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分子の状態、[[化学反応]]の速度は温度に依存することから、温度は[[生物]]の[[代謝]]活動をはじめとしたほぼ全ての生命活動に影響を与える。そのため、温度、特に環境温度の感知は[[単細胞生物]]から[[恒温動物]]に至る全ての生命にとって最も重要な機能の一つといえる。特に恒温動物においては、環境温度情報は[[視床下部]][[体温調節中枢]]へと伝達され、この情報を活用して体温を極めて狭い範囲に維持している。また、組織に損傷を起こす低温および高温は、侵害刺激として受容され、防御反応として忌避行動を起こす。温度感知を担う生体温度受容体の分子実態は長らく不明のままであったが、1997年に[[カプサイシン]]受容体としてクローニングされた[[Transient Receptor Potential Vanilloid 1]] ([[TRPV1]]、当時の名は[[バニロイド]]受容体)が侵害熱受容体でもあることが発見されたのを機にその研究は大きく進展した。 | 分子の状態、[[化学反応]]の速度は温度に依存することから、温度は[[生物]]の[[代謝]]活動をはじめとしたほぼ全ての生命活動に影響を与える。そのため、温度、特に環境温度の感知は[[単細胞生物]]から[[恒温動物]]に至る全ての生命にとって最も重要な機能の一つといえる。特に恒温動物においては、環境温度情報は[[視床下部]][[体温調節中枢]]へと伝達され、この情報を活用して体温を極めて狭い範囲に維持している。また、組織に損傷を起こす低温および高温は、侵害刺激として受容され、防御反応として忌避行動を起こす。温度感知を担う生体温度受容体の分子実態は長らく不明のままであったが、1997年に[[カプサイシン]]受容体としてクローニングされた[[Transient Receptor Potential Vanilloid 1]] ([[TRPV1]]、当時の名は[[バニロイド]]受容体)が侵害熱受容体でもあることが発見されたのを機にその研究は大きく進展した。 | ||
[[ファイル:Uchida Temperature receptor Fig1.png|サムネイル|図1. 温度受容体の構造<br>S1-6:膜貫通領域、P:ポアヘリックス、F:イオン選択フィルター]] | [[ファイル:Uchida Temperature receptor Fig1.png|サムネイル|'''図1. 温度受容体の構造'''<br>S1-6:膜貫通領域、P:ポアヘリックス、F:イオン選択フィルター]] | ||
[[ファイル:Uchida Temperature receptor Fig2.png|サムネイル|'''図2. TRPV1の構造'''<br>(Liao et al. Nature, 2013)]] | [[ファイル:Uchida Temperature receptor Fig2.png|サムネイル|'''図2. TRPV1の構造'''<br>(Liao et al. Nature, 2013)]] | ||
[[ファイル:Uchida Temperature receptor Fig3.png|サムネイル|'''図3. TRPチャネルファミリーの活性化閾値'''<br>ヒトが感知しうる温度をほぼ網羅する]] | [[ファイル:Uchida Temperature receptor Fig3.png|サムネイル|'''図3. TRPチャネルファミリーの活性化閾値'''<br>ヒトが感知しうる温度をほぼ網羅する]] | ||
== 温度感受性TRPチャネル == | == 温度感受性TRPチャネル == | ||
[[trp]]遺伝子は1989年に[[ショウジョウバエ]]の[[光受容応答]]変異株の原因遺伝子として発見された<ref name=Montell1989><pubmed>2516726</pubmed></ref>。TRPチャネルは7つのサブファミリー([[TRPC]] (canonical)、[[TRPV]] (vaniloid)、[[TRPM]] (melastatin)、[[TRPML]]、[[TRPN]]、[[TRPP]]、[[TRPA]] (ankyrin))に分けられ、脊椎動物では28のTRPチャネルが同定されているが、ヒトではTRPNを除く6つのサブファミリーに27のチャネルが存在する。6回膜貫通領域を有し、N末端、C末端側ともに細胞内に位置する。第5、第6膜貫通ドメインがイオンの通る穴を形成しており、短いイオン選択フィルターを有する('''図1''')。基本的に4量体で機能することが、[[低温電子顕微鏡]]([[Cryo-EM]])を用いた構造解析により明らかになっている('''図2''')<ref name=Liao2013><pubmed>24305160</pubmed></ref>。N末端領域にはTRPC、TRPV、TRPAにおいて[[アンキリン]]リピートドメイン、C末端領域にはTRPドメイン(TRPC、TRPM、TRPV)、[[コイルドコイルドメイン]](TRPM、TRPP)、[[酵素]]活性部位([[TRPM2]]:[[ADPリボースヒドロラーゼ]]、TRPM6/7:αキナーゼ)などが存在する。(TRPチャネル項目参照) | [[trp]]遺伝子は1989年に[[ショウジョウバエ]]の[[光受容応答]]変異株の原因遺伝子として発見された<ref name=Montell1989><pubmed>2516726</pubmed></ref>。TRPチャネルは7つのサブファミリー([[TRPC]] (canonical)、[[TRPV]] (vaniloid)、[[TRPM]] (melastatin)、[[TRPML]]、[[TRPN]]、[[TRPP]]、[[TRPA]] (ankyrin))に分けられ、脊椎動物では28のTRPチャネルが同定されているが、ヒトではTRPNを除く6つのサブファミリーに27のチャネルが存在する。6回膜貫通領域を有し、N末端、C末端側ともに細胞内に位置する。第5、第6膜貫通ドメインがイオンの通る穴を形成しており、短いイオン選択フィルターを有する('''図1''')。基本的に4量体で機能することが、[[低温電子顕微鏡]]([[Cryo-EM]])を用いた構造解析により明らかになっている('''図2''')<ref name=Liao2013><pubmed>24305160</pubmed></ref>。N末端領域にはTRPC、TRPV、TRPAにおいて[[アンキリン]]リピートドメイン、C末端領域にはTRPドメイン(TRPC、TRPM、TRPV)、[[コイルドコイルドメイン]](TRPM、TRPP)、[[酵素]]活性部位([[TRPM2]]:[[ADPリボースヒドロラーゼ]]、TRPM6/7:αキナーゼ)などが存在する。(TRPチャネル項目参照) | ||