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== ドーパミンと精神疾患 == | == ドーパミンと精神疾患 == |
2013年4月10日 (水) 23:55時点における版
ドーパミン | |
---|---|
4-(2-aminoethyl)benzene-1,2-diol | |
別称 2-(3,4-dihydroxyphenyl)ethylamine; 3,4-dihydroxyphenethylamine; 3-hydroxytyramine; DA; Intropin; Revivan; Oxytyramine | |
Identifiers | |
51-61-6 62-31-7 (hydrochloride) | |
ATC code | |
ChEBI | |
ChEMBL | ChEMBL59 |
ChemSpider | 661 |
DrugBank | {{{value}}} |
| |
Jmol-3D images | Image |
KEGG | D07870 |
PubChem | 681 |
| |
UNII | VTD58H1Z2X |
Properties | |
Molar mass | 153.18 g/mol |
Appearance | colorless solid |
Density | 1.26 g/cm3 |
Melting point | 128 °C (262 °F; 401 K) |
Boiling point | |
60.0 g/100 ml | |
危険性 | |
Rフレーズ | R36/37/38 |
S-phrases | S26 S36 |
特記なき場合、データは常温(25 °C)・常圧(100 kPa)におけるものである。 |
英語名:dopamine 独:Dopamin 仏:dopamine
カテコール核を持つアミン(カテコールアミン)で、中枢神経系の伝達物質、及び末梢のシグナル分子として働く。生体内のドーパミンはチロシンから二段階の酵素反応によって合成され、小胞モノアミントランスポーターによって細胞内の小胞に取り込まれる。開口放出によって放出されたドーパミンは放出部位から比較的離れた場所に存在する受容体に結合して標的細胞の生理機能を調節する。ドーパミン受容体は全てGタンパク質共役型で、遅い信号伝達もしくは神経細胞機能の修飾を担う。中脳から大脳に投射するドーパミン神経が中枢のドーパミン神経系の大部分を占め、運動機能、認知機能などの中枢機能の調節に関与する。また、ドーパミン神経系は精神疾患の病態生理に対する関与が示唆されており、抗精神病薬等の治療薬や依存性薬物の標的となる。
生合成と代謝
L-チロシンからチロシン水酸化酵素(tyrosine hydoxylase、TH)によってL-ドーパ(レボドーパ)が合成され、さらに芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(Aromatic L-amino acid decarboxylase、AADC)によってドーパミンが合成される。ドーパミンと同じくカテコールアミン類の伝達物質であるノルアドレナリンはドーパミン-β-水酸化酵素によってドーパミンから合成される。
ドーパミン合成の律速酵素であるTHは、セロトニン合成経路のトリプトファン水酸化酵素と同様にテトラヒドロビオプテリンを補因子とし、通常はチロシンで飽和している。THはしばしばドーパミン又はカテコールアミン作動性神経のマーカーとして用いられるが、THを発現していてもAADCを発現していない場合があり、THを発現していても必ずしもカテコールアミン作動性神経とは言えない[1]。
(ここで小胞型モノアミントランスポーターについても触れていただけないでしょうか?他のモノアミンも運ぶSLC18A1と2と考えてよいのでしょうか?)
ドーパミンの代謝にはモノアミン酸化酵素(Monoamine oxidase、MAO)による経路とカテコール-O-メチル基転移酵素(Catechol-O-methyltransferase、COMT)による経路の二通りがあり、両者とも最終的に代謝産物としてホモバニリン酸を生じる。MAOにはMAOAとMAOBの二種類のアイソザイムが存在し、カテコールアミン作動性神経には主にMAOAが発現しているが、ヒトの場合ドーパミンはMAOBによって代謝される[2]。
放出と信号伝達
小胞内に貯蔵されたドーパミンは開口放出によって細胞外に放出される。ドーパミン神経の投射部位のみならず黒質や腹側被蓋野でもドーパミンは放出される。これらの部位では細胞体や樹状突起からドーパミンが放出され、特に黒質ではそれが主であると考えられている。
軸索終末からの放出も細胞体・樹状突起からの放出も共にCa2+依存性であるが、軸索における放出の方がより高濃度の細胞外Ca2+を必要とする[3]。線条体においてドーパミン放出部位と考えられる構造の60-70%は明確なシナプス構造を形成していない[3]。また、ドーパミン受容体の大部分はシナプス外の部位に発現している[4]。従ってドーパミンによって担われる信号伝達は、主として放出部位から比較的離れた受容体に作用する拡散性伝達(Volume transmission)によると考えられる[4]。ドーパミン受容体の活性化によって興奮性の変化やシナプス伝達の修飾が起きる。
受容体
D1、D2、D3、D4、D5のサブタイプが存在し、全て7回膜貫通構造を持つGタンパク質共役型受容体である。Gs/olfに共役してアデニル酸シクラーゼを活性化するD1様受容体(D1、D5)とGi/oに共役してアデニル酸シクラーゼを抑制するD2様受容体(D2、D3、D4)に大きく分類される。線条体、前頭前野、海馬、側坐核などにおいて、神経細胞の興奮性やシナプス伝達に対して多様な修飾作用を持つ[5][6]。
D1様受容体
D1受容体は線条体などに強く発現しており、D5受容体は辺縁系に発現している。D1受容体欠損マウスを用いてリガンド結合解析を行うと、D1様受容体リガンドの結合の大部分が無くなり、残りのD5受容体由来と考えられる結合が海馬等に見られる[7]。D1とD5を薬理学に明確に区別することはできないが、D5受容体はD1受容体よりもドーパミンに対する親和性が高い。
D1様受容体の活性化によって、Gs/olfのみならずGqを介したフォスフォリパーゼC(PLC)の活性化も生じる。Gqの活性化にはD5受容体又はD1/D2へテロ二量体の関与が示唆されている[8]。カリウム、カルシウムチャネルの機能を修飾し、線条体投射ニューロンのUp state(膜電位の浅い状態)における活動電位発火を促進する[9]。しかし、ナトリウム電流に対して抑制作用を持つことも報告されている[6][9][10]。グルタミン酸、GABAシナプスにおいてシナプス前性の抑制、増強の両作用を持ち[6][11]、興奮性シナプス伝達の長期可塑性の形成に寄与する[5]。
D2様受容体
D2、D4受容体は線条体、大脳皮質、辺縁系などに強く発現している。D3受容体は主に中脳―皮質・辺縁系に発現しており、線条体での発現は弱い[7]。アデニル酸シクラーゼの抑制以外に、Gβγを介してイオンチャネルの修飾とPLCの活性化を生じる[8]。シナプス伝達に対して主に抑制的に働き、線条体ニューロンのup stateの興奮性を下げる[6][9]。また、興奮性シナプス伝達の長期抑圧の形成に重要な役割を果たす[5][10]。
D2受容体にはD2L(ロングフォーム)とD2S(ショートフォーム)のスプライスバリアントが存在する。D2LとD2Sは分布や機能が異なることが示されており、D2Sはドーパミン細胞に発現する抑制性の自己受容体として機能する[12]。D3受容体も自己受容体として機能することが示唆されており[8]、D4受容体もドーパミン神経系に何らかの抑制的働きを持つことが示唆されている[13]。
ドーパミントランスポーター
細胞外に放出されたドーパミンは細胞膜上のドーパミントランスポーター(Dopamine transporter, DAT)によって細胞内に取り込まれる。ノルアドレナリンやセロトニンのトランスポーターと同様にイオンの電気化学的勾配によって駆動される12回膜貫通構造を持つトランスポーターで、ドーパミン、Na+、Cl-を1:2:1の比で輸送する。ドーパミン神経や腸管、肺、膵臓、腎臓、リンパ球などに発現している[14]。
DATはシナプス直下ではなくシナプス周辺に主に発現しているため、シナプスにおけるドーパミン濃度よりもその周辺の細胞外液における濃度調節に重要と考えられている[4][14]。DAT欠損マウスではドーパミンの基底濃度が上昇しており、一過性の濃度上昇からの回復が100-300倍遅くなっている[14][15]。コカインやアンフェタミンなどの精神刺激薬(Psychostimulants)はDATを主要なターゲットとし、ドーパミン取込の阻害又は逆輸送によるドーパミン放出を引き起こす。ラットやマウスにこれらの薬物を投与すると多動になる。DAT欠損マウスは野生型マウスよりも多動で、中枢刺激薬を投与しても行動量が変化しない[15]。
ドーパミン神経系
(場所を変えました) 中枢におけるドーパミン神経はしばしば4つの主要経路に分類される。
黒質と腹側被蓋野からの線維投射は必ずしもこれらの経路に限られるのではなく、黒質から皮質、辺縁系に投射する線維や腹側被蓋野から線条体に投射する線維も存在する[1]。
大脳皮質に対する投射の中では、前頭前野に対する投射が良く知られており、その機能に関して豊富な知見があるが、他の皮質領域に対する投射も存在する[16]。これら以外に間脳A11から脊髄に投射する下行性のドーパミン神経も存在し[17]、嗅球や網膜ではドーパミンが局所的に産生、放出される[18][19]。
中枢神経機能
運動機能
黒質-線条体路が運動調節に重要な役割を果たすことが広く知られている。パーキンソン病では黒質のドーパミン細胞の変性による線条体ドーパミン量の低下が生じ、静止時振戦、筋固縮、無動などの運動機能の障害が生じる[20]。腹側被蓋野から主な投射を受ける側坐核もドーパミンによる運動調節に寄与する[21]。
一般に実験動物において、細胞外ドーパミン濃度を上昇させる精神刺激薬やドーパミン受容体アゴニストは活動量を増加させ、ドーパミン受容体アンタゴニストは活動量を低下させる。線条体には主にD1受容体とD2受容体が発現しており、D2受容体欠損マウスでは活動量の低下が見られるが、D1受容体欠損マウスでは活動量が上昇することもある[7][13]。D1様受容体アンタゴニストは活動量の低下を起こすが、この効果はD1受容体欠損マウスでは抑制されている。また、D1受容体欠損マウスは発育不全を示すが、その原因の一部は運動機能の異常にあると考えられる[13]。
D5受容体欠損マウスでもD1様受容体アゴニストや精神刺激薬の効果が低下するため、D5受容体も運動調節に寄与する[13]。大脳皮質運動野にも中脳からドーパミン神経の投射がある[16]。この経路の機能の詳細は不明であるが、運動学習に関与することが示唆されている[22]。
認知機能
ドーパミンは学習・記憶、注意、実行機能などの認知機能を調節することが示されており、特に作業記憶に対する寄与に関して多くの知見が存在する[23]。
主にサルを用いた研究によって作業記憶課題中に前頭前野のドーパミンレベルが上昇し、前頭前野に対するドーパミン神経毒の注入、D1様受容体の遮断や過剰な活性化によって課題遂行が阻害されることが示されている[24][25]。前頭前野のみならず線条体のドーパミン系も作業記憶に関与することが示されており、パーキンソン病患者では作業記憶等の認知機能の障害が見られる[23][24]。
海馬に対するドーパミン神経毒や受容体アゴニストの注入によって、空間記憶の保持や作業記憶課題が変化する[5]。D1受容体欠損マウスでは恐怖記憶の消去や空間学習の障害が生じる[13]。
報酬
中脳-皮質・辺縁系路が報酬に対する応答を司る報酬系として機能し、特に側坐核が重要な役割を果たすことが知られている[26]。依存性薬物は全てこれらのドーパミン神経系に標的を持ち、ドーパミン濃度を上昇させる[27]。この神経系は嫌悪刺激に対する反応にも寄与すると考えられており[26]、腹側被蓋野に対する入力の違いによって報酬と嫌悪が分かれることが光遺伝学的手法によって示されている[28]。また、黒質-線条体路も報酬に関与することが示されている[29]。
神経内分泌
視床下部の隆起漏斗路のドーパミン神経系は下垂体からのプロラクチン放出を抑制する[30]。この神経系ではドーパミンは毛細血管近傍に放出されて門脈を介して下垂体前葉に到達する。ドーパミンはD2受容体を介してプロラクチン分泌細胞胞内のCa2+濃度を低下させてプロラクチン分泌を抑制する。さらに、プロラクチン遺伝子の発現を抑制し、プロラクチン分泌細胞の分裂を抑制すると考えられている。抗精神病薬などのD2遮断作用を持つ薬物は高プロラクチン血症を生じさせる。視床下部から下垂体に直接投射するドーパミン神経も存在する。
視覚
網膜においてドーパミンはアマクリン細胞と間網状細胞(Interplexiform cell)から放出され、視細胞から神経節細胞へのシグナル伝達とその側方調節の両者の修飾に関与する[19]。ドーパミンはD1様受容体を介して水平細胞のギャップジャンクションのカップリングを抑制することにより、受容野のサイズを減少させる。網膜の視細胞では、サーカディアンリズムの形成に関与するメラトニンが産生される。メラトニンはドーパミン系に対して拮抗的に作用し、D4受容体によってその生合成が抑制される[19]。D4受容体欠損マウスでは光によるcAMP産生の調節と明順応時の網膜電位に顕著な障害が生じる[31]。
ドーパミンと精神疾患
統合失調症及び精神病性障害にドーパミン神経系の異常が関与することが示唆されている[32]。このドーパミン仮説は、これらの疾患、障害の治療薬である抗精神病薬にD2受容体の遮断作用があることから提唱されたものであるが、現在でもその直接的な証拠はない。ドーパミントランスポーターを主な標的とし、ドーパミン濃度を上昇させる精神刺激薬によって薬物性の精神病性症状が生じることもこの仮説を支持する証拠とされている。しかし、精神刺激薬によって生じる精神症状や行動異常は疾患の症状と必ずしも同一ではなく、精神刺激薬の標的もドーパミン神経系に限定したものではない。他にドーパミン仮説を支持する証拠として、統合失調症患者においてドーパミンの放出やドーパミン前駆物質ドーパの取込の増加などが示されている[32]。
ドーパミンはうつ病にも関与することが示唆されているが、これも確実な証拠はない[33]。パーキンソン病でうつ症状や不安が生じるため、ドーパミン系の機能不全がこれらの情動異常に関与する可能性がある。しかし、パーキンソン病の標準的治療薬であるドーパミン前駆物質レボドーパを投与しても、これらの症状は必ずしも改善しない[34]。抗うつ薬はセロトニン神経系やノルアドレナリン神経系を主な標的とするが、ドーパミン系にも変化を生じさせる[11][35]。精神刺激薬のメチルフェニデートがうつ病治療に用いられていたが現在は適応外である。また、ドーパミン取込阻害作用のあるブプロピオンが抗うつ薬として用いられるが、日本では未承認である。メチルフェニデートは注意欠陥多動障害(Attention-deficit hyperactivity disorder、ADHD)の治療に用いられるが、この一見矛盾した治療効果のメカニズムの詳細は未だ明らかではない[36]。
関連項目
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(執筆者:小林克典 担当編集者:林康紀)