「脳室下帯」の版間の差分

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====出生後〜成体脳の脳室下帯====
====出生後〜成体脳の脳室下帯====
 ヒトでは、生後6ヶ月までは胎生期と同様に脳室面に放射状グリア様の形態の細胞が並んでいる。細胞増殖が盛んで、げっ歯類の脳室下帯でみられるようなニューロブラストが鎖状に連なった集団や嗅球への移動経路であるRMSも存在する。しかしその後はニューロンの産生は急激に減少していき、生後18ヶ月までには移動経路も消失して、ほぼ成体と同じ基本構造になる71)。ヒト脳では、生後6ヶ月までのごく短期間、RMSから内側に分岐し、腹内側[[前頭前野]]に続く移動経路が存在する。この経路を移動するニューロンは腹内側前頭前野において分化・定着することが示唆されているが、他の霊長類では報告がなく、ヒト脳に特異的な構造であるため、機能や動態の詳細な解析は困難である<ref name=ref71><pubmed></pubmed></ref>。腹内側前頭前野は空間の概念化や感情の処理に関わる領域であり、脳室下帯からこの領域への新生ニューロンの供給がヒトに特異的な脳機能とどのような関わりがあるのか、解明が待たれる。
 ヒトでは、生後6ヶ月までは胎生期と同様に脳室面に放射状グリア様の形態の細胞が並んでいる。細胞増殖が盛んで、げっ歯類の脳室下帯でみられるようなニューロブラストが鎖状に連なった集団や嗅球への移動経路であるRMSも存在する。しかしその後はニューロンの産生は急激に減少していき、生後18ヶ月までには移動経路も消失して、ほぼ成体と同じ基本構造になる<ref name=ref71><pubmed></pubmed></ref>。ヒト脳では、生後6ヶ月までのごく短期間、RMSから内側に分岐し、腹内側[[前頭前野]]に続く移動経路が存在する。この経路を移動するニューロンは腹内側前頭前野において分化・定着することが示唆されているが、他の霊長類では報告がなく、ヒト脳に特異的な構造であるため、機能や動態の詳細な解析は困難である<ref name=ref71 />。腹内側前頭前野は空間の概念化や感情の処理に関わる領域であり、脳室下帯からこの領域への新生ニューロンの供給がヒトに特異的な脳機能とどのような関わりがあるのか、解明が待たれる。


 ヒトや近縁の霊長類の成体脳では、脳室面の上衣細胞層以外の基本構造は、げっ歯類とは大きく異なる<ref name=ref72><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref73><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref74><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref75><pubmed></pubmed></ref>。第1層である上衣細胞層の直下には、細胞体がほとんど存在しない第2層(hypocellular gap)が存在する。この層は、その下の第3層に存在するアストロサイトの突起が主な構成成分である。細胞体が高密度に存在する第三層の大部分はGFAPを発現するアストロサイトであり、その下には線条体との移行部(第四層)が存在する。ニューロブラストは非常に少数で、第2層と第3層に分布し、細胞集団を作らずに個々に存在する。この所見から、ヒトの脳室下帯ではニューロンの産生能力は非常に低いことが示唆される。しかし脳梗塞後の急性期に死亡した患者脳では、細胞増殖やニューロブラストの数は増加しており、傷害後の反応性のニューロン産生の増加はヒトにも共通の現象のようである<ref name=ref76><pubmed></pubmed></ref>。
 ヒトや近縁の霊長類の成体脳では、脳室面の上衣細胞層以外の基本構造は、げっ歯類とは大きく異なる<ref name=ref72><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref73><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref74><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref75><pubmed></pubmed></ref>。第1層である上衣細胞層の直下には、細胞体がほとんど存在しない第2層(hypocellular gap)が存在する。この層は、その下の第3層に存在するアストロサイトの突起が主な構成成分である。細胞体が高密度に存在する第三層の大部分はGFAPを発現するアストロサイトであり、その下には線条体との移行部(第四層)が存在する。ニューロブラストは非常に少数で、第2層と第3層に分布し、細胞集団を作らずに個々に存在する。この所見から、ヒトの脳室下帯ではニューロンの産生能力は非常に低いことが示唆される。しかし脳梗塞後の急性期に死亡した患者脳では、細胞増殖やニューロブラストの数は増加しており、傷害後の反応性のニューロン産生の増加はヒトにも共通の現象のようである<ref name=ref76><pubmed></pubmed></ref>。

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