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== 機能 == | == 機能 == | ||
MeCP2はメチル化された遺伝子[[プロモーター]]に結合し標的遺伝子の発現を抑制する[[転写抑制因子]]([[リプレッサー]])として作用すると考えられてきた。MeCP2タンパク質におけるMBDはメチル化されたCpGヌクレオチドに特異的に結合し、このMeCP2のCpGヌクレオチドに対する結合特異性は近接するA/Tリッチな配列に依存する<ref name=Klose2005><pubmed>16137622</pubmed></ref> (Klose RJ et al., Mol Cell 19,667-678, 2005)。TRDはNIDを介して[[HDAC]]や[[mSin3A]]、NCoR-SMRT複合体などのコリプレッサー、[[SWI]]/[[SNF]]クロマチンリモデリング因子、DNAメチル基転移酵素[[Suv39H1]]等をリクルートすることにより転写抑制活性に寄与する<ref name=Nan1998><pubmed>9620804</pubmed></ref><ref name=Harikrishnan2005><pubmed>15696166</pubmed></ref><ref name=Kimura2003><pubmed>12473678</pubmed></ref> (Nan X et al., Nature 393, 386-389, 1998; Harikrishnan KN et al., Nat Genet 37,254-264, 2005; Kimura H&Shiota K J Biol Chem 278, 4806-4812, 2003)。C末端ドメインは[[naked DNA]]や[[ヌクレオソーム]]へのMeCP2の結合を促進することやヌクレオソームの安定性に作用することが示されているが、機能的役割の全貌は明らかになっていない<ref name=Buschdorf2004><pubmed>14618241</pubmed></ref><ref name=Chua2024><pubmed>39164525</pubmed></ref> (Buschdorf JP & Stratling WH J Mol Med (Berl) 82, 135-143, 2004; Chua GNL et al., Nat Struct Mol Biol 31(11), 1789-1797, 2024)。しかし、多くのレット症候群患者においてC末端の欠失がみられること、MeCP2のC末端領域を欠失したモデルマウスは種々のレット症候群にみられる表現型を示すことからMeCP2の正常な機能とその破綻に起因する病態に重要なことは明白である。 | |||
一方、転写抑制因子として作用するだけでなく、極めて多様な機能を有することが明らかになっている。[[転写因子]][[cAMP response element binding protein 1]] ([[CREB1]])と結合し[[転写活性化因子]]としても機能すること<ref name=Chahrour2008><pubmed>18511691</pubmed></ref> (Chahrour M et al., Science 320, 1224-1229, 2008)や、[[クロマチンループ]]構造の形成を介してクロマチン凝集を制御すること<ref name=Horike2005><pubmed>15608638</pubmed></ref> (Horike S et al., Nat Genet 37, 31-40, 2005)、RNA結合タンパク質であるY-box-binding protein 1 (YB-1)と相互作用し、mRNAのスプライシングを調節すること<ref name=Young2005><pubmed>16251272</pubmed></ref> (Young JI et al., PNAS 102, 17551-17558, 2005)、[[microRNAプロセッサー]]であるDrosha複合体と相互作用することで[[microRNAプロセシング調節因子]]として作用すること<ref name=Tsujimura2015><pubmed>26344767</pubmed></ref><ref name=Nakashima2021><pubmed>34010654</pubmed></ref><ref name=Cheng2014><pubmed>24636259</pubmed></ref> (Tsujimura K et al., Cell Rep 12, 1887-1901, 2015; Nakashima H et al., Cell Rep 35(7), 109124, 2021; Cheng TL et al., Dev Cell 28(5), 547-560, 2014)が示されている。このようにMeCP2は様々なタンパク質パートナーと状況依存的に相互作用し、非常に多彩な機能を発揮していることが明らかになっている。これまでに40以上の結合タンパク質が同定されている<ref name=Lyst2015><pubmed>25732612</pubmed></ref> (Lyst MJ & Bird A Nat Rev Genet 16, 261-275, 2015)。加えて、MeCP2が[[ヒドロキシメチル化シトシン]]([[5hmC]])にも結合することが示され、レット症候群患者でみられるMECP2変異体R133Cでは5hmCとの結合が減弱することから、この機能の病態への関与も示唆されている<ref name=Mellen2012><pubmed>23260135</pubmed></ref> (Mellen M et al., Cell 151, 1417-1430, 2012)。 | |||
=== MeCP2標的因子 === | === MeCP2標的因子 === | ||
レット症候群の疾患病態はMeCP2により本来抑制されるべき標的遺伝子の異常な発現亢進が原因と考えられてきた。MeCP2機能欠損による標的遺伝子発現異常を調べるために、MeCP2ノックアウトマウスの脳組織を用いた転写プロファイリングが行われたが、予想外に大きな発現変化は検出されず病態に関連するような異常発現遺伝子の同定には至らなかった<ref name=Tudor2002><pubmed>12432090</pubmed></ref> (Tudor M et al., PNAS 99(24), 15536-15541, 2002)。 | |||
MeCP2の転写抑制標的として、[[脳由来神経栄養因子]] ([[brain-derived neurotrophic factor]], [[BDNF]]) <ref name=Chen2003><pubmed>14593183</pubmed></ref> (Chen WG et al., Science 302, 885-889, 2003)やFXYD domain containing ion transport regulator (FXYD1) <ref name=Deng2007><pubmed>17309881</pubmed></ref> (Deng V et al., Hum Mol Genet 16, 640-650, 2007)、[[インスリン様成長因子結合タンパク質3]] ([[insulin like growth factor binding protein]], [[IGFBP3]]) <ref name=Itoh2007><pubmed>17278996</pubmed></ref> (Itoh M et al., J Neuropathol Exp Neurol 66, 117-123, 2007)遺伝子などが同定されている。BDNFはMeCP2の下流標的遺伝子であることが複数の研究により報告されているが、MeCP2KOマウスにおいて発現量の減少がみられること<ref name=Chang2006><pubmed>16446138</pubmed></ref> (Chang Q et al., Neuron 49, 341-348, 2006)から転写活性化の標的になっていることや間接的に影響を受けている可能性があり、MeCP2によってどのように発現が調節されているのか、病態にどのような寄与をしているのかは依然として不明瞭である。 | |||
CREBを介したMeCP2の転写活性化因子としての標的は、[[ソマトスタチン]]や[[G protein regulated inducer of neurite outgrowth 1]] ([[Gprin1]])などが報告されている<ref name=Chahrour2008><pubmed>18511691</pubmed></ref> (Chahrour M et al., Science 320, 1224-1229, 2008)。MeCP2のスプライシング調節因子としての標的は[[NMDA型グルタミン酸受容体]][[NR1]]サブユニットなどが挙げられる<ref name=Young2005><pubmed>16251272</pubmed></ref> (Young JI et al., PNAS 102, 17551-17558, 2005)。 | |||
miRNAプロセシング調節因子の標的は、MeCP2- | miRNAプロセシング調節因子の標的は、MeCP2-Drosha複合体の標的として[[miR-199a]]が同定されており、miR-199a欠損マウスはMecp2欠損マウスにみられる体重減少や短寿命などの表現型を模倣する<ref name=Tsujimura2015><pubmed>26344767</pubmed></ref> (Tsujimura et al., Cell Rep 2015)。さらに、このmiR-199aは下流の[[骨形成因子]] ([[bone morphogenetic protein]], [[BMP]]シグナル因子[[Smad-1]]の発現抑制を介してMeCP2の神経幹細胞分化制御作用を媒介し、miR-199aの発現やBMPシグナル阻害剤処理はレット症候群患者[[iPS細胞]]由来神経幹細胞の分化や[[オルガノイド]]発達の異常を改善する<ref name=Nakashima2021><pubmed>34010654</pubmed></ref> (Nakashima H et al., Cell Rep 2021)。 | ||
== 疾患との関わり == | == 疾患との関わり == | ||