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<font size="+1">[http://researchmap.jp/shokakizawa 柿澤 昌]</font><br> | |||
''京都大学 大学院薬学研究科 生体分子認識学分野''<br> | |||
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2012年9月26日 原稿完成日:2012年10月23日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | |||
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英語名:Ryanodine receptor 英語略名:RyR | 英語名:Ryanodine receptor 英語略名:RyR | ||
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リアノジン受容体は細胞内[[カルシウム]]貯蔵部位である小胞体膜上に存在するカルシウムチャネルであり、その名は、植物[[wikipedia:ja:アルカロイド|アルカロイド]]である[[wikipedia:ja:リアノジン|リアノジン]]が結合することに由来する。小胞体からのカルシウム放出を担うことから、同じく小胞体膜上に存在するカルシウムチャネルである[[イノシトール1,4,5-三リン酸受容体]](inositol 1,4,5-trisphosphate receptor; IP<sub>3</sub>R)とともに、カルシウム放出チャネルとも呼ばれ、細胞内カルシウム濃度調節に関与する(図1)。RyRには三種類のサブタイプが存在し、それぞれ異なった分布を示すが、脳においては三種類全ての発現が見られる。また三種類のサブタイプ全てに対して[[遺伝子欠損マウス]]が作成されているが、1型RyR欠損マウスは出生致死、2型RyR欠損マウスは胎生致死を示す。3型RyR欠損マウスのみ生後も生存・成熟するため解析が可能であり、脳機能への関与についての報告が存在する。他にも、主に薬理学的なアプローチにより、[[シナプス可塑性]]・[[神経細胞興奮性]]などへのRyRの関与が示唆されている。 | リアノジン受容体は細胞内[[カルシウム]]貯蔵部位である小胞体膜上に存在するカルシウムチャネルであり、その名は、植物[[wikipedia:ja:アルカロイド|アルカロイド]]である[[wikipedia:ja:リアノジン|リアノジン]]が結合することに由来する。小胞体からのカルシウム放出を担うことから、同じく小胞体膜上に存在するカルシウムチャネルである[[イノシトール1,4,5-三リン酸受容体]](inositol 1,4,5-trisphosphate receptor; IP<sub>3</sub>R)とともに、カルシウム放出チャネルとも呼ばれ、細胞内カルシウム濃度調節に関与する(図1)。RyRには三種類のサブタイプが存在し、それぞれ異なった分布を示すが、脳においては三種類全ての発現が見られる。また三種類のサブタイプ全てに対して[[遺伝子欠損マウス]]が作成されているが、1型RyR欠損マウスは出生致死、2型RyR欠損マウスは胎生致死を示す。3型RyR欠損マウスのみ生後も生存・成熟するため解析が可能であり、脳機能への関与についての報告が存在する。他にも、主に薬理学的なアプローチにより、[[シナプス可塑性]]・[[神経細胞興奮性]]などへのRyRの関与が示唆されている。 | ||
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{{PBB|geneid=6261}}{{PBB|geneid=6262}}{{PBB|geneid=6263}} | |||
== 歴史 == | == 歴史 == | ||
[[カルシウムイオン]](Ca<sup>2+</sup>)は普遍的かつ基本的な[[シグナル伝達]]を担う[[セカンドメッセンジャー]]であり、極めて多くの生命現象に関与する。細胞内におけるカルシウムシグナル形成は、[[細胞膜]]に存在するカルシウムチャネルを介して細胞外から細胞内へのカルシウムの流入によるものと、細胞内カルシウムストア(小胞体)からカルシウム放出チャネルを介して細胞質へ放出される2通りの経路による(図1)。[[カルシウム誘発性カルシウム放出|カルシウム誘発性カルシウム放出]](Ca<sup>2+</sup>-induced Ca<sup>2+</sup> release; CICR)は、[[細胞質]]側のカルシウム濃度上昇が細胞内ストアから細胞質へのカルシウム放出を促進する現象であり、[[wikipedia:ja:骨格筋|骨格筋]]で最初に見出された<ref><pubmed>5456208</pubmed></ref>。その後、同様の現象が多くの[[wikipedia:ja:興奮性細胞|興奮性細胞]]において見られたことから、CICRは細胞内カルシウムシグナルを増幅するための普遍的な機構であると考えられるようになり、CICRの分子実体であるCICRチャネルの薬理学的性質が調べられた。その結果、植物アルカロイドであるリアノジンがCICRチャネルに特異的に結合し、低濃度ではチャネルを開口状態に固定する薬物であることが示された。 | |||
引き続き、標識リアノジンを用いた結合活性を指標に、[[wikipedia:ja:骨格筋|骨格筋]]よりCICRチャネル、即ちリアノジン受容体(RyR)が精製された<ref><pubmed>2448641</pubmed></ref>。その後の遺伝子[[wikipedia:ja:クローニング|クローニング]]により、少なくとも[[wikipedia:ja:硬骨魚類|硬骨魚類]]以上の[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]では、別々の遺伝子にコードされる3種類のRyRサブタイプが存在することが判明し、それぞれ、1型/骨格筋型(RyR1)、2型/心筋型(RyR2)、3型/脳型(RyR3)と呼ばれる<ref><pubmed>9137551</pubmed></ref><ref><pubmed>12777839</pubmed></ref>。各サブタイプは互いに65%程度のアミノ酸配列相同性を示すが、異なる組織分布・脳内分布を示す<ref><pubmed>1330694</pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed> 7876312 </pubmed></ref>。一方、[[線虫]]<ref><pubmed>9135117</pubmed></ref>、[[ショウジョウバエ]]<ref><pubmed>8276118</pubmed></ref>においては、どのタイプにも属さないRyR相同物が同定されており、[[wikipedia:ja:無脊椎動物|無脊椎動物]]においては単一遺伝子にコードされていたものが、脊椎動物において組織分布や機能的役割が異なる3種のサブタイプに分子進化したと推測されている。 | 引き続き、標識リアノジンを用いた結合活性を指標に、[[wikipedia:ja:骨格筋|骨格筋]]よりCICRチャネル、即ちリアノジン受容体(RyR)が精製された<ref><pubmed>2448641</pubmed></ref>。その後の遺伝子[[wikipedia:ja:クローニング|クローニング]]により、少なくとも[[wikipedia:ja:硬骨魚類|硬骨魚類]]以上の[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]では、別々の遺伝子にコードされる3種類のRyRサブタイプが存在することが判明し、それぞれ、1型/骨格筋型(RyR1)、2型/心筋型(RyR2)、3型/脳型(RyR3)と呼ばれる<ref><pubmed>9137551</pubmed></ref><ref><pubmed>12777839</pubmed></ref>。各サブタイプは互いに65%程度のアミノ酸配列相同性を示すが、異なる組織分布・脳内分布を示す<ref><pubmed>1330694</pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed> 7876312 </pubmed></ref>。一方、[[線虫]]<ref><pubmed>9135117</pubmed></ref>、[[ショウジョウバエ]]<ref><pubmed>8276118</pubmed></ref>においては、どのタイプにも属さないRyR相同物が同定されており、[[wikipedia:ja:無脊椎動物|無脊椎動物]]においては単一遺伝子にコードされていたものが、脊椎動物において組織分布や機能的役割が異なる3種のサブタイプに分子進化したと推測されている。 | ||
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ファイル:RyR signal.jpg|'''図1.リアノジン受容体を介するシグナル系'''<br>脳の神経細胞におけるリアノジン受容体(RyRs)を介するシグナル伝達。海馬の錐体細胞ではNMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR)、小脳のプルキンエ細胞では電位依存症カルシウムチャネル(VDCC)を介する細胞外からのカルシウム流入による細胞内カルシウム濃度上昇により、Ca<sup>2+</sup>-induced Ca<sup>2+</sup> releaseが起こる。一方、小脳プルキンエ細胞では一酸化窒素(NO)による1型RyR(RyR1)のS-ニトロシル化によりNO-induced Ca<sup>2+</sup> | ファイル:RyR signal.jpg|'''図1.リアノジン受容体を介するシグナル系'''<br>脳の神経細胞におけるリアノジン受容体(RyRs)を介するシグナル伝達。海馬の錐体細胞ではNMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR)、小脳のプルキンエ細胞では電位依存症カルシウムチャネル(VDCC)を介する細胞外からのカルシウム流入による細胞内カルシウム濃度上昇により、Ca<sup>2+</sup>-induced Ca<sup>2+</sup> releaseが起こる。一方、小脳プルキンエ細胞では一酸化窒素(NO)による1型RyR(RyR1)のS-ニトロシル化によりNO-induced Ca<sup>2+</sup>releaseも起こる。[[ER]]:endoplasmic reticulum; IP3R:inositol 1,4,5 tris phosphate receptor; SERCA: sarco/endoplasmic reticulum Ca<sup>2+</sup> ATPase. | ||
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===カルシウムイオン=== | ===カルシウムイオン=== | ||
細胞質に存在するカルシウムイオンは、濃度依存的に全てのRyRサブタイプに共通して作用する調節因子である。サブμMからμMの範囲における細胞質側カルシウムはRyRを開口させ細胞内カルシウムストアである小胞体からカルシウムを遊離させる、いわゆるカルシウム依存性(誘発性)カルシウム放出(CICR)現象をお引き起こす。一方、より高濃度のmMレベルのカルシウムはチャネル活性を抑制する。また、小胞体内腔側のカルシウムによる活性化も見られる。心筋では、脱分極による[[L型カルシウムチャネル]]([[Cv1.2]])の開口により細胞外からカルシウムが流入し、RyR2を開口させカルシウム放出を引き起こし、細胞内カルシウムシグナルを増幅するが、中枢神経系においても、小脳プルキンエ細胞では電位依存性の[[P/Q型カルシウムチャネル]] | 細胞質に存在するカルシウムイオンは、濃度依存的に全てのRyRサブタイプに共通して作用する調節因子である。サブμMからμMの範囲における細胞質側カルシウムはRyRを開口させ細胞内カルシウムストアである小胞体からカルシウムを遊離させる、いわゆるカルシウム依存性(誘発性)カルシウム放出(CICR)現象をお引き起こす。一方、より高濃度のmMレベルのカルシウムはチャネル活性を抑制する。また、小胞体内腔側のカルシウムによる活性化も見られる。心筋では、脱分極による[[L型カルシウムチャネル]]([[Cv1.2]])の開口により細胞外からカルシウムが流入し、RyR2を開口させカルシウム放出を引き起こし、細胞内カルシウムシグナルを増幅するが、中枢神経系においても、小脳プルキンエ細胞では電位依存性の[[P/Q型カルシウムチャネル]]、海馬[[錐体細胞]]では[[NMDA型グルタミン酸受容体]]を介するカルシウム流入によりRyRが活性化されカルシウム放出が誘導されることが示唆されている。 | ||
=== 脱分極 === | === 脱分極 === | ||
骨格筋においてはL型[[カルシウムチャネル]]([[Cv1.1]])とRyR1が機械的にカップリングし、興奮収縮連関において細胞膜が脱分極するとL型カルシウムチャネルのコンフォーメーションが変化し、タンパク質-タンパク質相互作用を介してRyR1が活性化されると考えられている。一方、中枢神経系における機械的なカップリングに関しては、多くの点が不明である。 | |||
=== 生理活性物質 === | === 生理活性物質 === | ||
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=== 薬物 === | === 薬物 === | ||
リアノジンは低濃度では開状態のRyRに結合し、サブコンダクタンス状態に開口固定しカルシウム遊離を引き起こすが、高濃度ではRyR活性を抑制する。また、[[カフェイン]]によるRyRの活性化、[[ダントロレン]] dantrolene による抑制(主にRyR1、RyR3に対する作用)が知られている。 | |||
== 機能 == | == 機能 == | ||
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==== RyR3欠損マウス ==== | ==== RyR3欠損マウス ==== | ||
: RyR3欠損マウスはほぼ正常に発育し重篤な異常は認められないが、これまでに自発的運動活性の亢進、社会的接触行動の減少、[[恐怖条件付け反応]] | : RyR3欠損マウスはほぼ正常に発育し重篤な異常は認められないが、これまでに自発的運動活性の亢進、社会的接触行動の減少、[[恐怖条件付け反応]]の低下が報告され、その神経系での重要性が示唆されている。また、海馬[[CA1]]領域において、穏やかな刺激で誘導された[[LTP]]の維持が阻害されるとの報告がある一方で、同じく海馬領域におけるLTPの誘導[[閾値]]が低下するとの報告もある。ただし、RyR3欠損マウスの軽度な中枢機能異常に関しては、重複して発現する他のサブタイプによる補完作用を考慮する必要がある<ref><pubmed>10595520</pubmed></ref><ref><pubmed>11358488</pubmed></ref>。 | ||
===シナプス前終末における機能=== | ===シナプス前終末における機能=== | ||
海馬[[CA3]]領域の[[苔状線維]][[軸索]]([[シナプス前終末]]よりも[[軸索起始部]]寄りの部分) | 海馬[[CA3]]領域の[[苔状線維]][[軸索]]([[シナプス前終末]]よりも[[軸索起始部]]寄りの部分)においては、[[電位依存性カルシウムチャネル]]によるカルシウムシグナルがRyR1によるCICR機構を介して増幅されることにより、高頻度刺激に神経伝達物資の放出が増強されることが示されており、[[シナプス前]]終末における可塑性へのRyRの関与も示唆されている<ref><pubmed>18687898</pubmed></ref>。 | ||
=== 一酸化窒素依存的カルシウム放出 === | === 一酸化窒素依存的カルシウム放出 === | ||
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Catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia; CPVT | Catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia; CPVT | ||
本症候群は精神的または身体的[[ストレス]]時に[[交感神経]]活動が亢進することにより誘発される多形性[[wikipedia:ja:心室頻拍|心室頻拍]]の反復出現を特徴とする疾患である。このCPVP家系には急死例が多く、[[wikipedia:ja:常染色体性優性遺伝|常染色体性優性遺伝]]形式をとり、その原因遺伝子として心臓RyR2の変異が関与する。交感神経によるβ受容体刺激の心臓収縮の増強作用の機序の1つとして、心筋細胞内で[[cAMP]]依存性リン酸化酵素によるRyR2のリン酸化・活性化を介して小胞体カルシウム放出を亢進することが知られている。悪性高熱症と同様に、CPVP家系で見出される遺伝子変異はRyR2をより活性型に誘導する変異であると考えられ、[[β受容体]]刺激時に過剰にRyR2が活性化することが致死的な頻拍を誘導することが示唆されている。欧米各国での発症例についてRyR2上での様々な点変異が報告されている<ref name="ref9" /><ref name="ref10" />。 | |||
===タンパク質機能との関わり=== | ===タンパク質機能との関わり=== | ||
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==参考文献== | ==参考文献== | ||
<references /> | <references /> | ||