神経細胞極性

2016年3月10日 (木) 11:26時点におけるTfuruya (トーク | 投稿記録)による版

勝野 弘子、稲垣 直之
奈良先端科学技術大学院大学
DOI:10.14931/bsd.7001 原稿受付日:2016年3月10日 原稿完成日:2016年月日
担当編集委員:定藤 規弘(自然科学研究機構生理学研究所 大脳皮質機能研究系)

英語名:Cell polarity and neuronal polarization

 細胞極性とは、細胞の構成成分や細胞内小器官などを細胞に非対称的に配置させることにより、その形態や機能に方向性を有することである。例えば、上皮細胞は頂端—基底(apical-basal)軸に沿った極性を持ち、細胞同士が強固に接着してシート構造を作ることで組織と外部環境とを隔離する役割を果たす。神経細胞もまた極性を持つ細胞であり、一本の長い軸索と複数の短い樹状突起を伸ばし、高度に発達した細胞極性を形成する。このような神経細胞の極性は、シグナルの入力、統合、出力といった情報処理機能に重要な役割を果たす。これまでに神経細胞の極性化に関与する数多くの分子が同定され、極性化を担う細胞内外のシグナルのクロストーク、対称性の破れ、神経突起伸長のメカニクス、軸索や樹状突起に特異的に存在する分子の細胞内局在メカニズムに関して解析が進みつつある。

神経細胞の極性化の過程

軸索と樹状突起

 典型的な神経細胞は、一本の長い軸索と複数本の短い樹状突起を持つ[1], [2]。軸索は直径がその先端まであまり変化しないが、樹状突起は先端にゆくにしたがい直径が細くなる。軸索は直角に枝分かれすることが多く、樹上突起はY字型に枝分かれすることが多い。また、軸索と樹状突起では、微小管の配向が異なる。成熟した神経細胞の軸索では、微小管のプラス端が突起の遠位に向かって配向するが、樹状突起ではプラス端が遠位に向かって配向した微小管とマイナス端が遠位に向かった微小管とが混在している[3]。さらに、軸索と樹状突起ではタンパク質の分布も異なり[1]、非リン酸化TauやSynaptophysin、Synapsin-1は軸索特異的に、MAP2 は樹状突起特異的に存在するため、軸索と樹状突起のマーカーとして用いられている。

培養神経細胞における極性形成

 
図1. 培養海馬神経細胞の極性形成過程 
培養海馬神経細胞の極性形成過程は5つのステージに分類される

 ラット海馬から培養した神経細胞は、90%が極性の発達した興奮性錐体細胞から構成されており、その均一性のため神経細胞の極性化の解析によく用いられてきた。この神経細胞は、培養条件下で外部からの刺激がなくとも自発的に細胞極性を形成することが知られており、その過程は5つのステージに分類されている(図1)[1], [4]。まず、神経細胞は培養開始数時間で葉状仮足を形成する(ステージ1)。その後、細胞体からminer processと呼ばれる数本の未成熟な神経突起が伸長する(ステージ2)。この時点では、各突起の長さはほぼ同じで、神経細胞は対称に見える。ステージ2の間、個々の未成熟な突起はダイナミックな伸長と退縮を繰り返し、培養1.5日後、これらの突起のうち一本が急激に伸長し、対称性が破れる(ステージ3)。その後、この突起は急激な伸長を続け、軸索特異的分子の集積とともに軸索へと分化する。さらに培養を続けると、培養4日後に残りの突起の伸長が始まる。これらの突起には樹状突起特異的分子が集積し、樹状突起へと分化する(ステージ4)。その後、軸索と樹状突起の間にシナプスが形成され、一連の神経細胞の極性化は終了する(ステージ5)。

脳組織における極性形成過程

 
図2. 脳組織内における神経細胞の極性形成過程 
大脳皮質における(A)興奮性神経細胞と(B)抑制性神経細胞の極性形成過程

 

 大脳皮質の興奮性神経細胞は、脳室層(ventricular zone ; VZ)での前駆細胞の非対称分裂で生じ、脳表面に向かう移動の途中で極性化が起こる。これまで、興奮性神経細胞は移動時の先導突起(leading process ; LP)が樹状突起に、trailing process(TP)が軸索になると考えられていた[5], [6]。しかし最近になって、興奮性神経細胞の多くは中間帯まで移動すると減速し、先導突起とtrailing processを失い、培養海馬神経細胞と同様に、複数の短い神経突起の伸長と退縮を繰り返す現象が報告された(図2A)[7], [8]。これらの神経細胞は、その後一本の突起を脳室に沿う接線方向に急激に伸長させ、軸索を形成する。一方、細胞体は脳表面に向かって別の突起を伸ばしながら移動し、最終的にL時型の軸索が生じる[8]

 大脳皮質の抑制性神経細胞は、基底核原基で生じ、大脳皮質に向かって脳表面に接する接線方向に移動し、辺縁層(marginal zone)を経て大脳皮質板(cortical plate)へと至る。抑制性神経細胞も興奮性神経細胞と同様に、大脳皮質板において先導突起とtrailing processを失い、複数の短い神経突起の伸長と退縮を繰り返した後、一本が急激に伸長して軸索を形成する(図2B)[9]

軸索の形成と伸長

 
図3. 軸索の伸長と形成 
神経軸索の伸長と形成には、成長円錐でのアクチン線維の逆行性移動による駆動力の発生、シャフトでの微小管の重合と安定化、膜成分の輸送と供給が必要である。

 

 神経細胞が軸索を伸長し極性を形成するためには、アクチン線維や微小管などの細胞骨格の構築と膜成分の供給が必要である(図3)。

軸索伸長におけるアクチンの役割

 神経細胞の極性形成には神経突起が伸長する必要があるが、その突起伸長には突起先端の成長円錐が重要な役割を果たすと考えられている。成長円錐の先導端にはアクチン線維が豊富に存在しており、軸索伸長方向に重合しながら逆行性に移動し、アクチン線維の後方で脱重合することが知られている(図3)。このようなアクチン線維のターンオーバーはArp2/3やCofilinなどのアクチン結合タンパク質によって制御されており、これらの分子の活性は軸索伸長に関与する。また、逆行性移動するアクチン線維の力を成長円錐の推進力に変える機構として、クラッチメカニズムが提唱されており[10], [11]、これまでに細胞接着分子L1-CAMとアクチン線維を連結するシューティン1[12], [13]やN-カドヘリンとアクチン線維を連結するカテニン(catenin)[14]、エズリン(ezrin)[15]等がクラッチ分子として機能することが報告されている。さらに最近、クラッチ分子シューティン1を介したアクチン線維とL1-CAMの連結を強めると軸索伸長が促進することが報告された[13], [16]

軸索伸長における微小管の役割

 チューブリンは軸索に最も多く存在するタンパク質であり、突起先端におけるチューブリンの重合と微小管の安定化は軸索伸長において重要な因子である[17]。微小管の安定性は微小管結合タンパク質(MAPs)によって制御されており、MAP1BやMAP2が神経細胞の極性化に関与することが報告されている[18]。また、CRMP-2やAPCは微小管の重合を促進することで、DOCK7はRac1を介して微小管の不安定化タンパク質スタスミンを不活性化することで軸索伸長に関与する[19], [20]

軸索伸長と膜輸送

 軸索の伸長のためには細胞膜の表面積を拡大させる必要があり、細胞内小胞輸送に関与する低分子量GTP結合タンパク質Rabファミリーが関与していると考えられている。これまでに、Rab5やRab8、Rab11などが軸索の形成や伸長に関わること[21], [22], [23], [24]、Rab7、Rab11、Ran27などが突起伸長のシグナル伝達を担う分子を軸索先端へ輸送すること[25], [26], [27]、Ran11が神経突起伸長を調節するインテグリンの輸送に関与することが報告されている。また、Rab5、Rab7、Rab8、Rab10、Rab11はエンドサイトーシスによって回収された小胞膜の細胞膜のリサイクリングに関与すると考えられている。さらに最近、Rab33aが細胞体で新たに合成された膜成分の軸索輸送と成長円錐における膜融合を引き起こし、軸索伸長に関与することが報告された[28]。また、SNAREタンパク質やRab10、TC10Exo70複合体が成長円錐における小胞膜と細胞膜の融合に関与することも報告されている[29], [30]

神経細胞の極性化に関与する細胞外分子群

 神経細胞は複数の神経突起のうち一本を軸索へと変化させる(図1、図2)。神経細胞の極性化に関与する細胞外分子には、拡散性シグナルと接着性シグナルがあり、拡散性シグナルには、軸索ガイダンスに関与するネトリンやセマフォリン3A(Sema3A)、ニューロトロフィン(NGF、BDNF、NT-3)、TGFβ、IGF-1、Wntなどが報告されている。接着性シグナルとしては、NgCAMやラミニン、TAG1などが軸索形成に関与する。

神経極性に関与する拡散性シグナル

 ネトリンは線虫のUNC-6のホモログであり、UNC-40(DCC)等の受容体に結合する[31]。線虫のUNC-6やUNC-40の変異体では、産卵口の筋肉の神経細胞の軸索形成が遅れ、軸索ガイダンスにも異常が生じる。また、反発性ガイダンス因子であるSema3Aは、cGMPの産生を介してcAMP/PKAを阻害し、PKA依存的な軸索形成を抑制して樹状突起形成を促進する[32]。NGF、BDNF、NT-3などのニューロトロフィンは、PI3-キナーゼ、Ras、cAMP、IP3などを介したシグナル伝達経路に関与しており、受容体であるTrkを阻害すると大脳皮質内を移動する神経細胞の極性形成に異常が生じる[33]。また、TGFβはPar6をリン酸化することで軸索形成に関与しており、TGFβの受容体であるTβR2をノックアウトしたマウスは、大脳皮質の神経細胞において軸索形成に異常を示す[34]。IGF-1に関しては、大脳皮質内の興奮性神経細胞に対する軸索形成作用が示唆されている[35]。また、Wntも軸索形成と極性化に関与しており、Wnt5Aは軸索形成を促進する[36], [37]

神経極性に関与する接着性シグナル

 軸索形成の方向性の決定には、ラミニンやL1-CAMといった細胞接着分子の方向性を持った刺激も関与する[38], [39]。ラミニンやL1-CAMをストライプ状にコートした基質上に神経細胞を培養すると、ラミニンやL1-CAMに接触した神経突起が優先的に軸索になる。また、ラミニンでコートしたマイクロビーズを用いてステージ2の培養海馬神経細胞の未成熟な神経突起を刺激すると、マイクロビーズ接触した突起先端にPIP3が濃縮し、突起が急速に伸長して軸索へと分化する[39]。これらのことから、ラミニンやL1-CAMは接着性の細胞外シグナル分子として働き極性形成に関与すると考えられる。また、インテグリンはラミニンのレセプターとして知られており、神経細胞の発生過程の早い段階から発現がみられ、Integrin-linked kinase (ILK)を介してGSK3βを不活性化する。ILKを阻害すると軸索形成が抑制され、反対にILKの活性化型変異体を発現させると複数の軸索が形成される[40]。さらに最近、β1インテグリンはSADキナーゼを介して微小管を制御することで、神経極性に関与することも報告されている[41]

神経細胞の極性化を担う細胞内分子群

 
図4. 神経細胞の極性化を担う細胞内分子群

 

 神経細胞の極性化を担う細胞内シグナル伝達に関して、この十数年の間に、さまざまな細胞内分子群が同定されてきている(図4)[2], [18]

フォスファチジルイノシトール3-キナーゼ

 フォスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3-キナーゼ)は、様々な受容体の下流で活性化され、様々な細胞の極性化に関与する。神経細胞においては、PI3-キナーゼの活性やその産物ホスファチジルイノシトール1,4,5 –三リン酸(PIP3)は、ステージ3の培養海馬神経細胞の軸索に局在する。また、未成熟な突起における局所的なPIP3の増加は、その突起の急激な伸長と軸索化を引き起こす[42]。一方、PI3-キナーゼの活性の阻害や、phosphatase and tensin homologue deleted on chromosome 10(PTEN)の過剰発現によるPIP3の産生阻害は、極性化を抑制される[43]。PIP3の下流では、リン酸化酵素Aktが活性化され、別のリン酸化酵素glycogen synthase kinase 3β(GSK3β)をリン酸化し、リン酸化されたGSK3βは不活性化する[44]。活性化型のGSK3βはcollapsin response mediator protein-2(CRMP-2)をリン酸化し、不活性化する。活性化型のCRMP-2はチューブリンと結合して微小管の重合を促進することで軸索伸長に関与する分子であることから、PI3-キナーゼはAkt、GSK3βを経由して微小管のダイナミクスを制御し、細胞極性に関与すると考えられている[19]。また、PIP3の下流では、RhoファミリーGタンパク質であるCdc42Rac1が活性化される。さらにその下流では、アクチンの重合を促進するArp2/3が活性化される。Arp2/3の活性を制御するWASPやWAVEを抑制すると軸索伸長が阻害されることから、PI3キナーゼは微小管だけでなく、アクチン線維のダイナミクスも制御することで極性形成に関与すると考えられる[45]

 その他に、PI3-キナーゼと関連する分子としてSingle axon related 1(Singar1/Rufy3)が報告されている。Singar1の発現を抑制すると、PI3-キナーゼの活性依存的に軸索が過剰に形成される。また、Singar1を過剰発現すると過剰軸索の形成が抑制される。したがって、Singar1は過剰な軸索形成を抑制し、極性を安定させる分子と考えられる[46]

低分子量Gタンパク質とその関連分子

 Ras-related protein 1B(RAP1B)は、Rasスーパーファミリーに属する低分子量Gタンパク質で、培養海馬神経細胞の伸長する軸索に濃縮する。RAP1Bを過剰発現すると過剰に軸索が形成され、反対に発現を抑制すると軸索の形成が阻害される[47]。RAP1Bの発現抑制による軸索形成阻害は、Cdc42の活性化型により一部回復し、また、PI3-キナーゼの活性抑制による軸索形成阻害はRAP1Bの活性化型により一部回復する。したがって、RAP1BはPI3-キナーゼの下流かつ、Cdc42の上流で機能すると考えられている。

 また、H-Ras、K-Ras、N-Ras、R-RasといったRasタンパク質は、PI3-キナーゼの上流で神経細胞の極性形成に関与する。Rasタンパク質を過剰発現すると過剰に軸索が形成され、ドミナントネガティブ変異体を発させると軸索の形成が阻害される[48], [49]

 Cdc42やRac1、RhoAなどのRhoファミリーGタンパク質は、神経細胞だけでなく、さまざまな細胞の形態形成に関与する。P21-activated kinase(Pak1)は、Cdc42やRac1の下流で活性化されるリン酸化酵素で[50]、海馬神経細胞の軸索に局在する。活性化型のPak1を過剰発現させると過剰な軸索が形成され、反対にPak1の発現を抑制すると軸索の形成が阻害される。さらに、Pak1はネトリンの下流でクラッチ分子シューティン1をリン酸化する。リン酸化されたシューティン1は、アクチン線維と細胞接着分子の間の連結を強めることで軸索形成を促進する[13], [16]。さらにシューティン1の過剰発現は過剰軸索の形成を引き起こすことから[51]、クラッチ分子の制御は軸索形成に関与すると考えられる。RhoAは下流のRhoキナーゼ/ROCKを活性化することで、CofilinやProfilinを介してアクチン線維のダイナミクス制御し、神経細胞の極性形成に関与する[52], [53]

cAMPとその関連分子

 ニューロトロフィンによる刺激により産生されたcAMPAキナーゼPKA)を活性化する。PKAはセリンスレオニンキナーゼであるLKB1をリン酸化する[54]。培養神経細胞において、LKB1の過剰発現は過剰に軸索を形成し、発現抑制は軸索形成阻害を引き起こす。さらに、LKB1をノックアウトマウスでは、軸索形成に異常が生じることが確認されている[55]。リン酸化されたLKB1はSADキナーゼを活性化し、MAPsを活性化することで微小管の安定化に関与する。

Parとその関連分子

 Parタンパク質は線虫の受精卵の非対称分裂を制御する分子として同定された極性関連タンパク質であり、神経細胞の極性化にも関与すると考えられる[56]。Par3、Par6、リン酸化酵素アティピカルPKC(aPKC)の複合体は、海馬神経細胞の軸索に濃縮し、極性形成に関与する。また、Par3は、キネシン-2(KIF3)により軸索先端へと運ばれ[57]、Cdc42を介したRac1の活性化を引き起こす[58]

 Par1bはmicrotubule affinity-regulating kinase2(MARK2)とも呼ばれるリン酸化酵素で、Tauなどの微小管結合タンパク質をリン酸化する[59]。MARK2の発現抑制は過剰軸索の形成を引き起こし、MARK2の過剰発現は軸索形成を抑制する。また、MARK2は下流分子のGAKINのリン酸化を介して軸索形成を引き起こし、さらに樹状突起形成の抑制にも関与する[60], [61]

神経細胞の対称性の破れの細胞内メカニズム

 
図5. 神経細胞の対称性の破れの仕組み 
(A)活性因子のポジティブフィードバックと抑制因子の伝達による対称性の破れのモデル 
(B)活性因子の長さ依存的なポジティブフィードバックと枯渇による側方抑制を基にした対称性の破れのモデル

 

 対称性の破れに関する研究は、古くから理論研究が先行しており、局所における活性物質のポジティブフィードバックによる自己増幅と、抑制物質のネガティブフィードバックによる側方抑制を導入した数理モデルが提唱されている[62], [63]。これまで、PI3-キナーゼとその上流分子であるH-Rasとの間にポジティブフィードバックの関係が生じることから、活性依存的にH-Rasの突起先端への輸送が促進されるという仮定をしてモデルを立てパラメータを調節した場合や[64]、微小管が突起の長さ依存的に濃縮するという仮定を立てた場合に[65]、神経細胞の対称性の破れが起こることが報告されている。また、神経極性に関与するシグナル因子の相互作用解析から、活性因子であるPI3-キナーゼとその下流因子との間にポジティブフィードバックが働くことで軸索が伸長し、さらに軸索の成長円錐から抑制因子が他の未成熟な神経突起に伝達されることで側方抑制がかかるという極性形成モデルが提唱されている(図5A)[2]

 最近、シューティン1の定量的な計測データに基づく対称性の破れの数理モデルが報告された(図5B)[66]。シューティン1は①神経細胞の対称性が破れる時期に発現量が急激に増加する[51]、②神経突起先端に濃縮すると突起を伸長させる[12]、③長い突起により強く濃縮する[66]ことがわかっている。そこで、①〜③の構成要素を定量的に数値化し、数理モデルを構築したところ、神経細胞は自発的な対称性の破れを引き起こした。このモデルから考えられる神経細胞が対称性を破る仕組みは、まず、シューティン1が細胞体から順行性に輸送され、突起先端に濃縮すると突起が伸長する。興味深いことに、ステージ2の未成熟な神経突起には、Waveと呼ばれる構造体がランダムに出現し、突起先端へ向かって移動する。Waveは突起先端へ到達すると急速な突起伸長を引き起こし、Waveが多く発生した突起は他の突起よりも軸索になりやすい[66]。Waveはシューティン1を輸送しており[67]、先端で濃縮したシューティン1は逆行性に拡散するため、長い突起ほど、シューティン1が濃縮しやすくなる。これが引き金となって、さらにその突起にシューティンが濃縮しやすくなり、突起伸長が加速する(ポジティブフィードバック)。さらに、細胞内のシューティン1の量は限られているので、一本の突起にシューティン1が集まると他の突起に輸送される分が枯渇し、結果として他の突起の伸長が抑制され(側方抑制)、対称性が破れる。

 これらの分子以外にも、極性形成に関連する分子群でポジティブフィードバックや側方抑制に働く可能性が考えられており、今後、数理モデルを基盤とした更なるモデルの正確性の向上により、相対性が破れる分子機構の詳細が明らかになることが期待される。

軸索・樹状突起特異的な分子の濃縮機構

 極性関連分子の軸索や樹状突起への選択的な局在には、キネシンダイニンなどの微小管依存的モータータンパク質が重要な役割を果たすと考えられている[68], [69]。神経細胞に発現するキネシンのモータードメインを神経細胞に発現させ、その局在解析から軸索特異的なキネシンモータードメインの濃縮が確認された[70], [71], [72]。また、軸索に特異的に濃縮するメカニズムとしてチューブリンの翻訳後修飾が提唱されたが[73]、それだけでは説明がつかないという報告もあり[74]、まだよくわかっていない。

関連項目

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