グリア芽細胞

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グリオブラストから転送)

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臼井 紀好
UT Southwestern Medical Center, Department of Neuroscience
杉尾 翔太、池中 一裕
自然科学研究機構 生理学研究所 分子生理研究系 分子神経生理研究部門
DOI:10.14931/bsd.2315 原稿受付日:2012年8月8日 原稿完成日:2012年11月6日
担当編集委員:村上 富士夫(大阪大学 大学院生命機能研究科)

英語名: glioblast 独:Glioblast 仏:glioblast

同義語:グリオブラスト

 グリア芽細胞は、グリア前駆細胞として、アストロサイト星状膠細胞)、オリゴデンドロサイト乏突起膠細胞)に分化することができる幹細胞の一種である。脳内に広く存在し、グリア細胞、及び、グリオブラストーマ膠芽腫)の発生・形成に関与する。グリア芽細胞が正常か癌性であるかは、脳組織の病理検査によって識別できる。

概説

 神経系における細胞は大きく、ニューロン神経細胞)とグリア細胞(神経膠細胞)に分けることができ、それぞれの構造、化学性質、そして機能によってさらに細かく細胞種が分類されている。ヒトの脳ではニューロンに対してグリア細胞の数が約10倍と飛躍的に増加しており、脳機能におけるグリア細胞の重要性が近年注目されている[1][2]。グリア細胞は、さらにアストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア上衣細胞シュワン細胞に分類できる[2]。グリア芽細胞は、これらのグリア細胞を産み出すことができる、グリア系に運命が方向づけられたグリア前駆細胞のことである[2][3][4][5]。本項ではグリア芽細胞、及びグリオブラストーマについて、アストロサイトとオリゴデンドロサイトを中心に記述する。

歴史

 1960年代にニワトリ胚の神経管から、エレベーター運動を行うマトリックス細胞神経上皮細胞)が発見され、このマトリックス細胞からグリア芽細胞(グリア前駆細胞)と上衣細胞が産み出されることが明らかにされた[3][4][5]脊索動物が持つ神経管は、外胚葉から形成され、脳室近傍に存在する神経幹細胞から神経前駆細胞とグリア芽細胞が産み出される。

 中枢神経系におけるグリア芽細胞は、脳では側脳室、及び海馬歯状回脊髄では脳室近傍に存在する[2][6][7][8]。グリア芽細胞は発生過程に伴って、最初にアストロサイトを産み出し、オリゴデンドロサイト、最後にミクログリアを産み出すことが初めに報告された[3][4][5]。しかし、近年の遺伝子組換えマウスを用いた細胞系譜解析結果から、グリア芽細胞はアストロサイトとオリゴデンドロサイトは産み出すが、ミクログリア分化については一般的ではない[6][7][8][9][10][11]Olig2転写因子を発現したグリア芽細胞(Olig2陽性グリア前駆細胞)の細胞系譜解析では、マウス胎生9.5日齢からアストロサイトとオリゴデンドロサイト、さらに上衣細胞が産み出されることが明らかにされたが、ミクログリアは観察されなかった [9]。個体レベルの解析結果から、アストロサイトとオリゴデンドロサイトが同時期に産み出されることが明らかにされ、グリア芽細胞からアストロサイト、オリゴデンドロサイトの順に産み出されるわけではないことが明らかになった[9]。ミクログリアはグリア細胞の一種ではあるが、発生の由来は外胚葉由来でなく中胚葉由来であり、造血幹細胞から発生する[11]。また、グリア芽細胞の多分化能は重要な性質ではあるが、同時に癌化の危険性も持ち合わせており、グリア芽細胞、またはアストロサイト、オリゴデンドロサイトが癌化したものがグリオブラストーマとして知られており、近年その性質が明らかにされつつある[12][13][14]

アストロサイト前駆細胞

ニューロン産生とグリア産生

 アストロサイト前駆細胞とは、アストロサイトへの分化が運命付けられた前駆細胞を指す概念であるが、その詳細については不明な点が多く存在している。マウスの神経発生において、ニューロンおよびグリア細胞は共通の幹細胞(放射状グリア)より発生する。大脳皮質では放射状グリアは、マウス胎生9.5-12.5日齢の間にニューロンを産生した後、胎生中期以降はグリア細胞を産生するグリア芽細胞へと分化する。ニューロン産生からグリア産生へと放射状グリアの性質が変移する過程には、外因的要素(CNTF, LIF, CT-1など)と内因的要素(JAK-STAT経路、アストロサイト関連遺伝子のエピジェネティクスなど)が密接に関連している事が明らかとなってきている[15]

グリア芽細胞分離の歴史とアストロサイト前駆細胞

 次に、グリア芽細胞はオリゴデンドロサイトとアストロサイトの両者を産生し得る細胞なのか、もしくはグリア芽細胞から分化が進み、アストロサイトのみの産生に特化した前駆細胞が出現するのか、という点が問題となる。1980年代中期頃から初代培養系を用いて、グリア芽細胞を分離する試みがなされてきた。これまでに、形態、分子マーカーの発現様式、各種栄養因子に対する応答性といった基準から性質の異なる多数のグリア芽細胞が報告されている。これらは、形態学的特徴からTypeⅠアストロサイトTypeⅡアストロサイトに大別されており、TypeⅠアストロサイトは原形質アストロサイトに、TypeⅡアストロサイトは線維性アストロサイトに相当するもと考えられてきた。しかし現在ではTypeⅠ、TypeⅡアストロサイトの呼称は用いられなくなってきている。

 後述(オリゴデンドロブラストの項)のO-2A細胞は、ラット視束より初めて見いだされたグリア芽細胞であり、in vitroの特定の培養条件下においてオリゴデンドロサイトとTypeⅡアストロサイトのいずれにも分化し得ることから、オリゴデンドロサイトおよびアストロサイトに共通する前駆細胞の存在が示唆された。しかしながら、O-2A細胞をin vivoへ移植した場合にはオリゴデンドロサイトへのみ分化することから、現在ではO-2A細胞はオリゴデンドロサイト前駆細胞と考えられている。

 1990年代後半になると、in vitro条件下でアストロサイトのみに分化する前駆細胞が複数のグループから分離された(CD44陽性細胞など)[16][17]。しかし、これらアストロサイト前駆細胞のin vivoにおける動態については、まだ明らかとなっていない。また近年、レトロウイルスベクターを用いた実験から、生後マウスの大脳皮質において、アストロサイトが局所で対称性分裂し、その数を増大することが示された[18]。これら、in vitroにおけるアストロサイト前駆細胞の分離、ならびにin vivoの所見を鑑みると、発生のある段階においては、アストロサイトにのみ分化する前駆細胞が存在することが示唆される。

アストロサイトの不均一性と発生の問題

 アストロサイトの発生を考える上で、もう一つの重要な点として、アストロサイトの不均一性(heterogeneity)の問題が挙げられる。一般にアストロサイトと呼ばれる細胞は、灰白質に分布する原形質アストロサイトと白質に分布する線維性アストロサイトに大別される。両者は、共通のマーカー分子(GFAPなど)を発現するものの、形態学的には明らかに異なった特徴を有している。これら2種類のアストロサイトが同一の機能を有するのか、あるいは異なる機能を有するのか(不均一なのか)という問題が、アストロサイトの研究分野に大きなテーマとして横たわっている[19]

 アストロサイトに不均一性が存在すると仮定した場合(多くの研究者は不均一性の存在を期待している)、原形質アストロサイトと線維性アストロサイトのそれぞれに対応する前駆細胞が存在するのか、あるいは前駆細胞の置かれる環境によって分化が方向づけられるのか、不均一性が発生のどの段階で獲得されるのか、といった疑問点が挙げられる。一例を挙げると、マウス胎生10-12日齢の脊髄は、転写調節因子の発現パターンに基づいたドメイン構造を有しており、ニューロンやオリゴデンドロサイトは固有のドメインより発生することが広く知られている。したがって、ニューロンやオリゴデンドロサイトといった細胞の多様性獲得には前駆細胞の分布する位置が重要であると考えられている。

 近年、アストロサイトに関しても脊髄腹側から、マーカー分子の発現様式の異なるアストロサイト(線維性アストロサイト)が生じることが報告され、アストロサイトにも複数のサブタイプが存在する可能性が示唆されている[20]。これは、アストロサイト前駆細胞の置かれる環境が分化に重要であることを示しており、またアストロサイトの不均一性の存在を支持する結果であると考えられる。しかしながら、アストロサイトの機能的な不均一性の有無が明らかとなっていないため、これらの疑問に対する明確な答えが存在しないのが現状である。今日、アストロサイト(グリア細胞)に対する関心は日増しに高まってきているが、まだまだ未解明な問題が山積している。したがって、アストロサイト前駆細胞の概念も今後大きく変遷していくものと考えられる。

オリゴデンドロサイト前駆細胞

詳細はオリゴデンドロサイト前駆細胞の項目参照。

 前述のグリア芽細胞から分化し、オリゴデンドロサイト系譜に運命づけられた前駆細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞乏突起膠芽細胞、オリゴデンドロブラスト)である。現在ではオリゴデンドロブラストという名称よりオリゴデンドロサイト前駆細胞としての名称の方が一般的である。オリゴデンドロブラストは、O-2A前駆細胞として同定され、後にオリゴデンドロサイト前駆細胞であることが明らかにされた[21][22][23]。オリゴデンドロサイトの発生には、Olig2転写因子が必須であることが報告されているが[2][23][24][25]Nkx2-2Sox10MRFをはじめとする多くの転写因子・転写制御因子とのクロストーク[2][26]HDACによるエピジェネティクス[27][28]リン酸化による翻訳後修飾[29][30]、さらにMiRNAによってオリゴデンドロサイト分化は時間空間的に制御されている[31][32][33]。オリゴデンドロサイト前駆細胞、及びオリゴデンドロサイトの詳細に関してはそれそれの項を参照して頂きたい。

オリゴデンドログリオーマ

 神経膠腫の一種で、オリゴデンドロブラスト(オリゴデンドロサイト前駆細胞)、またはオリゴデンドロサイトが癌化したものをオリゴデンドログリオーマと呼ぶ [12][13][14]。若年者に好発するオリゴデンドログリオーマは神経膠腫の約5%を占め、成人では前頭葉を中心に発生し、約9%を占める。診断時の平均年齢は35歳である。原因は不明で、緩慢に発育し、しばしば石灰沈着を伴う[34]。オリゴデンドログリオーマ(グリオーマ前駆細胞)ではOlig2転写因子が発現しており、Olig2をマーカーとして免疫組織学的に判別でき、形態はオリゴデンドロサイトの特徴を示す[12][13][14]。臨床的またはX線像により区別すること困難で、病理組織検査(生検検査)が確定診断の方法として用いられる。世界保健機構(WHO)のガイドライン(グレードIからIV)では、オリゴデンドログリオーマは一般的にグレードIIとグレードIIIに分類されている[35]。治療法は手術放射線治療化学療法が挙げられる。近年、オリゴデンドログリオーマ(グリオーマ前駆細胞)、オリゴデンドロサイト前駆細胞において、Olig2転写因子のSer10, 13, 14のリン酸化状態がP53アセチル化を阻害し、前駆細胞の増殖を促進することが報告され、オリゴデンドログリオーマ(グリオーマ前駆細胞)発症機構が明らかにされつつある[28][36][37]

関連項目

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