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GKAP/SAPAP
<div align="right"> 
目次
<font size="+1">[http://researchmap.jp/yutakahata 畑 裕]</font><br>
1:名称
''東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科''<br>
GKAPという名称はguanylate kinase-associated proteinに由来する。興奮性シナプスの裏打ち蛋白postsynaptic density (PSD)-95のguanylate kinase領域に結合する蛋白としてラットとヒトの蛋白が最初に報告された。PSD-95は別名でsynapse-associated protein (SAP)90ともよばれるが、GKAPの報告とほぼ同時期に、SAP90に結合する蛋白として、4種類のラットSAP-associated protein(SAPAP)がSAPAP1、-2、-3、-4として報告された。これらのSAPAPは互いに相同でアイソフォームとみなされる。ラットGKAPは666アミノ酸からなり、992アミノ酸からなるラットSAPAP1のN末端を欠損するalternative splicing variantにあたる。PSD-95のアイソフォームのひとつDlg1(SAP97とも呼ばれ、神経細胞以外にも発現し、細胞極性に関係する)に結合する蛋白として、やはりほぼ同時期に報告されたDLG-associated protein(DAP)-1はヒトのSAPAP1に相当する。SAPAP1はGKAP/SAPAP1/DAP-1と、それ以外のアイソフォームは、SAPAP2、-3、-4と表記されることが多い。cGMP-dependent protein kinase-anchoring proteinとglucokinase-associated phosphataseもGKAPと表記されるので、注意が必要である。Hugo Gene Nomenclature Committeeによるオフィシャルネームでは、ヒトの遺伝子は、DLGAP1、-2、-3、-4と表記され、SAPAP1、-2、-3、-4に対応している。それぞれの遺伝子は、18番、8番、1番、20番染色体上にある。DLGAP1には8個のvariantsが登録されている。以下、本稿においては、DLGAPとして表記する。
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年2月15日 原稿完成日:2012年2月19日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
</div>


2:構造と相互作用分子
{{PBB|geneid=9229}} {{PBB|geneid=9228}} {{PBB|geneid=58512}}{{PBB|geneid=22839}} 英略称:DLGAP
4つのアイソフォームはアミノ酸レベルで40-50%の相同性があり、いずれも、中央部に14アミノ酸からなる5回の繰り返し配列を持ち、その部位でPSD-95、MAGI2/S-SCAMのguanylate kinase領域に結合する。繰り返し配列よりN末端側には特徴的配列がないが、neurofilamentなどの中間系フィラメントに結合する。繰り返し配列のC末端側のプロリンリッチ配列を介して、チロシンキナーゼAbl/Arg結合蛋白であるnArgBP2のSH3領域に結合する。さらにそれよりもC末端側でdynein light chain LC1、LC8に結合するが、その部分には特徴的配列を欠く。C末端にPDZ結合モチーフをもち、ShankのPDZ領域に結合する。その他、nNOSとも結合する。DLGAP3は、FAK、PYK2と相互作用すると報告されている。CaMKII、p38MAPKによりリン酸化されることも報告されている。相互作用分子の研究には、DLGAP1のラット、マウスホモログが用いられていることが多いが、アミノ酸配列の相同性に照らすと、報告されている相互作用の多くは、種とアイソフォームを超えて保存されていると推測される。


3:発現
同義語:[[Discs, large homolog-associated protein]], [[GKAP]], [[SAPAP]]
神経細胞以外にもmRNAはあり、蛋白も発現していると考えられるが、神経細胞における発現が極めて高い。脳内での各種アイソフォームの発現については、mRNAレベルでは4つのアイソフォームについて、蛋白レベルではDLGAP2以外の3つのアイソフォームについて、ラット、マウス脳を用いた解析結果が報告されている。ちなみに、「異なるアイソフォームの分布は、オーバーラップしているが、それぞれに特異的である」と表現される。例えば、小脳を例にとると、DLGAP2は小脳になく、DLGAP1は顆粒細胞、Purkinje細胞の両方に等しく、DLGAP3は顆粒細胞に強く、DLGAP4はPurkinje細胞に強く発現する。海馬では、DLGAP1はCA1、CA3の錐体細胞と歯状回の顆粒細胞に発現するが、DLGAP4は歯状回の顆粒細胞にはない。DLGAP3は線条体に強く発現している。DLGAP3ノックアウトマウスの表現型が、線条体局所へのDLGAP3の強制発現により回復する観察から、DLGAP3は線条体において、他のアイソフォームによっては代償されない機能を果たしていると推論される。さらに、DLGAP3のmRNAは、神経細胞の細胞体でなく樹状突起に分布する点でも注目されている。


4:機能、性状
{{box|text= 興奮性シナプスの裏打ちタンパク質の一つ。[[PSD-95|Postsynaptic density (PSD)-95]]の[[グアニル酸キナーゼ]]領域に結合するタンパク質として同定された。14アミノ酸からなる5回の繰り返し配列を持ち、その部位でPSD-95、[[MAGI2]]/[[S-SCAM]]のguanylate kinase領域に結合する。N末端側で、[[ニューロフィラメント]] (neurofilament)などの[[中間径フィラメント]]、C末端側のプロリンリッチ配列を介して、[[NArgBP2]]の[[SH3]]領域、さらにそれよりもC末端側で[[ダイニン軽鎖]] (dynein light chain) [[LC1]]、[[LC8]]、C末端に[[PDZ]]結合モチーフで[[Shank]]の[[PDZ領域]]に結合する。その他、[[神経型一酸化窒素合成酵素]](nNOS)とも結合する。DLGAP3ノックアウトマウスは、ヒトにおける[[強迫症]] ([[obsessive-compulsive disorder]]; [[OCD]]))を連想させる行動異常を示す。
DLGAPはNMDA型グルタミン酸受容体の裏打ち蛋白PSD-95に結合する分子として同定され、Shankにも結合するため、興奮性シナプスの足場蛋白と見なされている。上述のように、多くの相互作用分子が同定されているものの、個々の相互作用の生理的意義は必ずしも明快に示されているとはいえない。Dynein light chainとの結合からは、PSD-95を含む複合体の輸送を担う機能が措定されている。DLGAP3ノックアウトマウスでは、DLGAP3が本来、強く発現する線条体の神経細胞において、代謝型グルタミン酸受容体5(mGluR5)が細胞膜表面に留まり、そのシグナル活性が上昇し、結果、AMPA型グルタミン酸受容体のシグナルの抑制、endocannabinoidによる異常なシナプス抑制が観察される。この知見をもとに、DLGAP3にはmGluR5のエンドサイトーシスを制御する機能があると推論されている。グリア細胞では、Dlg1をdyneinにつなぐ作用を通じて、centrosomeの細胞内の位置決めに関与すると報告されている。なお、いずれのSAPAPも界面活性剤に不溶性であるが、その不溶性はN末端に依存し、N末端を欠くGKAP(DLGAP1 variant2)は比較的可溶化されやすい。神経細胞に発現させた場合のSAPAP1(DLGAP1 variant1)とGKAPの挙動にも、差異があると予測される。したがって、それぞれの研究で、GKAPが論じられているのか、SAPAP1が論じられているのかについて、注意を払う必要がある。
}}


4:ヒト疾病との関係
== 名称  ==
DLGAP3ノックアウトマウスは、ヒトにおけるobsessive-compulsive disorder(OCD)を連想させる行動異常を示す。この観察から、DLGAP3遺伝子は、ヒトのOCD、及び、OCDに関連するgrooming disorder、Tourette syndromeの原因遺伝子であるという仮説が立てられ解析がなされているが、現時点では、promising functional candidate geneという評価に止まり、決定的な連関は示されていない。このほか、統合失調症患者において、DLGAP1の発現が高まっているという報告もある。
 GKAPあるいはSAPAPともよばれる。GKAPという名称はguanylate kinase-associated proteinに由来する<ref><pubmed>9024696</pubmed></ref>。[[興奮性シナプス]]の裏打ちタンパク質[[PSD-95]]の[[グアニル酸キナーゼ]]領域に結合するタンパク質として[[ラット]]と[[ヒト]]のタンパク質が最初に報告された。なおcGMP-dependent protein kinase-anchoring proteinとglucokinase-associated phosphataseもGKAPと表記されるので、注意が必要である。


重要な関連語:PSD-95、MAGI2/S-SCAM、Shank
 PSD-95は別名でsynapse-associated protein 90 (SAP90)ともよばれるが、GKAPの報告とほぼ同時期に、SAP90に結合するタンパク質として、4種類のラットSAP-associated protein (SAPAP)アイソフォームがSAPAP1、-2、-3、-4として報告された<ref><pubmed>9115257</pubmed></ref>。ラットGKAPは666アミノ酸からなり、992アミノ酸からなるラットSAPAP1のN末端を欠損するalternative splicing variantにあたる。


(執筆者:畑 裕、担当編集委員:柚崎通介)
 PSD-95と同じMAGUKファミリータンパク質のひとつ[[Dlg1]]([[SAP97]]とも呼ばれ、神経細胞以外にも発現し、[[wj:細胞極性|細胞極性]]に関係する)に結合するタンパク質として、やはりほぼ同時期に報告されたDLG-associated protein (DAP)-1はヒトのSAPAP1に相当する<ref><pubmed>9286858</pubmed></ref>。SAPAP1はGKAP/SAPAP1/DAP-1と、それ以外のアイソフォームは、SAPAP2、-3、-4と表記されることが多い。
 
 Hugo Gene Nomenclature Committeeによるオフィシャルネームでは、ヒトの遺伝子は、DLGAP1、-2、-3、-4と表記され、SAPAP1、-2、-3、-4に対応している。それぞれの遺伝子は、18番、8番、1番、20番染色体上にある。DLGAP1には8個のvariantsが登録されている。以下、本稿においては、DLGAPとして表記する。
 
== 構造と相互作用分子  ==
 4つのアイソフォームはアミノ酸レベルで40-50%の相同性があり、いずれも、中央部に14アミノ酸からなる5回の繰り返し配列を持ち、その部位でPSD-95、[[MAGI2]]/[[S-SCAM]]のグアニル酸キナーゼ領域に結合する。
 
 繰り返し配列よりN末端側には特徴的配列がないが、[[ニューロフィラメント]]などの[[中間径フィラメント]]に結合する<ref><pubmed>10759891</pubmed></ref>。繰り返し配列のC末端側の[[プロリン]]リッチ配列を介して、[[チロシンキナーゼ]][[Abl]]/[[Arg]]結合タンパク質である[[NArgBP2]]の[[SH3領域]]に結合する<ref><pubmed>10521485</pubmed></ref>。
 
 さらにそれよりもC末端側で[[ダイニン軽鎖]][[LC1]]、[[LC8]]に結合するが、その部分には特徴的配列を欠く<ref><pubmed>10844022</pubmed></ref><ref name="Haraguchi"><pubmed>11122378</pubmed></ref>。
 
 C末端に[[PDZドメイン]]結合モチーフをもち、[[Shank]]のPDZドメインに結合する<ref><pubmed>10433268</pubmed></ref><ref><pubmed>10527873</pubmed></ref>。その他、[[神経型一酸化窒素合成酵素]]([[nNOS]])とも結合する<ref name="Haraguchi"><pubmed>11122378</pubmed></ref>。
 
 DLGAP3は、[[FAK]]、[[PYK2]]と相互作用すると報告されている<ref><pubmed>16202977</pubmed></ref>。[[カルシウム/カルモジュリン依存性蛋白質キナーゼII|カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII]] ([[CaMKII]])、[[p38]] [[MAPK]]により[[リン酸化]]されることも報告されている<ref><pubmed>19896464</pubmed></ref><ref><pubmed>15729360</pubmed></ref>。
 
 相互作用分子の研究には、DLGAP1のラット、[[マウス]][[wj:ホモログ|ホモログ]]が用いられていることが多いが、アミノ酸配列の相同性に照らすと、報告されている相互作用の多くは、種とアイソフォームを超えて保存されていると推測される。
 
== 発現  ==
 神経細胞以外にも[[mRNA]]はあり、タンパク質も発現していると考えられるが、神経細胞における発現が極めて高い。
 
 脳内での各種アイソフォームの発現については、mRNAレベルでは4つのアイソフォームについて、タンパク質レベルではDLGAP2以外の3つのアイソフォームについて、ラット、マウス脳を用いた解析結果が報告されている<ref><pubmed>15207911</pubmed></ref><ref><pubmed>15024750</pubmed></ref>。
 
 異なるアイソフォームの分布は、オーバーラップしているが、それぞれに特異的である。例えば、[[小脳]]を例にとると、[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/70528599 DLGAP1]は[[顆粒細胞]]、[[プルキンエ細胞]]の両方に等しく、[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/69626909 DLGAP2]は小脳になく、[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/70528605 DLGAP3]は顆粒細胞に強く、[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/68499267 DLGAP4]はプルキンエ細胞に強く発現する。[[海馬]]では、DLGAP1は[[CA1]]、[[CA3]]の[[錐体細胞]]と[[歯状回]]の顆粒細胞に発現するが、DLGAP4は歯状回の顆粒細胞にはない。DLGAP3は[[線条体]]に強く発現している。
 
 DLGAP3ノックアウトマウスの表現型が、線条体局所へのDLGAP3の強制発現により回復する観察から、DLGAP3は線条体において、他のアイソフォームによっては代償されない機能を果たしていると推論される<ref name="ref2"><pubmed>17713528</pubmed></ref>。さらに、DLGAP3のmRNAは、神経細胞の[[細胞体]]でなく[[樹状突起]]に分布する点でも注目されている。
 
== 機能、性状  ==
[[Image:PSD proteins.jpg|thumb|right|295px|<b>図 PSDタンパク質</b><br />Reprinted, with permission, from the Annual Review of Biochemistry, Volume 76 © 2007 by Annual Reviews www.annualreviews.org]]
 DLGAPは[[NMDA型グルタミン酸受容体]]の裏打ちタンパク質PSD-95に結合する分子として同定され、Shankにも結合するため、興奮性シナプスの[[足場蛋白質|足場]]タンパク質と見なされている(図)。
 
 上述のように、多くの相互作用分子が同定されているものの、個々の相互作用の生理的意義は必ずしも明快に示されているとはいえない。ダイニン軽鎖との結合からは、PSD-95を含む複合体の輸送を担う機能が措定されている。
 
 DLGAP3ノックアウトマウスでは、DLGAP3が本来、強く発現する線条体の神経細胞において、[[代謝活性型グルタミン酸受容体]]5型([[mGluR5]])が細胞膜表面に留まり、そのシグナル活性が上昇し、その結果として[[AMPA型グルタミン酸受容体]]のシグナルの抑制、[[エンドカンナビノイド]] ([[endocannabinoid]])による異常な[[Depolarization-induced suppression of inhibition|シナプス抑制]]が観察される<ref><pubmed>21715621</pubmed></ref><ref><pubmed>22090495</pubmed></ref>。この知見をもとに、DLGAP3にはmGluR5の[[エンドサイトーシス]]を制御する機能があると推論されている。
 
 [[グリア細胞]]では、Dlg1を[[ダイニン]]につなぐ作用を通じて、[[中心体]]の細胞内の位置決めに関与すると報告されている<ref><pubmed>21041448</pubmed></ref>。
 
 なお、いずれのSAPAPも[[wj:界面活性剤|界面活性剤]]に不溶性であるが、その不溶性はN末端に依存し、N末端を欠くGKAP (DLGAP1 variant2)は比較的可溶化されやすい。神経細胞に発現させた場合のSAPAP1 (DLGAP1 variant1)とGKAPの挙動にも、差異があると予測される。したがって、それぞれの研究で、GKAPが論じられているのか、SAPAP1が論じられているのかについて、注意を払う必要がある。
 
== ヒト疾病との関係  ==
 DLGAP3ノックアウトマウスは、ヒトにおける[[強迫症]] ([[obsessive compulsive disorder]], [[OCD]])を連想させる行動異常を示す<ref name="ref2"><pubmed>17713528</pubmed></ref>。この観察から、DLGAP3遺伝子は、ヒトの強迫症、及び、強迫症に関連する[[grooming disorder]]や[[トゥレット症候群]] (Tourette syndrome)の原因遺伝子であるという仮説が立てられ解析がなされている。しかし、現時点では、機能的な候補遺伝子の一つという評価に止まり、決定的な連関は示されていない<ref><pubmed>19051237</pubmed></ref><ref><pubmed>21184590</pubmed></ref>。
 
 このほか、[[統合失調症]]患者において、DLGAP1の発現が高まっているという報告もある<ref><pubmed>12950712</pubmed></ref>。
 
== 関連項目  ==
*[[PSD-95]]
*[[MAGI2]]/[[S-SCAM]]
*[[Shank]]
*[[シナプス後肥厚]]
 
== 参考文献  ==
 
<references />

2020年1月31日 (金) 20:58時点における最新版

畑 裕
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科
DOI:10.14931/bsd.606 原稿受付日:2012年2月15日 原稿完成日:2012年2月19日
担当編集委員:柚崎 通介(慶應義塾大学 医学部生理学)

Discs, large (Drosophila) homolog-associated protein 1
Identifiers
Symbols DLGAP1; DAP-1; DAP-1-ALPHA; DAP-1-BETA; FLJ38442; GKAP; MGC88156; SAPAP1; hGKAP
External IDs OMIM605445 MGI1346065 HomoloGene31258 GeneCards: DLGAP1 Gene
RNA expression pattern
PBB GE DLGAP1 206489 s at tn.png
PBB GE DLGAP1 210750 s at tn.png
More reference expression data
Orthologs
Species Human Mouse
Entrez 9229 224997
Ensembl ENSG00000170579 ENSMUSG00000003279
UniProt O14490 Q3TSN1
RefSeq (mRNA) NM_001003809.2 NM_027712
RefSeq (protein) NP_001003809.1 NP_081988
Location (UCSC) Chr 18:
3.5 – 4.15 Mb
Chr 17:
70.32 – 71.17 Mb
PubMed search [1] [2]
Discs, large (Drosophila) homolog-associated protein 2
Identifiers
Symbols DLGAP2; DAP2; SAPAP2
External IDs OMIM605438 MGI2443181 HomoloGene3484 GeneCards: DLGAP2 Gene
RNA expression pattern
PBB GE DLGAP2 216916 s at tn.png
More reference expression data
Orthologs
Species Human Mouse
Entrez 9228 244310
Ensembl ENSG00000198010 ENSMUSG00000047495
UniProt Q9P1A6 Q0VF59
RefSeq (mRNA) NM_004745 NM_172910
RefSeq (protein) NP_004736 NP_766498
Location (UCSC) Chr 8:
1.45 – 1.66 Mb
Chr 8:
14.1 – 14.85 Mb
PubMed search [3] [4]
Discs, large (Drosophila) homolog-associated protein 3
Identifiers
Symbols DLGAP3; DAP3; SAPAP3
External IDs OMIM611413 HomoloGene18276 GeneCards: DLGAP3 Gene
Orthologs
Species Human Mouse
Entrez 58512 242667
Ensembl ENSG00000116544 ENSMUSG00000042388
UniProt O95886 Q6PFD5
RefSeq (mRNA) NM_001080418.1 NM_198618.4
RefSeq (protein) NP_001073887.1 NP_941020.1
Location (UCSC) Chr 1:
35.33 – 35.4 Mb
Chr 4:
126.85 – 126.91 Mb
PubMed search [5] [6]
Discs, large (Drosophila) homolog-associated protein 4
Identifiers
Symbols DLGAP4; DAP4; DLP4; FLJ20588; KIAA0964; MGC131862; RP5-977B1.6; SAPAP4
External IDs MGI2138865 HomoloGene8935 GeneCards: DLGAP4 Gene
RNA expression pattern
PBB GE DLGAP4 202570 s at tn.png
PBB GE DLGAP4 202571 s at tn.png
PBB GE DLGAP4 202572 s at tn.png
More reference expression data
Orthologs
Species Human Mouse
Entrez 22839 228836
Ensembl ENSG00000080845 ENSMUSG00000061689
UniProt Q9Y2H0 n/a
RefSeq (mRNA) NM_001042486.2 NM_001042487
RefSeq (protein) NP_001035951.1 NP_001035952
Location (UCSC) Chr 20:
34.89 – 35.16 Mb
Chr 2:
156.44 – 156.59 Mb
PubMed search [7] [8]

英略称:DLGAP

同義語:Discs, large homolog-associated protein, GKAP, SAPAP

 興奮性シナプスの裏打ちタンパク質の一つ。Postsynaptic density (PSD)-95グアニル酸キナーゼ領域に結合するタンパク質として同定された。14アミノ酸からなる5回の繰り返し配列を持ち、その部位でPSD-95、MAGI2/S-SCAMのguanylate kinase領域に結合する。N末端側で、ニューロフィラメント (neurofilament)などの中間径フィラメント、C末端側のプロリンリッチ配列を介して、NArgBP2SH3領域、さらにそれよりもC末端側でダイニン軽鎖 (dynein light chain) LC1LC8、C末端にPDZ結合モチーフでShankPDZ領域に結合する。その他、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)とも結合する。DLGAP3ノックアウトマウスは、ヒトにおける強迫症 (obsessive-compulsive disorder; OCD))を連想させる行動異常を示す。

名称

 GKAPあるいはSAPAPともよばれる。GKAPという名称はguanylate kinase-associated proteinに由来する[1]興奮性シナプスの裏打ちタンパク質PSD-95グアニル酸キナーゼ領域に結合するタンパク質としてラットヒトのタンパク質が最初に報告された。なおcGMP-dependent protein kinase-anchoring proteinとglucokinase-associated phosphataseもGKAPと表記されるので、注意が必要である。

 PSD-95は別名でsynapse-associated protein 90 (SAP90)ともよばれるが、GKAPの報告とほぼ同時期に、SAP90に結合するタンパク質として、4種類のラットSAP-associated protein (SAPAP)アイソフォームがSAPAP1、-2、-3、-4として報告された[2]。ラットGKAPは666アミノ酸からなり、992アミノ酸からなるラットSAPAP1のN末端を欠損するalternative splicing variantにあたる。

 PSD-95と同じMAGUKファミリータンパク質のひとつDlg1(SAP97とも呼ばれ、神経細胞以外にも発現し、細胞極性に関係する)に結合するタンパク質として、やはりほぼ同時期に報告されたDLG-associated protein (DAP)-1はヒトのSAPAP1に相当する[3]。SAPAP1はGKAP/SAPAP1/DAP-1と、それ以外のアイソフォームは、SAPAP2、-3、-4と表記されることが多い。

 Hugo Gene Nomenclature Committeeによるオフィシャルネームでは、ヒトの遺伝子は、DLGAP1、-2、-3、-4と表記され、SAPAP1、-2、-3、-4に対応している。それぞれの遺伝子は、18番、8番、1番、20番染色体上にある。DLGAP1には8個のvariantsが登録されている。以下、本稿においては、DLGAPとして表記する。

構造と相互作用分子

 4つのアイソフォームはアミノ酸レベルで40-50%の相同性があり、いずれも、中央部に14アミノ酸からなる5回の繰り返し配列を持ち、その部位でPSD-95、MAGI2/S-SCAMのグアニル酸キナーゼ領域に結合する。

 繰り返し配列よりN末端側には特徴的配列がないが、ニューロフィラメントなどの中間径フィラメントに結合する[4]。繰り返し配列のC末端側のプロリンリッチ配列を介して、チロシンキナーゼAbl/Arg結合タンパク質であるNArgBP2SH3領域に結合する[5]

 さらにそれよりもC末端側でダイニン軽鎖LC1LC8に結合するが、その部分には特徴的配列を欠く[6][7]

 C末端にPDZドメイン結合モチーフをもち、ShankのPDZドメインに結合する[8][9]。その他、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)とも結合する[7]

 DLGAP3は、FAKPYK2と相互作用すると報告されている[10]カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII (CaMKII)、p38 MAPKによりリン酸化されることも報告されている[11][12]

 相互作用分子の研究には、DLGAP1のラット、マウスホモログが用いられていることが多いが、アミノ酸配列の相同性に照らすと、報告されている相互作用の多くは、種とアイソフォームを超えて保存されていると推測される。

発現

 神経細胞以外にもmRNAはあり、タンパク質も発現していると考えられるが、神経細胞における発現が極めて高い。

 脳内での各種アイソフォームの発現については、mRNAレベルでは4つのアイソフォームについて、タンパク質レベルではDLGAP2以外の3つのアイソフォームについて、ラット、マウス脳を用いた解析結果が報告されている[13][14]

 異なるアイソフォームの分布は、オーバーラップしているが、それぞれに特異的である。例えば、小脳を例にとると、DLGAP1顆粒細胞プルキンエ細胞の両方に等しく、DLGAP2は小脳になく、DLGAP3は顆粒細胞に強く、DLGAP4はプルキンエ細胞に強く発現する。海馬では、DLGAP1はCA1CA3錐体細胞歯状回の顆粒細胞に発現するが、DLGAP4は歯状回の顆粒細胞にはない。DLGAP3は線条体に強く発現している。

 DLGAP3ノックアウトマウスの表現型が、線条体局所へのDLGAP3の強制発現により回復する観察から、DLGAP3は線条体において、他のアイソフォームによっては代償されない機能を果たしていると推論される[15]。さらに、DLGAP3のmRNAは、神経細胞の細胞体でなく樹状突起に分布する点でも注目されている。

機能、性状

図 PSDタンパク質
Reprinted, with permission, from the Annual Review of Biochemistry, Volume 76 © 2007 by Annual Reviews www.annualreviews.org

 DLGAPはNMDA型グルタミン酸受容体の裏打ちタンパク質PSD-95に結合する分子として同定され、Shankにも結合するため、興奮性シナプスの足場タンパク質と見なされている(図)。

 上述のように、多くの相互作用分子が同定されているものの、個々の相互作用の生理的意義は必ずしも明快に示されているとはいえない。ダイニン軽鎖との結合からは、PSD-95を含む複合体の輸送を担う機能が措定されている。

 DLGAP3ノックアウトマウスでは、DLGAP3が本来、強く発現する線条体の神経細胞において、代謝活性型グルタミン酸受容体5型(mGluR5)が細胞膜表面に留まり、そのシグナル活性が上昇し、その結果としてAMPA型グルタミン酸受容体のシグナルの抑制、エンドカンナビノイド (endocannabinoid)による異常なシナプス抑制が観察される[16][17]。この知見をもとに、DLGAP3にはmGluR5のエンドサイトーシスを制御する機能があると推論されている。

 グリア細胞では、Dlg1をダイニンにつなぐ作用を通じて、中心体の細胞内の位置決めに関与すると報告されている[18]

 なお、いずれのSAPAPも界面活性剤に不溶性であるが、その不溶性はN末端に依存し、N末端を欠くGKAP (DLGAP1 variant2)は比較的可溶化されやすい。神経細胞に発現させた場合のSAPAP1 (DLGAP1 variant1)とGKAPの挙動にも、差異があると予測される。したがって、それぞれの研究で、GKAPが論じられているのか、SAPAP1が論じられているのかについて、注意を払う必要がある。

ヒト疾病との関係

 DLGAP3ノックアウトマウスは、ヒトにおける強迫症 (obsessive compulsive disorder, OCD)を連想させる行動異常を示す[15]。この観察から、DLGAP3遺伝子は、ヒトの強迫症、及び、強迫症に関連するgrooming disorderトゥレット症候群 (Tourette syndrome)の原因遺伝子であるという仮説が立てられ解析がなされている。しかし、現時点では、機能的な候補遺伝子の一つという評価に止まり、決定的な連関は示されていない[19][20]

 このほか、統合失調症患者において、DLGAP1の発現が高まっているという報告もある[21]

関連項目

参考文献

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