネット(perineuronal net; PN)は、細胞体や樹状突起近位部を取り囲むメッシュ状の構造物である。ペリニューロナルネットは、大脳皮質、海馬、視床、小脳、脳幹、脊髄と中枢神経に広く認められる。PNは、アグレカン、テネイシンR、ニューロカン、バーシカン、ヒアルロン酸、フォスファカン、ブレビカンに加え、リンクタンパク質であるHAPLN1/Cartilage link protein1やHAPLN4/Brain link protien1,2から構成される。ヒアルロン酸、レクティカン、テネイシンは、ネット状の複合体を形成していると考えられている。ペリニューロナルネットの形成は、生後かなり経ってからおこる。げっ歯類ではちょうど臨界期の終わる生後2~5週間である。PNの発達に神経活動が必要である。
発達初期の未熟なPNは、神経栄養因子を捕まえる役割をしていると考えられている。一方、発達が進むにつれ、より複雑に密にニューロンを覆うように成熟したPNは、接近する神経線維や成長円錐に対して反発する性質を持つ。つまりPNは、新しくシナプスが作られるのを妨げるバリアの役割をする。またPNは興奮毒性から保護する役割をもつ[4]。
ECMの働き
発達とECM
マウスの胎生後期から出生後早期に、未熟型細胞外マトリックスが形成され始める。このとき、ヒアルロン酸、ニューロカン、バーシカンV0、バーシカンV1、テネイシンC、リンクタンパク質であるHAPLN1/Cartilage link protein1からなる。ニューロカンやバーシカンV0/V1の発達は、出生後すぐに発現のピークをむかえ、その後、急激に減少する。テネイシンCは、生後2~3週間で減少するが、上衣層や海馬といった神経新生の盛んな場所では発現が維持される。出生後2週間を過ぎると、これまでの比較的緩い未熟型細胞外マトリックスからより硬いメッシュ状となった成体の細胞外マトリックスに変化していく。成熟型のマトリックスは、初期のマトリックスと相同のバーシカンV2、アグレカン、ブレビカン、フォスファカン、テネイシンR、HAPLN/Bra1、HAPLN/Bra2より成る[5]。
神経幹細胞の維持と分化
細胞外マトリックスは、神経幹細胞が存在する領域にニッチを形作り、幹細胞の維持、分化を調節する[1]。
細胞移動
大脳皮質発達期においてラミニンは、神経細胞の移動による層形成に必要である。ラミニンは、軟膜面に沿って形成された基底膜や脳室帯に沿って発現している[6]。放射状グリア(Radial glial cell; RGC)が軟膜面、脳室面の両極に突起を伸ばし、突起先端の膜表面に発現したインテグリンやジストログリカンを通じてラミニンと接着している[6]。多くの神経細胞がRGCの長く伸びた突起を足場として移動する。軟膜面の基底膜を取り除くと突起は離れ、RGCの生存や皮質の層形成に影響を与える[6]。β1インテグリンやラミニンは、RGCの両極の突起の維持に関わっている[6]。
リーリンの発現異常は、小脳、海馬、大脳皮質の重篤な層形成の欠失を引き起こす[6]。 テネイシンRは、吻側移動経路において“鎖状移動”(Chain migration)する神経芽細胞の遊離を促進し、嗅球内での移動を促進する[6]。トロンボスポンジン-1は、脳室下帯と吻側移動経路に認められ、神経前駆細胞の移動に関わっていることが報告されている[7]。
軸索伸長への関与
ラミニンはインテグリン依存的に神経突起伸長に関わり、生体内において軸索誘導に関与する[6]。テネイシンC、Rは、神経突起伸長に関わる[6]。軸索表面に発現するHPSGがガイダンス分子であるスリット、ネトリン-1、セマフォリン-5Aの共受容体として働き、そのシグナリングを増強する働きがある[8]。
髄鞘化
ラミニンの発現開始は、中枢神経系の髄鞘化のタイミングに関連性がある。ラミニンα2欠失はオリゴデンドロサイトの成熟が遅れ、低髄鞘形成となる[6]。
ランビエ絞輪
ランビエ絞輪の周りにはプロテオグリカンやテネイシンR、ラミニン、ジストログリカンが覆っており、局所的な陽イオンの濃度や電位依存性ナトリウムチャネル集合化を制御していると考えられている[6]。
可塑性とECM
シナプス新生
発達過程の中枢神経系において、アストロサイトから分泌されたトロンボスポンジン1と2が電位依存性カルシウムチャネルサブユニットα2δ-1と相互作用することにより、興奮性シナプスの新生が誘導されることが示されている[9]。
アグリンは、大脳、海馬、扁桃体において高発現の細胞外プロテアーゼ、ニューロトリプシンによって切断される、それによって生じた断片が樹状突起フィロポディアの成長を誘導することが示されている[10]。
シナプス可塑性
リーリンがVery–low-density lipoprotein receptor(VLDLR)やApolipoprotein E receptor type2(APOER2)のリポタンパク質受容体に結合することで細胞内アダプタータンパク質Disabled1(DAB1)を活性化する[10]。それがSrc family tyrosine kinase(SFK)を活性化し、NMDA型グルタミン酸受容体のチロシンリン酸化を引き起こす[10]。これにより、NMDAグルタミン酸受容体のCa2+の流入量が増え、シナプス可塑性を誘導する[10]。
テネイシンCやヒアルロン酸が、L型電位依存性カルシウムチャネル (L-type voltage-dependent Ca2+ channel, LVDCC)の活性をサポートし、LVDCCのCa2+流入量が増えることでLTPが誘導されると考えられている[10]。しかし、テネイシンCもしくはヒアルロン酸のLVDCCへの直接的結合はまだ示されていない[10]。
ヒアルロン酸を骨格としたPNがAMPA型グルタミン酸受容体のシナプス外の膜領域への移行を妨げ、シナプス領域の区画化の役割を果たすことが示されている[4][6]。テネイシンRは、LTPの誘導をGABA作動性介在ニューロンによる海馬CA1錐体細胞の細胞体周辺抑制(Perisomatic inhibition)のレベルを設定することによって起こす[10]。
神経可塑性においてCSPGは、形態の安定性に関わっていると考えられる。単眼遮蔽により成体において生じた眼優位性の固定は、Chondroitinase ABC(ChABC)よりCSPGを酵素消化によって可塑的になる[6]。海馬スライスをChABCで処理すると、CA1のLTPやLTDが阻害される[10]。恐怖記憶実験では、CSPGは記憶の安定性に関わる[10]。
再生とECM
神経損傷・再生
中枢神経損傷により形成されたグリア瘢痕は、軸索伸長を阻害し、可塑性を制限し、成長円錐を崩壊させる。ChABCによりCPSGを酵素消化すると、その阻害作用は減少し、機能的回復をもたらし、軸索の再成長を促す[11]。トロンボスポンジン-1は損傷部位で発現上昇し、軸索の再生能と関連している[6]。
関連項目
参考文献
- ↑ 1.0 1.1
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(執筆者:金河大 担当編集委員:河西春郎)