「シンタキシン」の版間の差分

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 シンタキシン1は、4つのドメインがリンカーでつながれた構造をしている(図1)。アミノ末端のNペプチドモチーフ(1-19)は、[[Munc-18]]との結合に関わる(後述)<ref><pubmed>21139055</pubmed></ref>。二番目のHabcと呼ばれるドメイン(~27-146)では、3本の[[wikipedia:ja:αへリックス|αへリックス]]が逆平行に結合し束になっている<ref name=ref1><pubmed>9753330</pubmed></ref><ref><pubmed>10913252</pubmed></ref>。Habcに続くリンカーは非常にフレキシブルで<ref><pubmed>12680753</pubmed></ref>、Habcは次のH3ドメインに折り重なることよりSNARE複合体の膜融合能を制御する負の調節ドメインとして働く<ref><pubmed>10535962</pubmed></ref>。
 シンタキシン1は、4つのドメインがリンカーでつながれた構造をしている(図1)。アミノ末端のNペプチドモチーフ(1-19)は、[[Munc-18]]との結合に関わる(後述)<ref><pubmed>21139055</pubmed></ref>。二番目のHabcと呼ばれるドメイン(~27-146)では、3本の[[wikipedia:ja:αへリックス|αへリックス]]が逆平行に結合し束になっている<ref name=ref1><pubmed>9753330</pubmed></ref><ref><pubmed>10913252</pubmed></ref>。Habcに続くリンカーは非常にフレキシブルで<ref><pubmed>12680753</pubmed></ref>、Habcは次のH3ドメインに折り重なることよりSNARE複合体の膜融合能を制御する負の調節ドメインとして働く<ref><pubmed>10535962</pubmed></ref>。


 シンタキシン1のカルボキシ末端側3分の1は、膜融合能を発揮するのに必要最小限の領域である。SNAREモチーフを含むH3ドメイン(~185-254)は、SNAP-25ならびに[[シナプトブレビン]]と結合し、膜融合能をもつSNARE複合体を形成する<ref><pubmed>9100028</pubmed></ref>。続く膜貫通ドメイン(266-288)は、[[細胞膜]]に埋め込まれているが貫通はしない<ref><pubmed>12761168</pubmed></ref>。これら両ドメインを含む組換えフラグメントを全長のSNAP-25ととともに再構成した人工脂質小胞は、シナプトブレビンを再構成した人工脂質小胞と自発的に融合する<ref><pubmed>9529252</pubmed></ref>。
 シンタキシン1のカルボキシ末端側3分の1は、膜融合能を発揮するのに必要最小限の領域である。SNAREモチーフを含むH3ドメイン(~185-254)は、SNAP-25ならびに[[シナプトブレビン]]と結合し、膜融合能をもつSNARE複合体を形成する<ref name=ref9100028><pubmed>9100028</pubmed></ref>。続く膜貫通ドメイン(266-288)は、[[細胞膜]]に埋め込まれているが貫通はしない<ref><pubmed>12761168</pubmed></ref>。これら両ドメインを含む組換えフラグメントを全長のSNAP-25ととともに再構成した人工脂質小胞は、シナプトブレビンを再構成した人工脂質小胞と自発的に融合する<ref><pubmed>9529252</pubmed></ref>。


 単量体なシンタキシン1は、活性化状態と不活性状態を移行する<ref><pubmed>14668446</pubmed></ref>。活性化状態では、HabcとH3が解離したいわゆる開いた構造をとり、SNAP-25およびシナプトブレビンと結合できる。これに対し、HabcがH3に折り重なった閉じた構造になると不活性型となり、SNARE複合体を形成できない<ref><pubmed>18458823</pubmed></ref><ref><pubmed>10449403 </pubmed></ref>。
 単量体なシンタキシン1は、活性化状態と不活性状態を移行する<ref><pubmed>14668446</pubmed></ref>。活性化状態では、HabcとH3が解離したいわゆる開いた構造をとり、SNAP-25およびシナプトブレビンと結合できる。これに対し、HabcがH3に折り重なった閉じた構造になると不活性型となり、SNARE複合体を形成できない<ref><pubmed>18458823</pubmed></ref><ref><pubmed>10449403 </pubmed></ref>。


== 生体内および細胞内分布 ==
== 生体内および細胞内分布 ==
 シンタキシン1は神経系に特異的に発現する。組織染色において[[大脳皮質]]、[[海馬]]、[[小脳]]、[[脊髄]]、[[網膜]]のシナプスが豊富な領域に観察される<ref><pubmed>8361334</pubmed></ref>。[[有郭乳頭味蕾]]<ref><pubmed>17447252</pubmed></ref>、[[蝸牛]]内の[[コルチ器]]<ref><pubmed>10103074</pubmed></ref>、[[松果体]]細胞<ref><pubmed>8593674</pubmed></ref> にも存在する。神経系だけでなく、発生学的にニューロンと同じ外胚葉由来の[[副腎髄質]]にも発現している<ref><pubmed>7818508</pubmed></ref>。[[中枢神経系]]および[[末梢神経系]]の両方において、1Aと1Bの分布は異なる<ref><pubmed>10197765</pubmed></ref> <ref><pubmed>8996803</pubmed></ref>。
 シンタキシン1は神経系に特異的に発現する。組織染色において[[大脳皮質]]、[[海馬]]、[[小脳]]、[[脊髄]]、[[網膜]]のシナプスが豊富な領域に観察される<ref><pubmed>8361334</pubmed></ref>。[[有郭乳頭味蕾]]<ref><pubmed>17447252</pubmed></ref>、[[蝸牛]]内の[[コルチ器]]<ref><pubmed>10103074</pubmed></ref>、[[松果体]]細胞<ref><pubmed>8593674</pubmed></ref> にも存在する。神経系だけでなく、発生学的にニューロンと同じ外胚葉由来の[[副腎髄質]]にも発現している<ref name=ref7818508><pubmed>7818508</pubmed></ref>。[[中枢神経系]]および[[末梢神経系]]の両方において、1Aと1Bの分布は異なる<ref><pubmed>10197765</pubmed></ref> <ref><pubmed>8996803</pubmed></ref>。


 ニューロンにおいてシンタキシン1は、主に[[シナプス前膜]]を含む細胞膜内面に局在する一方、シナプス小胞膜にも認められる<ref><pubmed>8301329</pubmed></ref><ref><pubmed>7698978</pubmed></ref><ref><pubmed>23821748 </pubmed></ref>。小脳皮質においては、ほとんどの[[グルタミン酸]]作動性終末と、一部の[[GABA]]作動性シナプスに局在する<ref><pubmed>22094010 </pubmed></ref>。その他にも、[[視索上核]]の[[オキシトシン]]ニューロンでは[[軸索終末]]だけでなく[[細胞体]]や[[樹状突起]]に発現が見られるとともに<ref><pubmed>21988098</pubmed></ref>、[[ヒヨコ]]の[[毛様体神経節]]のHeld杯状シナプス前部<ref><pubmed>15102922</pubmed></ref>、[[カエル]]の[[運動神経終末]]<ref><pubmed>8963446</pubmed></ref>にも存在する。[[アストロサイト]]にも発現している<ref><pubmed>9098527</pubmed></ref><ref><pubmed>21656854</pubmed></ref>。
 ニューロンにおいてシンタキシン1は、主に[[シナプス前膜]]を含む細胞膜内面に局在する一方、シナプス小胞膜にも認められる<ref><pubmed>8301329</pubmed></ref><ref><pubmed>7698978</pubmed></ref><ref><pubmed>23821748 </pubmed></ref>。小脳皮質においては、ほとんどの[[グルタミン酸]]作動性終末と、一部の[[GABA]]作動性シナプスに局在する<ref><pubmed>22094010 </pubmed></ref>。その他にも、[[視索上核]]の[[オキシトシン]]ニューロンでは[[軸索終末]]だけでなく[[細胞体]]や[[樹状突起]]に発現が見られるとともに<ref><pubmed>21988098</pubmed></ref>、[[ヒヨコ]]の[[毛様体神経節]]のHeld杯状シナプス前部<ref><pubmed>15102922</pubmed></ref>、[[カエル]]の[[運動神経終末]]<ref><pubmed>8963446</pubmed></ref>にも存在する。[[アストロサイト]]にも発現している<ref><pubmed>9098527</pubmed></ref><ref><pubmed>21656854</pubmed></ref>。


== 翻訳後修飾 ==
== 翻訳後修飾 ==
 シンタキシン1は、[[PKC]]および[[CaMKII]]<ref><pubmed>8876242</pubmed></ref><ref><pubmed>9930733</pubmed></ref> 、[[カゼインキナーゼ1]]および[[カゼインキナーゼ2|2]]<ref><pubmed> 11846792</pubmed></ref><ref name=ref2></ref><ref><pubmed> 9930733 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10844023 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15822905 </pubmed></ref>により[[リン酸化]]される。[[PKA]]については議論が分かれている<ref><pubmed> 8876242 </pubmed></ref><ref><pubmed>9930733  </pubmed></ref>。リン酸化以外に、[[ニトロ化]]<ref><pubmed> 10913827 </pubmed></ref>、[[Sニトロシル化]]<ref><pubmed> Palmer, Biochem J 413:479, 2008</pubmed></ref>、[[パルミトイル化]]<ref><pubmed> 19508429 </pubmed></ref>を受け、[[ユビキチン]]-[[プロテアソーム]]経路により分解される<ref><pubmed>12121982</pubmed></ref>。
 シンタキシン1は、[[PKC]]および[[CaMKII]]<ref name=ref8876242><pubmed>8876242</pubmed></ref><ref><pubmed>9930733</pubmed></ref> 、[[カゼインキナーゼ1]]および[[カゼインキナーゼ2|2]]<ref><pubmed> 11846792</pubmed></ref><ref name=ref2></ref><ref><pubmed> 9930733 </pubmed></ref><ref><pubmed> 10844023 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15822905 </pubmed></ref>により[[リン酸化]]される。[[PKA]]については議論が分かれている<ref name=ref8876242><pubmed> 8876242 </pubmed></ref><ref><pubmed>9930733  </pubmed></ref>。リン酸化以外に、[[ニトロ化]]<ref><pubmed> 10913827 </pubmed></ref>、[[Sニトロシル化]]<ref><pubmed> Palmer, Biochem J 413:479, 2008</pubmed></ref>、[[パルミトイル化]]<ref><pubmed> 19508429 </pubmed></ref>を受け、[[ユビキチン]]-[[プロテアソーム]]経路により分解される<ref><pubmed>12121982</pubmed></ref>。


== 結合タンパク質 ==
== 結合タンパク質 ==
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=== SNARE(SNAP-25およびシナプトブレビン) ===  
=== SNARE(SNAP-25およびシナプトブレビン) ===  
 シンタキシン1は、同じくt-SNAREであるSNAP-25と自身のH3ドメインを介し結合する<ref><pubmed>9100028</pubmed></ref>。会合比により2種類の複合体が存在する。1:1で結合したt-SNAREヘテロニ量体は、v-SNAREである[[シナプトブレビン]](別名VAMP)と結合しSNARE複合体を形成する。一方、シンタキシン二分子にSNAP-25が一分子結合した2:1複合体(通称)は、シナプトブレビンと結合できない<ref><pubmed>9346956</pubmed></ref>。したがって、[[シナプス前終末]]の放出部位では、別の分子により1:1複合体の状態が維持されていると予想される。
 シンタキシン1は、同じくt-SNAREであるSNAP-25と自身のH3ドメインを介し結合する<ref name=ref9100028><pubmed>9100028</pubmed></ref>。会合比により2種類の複合体が存在する。1:1で結合したt-SNAREヘテロニ量体は、v-SNAREである[[シナプトブレビン]](別名VAMP)と結合しSNARE複合体を形成する。一方、シンタキシン二分子にSNAP-25が一分子結合した2:1複合体(通称)は、シナプトブレビンと結合できない<ref><pubmed>9346956</pubmed></ref>。したがって、[[シナプス前終末]]の放出部位では、別の分子により1:1複合体の状態が維持されていると予想される。


[[ファイル:Syntaxin Fig.png|300px|サムネイル|右|'''図2. 開口放出前に形成されるSNARE複合体の立体構造模式図''' <br>シンタキシンは赤で描いている。緑はSNAP-25を、青はシナプトブレビンをそれぞれ示す。明らかにされているSNARE複合体とHabcドメインの立体構造に、膜貫通ドメインを表す円柱とリンカー等を表す点線を書き加えた。]]
[[ファイル:Syntaxin Fig.png|300px|サムネイル|右|'''図2. 開口放出前に形成されるSNARE複合体の立体構造模式図''' <br>シンタキシンは赤で描いている。緑はSNAP-25を、青はシナプトブレビンをそれぞれ示す。明らかにされているSNARE複合体とHabcドメインの立体構造に、膜貫通ドメインを表す円柱とリンカー等を表す点線を書き加えた。]]
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== 機能 ==
== 機能 ==
 シナプス前膜に存在するシンタキシン1は、[[エンドサイトーシス]]を含め<ref><pubmed>23643538</pubmed></ref>シナプス小胞の循環のいくつかの過程に直接または間接的に関わる。その中でもカルシウム依存性の小胞開口放出過程における役割について最も研究が進んでおり、シンタキシン1はシナプス前膜と小胞膜との間でSNAP-25およびシナプトブレビンとSNARE複合体を形成し、両方の膜を限りなく近づけて融合させ神経伝達物質を開口放出させると考えられている<ref><pubmed>10219238</pubmed></ref>。マウスの[[内耳有毛細胞]]からの伝達物質放出には関与しないという例外はあるが<ref><pubmed>21378973</pubmed></ref>、実験材料として使われる多くの神経標本および開口放出のモデル細胞における伝達物質放出にはシンタキシン1が必須である<ref><pubmed>7818508</pubmed></ref><ref><pubmed>7609887</pubmed></ref><ref><pubmed>9692742</pubmed></ref><ref><pubmed>7612024</pubmed></ref><ref><pubmed>9342384</pubmed></ref>。  
 シナプス前膜に存在するシンタキシン1は、[[エンドサイトーシス]]を含め<ref><pubmed>23643538</pubmed></ref>シナプス小胞の循環のいくつかの過程に直接または間接的に関わる。その中でもカルシウム依存性の小胞開口放出過程における役割について最も研究が進んでおり、シンタキシン1はシナプス前膜と小胞膜との間でSNAP-25およびシナプトブレビンとSNARE複合体を形成し、両方の膜を限りなく近づけて融合させ神経伝達物質を開口放出させると考えられている<ref><pubmed>10219238</pubmed></ref>。マウスの[[内耳有毛細胞]]からの伝達物質放出には関与しないという例外はあるが<ref><pubmed>21378973</pubmed></ref>、実験材料として使われる多くの神経標本および開口放出のモデル細胞における伝達物質放出にはシンタキシン1が必須である<ref name=ref7818508><pubmed>7818508</pubmed></ref><ref><pubmed>7609887</pubmed></ref><ref><pubmed>9692742</pubmed></ref><ref><pubmed>7612024</pubmed></ref><ref><pubmed>9342384</pubmed></ref>。  


 シンタキシン1は、開口放出に先立ちシナプス小胞や[[有芯小胞]]を放出部位へドッキングさせる。実際、カエルの[[神経筋接合部]]<ref><pubmed>14622203</pubmed></ref>ならびに[[副腎髄質]][[クロマフィン細胞]]<ref><pubmed>17205130</pubmed></ref>においてシンタキシンを切断あるいは破壊すると小胞のドッキングが阻害される。一方、ニューロン間のシナプスではシンタキシンの機能を阻害してもドッキングに影響はない<ref><pubmed>14622203</pubmed></ref><ref><pubmed>17205130</pubmed></ref><ref><pubmed>9342384</pubmed></ref>。
 シンタキシン1は、開口放出に先立ちシナプス小胞や[[有芯小胞]]を放出部位へドッキングさせる。実際、カエルの[[神経筋接合部]]<ref><pubmed>14622203</pubmed></ref>ならびに[[副腎髄質]][[クロマフィン細胞]]<ref><pubmed>17205130</pubmed></ref>においてシンタキシンを切断あるいは破壊すると小胞のドッキングが阻害される。一方、ニューロン間のシナプスではシンタキシンの機能を阻害してもドッキングに影響はない<ref><pubmed>14622203</pubmed></ref><ref><pubmed>17205130</pubmed></ref><ref><pubmed>9342384</pubmed></ref>。

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