「ミトコンドリア」の版間の差分
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== 疾患との関わり== | == 疾患との関わり== | ||
=== パーキンソン病 === | === パーキンソン病 === | ||
[[パーキンソン病]]とミトコンドリアの関連が初めて明らかになったのは1980年代初頭からである。[[オピオイド]]の違法合成の過程でできた副産物[[1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン]] ([[MPTP]])を摂取した薬物依存者がパーキンソン様症状を示したことが発端である。MPTPは酸化されて[[MPP+]]となり、[[ドーパミントランスポーター]]を通じてドーパミンニューロンに取り込まれ、ミトコンドリアに蓄積して電子伝達系の複合体Iの活性を阻害する。1998年にパーキンソン病の原因遺伝子としてミトコンドリア局在タンパク質であるParkin遺伝子がクローニングされ、機能低下したミトコンドリアが蓄積することでドーパミンニューロンの脱落を引き起こすと考えられている。Parkinのみをノックアウトしたマウスで大きな表現型は見られないが、mtDNAの複製に働く[[DNA polymerase gamma, catalytic subunit]] ([[POLG]])のDNA複製の校正機能に異常を来した変異体マウスとParkinノックアウトマウスを交配したマウスでは、中脳黒質におけるドーパミンニューロンの細胞死、mtDNAの変異蓄積、ミトコンドリア呼吸鎖の低下が見られる<ref name=Pickrell2015><pubmed>25611507</pubmed></ref>67。 | |||
=== アルツハイマー病 === | === アルツハイマー病 === | ||
[[アルツハイマー病]]患者の脳ではグルコース代謝、酸素消費量が低下していることから、ミトコンドリアの機能異常がアルツハイマー病の発症に寄与する可能性が考えられている。また、ミトコンドリア機能異常とアルツハイマー病発症との関連を示すより直接的な証拠として、アルツハイマー病罹患者の死後脳の電子顕微鏡観察から、ミトコンドリアのサイズ低下やクリステ構造の異常が観察されている<ref name=Trimmer2000><pubmed>10716887</pubmed></ref>68。さらに、アルツハイマー病罹患者においてピルビン酸脱水素酵素や[[α-ケトグルタル酸脱水素酵素]]複合体の活性低下が見られることから、ミトコンドリアのATP産生能低下がアルツハイマー病発症につながる可能性が考えられている<ref name=Bhatia2022><pubmed>33998995</pubmed></ref>69。 | |||
=== 多発性硬化症 === | === 多発性硬化症 === | ||
[[多発性硬化症]]は、[[中枢神経]]([[脳]]・[[脊髄]])や[[視神経]]で起きる脱髄性の[[神経変性疾患]]である。病変部位の周囲に異常活性化したミクログリアを初めとするミエロイド系の細胞が蓄積し、[[腫瘍壊死因子]] ([[tumor necrosis factor]]; [[TNF]])、[[インターロイキン1β]] ([[IL-1β]])、[[一酸化窒素]]やROSを慢性的に放出することで髄鞘の再形成阻害、神経細胞や軸索の障害を引き起こすと考えられている。多発性硬化症の発症機序において、これまで主にオリゴデンドロサイトやニューロンにおけるミトコンドリア機能異常が注目されてきた。一方、近年の研究により、ミクログリアにおいて呼吸鎖複合体を介した電子伝達が逆方向に流れる電子伝達の逆回し([[reverse electron transport]]; [[RET]]) が生じ、複合体IIから複合体Iへ電子が逆行することで大量のROSが生成されることが明らかとなっている。これにより、ミクログリアの異常活性化に伴う[[慢性炎症]]が多発性硬化症の病態進行に寄与する可能性が示唆されるとともに、ミクログリアにおける複合体I活性の選択的抑制による新規治療戦略の有望性が提示された<ref name=Peruzzotti-Jametti2024><pubmed>38480879</pubmed></ref>70。 | |||
== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||