「Adenomatous polyposis coli」の版間の差分

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 Apc遺伝子の発現は[[脳]]と[[腸管]]で多いが、全身のほとんどの組織に広く発現している<ref name=Bhat1994><pubmed>8182459</pubmed></ref><ref name=Miyashiro1995><pubmed>7624136</pubmed></ref><ref name=Midgley1997><pubmed>9196441</pubmed></ref><ref name=HumanProteinAtlas />。
 Apc遺伝子の発現は[[脳]]と[[腸管]]で多いが、全身のほとんどの組織に広く発現している<ref name=Bhat1994><pubmed>8182459</pubmed></ref><ref name=Miyashiro1995><pubmed>7624136</pubmed></ref><ref name=Midgley1997><pubmed>9196441</pubmed></ref><ref name=HumanProteinAtlas />。


 Apc遺伝子産物(APCタンパク質)は多くの結合タンパク質との相互作用によって、細胞の運動、[[接着]]、[[増殖]]、[[情報伝達]]など多彩な細胞機能に関与している10)<ref name=Hanson2005><pubmed>16185824</pubmed></ref>。細胞増殖や形態形成に関与する[[Wnt]]シグナル伝達系を抑制する<ref name=Goss2000><pubmed>10784639</pubmed></ref><ref name=Nusse2017><pubmed>28575679</pubmed></ref>。変異あるいは不活性化したAPCはWnt系を制御できず、細胞が異常増殖しがんを生じる。
 Apc遺伝子産物(APCタンパク質)は多くの結合タンパク質との相互作用によって、細胞の運動、[[接着]]、[[増殖]]、[[情報伝達]]など多彩な細胞機能に関与している<ref name=Hanson2005><pubmed>16185824</pubmed></ref>。細胞増殖や形態形成に関与する[[Wnt]]シグナル伝達系を抑制する<ref name=Goss2000><pubmed>10784639</pubmed></ref><ref name=Nusse2017><pubmed>28575679</pubmed></ref>。変異あるいは不活性化したAPCはWnt系を制御できず、細胞が異常増殖しがんを生じる。
 
 
[[ファイル:Senda APC Fig1.png|サムネイル|'''図1. Apcの遺伝子構造(上)と産物であるAPCタンパク質構造(下)''']]
[[ファイル:Senda APC Fig1.png|サムネイル|'''図1. Apcの遺伝子構造(上)と産物であるAPCタンパク質構造(下)''']]
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 [[グリア細胞]]については、[[星状膠細胞]]<ref name=vanEs1999><pubmed>10021369</pubmed></ref><ref name=Lee2010><pubmed>19655246</pubmed></ref>と[[稀突起膠細胞]]<ref name=Lee2010><pubmed>19655246</pubmed></ref><ref name=Bhat1996><pubmed>8776583</pubmed></ref>で発現・局在する。同時に、脳形成期の[[放射状グリア細胞]]におけるAPCの発現は、大脳皮質の層形成と[[軸索]]投射に重要であることが示された<ref name=Yokota2009><pubmed>19146812</pubmed></ref>。
 [[グリア細胞]]については、[[星状膠細胞]]<ref name=vanEs1999><pubmed>10021369</pubmed></ref><ref name=Lee2010><pubmed>19655246</pubmed></ref>と[[稀突起膠細胞]]<ref name=Lee2010><pubmed>19655246</pubmed></ref><ref name=Bhat1996><pubmed>8776583</pubmed></ref>で発現・局在する。同時に、脳形成期の[[放射状グリア細胞]]におけるAPCの発現は、大脳皮質の層形成と[[軸索]]投射に重要であることが示された<ref name=Yokota2009><pubmed>19146812</pubmed></ref>。


 腸管上皮にも豊富に発現しているが、腸上皮での発現は一様ではない。[[絨毛]]の先端に行くほどAPCの発現は高く、逆に絨毛の基部から[[腸陰窩]]に入ると発現は急激に減弱する12)<ref name=Miyashiro1995><pubmed>7624136</pubmed></ref>。腸上皮細胞は陰窩内にある[[幹細胞]]で分裂増殖し、陰窩から絨毛を上りながら4腫類の上皮細胞に分化成熟することがわかっている。Wnt系を負に制御して細胞増殖を抑制するAPCの発現が陰窩で少なく、絨毛先端で多いことから、APCは腸上皮全体の増殖・分化の制御に関わっていることを示唆する。上皮細胞内では、細胞の頂部(微絨毛を含む)と隣の細胞と接着している側部[[細胞膜]]直下にAPCの局在が見られる。
 腸管上皮にも豊富に発現しているが、腸上皮での発現は一様ではない。[[絨毛]]の先端に行くほどAPCの発現は高く、逆に絨毛の基部から[[腸陰窩]]に入ると発現は急激に減弱する<ref name=Miyashiro1995><pubmed>7624136</pubmed></ref>。腸上皮細胞は陰窩内にある[[幹細胞]]で分裂増殖し、陰窩から絨毛を上りながら4腫類の上皮細胞に分化成熟することがわかっている。Wnt系を負に制御して細胞増殖を抑制するAPCの発現が陰窩で少なく、絨毛先端で多いことから、APCは腸上皮全体の増殖・分化の制御に関わっていることを示唆する。上皮細胞内では、細胞の頂部(微絨毛を含む)と隣の細胞と接着している側部[[細胞膜]]直下にAPCの局在が見られる。


[[ファイル:Senda APC Fig2.png|サムネイル|'''図2. APC変異体によるWntシグナルの異常活性化機構'''<br>'''左.''' 正常APCはβカテニンに結合 ⇒βカテニンは分解される(Wnt系を抑制)<br>'''右.''' 変異APCはβカテニンに結合できない ⇒βカテニンは核に入り、転写因子と結合(Wnt系促進)⇒細胞増殖亢進・がん化]]
[[ファイル:Senda APC Fig2.png|サムネイル|'''図2. APC変異体によるWntシグナルの異常活性化機構'''<br>'''左.''' 正常APCはβカテニンに結合 ⇒βカテニンは分解される(Wnt系を抑制)<br>'''右.''' 変異APCはβカテニンに結合できない ⇒βカテニンは核に入り、転写因子と結合(Wnt系促進)⇒細胞増殖亢進・がん化]]


== 機能 ==
== 機能 ==
 がん抑制タンパク質としてのAPCの機能は、Wntシグナル伝達系を抑制することである<ref name=Goss2000><pubmed>10784639</pubmed></ref><ref name=Nusse2017><pubmed>28575679</pubmed></ref>。Wnt系は細胞外リガンド、Wntの刺激を受けて、細胞増殖や細胞分化を促進するシグナルを核内に伝える。APCはWnt系の中心のタンパクであるβカテニンと結合し、その分解を促進することによってWntシグナルの[[核]]への移行を阻止する。APCに変異が生じ、βカテニン結合部位が欠損すると、βカテニンは分解されずに細胞質に蓄積し、次いで核に移行して細胞増殖をオンにする[[転写因子]]を活性化する('''図2''')。
 [[がん抑制タンパク質]]としてのAPCの機能は、Wntシグナル伝達系を抑制することである<ref name=Goss2000><pubmed>10784639</pubmed></ref><ref name=Nusse2017><pubmed>28575679</pubmed></ref>。Wnt系は細胞外リガンド、Wntの刺激を受けて、細胞増殖や細胞分化を促進するシグナルを核内に伝える。APCはWnt系の中心のタンパクであるβカテニンと結合し、その分解を促進することによってWntシグナルの[[核]]への移行を阻止する。APCに変異が生じ、βカテニン結合部位が欠損すると、βカテニンは分解されずに細胞質に蓄積し、次いで核に移行して細胞増殖をオンにする[[転写因子]]を活性化する('''図2''')。


 APCにはβカテニン以外にも様々なタンパク質との結合部位が存在する。APCはこれらのタンパク質との結合を介して、Wnt系の制御以外の様々な機能に関与していることが示された<ref name=Fearnhead2001><pubmed>11257105</pubmed></ref><ref name=Senda2005><pubmed>16158975</pubmed></ref>。
 APCにはβカテニン以外にも様々なタンパク質との結合部位が存在する。APCはこれらのタンパク質との結合を介して、Wnt系の制御以外の様々な機能に関与していることが示された<ref name=Fearnhead2001><pubmed>11257105</pubmed></ref><ref name=Senda2005><pubmed>16158975</pubmed></ref>。
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== 疾患との関わり ==
== 疾患との関わり ==
=== 腫瘍・がん ===
=== 腫瘍・がん ===
 がん抑制遺伝子として発見されたAPCは、遺伝子変異による腫瘍抑制機能の喪失によって、全身の様々ながん・腫瘍の発生に関わっている。
 [[がん抑制遺伝子]]として発見されたAPCは、遺伝子変異による腫瘍抑制機能の喪失によって、全身の様々ながん・腫瘍の発生に関わっている。


 FAPは、変異Apc遺伝子を[[胚性遺伝]]によって受け継いでいる人に生じる若年性の大腸腺腫症である<ref name=Galiatsatos2006 /><ref name=Iwama2014 />。10歳代より大腸粘膜に腺腫性ポリープが出現し、年齢と共にポリープは増えていき、大腸全体に数百~数千個のポリープができ、それに伴う様々な[[消化管]]症状が出現する。FAPの診断がつけば予防的に大腸切除が施されるが、放置すれば20~40歳代でほぼ100%の確率でがん化する。FAPの大腸外病変として、[[デスモイド腫瘍]]、[[骨腫瘍]]、軟部組織腫瘍([[線維腫]]、[[脂肪腫]]など)、[[甲状腺]][[乳頭がん]]、[[肝芽腫]]、膵腫瘍、[[網膜色素上皮肥厚]]、[[小脳髄芽腫]]などが合併することがある。
 FAPは、変異Apc遺伝子を[[胚性遺伝]]によって受け継いでいる人に生じる若年性の大腸腺腫症である<ref name=Galiatsatos2006 /><ref name=Iwama2014 />。10歳代より大腸粘膜に腺腫性ポリープが出現し、年齢と共にポリープは増えていき、大腸全体に数百~数千個のポリープができ、それに伴う様々な[[消化管]]症状が出現する。FAPの診断がつけば予防的に大腸切除が施されるが、放置すれば20~40歳代でほぼ100%の確率でがん化する。FAPの大腸外病変として、[[デスモイド腫瘍]]、[[骨腫瘍]]、軟部組織腫瘍([[線維腫]]、[[脂肪腫]]など)、[[甲状腺]][[乳頭がん]]、[[肝芽腫]]、膵腫瘍、[[網膜色素上皮肥厚]]、[[小脳髄芽腫]]などが合併することがある。

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