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== セリンプロテアーゼ  ==
== セリンプロテアーゼ  ==


 セリンプロテアーゼはセリン、ヒスチジン、アスパラギン酸の3つのアミノ酸によって活性中心が形成されることが特徴である。
 セリンプロテアーゼはセリン、ヒスチジン、アスパラギン酸の3つのアミノ酸によって活性中心が形成されることが特徴である(図3)。


 セリンプロテアーゼの一種、トロンビン、組織プラスミノーゲンアクティベータ(tissue plasminogen activator;tPA)と プラスミン(plasmin)をトロンビン様プロテアーゼは、血液凝固線溶系および炎症反応での役割が古くからよく知られている。その他、トリプシン様プロテアーゼは食物消化の機能が最初に明らかにされた。しかし最近、脳内においてセリンプロテアーゼが、神経系の発達、維持、[[可塑性]]、[[疾患]]等に重要な役割を果たしていることが明らかとなって注目されるようになって来た。  
 セリンプロテアーゼの一種、トロンビン、組織プラスミノーゲンアクティベータ(tissue plasminogen activator;tPA)と プラスミン(plasmin)をトロンビン様プロテアーゼは、血液凝固線溶系および炎症反応での役割が古くからよく知られている。その他、トリプシン様プロテアーゼは食物消化の機能が最初に明らかにされた。しかし最近、脳内においてセリンプロテアーゼが、神経系の発達、維持、[[可塑性]]、[[疾患]]等に重要な役割を果たしていることが明らかとなって注目されるようになって来た。  
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=== ニューロトリプシン(Neurotrypsin)  ===
=== ニューロトリプシン(Neurotrypsin)  ===


 1997年に二つのラボから独立して同定された比較的新しいセリンプロテアーゼである。ヒトおよびマウスの脳で、海馬と[[扁桃体]]に高発現している。免疫電子顕微鏡観察と培養マウス海馬神経細胞を用いた共焦点顕微鏡による研究からニューロトリプシンは[[プレシナプス]]終末に局在していることが示されている。ニューロトリプシンは神経活動依存的に神経細胞より分泌されて、細胞外[[プロテオリグリカン]]の一種[[アグリン]]を基質として分解する。ニューロトリプシンノックアウトマウスでは、異常な社会行動をしめし、また組織学的には海馬神経細胞で[[スパイン]]密度の減少が示された。臨床研究では、一部の[[精神遅滞]]の原因遺伝子としてニューロトリプシンが同定されている。アルジェリアの2つの家系において、ニューロトリプシン遺伝子の4塩基欠損が常染色体劣性遺伝によって受け継がれ、欠損ニューロトリプシンタンパク質となり、その結果重度の精神遅滞となることが明らかとなっている。 [[Image:1NPM.jpg|thumb|250px|<b>図2.ニューロプシンの立体構造</b><br />(日本蛋白質構造データバンク (PDBj))]]
 1997年に二つのラボから独立して同定された比較的新しいセリンプロテアーゼである。ヒトおよびマウスの脳で、海馬と[[扁桃体]]に高発現している。免疫電子顕微鏡観察と培養マウス海馬神経細胞を用いた共焦点顕微鏡による研究からニューロトリプシンは[[プレシナプス]]終末に局在していることが示されている。ニューロトリプシンは神経活動依存的に神経細胞より分泌されて、細胞外[[プロテオリグリカン]]の一種[[アグリン]]を基質として分解する。ニューロトリプシンノックアウトマウスでは、異常な社会行動をしめし、また組織学的には海馬神経細胞で[[スパイン]]密度の減少が示された。臨床研究では、一部の[[精神遅滞]]の原因遺伝子としてニューロトリプシンが同定されている。アルジェリアの2つの家系において、ニューロトリプシン遺伝子の4塩基欠損が常染色体劣性遺伝によって受け継がれ、欠損ニューロトリプシンタンパク質となり、その結果重度の精神遅滞となることが明らかとなっている。 [[Image:1NPM.jpg|thumb|250px|<b>図2.ニューロプシンの立体構造</b><br />(日本蛋白質構造データバンク (PDBj))]]  


=== ニューロプシン(Neuropsin)  ===
=== ニューロプシン(Neuropsin)  ===


&nbsp; ニューロプシンはトリプシン様セリンプロテアーゼとして1995年に脳で同定された。脳において、ニューロプシンは海馬CA1-3の錐体細胞と外側扁桃体の神経細胞に高発現している。海馬スライスを用いた細胞外記録で、低濃度のニューロプシン(1-2.5 nM)を還流して[[シータ刺激]]を行うと、early-phase LTP(E-LTP)の著しい増強が見られる。ニューロプシンの基質として細胞接着因子[[L1]]CAMおよび[[EphB2受容体]]が同定されており、ニューロプシンによるL1CAMの分解は、NMDA受容体依存的なシナプス活動の増強を誘導する。EphB2受容体は、ニューロプシンによって切断され一方、扁桃体においてEphB2-NMDA受容体結合を阻害することからNMDA受容体の活性化を導き、不安関連行動を増強させる。   
&nbsp; ニューロプシンはトリプシン様セリンプロテアーゼとして1995年に脳で同定された(図2,3)。脳において、ニューロプシンは海馬CA1-3の錐体細胞と外側扁桃体の神経細胞に高発現している。海馬スライスを用いた細胞外記録で、低濃度のニューロプシン(1-2.5 nM)を還流して[[シータ刺激]]を行うと、early-phase LTP(E-LTP)の著しい増強が見られる。ニューロプシンの基質として細胞接着因子[[L1]]CAMおよび[[EphB2受容体]]が同定されており、ニューロプシンによるL1CAMの分解は、NMDA受容体依存的なシナプス活動の増強を誘導する。EphB2受容体は、ニューロプシンによって切断され一方、扁桃体においてEphB2-NMDA受容体結合を阻害することからNMDA受容体の活性化を導き、不安関連行動を増強させる。   


 ニューロプシンノックアウトマウスはE-LTPの障害と一致してモリス水迷路とY字迷路での海馬依存的な学習障害を示した。 [[Image:NP catalytic domainのコピー.jpg|thumb|133px|<b>図3.ニューロプシンの活性中心</b><br />Kishi T et al. The Journal of biological chemistry. 1999 274(7):4220-4]]
 ニューロプシンノックアウトマウスはE-LTPの障害と一致してモリス水迷路とY字迷路での海馬依存的な学習障害を示した。 [[Image:NP catalytic domainのコピー.jpg|thumb|133px|<b>図3.ニューロプシンの活性中心</b><br />Kishi T et al. The Journal of biological chemistry. 1999 274(7):4220-4]]  


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== メタロ(金属)プロテアーゼ(メトジンシンプロテアーゼファミリー(Metzincin protease family)) ==
== メタロ(金属)プロテアーゼ(メトジンシンプロテアーゼファミリー(Metzincin protease family))==  


&nbsp; マトリックスメタロプロテアーゼのスーパーファミリーとしてメトジンシンプロテアーゼファミリーと呼ばれている。[[細胞外マトリックス]]蛋白質(例えば、タイプⅠ、Ⅳ [[コラーゲン]]、[[ラミニン]]、フィブロネクチン等)を切断する。活性部位のメチオニン残基(Met)および亜鉛イオン(zinc ion)がペプチドの切断に重要である(図4,5)。  
&nbsp; マトリックスメタロプロテアーゼのスーパーファミリーとしてメトジンシンプロテアーゼファミリーと呼ばれている。[[細胞外マトリックス]]蛋白質(例えば、タイプⅠ、Ⅳ [[コラーゲン]]、[[ラミニン]]、フィブロネクチン等)を切断する。活性部位のメチオニン残基(Met)および亜鉛イオン(zinc ion)がペプチドの切断に重要である(図4,5)。  
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