ノルアドレナリン

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徳岡 宏文一瀬 宏
東京工業大学大学
DOI:10.14931/bsd.1637 原稿受付日:2012年6月15日 原稿完成日:2012年10月1日
担当編集委員:林 康紀(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)

Norepinephrine[1]
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Identifiers
(l) 51-41-2 (l) N
ATC code
ChEBI
ChEMBL ChEMBL1437 YesY
ChemSpider 388394 YesY
DrugBank {{{value}}}
Jmol-3D images Image
KEGG D00076
PubChem 439260
Properties
C8H11NO3
Molar mass 169.18 g/mol
Density 1.397±0.06 g/cm^3 (20 °C and 760 Torr)[2]
Melting point L: 216.5–218 °C (decomp.)
D/L: 191 °C (decomp.)
Boiling point
Vapor pressure 1.30e-8 Torr[2]
Acidity (pKa) 9.57±0.10[2]
特記なき場合、データは常温(25 °C)・常圧(100 kPa)におけるものである。

英:noradrenaline, norepinephrine 独:Noradrenalin, Norepinephrin 仏:noradrénaline, norépinéphrine 略称:NA, NE

同義語:ノルエピネフリン

 ノルアドレナリンはモノアミンの一種、またカテコールアミンの一種である。生体内において、神経伝達物質またはホルモンとして働く。生体内ではチロシンから合成される。ノルアドレナリンの受容体アドレナリン受容体ファミリーであり、三量体Gタンパク質共役型である。末梢神経系では交感神経における神経伝達物質として重要である。中枢神経系では、にある青斑核にノルアドレナリン作動性神経細胞が多く存在し、そこからほぼ脳全域に投射している。中枢神経系ノルアドレナリンは覚醒-睡眠ストレスに関する働きをし、注意記憶学習などにも影響すると考えられている。

発見

 1946年、Ulf Svante von Euler(スウェーデン)およびPeter Holtz(ドイツ)により、ノルアドレナリンがほ乳類の交感神経において神経伝達物質として働くことが示された[3] [4]

構造

 カテコール基と一級アミノ基をもつ、カテコールアミン神経伝達物質の一種。また、ドーパミンセロトニンヒスタミンなどとともにモノアミン系神経伝達物質のグループを形成する。

合成

図1 ノルアドレナリン生合成経路

 中枢神経系のノルアドレナリン神経系の他、副腎髄質中にあるクロム親和性細胞においても合成されている。合成に関わる酵素は以下の通り(図1)。

チロシン水酸化酵素

Tyrosine hydroxylase (TH):EC 1.14.16.2

 チロシンよりL-DOPA (L-3,4-dihydroxyphenylalanine)を合成する[5] [6] [7]。反応には、テトラヒドロビオプテリン (tetrahydrobiopterin), O2, Fe2+が必要。カテコールアミン合成において、律速段階の酵素であると考えられている。その活性制御は、主にタンパク質の量と、リン酸化による。全てのカテコールアミン産生細胞に存在する。補因子であるテトラヒドロビオプテリンはGTPより合成される。律速酵素はGTPシクロヒドラーゼI (GTP cyclohydrolase I)である[8]

芳香族アミノ酸脱炭酸酵素

Aromatic L-amino acid decarboxylase (AADC):EC 4.1.1.28

 L-DOPAよりドーパミンを合成する。他に、この酵素は5-ヒドロキシトリプトファン (5-hydroxytryptophan)からセロトニン(5-hydroxytryptamine, 5-HT)を合成する反応も触媒する。ピリドキサールリン酸 (pyridoxal phosphate)が必要。全てのカテコールアミン産生細胞に存在する[9]

ドーパミンβ水酸化酵素

Dopamine β-hydroxylase (DBH):EC 1.14.2.1

 ドーパミンよりノルアドレナリンを合成する。アスコルビン酸、O2、Cu2+が必要。ノルアドレナリン、アドレナリン産生細胞のシナプス小胞の中に存在し、シナプス小胞に取り込まれたドーパミンをノルアドレナリンに変換する[10]

放出、再取り込み

 ノルアドレナリンの前駆体であるドーパミンは小胞型モノアミントランスポーター(vesicular monoamine transporter, vMAT)によりシナプス小胞内に輸送される。vMAT1は主に副腎のクロム親和性細胞、vMAT2は神経細胞で発現している。vMATはH+との交換輸送によりモノアミンを小胞内に蓄積させる[11]
 ノルアドレナリンの放出は他の神経伝達物質と同様に、神経活動依存的、カルシウム依存的なシナプス小胞のエキソサイトーシスによる。

 放出された後、ノルエピネフリントランスポーター(norepinephrine transporter, NET、またはノルアドレナリントランスポーター (noradrenaline transporter, NAT))により再取り込みされる。他のカテコールアミン同様、細胞外に放出されたノルアドレナリンの量の調節は、この再取込みの寄与が高い[12]。NETはNa+/K+-ATPase依存的で、Na+/Cl-の共輸送によりノルアドレナリンを細胞内に輸送する。またNETはリン酸化により制御される[13]

代謝分解

 ノルアドレナリンの代謝分解にはモノアミン酸化酵素(monoamine oxidase, MAO)、カテコール-O-メチル基転移酵素(catechol-O-methyltransferase, COMT)が重要である。

 脳においてノルアドレナリンの多くは、MAO、アルデヒド還元酵素、およびCOMTにより3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール (3-methoxy-4-hydroxyphenylglycol, MHPG)へ代謝され、さらに3-メトキシ-4-ヒドロキシマンデル酸 (3-methoxy-4-hydroxymandelic acid) (またはバニリルマンデル酸 (vanillylmandelic acid, VMA)となって尿中に排出される[14]。MHPGの硫酸化物も尿中に排出される[14]

モノアミン酸化酵素

 MAOはモノアミンのアミノ基をアルデヒド基に酸化する。MAOはミトコンドリア外膜に局在し、細胞内のノルアドレナリン(再取込みされたものを含む)の分解に関与する。ただしMAOに比べてvMAT2の方がノルアドレナリンに対する親和性がずっと高いため、シナプス小胞への取り込みの方がMAOによる分解よりも優先されると考えられる[15]。MAOにはMAO-AMAO-Bがあり、二つの別の遺伝子によりコードされている。MAO-AとMAO-Bはモノアミン作動性神経細胞およびグリア細胞に発現しているが、発現量は細胞の種類により異なり、また動物種によっても違いが見られる[15]マウス脳のノルアドレナリン作動性神経細胞には主にMAO-Aが発現している[16]

カテコール-O-メチル基転移酵素

 これはカテコール基のメタ水酸基メチル基を転移させる。腎臓肝臓に豊富だが、カテコールアミン作動性神経細胞の投射先においても発現している。細胞外で働くと考えられている[17]

 

受容体

分類

 ノルアドレナリンはアドレナリンと共にアドレナリン受容体(adrenergic receptorまたはadrenoceptor)に結合し活性化する。αおよびβのサブファミリーからなる(表)。より細かくは、α1A1D、α2A2C、β13、から構成されている。いずれも三量体Gタンパク質共役型受容体である。α1はGq、α2はGi、β13はGsと共役し、異なるシグナル伝達を行う。GqはホスホリパーゼCを活性化し、 イノシトール−1,4,5-三リン酸 (IP3) の産生からIP3受容体を介して細胞内カルシウムの上昇を引き起こす。またジアシルグリセロール (diacylglicerol, DAG) の産生を介してCa2+/リン脂質依存性タンパク質リン酸化酵素 (Cキナーゼ)の活性化を引き起こす。Gi、Gsはそれぞれアデニル酸シクラーゼを阻害、または活性化し、cAMPの産生の増減、そしてcAMP依存性タンパク質リン酸化酵素 (A-kinase, PKA)活性の増減を引き起こす。

中枢神経系

 中枢神経系において、ノルアドレナリンは主にα1、α2、そしてβ1受容体を介して作用する。海馬神経細胞において、β1受容体の活性化はカルシウム依存性カリウムチャンネルを阻害し、afterhyperpolarizationを減少させ、結果的にシナプス入力依存的な発火を亢進させる[18][19]。この作用はcAMPを介している[20]。さらに、β受容体は海馬におけるシナプス長期増強(LTP)をポジティブに調節する[21][22]。そのメカニズムとして、樹状突起上のA型カリウムチャンネルの不活性化によるbackpropagationの促進が考えられている[23][24]。また、SK型カリウムチャンネルの活性化やグルタミン酸受容体リン酸化の可能性も指摘されている[25]前頭前野では、α1、α2、そしてβ1受容体が異なる働きを示すことが示唆されている[26]

末梢組織

 末梢神経系において、ノルアドレナリンはα1およびβ1アドレナリン受容体のアゴニストとして作用する。(アドレナリンは、低濃度ではβ1およびβ2アドレナリン受容体に作用し、高濃度ではα1を介した作用が主となる。)

 心筋において、β1受容体はGsを介してアデニル酸シクラーゼの活性化、cAMPの産生、PKAの活性化が引き起こす。さらに、環状ヌクレオチドがhyperpolarization-activated cyclic nucleotide gated (HCN) channelに直接結合し、チャネル活性を亢進し、心筋の興奮性を高める[27][28]。また、PKAによりL型電位依存性カルシウムチャンネルや、筋小胞体リアノジン受容体がリン酸化されて活性化し、細胞内のカルシウム濃度が上昇、結果的に心筋の興奮性を亢進する。この時A-kinase anchoring protein (AKAP)が受容体とPKAの相互作用を手助けする[29][30]。また、内向き整流性カリウムチャネルの一種であるslowly activated K channels (IKs) もPKAのリン酸化を受け、活性化する[29])。これにより、心拍数が増加した時でも、心臓の拡張期の時間が適切に調節されると考えられる。アドレナリンによるα2受容体の活性化は、Giを介して上記β1受容体と逆の効果がある。

 平滑筋において、ノルアドレナリンα1受容体の活性化は、Gqを介してホスホリパーゼCの活性化、IP3とジアシルグリセロールの産生、IP3受容体の活性化による細胞内カルシウムストアからのカルシウム放出、ミオシン軽鎖キナーゼ (myosin-light chain kinase, MLCK)の活性化、そして結果的に筋収縮を引き起こす[14] [31]
逆に、アドレナリンによるβ2受容体の活性化は、Gsを介してPKAの活性化、MLCKのリン酸化による抑制の結果、筋弛緩をもたらすと考えられる[14][32]

 α2アドレナリン受容体はノルアドレナリン軸索終末に存在し(自己受容体またはオートレセプター)、ノルアドレナリンの放出を抑制する[33]

受容体 アゴニスト選択性 主な作用 細胞内シグナル アゴニスト アンタゴニスト
α1:
A, B, D
ノルアドレナリン > アドレナリン >> イソプレナリン 平滑筋収縮 Gq: ホスホリパーゼC (PLC) 活性化によりイノシトール3リン酸ジアシルグリセロール、細胞内カルシウムの上昇

(α1アゴニスト)

(α1アンタゴニスト)

α2:
A, B, C
アドレナリンノルアドレナリン >> イソプレナリン 自己受容体活性化による神経伝達物質放出減少
心筋弛緩、血小板活性化
Gi: アデニル酸シクラーゼ抑制, cAMP減少

(α2アゴニスト)

(α2アンタゴニスト)

β1 イソプレナリン > アドレナリン = ノルアドレナリン 心筋収縮 Gs: アデニル酸シクラーゼ活性化、cAMP上昇

(β1アゴニスト)

(β1アンタゴニスト)

β2 イソプレナリン > アドレナリン >> ノルアドレナリン 平滑筋弛緩 Gs: アデニル酸シクラーゼ活性化、cAMP上昇 (Giと共役することもある)

(β2アゴニスト)

(β2アンタゴニスト)

β3 イソプレナリン = ノルアドレナリン > アドレナリン 脂肪代謝亢進、膀胱排尿筋弛緩 Gs: アデニル酸シクラーゼ活性化、cAMP上昇

表 アドレナリン性受容体 Wikipedia項目Adrenergic Receptorから翻訳、修正の上転載。 α1C受容体と呼ばれる物は、存在しない。

主たる投射系

中枢神経系
 脳におけるノルアドレナリン作動性の神経細胞群は、主に延髄(medulla)、橋(pons)に存在し、A1-A7に分けられている。

  • A1A2:A1は髄質の腹外側に位置し、A2は背側に位置する。共に視床下部に上行性投射をし、ホルモン循環器系やホルモン内分泌系の調節を行う。
  • A5A7:橋の腹外側に位置し、脊髄へ投射し、自律神経反射や、痛覚の調節を行う。
  • A6:青斑核(locus ceruleus)と呼ばれる。橋の背側に位置し、最も主要なノルアドレナリン作動性神経細胞の核である。青斑核からは、大脳皮質視床、視床下部、小脳中脳脊髄、など脳のほぼ全域にわたって投射している(図2:文献[34]より許可を得て改変)。

 自律神経系のうちの交感神経系では、節後神経細胞がノルアドレナリン作動性であり、脊髄中の節前神経細胞よりアセチルコリン性の入力を受け、ノルアドレナリン性の出力を内臓器官に与える。その結果、血管の収縮、血圧の上昇、心拍数の増加、などを引き起こす。

図2 青斑核からのノルアドレナリン投射経路

中枢神経系におけるノルアドレナリンの機能

覚醒状態との関係

 青斑核は古くから覚醒状態に関係していると考えられてきた。1949年、Guiseppe MoruzziとHorace Magounは青斑核を含む脳幹部(紋様体)を刺激すると大脳皮質の脳波が様々に変化することを見いだし[35]、この部位が脳の覚醒に関係することが示唆された。ラット青斑核神経細胞の発火頻度は、覚醒-睡眠のサイクルに応じて変化し、また継続中の行動を中断するような場合に上昇する[36][37]。その後の研究により、ノルアドレナリンは他の重要な機能を持つことが明らかとなってきた(下記)。

感覚入力の調節

 ノルアドレナリンは、他の神経伝達物質による感覚入力の情報処理を修飾する。サル聴覚野にノルアドレナリンを投与すると、聴覚刺激に対する応答のS/N比が亢進する、すなわち自発的活動(ノイズ)が減少するが、感覚入力依存的活動は維持される[38]ラット体性感覚野[39]海馬[40]にても同様の報告がなされている。さらに、発火の応答速度や同期性が向上することがラット体性感覚野[41]嗅皮質[42]で報告されている。

注意

 α2アドレナリン受容体のアゴニストであるクロニジンを低濃度で局所的に投与すると、軸索終末の自己受容体を介してノルアドレナリンの放出が減少する。この方法を用いて、ラットにて上行性のノルアドレナリン投射を低下させると、注意を必要とする前頭前野依存的な行動試験の成績が低下する[43]。サルでは低濃度のclonidineにより認知機能が低下するが、高濃度では逆に認知機能が亢進し、特に老齢のサルで効果が認められた[44][45]。この効果は前頭前野におけるHyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated (HCN) channelsの活性化によると報告されている[46]ヒトにおいてもクロニジンは覚醒状態に依存した効果を示し、視覚的注意に依存する作業を向上させる[47]

記憶

 記憶固定におけるノルアドレナリンの働きは、主に行動薬理学的実験により明らかになってきた。ノルアドレナリンは扁桃体や海馬において他の神経伝達物質やホルモンなどと相互作用し、長期記憶の形成を促進する[48]。また、ノルアドレナリンはβ受容体を介して、記憶固定における遅いステージに関与していると報告されている[49][50]。記憶の想起においてもノルアドレナリンが関与している。ラットにおいて、ノルアドレナリン放出の促進や青斑核の電気刺激により記憶の想起が促進される[51][52]。ドーパミンβ水酸化酵素のコンディショナル・ノックアウトマウスを用いた研究でも記憶の想起におけるノルアドレナリンの関与が示されている[53]

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)においてもノルアドレナリンが関わると考えられる[54]。PTSDに使用される薬剤クロニジンはα2受容体のアゴニスト、プラゾシンはα1受容体のアンタゴニストである。PTSDの患者が、当該の出来事を想起し表出する際には、ノルアドレナリンが大量に放出される[54]。β受容体が記憶の再固定(reconsolidation)に関与するとの知見から、PTSDの治療にβ受容体の阻害が試みられている[55][56][57]

抗うつ薬とノルアドレナリン

 気分障害の治療に使われる薬のうち、歴史的に古いMAO阻害剤三環系抗うつ薬はセロトニン系だけでなくノルアドレナリン系を刺激する。近年使用頻度が増えている薬に選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)あるが、これはノルアドレナリン系には作用しない。さらに、セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)も開発され、これはその名の通り、セロトニン系とノルエピネフリン系の両方を選択的に刺激する。

 こうした薬の作用から、うつ状態の原因がセロトニンやノルアドレナリンなどのモノアミンの減少によるのではないかというモノアミン仮説が生まれた。しかし、これらの薬の治療効果が現れるのは、モノアミン神経伝達が亢進されるよりもずっと遅いことから、この仮説よりももっと複雑なことが起きていると考えられている[58] [59]

関連項目

参考文献

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