ニューロリギン
二井 健介
マサチューセッツ州立大学 メディカルスクール
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年6月4日 原稿完成日:2013年6月xx日
担当編集委員:林 康紀(独立行政法人理化学研究所)
英語名:neuroligin
歴史
ニューレキシン1βのアフィニティーカラムを用いた研究により、ニューレキシン1βの結合タンパク質としてニューロリギン1が初めて同定された[2]。
構造
ヒトでは5つのニューロリギン遺伝子がある(NLGN1、NLGN2、NLGN3、NLGN4、NLGN4Y)。ニューロリギンの主な細胞外ドメインはacetylcholinesterase(AChE)と相同性を有しているが、choliesterase活性は無く、ニューレキシンとの結合を調整している。ニューロリギンはAChE相同性部位を介してホモ多量体を形成している。ニューロリギンのAChE相同領域には選択的スプライシング部位Aがあり、さらにニューロリギン1には同領域に選択的スプライシング部位Bがある。また、他のシナプス関連タンパク質と結合するために重要であると推定されるPDZドメイン結合部位を末端に持つ細胞内ドメインを有している[3]。
機能
脳
ニューロリギンの細胞内C末端はPSD-95(postsynaptic density 95)のようなPDZタンパク質と結合し、細胞外ドメインはニューレキシンと結合する。
ニューロリギンの過剰発現はシナプス数を増加し、ポストシナプスの分化を促進するが、RNAiによるニューロリギンの発現抑制は、シナプスの減少を引き起こすことから、ニューロリギンはシナプス形成の際の細胞と細胞の連結の調節因子として働いているようである[4]。
ニューロリギン1とニューロリギン2はそれぞれ興奮性シナプスと抑制性シナプスに局在し、ニューロリギン3は両シナプスに発現している。各ニューロリギンは異なるポストシナプス足場タンパク質と核をなすことで機能している。ニューロリギン1は興奮性シナプスの分化に必要なPSD95と結合している。一方、ニューロリギン2は抑制性ポストシナプス特異的な足場タンパク質であるgephyrinを介して、抑制性シナプスの構築に貢献している。シナプス後肥厚でのニューロリギンと足場タンパク質の結合は、NMDA型やAMPA型グルタミン酸受容体のような膜貫通受容体のポストシナプス側への動員を誘導する[5]。
さらに、ニューロリギンは前シナプスに発現しているニューレキシンと結合することにより、前シナプスの成熟を促進し、N-Cadherinとポストシナプス足場タンパク質であるS-SCAMとともに前シナプス小胞クラスタリングを促進させる[5]。
また、ニューロリギンは接着相手であるプレシナプスのグルタミン酸作動性神経とGABA作動性神経への分化を誘導する[3]。
ニューロリギンのそれぞれのknockoutマウスは生存可能であり、繁殖能力を有するが、NLGN1; NLGN2;NLGN3 triple knockoutマウスは呼吸器障害が原因となり、生後すぐに死亡する。これらのマウスのシナプスの形態は正常のようであるが、シナプス伝達能が低下している。これらのマウスではGABA作動性/グリシン作動性神経シナプスでの誘発伝達の失敗率が正常マウスと比較して十倍以上高い。一方、グルタミン酸作動性神経においてはこのような変化がない。足場タンパク質であるgephyrinやPSD95のクラスタリングの変化は認められていないが、GABAA受容体のポストシナプスでのクラスタリングが誘発伝達失敗率上昇の一因のようである[3]。
血管
ニューロリギン1は腫瘍形成環境下において血管新生を促進する[6]。
スプライシング変異体
splice site B insertを含むニューロリギン(+Bニューロリギン)は、splice site 4を含むβ-ニューレキシン(+S4 β-ニューレキシン)とは低親和性であるが、splice site B insertを含まないニューロリギン(-Bニューロリギン)は、splice site 4の有無に関わらずβ-ニューレキシンと高親和性である。
ニューロリギン2(ほとんどが-Bニューロリギン)は+BニューロリギンよりもVGATのクラスタリングを促進する。
-Bニューロリギンは+S4 β-ニューレキシンと共にGABA作動性神経シナプスの分化を促進し、一方で、+Bニューロリギン1は-S4 β-ニューレキシンと共にグルタミン酸作動性神経シナプスの分化を促進している。
また、+Bニューロリギン1は-Bニューロリギン1と比較して、成熟ラットの海馬や皮質、小脳でのニューロリギン1の大多数を占めている[3]。
疾患との関連
ニューロリギン4遺伝子で2つのフレームシフト変異、5つのミスセンス変異と3つの内部欠損が自閉症患者において発見され、ニューロリギン3遺伝子でも一つのミスセンス変異(Arg451Cys置換)が発見されている。さらに、ニューロリギン4遺伝子座を含むX染色体DNAで5つの欠失が自閉症患者において発見されている[1]。
細胞培養実験では、ニューロリギン4でのフレームシフト変異(396X)とニューロリギン3でのミスセンス変異(R451C)はニューロリギンの細胞内滞留時間を増加させ、シナプス形成能を低下させている。
Arg451Cys置換knock-inマウスは全てではないが、ヒト自閉症患者と同様の症状を示している。このマウスは不安や社会性コミュニケーションの障害を示しているが、空間記憶能力は大きく上昇している。この症状は自閉症患者の中で極稀な驚異的な記憶力を有していたりするサヴァン症候群と類似している。しかし、Arg451Cys置換を有するヒト自閉症患者は学習能力障害を患っており、この点は不可解である。
ニューロリギン3やニューロリギン4に遺伝子変異の無い自閉症患者もいることから、これらの遺伝子変異を有する患者数は限られている。
また、ニューロリギン4遺伝子でのナンセンス変異(429X)は精神遅滞の人において発見されている[3]。
ニューロリギン2については、ミスセンス変異が統合失調症患者で発見されている[7]。
ニューロリギン1については、自閉症と関係性が提案されている[8]。さらにニューロリギン1はアミロイドβタンパク質と結合することが報告されており、アルツハイマー病発症と関与することが考えられている[9]。
参考文献
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