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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0046287 金生 由紀子]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0046287 金生 由紀子]</font><br> | ||
''東京大学大学院医学系研究科''<br> | ''東京大学大学院医学系研究科''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年6月3日 原稿完成日:2015年6月5日 改訂日:2022年4月5日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | ||
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==歴史と概念の変遷== | ==歴史と概念の変遷== | ||
注意欠如・多動性障害につながる疾患概念が医学的論文の中に初めて現れたのは、1902年に[[w:George Frederic Still|Still]]が攻撃的で反抗的になりやすい43名の子どもを記載したことであるとされている。1917~1918年の[[エコノモ脳炎]]の大流行の後に、[[不注意]]、[[多動性]]、[[衝動性]]を示す子どもたちが認められ、[[脳炎後行動障害]]として検討されるようになった。 | |||
この延長線上で、1947年にStraussとLehtinenは「brain-injured child(脳損傷児)」概念を提唱した。その後、脳損傷が証明できないとして「minimal brain damage: MBD(微細脳損傷)」、さらには「minimal brain dysfunction: MBD(微細脳機能障害)」という名称が提唱された。 | この延長線上で、1947年にStraussとLehtinenは「brain-injured child(脳損傷児)」概念を提唱した。その後、脳損傷が証明できないとして「minimal brain damage: MBD(微細脳損傷)」、さらには「minimal brain dysfunction: MBD(微細脳機能障害)」という名称が提唱された。 | ||
1960年代になると、MBD概念に代わって症状に注目されるようになった。1968年に[[ | 1960年代になると、MBD概念に代わって症状に注目されるようになった。1968年に[[wj:アメリカ精神医学会|アメリカ精神医学会]]から出版された「[[wj:精神疾患の診断・統計マニュアル第2版|精神疾患の診断・統計マニュアル第2版]]([[DSM-II]])」は初めて子どもの[[精神障害]]を記載し、その中には「hyperkinetic reaction of childhood(小児期の多動性反応)」が含まれていた。1970年代になると、多動に加えて、注意の持続や衝動のコントロールも重視されるようになり、1980年に出版された[[DSM-III]]では「attention deficit disorder(注意欠陥障害)」という概念が提唱された。その後、不注意、多動性、衝動性が主症状として確立して、2013年に出版された[[DSM-5]]では「attention-deficit/hyperactivity disorder(注意欠如・多動性障害/注意欠如・多動症): ADHD」という概念となっている。また、ADHDは[[DSM-5]]で新たに形成された「neurodevelopmental disorders([[神経発達症]]群/[[神経発達障害]]群)」に含まれ、[[発達障害]]として明確に位置づけられるようになった。 | ||
なお、[[ | なお、[[wj:世界保健機関|世界保健機関]]による「[[wj:精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン第10版|精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン第10版]]([[ICD-10]])」にはADHDという診断名はない。「[[hyperkinetic disorders]](多動性障害)」が存在し、注意の障害と多動が基本的な特徴とされ、不注意および多動性―衝動性の両方ともが目立つADHDと近似している。 | ||
==症状== | ==症状== | ||
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==疫学== | ==疫学== | ||
ADHDの頻度は、DSM-5では子どもで約5%、成人で約2.5%とされている。[[ | ADHDの頻度は、DSM-5では子どもで約5%、成人で約2.5%とされている。[[wj:アメリカ疾病管理予防センター|アメリカ疾病管理予防センター]]([w:Centers for Disease Control and Prevention|Centers for Disease Control and Prevention]]: CDC)の報告によると、ADHDと診断された4~17歳の子どもが2011年に11.0%であり、2003年に7.8%であったのと比べて大きく増加している<ref>[http://www.cdc.gov/ncbddd/adhd/prevalence.html Centers for Disease Control and Prevention]</ref>。日本では通常の学級に在籍する児童生徒に関する質問紙調査でADHD症状を有する割合が3.1%との報告があり、アメリカよりも若干低いかもしれない<ref>[http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/__icsFiles/afieldfile/2012/12/10/1328729_01.pdf 文部科学省]</ref>。性別では、女性よりも男性に多く、子どもでその傾向が強い。女性では男性より不注意が目立つ。 | ||
==病因・病態== | ==病因・病態== | ||
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上記のような脳内のネットワークにおいてドーパミン及び[[ノルアドレナリン]]が中心的な役割を果たしていると考えられている。[[シナプス]]におけるドーパミン及びノル[[アドレナリン]]が平生は少量であるので、一時的にかえって通常よりも大量の放出が起こることが、ADHDの基盤にあるとされる<ref name=ref9><pubmed>24259638</pubmed></ref>。 | 上記のような脳内のネットワークにおいてドーパミン及び[[ノルアドレナリン]]が中心的な役割を果たしていると考えられている。[[シナプス]]におけるドーパミン及びノル[[アドレナリン]]が平生は少量であるので、一時的にかえって通常よりも大量の放出が起こることが、ADHDの基盤にあるとされる<ref name=ref9><pubmed>24259638</pubmed></ref>。 | ||
ADHDに家族集積性があることから、遺伝要因の関与が注目され、ドーパミン及びノルアドレナリンに関連する遺伝子を含めて検討されてきた<ref name=ref3><pubmed>22825876</pubmed></ref>。稀な[[コピー数多型]]や候補[[遺伝子多型]]に加えて、発達早期の逆境体験、周生期の[[ | ADHDに家族集積性があることから、遺伝要因の関与が注目され、ドーパミン及びノルアドレナリンに関連する遺伝子を含めて検討されてきた<ref name=ref3><pubmed>22825876</pubmed></ref>。稀な[[コピー数多型]]や候補[[遺伝子多型]]に加えて、発達早期の逆境体験、周生期の[[wj:鉛|鉛]]への曝露、低出生体重などが関連する可能性が示唆されているが、いずれについても決定的とは言い難い<ref name=ref14><pubmed>22963644</pubmed></ref>。また、遺伝的要因については、ASDなど他の神経発達症との重複が指摘されてもいる。 | ||
なお、ADHDが均質の疾患とは言い難いため、ADHDの病因・病態の検討がいっそう困難になっている面がある<ref name=ref7><pubmed>24214656</pubmed></ref>。 | なお、ADHDが均質の疾患とは言い難いため、ADHDの病因・病態の検討がいっそう困難になっている面がある<ref name=ref7><pubmed>24214656</pubmed></ref>。 |