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<font size="+1">[http://researchmap.jp/yamatokikkawa 吉川 大和]</font><br> | |||
''東京薬科大学 薬学部''<br> | |||
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0189813 門谷 裕一]</font><br> | |||
''北里大学 医学部 医学科 医学部 医学科''<br> | |||
<font size="+1">[http://researchmap.jp/MotoyoshiNomizu 野水 基義]</font><br> | |||
''東京薬科大学 薬学部''<br> | |||
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2012年8月23日 原稿完成日:2012年9月22日<br> | |||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br> | |||
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英:basement membrane, basal lamina | 英:basement membrane, basal lamina | ||
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電子顕微鏡の発達は、組織の細胞以外の空間である[[細胞外マトリックス]]に、基底膜、[[wikipedia:ja:膠原線維|膠原線維]]、[[wikipedia:ja:弾性線維|弾性線維]]といった構造の存在を明らかにしてきた。そのなかで基底膜は[[wikipedia:ja:上皮組織|上皮組織]](内皮や中皮を含む)と[[wikipedia:ja: 結合組織|結合組織]]の境界、[[wikipedia:ja:筋細胞|筋細胞]]・[[wikipedia:ja:脂肪細胞|脂肪細胞]]および神経組織の周囲に見られるシート状の構造である。近年の研究により、基底膜は特異的な細胞外マトリックス分子によって形成されていることが明らかになっている。基底膜は、組織構造維持のための機械的な足場、物質の選択的透過性を司る障壁として働くのに加え、細胞の[[wikipedia:ja:極性形成|極性形成]]・[[wikipedia:ja:代謝|代謝]]・生存・[[細胞増殖|増殖]]・[[wikipedia:ja:分化|分化]]・[[wikipedia:ja:移動|移動]]などとも深く関わる機能的な構造である。[[中枢神経]]では、[[血液-脳関門]] (BBB: blood-brain-barrier)および[[血液-脳脊髄液関門]](BCSFB: blood-CSF barrier)の形成とその機能にも関与している。また、[[脳室]]の近傍では[[フラクトン]](fractone)と呼ばれる基底膜様構造があり、これが成体脳の[[神経幹細胞]]にニッチを提供していると考えられている。 | 電子顕微鏡の発達は、組織の細胞以外の空間である[[細胞外マトリックス]]に、基底膜、[[wikipedia:ja:膠原線維|膠原線維]]、[[wikipedia:ja:弾性線維|弾性線維]]といった構造の存在を明らかにしてきた。そのなかで基底膜は[[wikipedia:ja:上皮組織|上皮組織]](内皮や中皮を含む)と[[wikipedia:ja: 結合組織|結合組織]]の境界、[[wikipedia:ja:筋細胞|筋細胞]]・[[wikipedia:ja:脂肪細胞|脂肪細胞]]および神経組織の周囲に見られるシート状の構造である。近年の研究により、基底膜は特異的な細胞外マトリックス分子によって形成されていることが明らかになっている。基底膜は、組織構造維持のための機械的な足場、物質の選択的透過性を司る障壁として働くのに加え、細胞の[[wikipedia:ja:極性形成|極性形成]]・[[wikipedia:ja:代謝|代謝]]・生存・[[細胞増殖|増殖]]・[[wikipedia:ja:分化|分化]]・[[wikipedia:ja:移動|移動]]などとも深く関わる機能的な構造である。[[中枢神経]]では、[[血液-脳関門]] (BBB: blood-brain-barrier)および[[血液-脳脊髄液関門]](BCSFB: blood-CSF barrier)の形成とその機能にも関与している。また、[[脳室]]の近傍では[[フラクトン]](fractone)と呼ばれる基底膜様構造があり、これが成体脳の[[神経幹細胞]]にニッチを提供していると考えられている。 | ||
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== 中枢神経系における基底膜の構造 == | == 中枢神経系における基底膜の構造 == | ||
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== 中枢神経系における基底膜の機能と疾患 == | == 中枢神経系における基底膜の機能と疾患 == | ||
IV型コラーゲンは、基底膜の安定化に重要な働きをしている<ref><pubmed> 14998921 </pubmed></ref>。実際、IV型コラーゲンα1鎖の変異により血管基底膜が障害され、これにより[[脳内出血]](brain hemorrhage)や[[孔脳症]](porencephaly)が引き起こされることが[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]および[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]で明らかになっている<ref><pubmed> 15905400 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 17379824 </pubmed></ref>。また、脈絡叢上皮基底膜に発現するIV型コラーゲンアイソフォームα3(IV)α4(IV)α5(IV)は、[[wikipedia:ja:腎糸球体|腎糸球体]]([[wikipedia:ja:血液—尿関門|血液—尿関門]]を構成)、[[wikipedia:ja:肺胞|肺胞]]([[wikipedia:ja:血液—空気関門|血液—空気関門]]を構成)の基底膜でも特徴的に発現しており<ref><pubmed> 7657706 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 11523049 </pubmed></ref> | IV型コラーゲンは、基底膜の安定化に重要な働きをしている<ref><pubmed> 14998921 </pubmed></ref>。実際、IV型コラーゲンα1鎖の変異により血管基底膜が障害され、これにより[[脳内出血]](brain hemorrhage)や[[孔脳症]](porencephaly)が引き起こされることが[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]および[[wikipedia:ja:マウス|マウス]]で明らかになっている<ref><pubmed> 15905400 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 17379824 </pubmed></ref>。また、脈絡叢上皮基底膜に発現するIV型コラーゲンアイソフォームα3(IV)α4(IV)α5(IV)は、[[wikipedia:ja:腎糸球体|腎糸球体]]([[wikipedia:ja:血液—尿関門|血液—尿関門]]を構成)、[[wikipedia:ja:肺胞|肺胞]]([[wikipedia:ja:血液—空気関門|血液—空気関門]]を構成)の基底膜でも特徴的に発現しており<ref><pubmed> 7657706 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 11523049 </pubmed></ref>、このアイソフォームの機能と脈絡叢の血液—脳脊[[髄液]]関門の関連が示唆される。 | ||
ラミニンγ1鎖のニドゲン結合部位を欠失させたマウスでは、軟膜基底膜および軟膜に連続した血管周囲の基底膜が障害され、脳皮質の形成に異常が起きる<ref name="ref12" />。軟膜基底膜におけるラミニンα1鎖の欠損は、[[小脳]]の形成に影響し、行動障害を引き起こす<ref><pubmed> 21983115 </pubmed></ref>。ニドゲン-1を欠失させたマウスでは[[海馬]]の機能が障害される<ref><pubmed> 19530222 </pubmed></ref>。 | ラミニンγ1鎖のニドゲン結合部位を欠失させたマウスでは、軟膜基底膜および軟膜に連続した血管周囲の基底膜が障害され、脳皮質の形成に異常が起きる<ref name="ref12" />。軟膜基底膜におけるラミニンα1鎖の欠損は、[[小脳]]の形成に影響し、行動障害を引き起こす<ref><pubmed> 21983115 </pubmed></ref>。ニドゲン-1を欠失させたマウスでは[[海馬]]の機能が障害される<ref><pubmed> 19530222 </pubmed></ref>。 | ||
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== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
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