「Dab1」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
695 バイト追加 、 2013年9月28日 (土)
編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
51行目: 51行目:
英語名: disabled 1、Dab1 遺伝子名: disabled homolog 1(ヒト)、disabled 1 (マウス)、遺伝子シンボル:Dab1 (ヒト)、DAB1 (マウス)  
英語名: disabled 1、Dab1 遺伝子名: disabled homolog 1(ヒト)、disabled 1 (マウス)、遺伝子シンボル:Dab1 (ヒト)、DAB1 (マウス)  


{{box|text= Dab1は[[中枢神経系]]において[[神経細胞]]の正常な[[神経細胞移動|移動]]・配置に必須の細胞内アダプター分子で、神経細胞の[[樹状突起]]の発達等にも関与していると考えられている<ref><pubmed>12778121</pubmed></ref><ref><pubmed>16512359</pubmed></ref><ref name="honda"><pubmed>21253854</pubmed></ref>。''dab1''遺伝子の欠損は層構造を形成する[[大脳新皮質]]、[[海馬]]、[[小脳]]、あるいは核構造を形成する[[脳幹]]、[[脊髄]]等の神経細胞の配置に異常を引き起こす。同様な表現型は、[[リーリン]](''reelin'')遺伝子に変異のある[[リーラー|''reeler'']]マウスと、[[Low density lipoprotein receptor-related protein 8|''low density lipoprotein receptor-related protein 8'']] ([[apoER2|''apoER2'']])と[[VLDL receptor|''very-low-density-lipoprotein receptor'']] ([[vldlr|''vldlr'']])のダブル[[ノックアウトマウス]]でも観察されており、細胞外のリーリンがApoER2/VLDLRにより受容され、Dab1が細胞内でシグナルを伝達する経路を形成していると考えられている。また、リーリン刺激によって[[リン酸化]]を受けるDab1の[[wikipedia:ja:チロシン|チロシン]]5カ所を[[wikipedia:ja:フェニルアラニン|フェニルアラニン]]に変異させたマウスでは、''dab1''遺伝子の変異と同じ神経細胞の配置異常が引き起こされることから、Dab1の[[チロシンリン酸化]]はこのシグナル伝達経路に必須であることが示されている。チロシンリン酸化されたDab1により活性化される経路が調べられ、中でも[[Crk]]/[[CrkL]]-[[Rap1]]経路が、[[N-カドヘリン]](N-cadherin)や[[インテグリンα5β1]](Integrin α5β1)の制御を行うことで神経細胞の移動調節を行っている可能性が示唆されている。}}
{{box|text= Dab1は[[中枢神経系]]において[[神経細胞]]の正常な[[神経細胞移動|移動]]・配置に必須の細胞内[[アダプター分子]]で、神経細胞の[[樹状突起]]の発達等にも関与していると考えられている<ref><pubmed>12778121</pubmed></ref><ref><pubmed>16512359</pubmed></ref><ref name="honda"><pubmed>21253854</pubmed></ref>。''dab1''遺伝子の欠損は層構造を形成する[[大脳新皮質]]、[[海馬]]、[[小脳]]、あるいは核構造を形成する[[脳幹]]、[[脊髄]]等の神経細胞の配置に異常を引き起こす。同様な表現型は、[[リーリン]](''reelin'')遺伝子に変異のある[[リーラー]]マウスと、[[Low density lipoprotein receptor-related protein 8|''low density lipoprotein receptor-related protein 8'']] ([[apoER2|''apoER2'']])と[[VLDL receptor|''very-low-density-lipoprotein receptor'']] ([[vldlr|''vldlr'']])のダブル[[ノックアウトマウス]]でも観察されており、細胞外のリーリンがApoER2/VLDLRにより受容され、Dab1が細胞内でシグナルを伝達する経路を形成していると考えられている。また、リーリン刺激によって[[リン酸化]]を受けるDab1の[[wj:チロシン|チロシン]]5カ所を[[wj:フェニルアラニン|フェニルアラニン]]に変異させたマウスでは、''dab1''遺伝子の変異と同じ神経細胞の配置異常が引き起こされることから、Dab1の[[チロシンリン酸化]]はこのシグナル伝達経路に必須であることが示されている。[[チロシンリン酸化]]されたDab1により活性化される経路が調べられ、中でも[[Crk]]/[[CrkL]]-[[Rap1]]経路が、[[N-カドヘリン]](N-cadherin)や[[インテグリンα5β1]](Integrin α5β1)の制御を行うことで神経細胞の移動調節を行っている可能性が示唆されている。}}


== 歴史的推移  ==
== 歴史的推移  ==
(編集 コメント イントロが長目なので、発見の歴史までとして、最近の内容は「機能」の所に移して頂けないでしょうか。)
 1997年、[[チロシンリン酸化|チロシンキナーゼ]][[Src]]に結合するタンパク質が探索され、当時未知のタンパク質であった、Disabled 1 (Dab1)([[ショウジョウバエ]]で同定されていた[[disabled-1|''disabled-1'']]遺伝子と相同性があった為命名)が同定された<ref name="Howell_EMBO"><pubmed>9009273</pubmed></ref>。


 1997年、チロシンキナーゼ[[Src]]に結合するタンパク質が探索され、当時未知のタンパク質であった、Disabled 1 (Dab1)([[ショウジョウバエ]]で同定されていた[[disabled-1|''disabled-1'']]遺伝子と相同性があった為命名)が同定された<ref name="Howell_EMBO"><pubmed>9009273</pubmed></ref>。Dab1はN末端に[[Phosphotyrosine-binding domain]] (PTBドメイン)を持つ[[アダプタータンパク質]]で、Srcによりリン酸化されることが明らかになった<ref name="Howell_EMBO" />。''dab1''ノックアウトマウスが作成された所、大脳新皮質、海馬、小脳において神経細胞の配置異常が観察された<ref><pubmed>9338785</pubmed></ref>。この表現型は、1951年に既に報告のあったリーラー(''reeler'')マウスの示す<ref name=reeler>'''Two new mutants trembler and reeler, with neurological actionss in the house mouse'''<br>J. Genet..: 1951, 51, 192-201[http://link.springer.com/article/10.1007%2FBF02996215 論文掲載サイト]</ref>表現型と酷似していた。また、リーラーマウスの原因遺伝子は1995年に既に報告されており、[[リーリン]]という別の遺伝子をコードしていた<ref><pubmed>7715726</pubmed></ref>。さらに、リーラー表現型を示すことが知られていた[[Yotari|''yotari'']]マウスと[[Scrambler|''scrambler'']]マウスの原因遺伝子が''dab1''であることが明らかになり<ref><pubmed>9338784</pubmed></ref><ref><pubmed>9436647</pubmed></ref><ref><pubmed>9292716</pubmed></ref><ref><pubmed>10648895</pubmed></ref>、Dab1とリーリンとの機能的な関連性が強く示唆された。
 Dab1はN末端に[[Phosphotyrosine-binding domain]] (PTBドメイン)を持つ[[アダプタータンパク質]]で、Srcによりリン酸化されることが明らかになった<ref name="Howell_EMBO" />。''dab1''ノックアウトマウスが作成された所、大脳新皮質、海馬、小脳において神経細胞の配置異常が観察された<ref><pubmed>9338785</pubmed></ref>。この表現型は、1951年に既に報告のあったリーラー(''reeler'')マウスの示す<ref name=reeler>'''Two new mutants trembler and reeler, with neurological actionss in the house mouse'''<br>J. Genet.: 1951, 51, 192-201[http://link.springer.com/article/10.1007%2FBF02996215 論文掲載サイト]</ref>表現型と酷似していた。また、リーラーマウスの原因遺伝子は1995年に既に報告されており、[[リーリン]]という別の遺伝子をコードしていた<ref><pubmed>7715726</pubmed></ref>。さらに、リーラー表現型を示すことが知られていた[[Yotari|''yotari'']]マウスと[[Scrambler|''scrambler'']]マウスの原因遺伝子が''dab1''であることが明らかになり<ref><pubmed>9338784</pubmed></ref><ref><pubmed>9436647</pubmed></ref><ref><pubmed>9292716</pubmed></ref><ref><pubmed>10648895</pubmed></ref>、Dab1とリーリンとの機能的な関連性が強く示唆された。


 実際、リーラーマウスでは、
 実際、リーラーマウスでは、
#''dab1''のmRNA量は変化しないが、タンパク質量が上昇していること、<ref name="rice"><pubmed>9716537</pubmed></ref>、
#''dab1''のmRNA量は変化しないが、タンパク質量が上昇していること、<ref name="rice"><pubmed>9716537</pubmed></ref>、
#リーリンは大脳皮質表層(辺縁帯)に分布する[[カハールレチウス細胞]](Cajal-Retzius cell)に主に発現が観察されるが、Dab1はそれに隣接する神経細胞に発現が観察され、相補的な発現パターンになっていること<ref name="rice" />、
#リーリンは大脳皮質表層(辺縁帯)に分布する[[カハール・レチウス細胞]](Cajal-Retzius cell)に主に発現が観察されるが、Dab1はそれに隣接する神経細胞に発現が観察され、相補的な発現パターンになっていること<ref name="rice" />、
#リーリン刺激によりDab1のチロシンリン酸化が観察されること<ref><pubmed>10090720</pubmed></ref>
#リーリン刺激によりDab1のチロシンリン酸化が観察されること<ref><pubmed>10090720</pubmed></ref>


74行目: 74行目:
 マウスでは[[wikipedia:ja:選択的スプライシング|選択的スプライシング]]により13種の[[wikipedia:ja:スプライスバリアント|スプライスバリアント]]が存在することが報告されている<ref><pubmed>22586277</pubmed></ref>が、発達過程の中枢神経系では555アミノ酸を持つスプライスバリアントである''dab1'' p80(図1、p80)が最も多く発現している<ref name=Howell_EMBO />。  
 マウスでは[[wikipedia:ja:選択的スプライシング|選択的スプライシング]]により13種の[[wikipedia:ja:スプライスバリアント|スプライスバリアント]]が存在することが報告されている<ref><pubmed>22586277</pubmed></ref>が、発達過程の中枢神経系では555アミノ酸を持つスプライスバリアントである''dab1'' p80(図1、p80)が最も多く発現している<ref name=Howell_EMBO />。  


 Dab1(p80)はN末端側にPTBドメイン、続く領域にチロシンリン酸化部位を持つ細胞内タンパク質である(図1)。PTBドメインは、細胞内ドメインにNPxYモチーフを持つ膜タンパク質と結合する。これまでに、ApoER2<ref name="ApoVL_dKO" />、VLDLR<ref name="ApoVL_dKO" />、[[Pcdh18]]<ref><pubmed>11716507</pubmed></ref>(Pcdh18の場合はNPTS配列を持つ)、[[アミロイド前駆タンパク質]] (Amyloid precursor protein[[APP]])<ref name=APP><pubmed>10373567</pubmed></ref>、[[Amyloid-like protein 1]] ([[APLP1]])<ref><pubmed>10460257</pubmed></ref>、 [[Amyloid-like protein 2]] ([[APLP2]])<ref name=APP />との結合が報告されている。これらの結合にはNPxYモチーフのチロシン残基のリン酸化は必要としない。PTBドメインには[[plekstrin homology]] (PH)ドメイン様構造が含まれており、[[リン脂質]]([[ホスファチジルイノシトール-4-リン酸]] (PI(4)P)と[[ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸]] (PI(4,5)P))に結合することが出来る<ref name=APP />。また、PTBドメインのN末端側には[[wikipedia:ja:核移行シグナル|核移行シグナル]]([[wikipedia:Nuclear Localization Signal|Nuclear Localization Signal]]: NLS)、PTBドメインのC末端側に二つの[[wikipedia:ja:核外移行シグナル|核外移行シグナル]]([[wikipedia:Nuclear Export Signal|Nuclear Export Signal]]: NES)を持っており、核と細胞質間を移行する能力を有している<ref><pubmed>17062576</pubmed></ref>。
 Dab1(p80)はN末端側にPTBドメイン、続く領域にチロシンリン酸化部位を持つ細胞内タンパク質である(図1)。PTBドメインは、細胞内ドメインにNPxYモチーフを持つ膜タンパク質と結合する。これまでに、ApoER2<ref name="ApoVL_dKO" />、VLDLR<ref name="ApoVL_dKO" />、[[Pcdh18]]<ref><pubmed>11716507</pubmed></ref>(Pcdh18の場合はNPTS配列を持つ)、[[アミロイド前駆タンパク質]] (Amyloid precursor protein[[APP]])<ref name=APP><pubmed>10373567</pubmed></ref>、[[Amyloid-like protein 1]] ([[APLP1]])<ref><pubmed>10460257</pubmed></ref>、 [[Amyloid-like protein 2]] ([[APLP2]])<ref name=APP />との結合が報告されている。これらの結合にはNPxYモチーフのチロシン残基のリン酸化は必要としない。PTBドメインには[[plekstrin homology]] (PH)ドメイン様構造が含まれており、[[リン脂質]]([[ホスファチジルイノシトール#PI(4)P|ホスファチジルイノシトール-4-リン酸]] (PI(4)P)と[[ホスファチジルイノシトール#PI(4,5)P2|ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸]] (PI(4,5)P<sub>2</sub>))に結合することが出来る<ref name=APP />。また、PTBドメインのN末端側には[[wikipedia:ja:核移行シグナル|核移行シグナル]]([[wikipedia:Nuclear Localization Signal|Nuclear Localization Signal]]: NLS)、PTBドメインのC末端側に二つの[[wikipedia:ja:核外移行シグナル|核外移行シグナル]]([[wikipedia:Nuclear Export Signal|Nuclear Export Signal]]: NES)を持っており、核と細胞質間を移行する能力を有している<ref><pubmed>17062576</pubmed></ref>。


 また、''dab1''のp45スプライスバリアント(図1、p45)がコードするタンパク質は、p80とN末端側の1番目〜241番目のアミノ酸までが共通で、そのC末端側は異なる配列を有している。p45のみを発現するノックインマウスが作成されたが、リーラーフェノタイプは示さないことから、中枢神経系の正常発生については、p45に含まれないp80のC末端側の部位は必須では無いことが示されている<ref><pubmed>11830577</pubmed></ref>。
 また、''dab1''のp45スプライスバリアント(図1、p45)がコードするタンパク質は、p80とN末端側の1番目〜241番目のアミノ酸までが共通で、そのC末端側は異なる配列を有している。p45のみを発現するノックインマウスが作成されたが、リーラーフェノタイプは示さないことから、中枢神経系の正常発生については、p45に含まれないp80のC末端側の部位は必須では無いことが示されている<ref><pubmed>11830577</pubmed></ref>。
86行目: 86行目:
== 発現==
== 発現==


 [[In situハイブリダイゼーション|''In situ''ハイブリダイゼーション]]により、''dab1'' [[wikipedia:mRNA|mRNA]]の発現分布を調べた報告<ref name=rice />によると、発生期の[[マウス]]大脳新皮質では、胎生11.5日目の[[神経上皮細胞]]に弱く発現が観察される。胎生12.5日目には[[皮質板]](cortical plate: CP)での強い発現が顕著になり、[[脳室帯]](ventricular zone: VZ)での弱い発現も引き続き観察される。その後、生後0日にかけて、皮質板での強い発現が維持されるが、[[脳室]]帯での発現は弱くなり、[[中間帯]](intermediate zone: IMZ)の上部で弱い発現が観察されるようになる。成獣のマウスでも生後0日に比べて弱くはなるが、皮質板において発現が観察される。大脳新皮質では、Dab1の発現部位はリーリンを発現しているカハールレチウス細胞が存在する[[辺縁帯]](marginal zone: MZ)と相互排他的なパターンになっている。  
 [[In situハイブリダイゼーション|''In situ''ハイブリダイゼーション]]により、''dab1'' [[wikipedia:mRNA|mRNA]]の発現分布を調べた報告<ref name=rice />によると、発生期の[[マウス]]大脳新皮質では、胎生11.5日目の[[神経上皮細胞]]に弱く発現が観察される。胎生12.5日目には[[皮質板]](cortical plate: CP)での強い発現が顕著になり、[[脳室帯]](ventricular zone: VZ)での弱い発現も引き続き観察される。その後、生後0日にかけて、[[皮質板]]での強い発現が維持されるが、[[脳室]]帯での発現は弱くなり、[[中間帯]](intermediate zone: IMZ)の上部で弱い発現が観察されるようになる。成獣のマウスでも生後0日に比べて弱くはなるが、皮質板において発現が観察される。大脳新皮質では、Dab1の発現部位はリーリンを発現しているカハール・レチウス細胞が存在する[[辺縁帯]](marginal zone: MZ)と相互排他的なパターンになっている。  


 海馬では妊娠12.5日目には神経上皮細胞に弱く''dab1''のmRNAが観察され、妊娠14.5日目までに海馬の辺縁帯、[[錐体細胞層]]、脳室帯の三層が別れ、[[錐体細胞]]層に強い発現が観察されるようになる。また隣り合う歯状回の顆粒細胞層にも''dab1''の発現が観察される。海馬についても''dab1''の発現は生後3日でも維持される。また、大脳新皮質と同様、Dab1の発現領域はリーリンを発現するカハールレチウス細胞の存在する辺縁帯に隣接した領域で観察される<ref name=rice />。  
 海馬では妊娠12.5日目には神経上皮細胞に弱く''dab1''のmRNAが観察され、妊娠14.5日目までに海馬の辺縁帯、[[錐体細胞層]]、脳室帯の三層が別れ、[[錐体細胞]]層に強い発現が観察されるようになる。また隣り合う歯状回の顆粒細胞層にも''dab1''の発現が観察される。海馬についても''dab1''の発現は生後3日でも維持される。また、大脳新皮質と同様、Dab1の発現領域はリーリンを発現するカハールレチウス細胞の存在する辺縁帯に隣接した領域で観察される<ref name=rice />。  


 小脳については、妊娠13.5日目には脳室帯と外顆粒層の間の幼弱プルキンエ細胞群に発現が見られ、妊娠18.5日目から生後3日では、[[プルキンエ細胞]]層で発現が観察される。リーリンを強く発現する[[顆粒細胞]]が存在する外顆粒層に隣接して''dab1''を発現するプルキンエ細胞層が存在し、小脳においても相補的な発現パターンを示す<ref name=rice />。  
 小脳については、妊娠13.5日目には脳室帯と外顆粒層の間の幼弱[[プルキンエ細胞]]群に発現が見られ、妊娠18.5日目から生後3日では、プルキンエ細胞層で発現が観察される。リーリンを強く発現する[[顆粒細胞]]が存在する外顆粒層に隣接して''dab1''を発現するプルキンエ細胞層が存在し、小脳においても相補的な発現パターンを示す<ref name=rice />。  


 Dab1のタンパク質がどの細胞にどのような細胞内分布で局在しているのかは、[[免疫組織化学染色]]が難しく報告は少ないが、mRNAの発現分布と一致して大脳新皮質では神経細胞<ref name=rice /><ref><pubmed>19710317</pubmed></ref>、小脳ではプルキンエ細胞<ref><pubmed>12077184</pubmed></ref>に発現していることが報告されている。また、生体内における詳細な細胞内分布については不明である。  
 Dab1のタンパク質がどの細胞にどのような細胞内分布で局在しているのかは、[[免疫組織化学染色]]が難しく報告は少ないが、mRNAの発現分布と一致して大脳新皮質では神経細胞<ref name=rice /><ref><pubmed>19710317</pubmed></ref>、小脳ではプルキンエ細胞<ref><pubmed>12077184</pubmed></ref>に発現していることが報告されている。また、生体内における詳細な細胞内分布については不明である。  
107行目: 107行目:
[[Image:Development of neocortex2.png|thumb|400px|<b>図2.大脳新皮質の正常発生とリーリン、''dab1''変異マウス、''apoER2/vldlr'' ダブルノックアウトマウスの発生異常</b><br> (A) 発生期のマウス脳の模式図。下図は上図の点線部分で冠状断にした際の断面図。薄い赤色部分を拡大した図をBとCに示す。(B, C) 野生型 (B)、または ''reeler''、''yotari'', ''scrambler''マウス、及び''dab1''ノックアウトマウスと ''apoer2/vldlr''ダブル[[ノックアウトマウス]] (C)の大脳新皮質の発生過程を示す。脳の表面は上方向、脳室側は下方向。数字は野生型マウスで配置される予定の層を示す。RG: 放射状グリア細胞 (radial glia cell)、PP: プレプレート (preplate)、VZ: 脳室帯(ventricular zone)、CR: カハールレチウス細胞(Cajal-Retzius cell)、SP: サブプレート(subplate)神経細胞、MZ: 辺縁帯(marginal zone)、CP: 皮質板 (cortical plate)、SPP:スーパープレート(super plate)、IPZ: 内網状帯(internal plexiform zone)]]  
[[Image:Development of neocortex2.png|thumb|400px|<b>図2.大脳新皮質の正常発生とリーリン、''dab1''変異マウス、''apoER2/vldlr'' ダブルノックアウトマウスの発生異常</b><br> (A) 発生期のマウス脳の模式図。下図は上図の点線部分で冠状断にした際の断面図。薄い赤色部分を拡大した図をBとCに示す。(B, C) 野生型 (B)、または ''reeler''、''yotari'', ''scrambler''マウス、及び''dab1''ノックアウトマウスと ''apoer2/vldlr''ダブル[[ノックアウトマウス]] (C)の大脳新皮質の発生過程を示す。脳の表面は上方向、脳室側は下方向。数字は野生型マウスで配置される予定の層を示す。RG: 放射状グリア細胞 (radial glia cell)、PP: プレプレート (preplate)、VZ: 脳室帯(ventricular zone)、CR: カハールレチウス細胞(Cajal-Retzius cell)、SP: サブプレート(subplate)神経細胞、MZ: 辺縁帯(marginal zone)、CP: 皮質板 (cortical plate)、SPP:スーパープレート(super plate)、IPZ: 内網状帯(internal plexiform zone)]]  


 上記のように、大脳新皮質の神経細胞は脳室近くで誕生後、脳の表面方向に放射状に移動し、最初期に誕生した神経細胞で形成される[[プレプレート]]と呼ばれる細胞層の間に入り込んで、これをカハールレチウス細胞を含む辺縁帯と[[サブプレート]]と呼ばれる二つの層に分離する(プレプレートスプリッティング)(図2B, iからii)。神経細胞は辺縁帯の直下で移動を終了し、樹状突起を発達させて最終[[分化]]を行なう。神経細胞は次々に脳室帯で誕生して脳表面方向に移動するが、誕生時期の遅い神経細胞は誕生時期の早い神経細胞を追い越し、より脳の表層側に配置されるようになる(図2B, iii)。この細胞配置の仕組みは“インサイドアウト”様式と呼ばれ、哺乳類の大脳新皮質でのみ観察される特徴的な組織構築様式である。  
 上記のように、大脳新皮質の神経細胞は脳室近くで誕生後、脳の表面方向に放射状に移動し、最初期に誕生した神経細胞で形成される[[プレプレート]]と呼ばれる細胞層の間に入り込んで、これをカハール・レチウス細胞を含む辺縁帯と[[サブプレート]]と呼ばれる二つの層に分離する(プレプレートスプリッティング)(図2B, iからii)。神経細胞は辺縁帯の直下で移動を終了し、樹状突起を発達させて最終[[分化]]を行なう。神経細胞は次々に脳室帯で誕生して脳表面方向に移動するが、誕生時期の遅い神経細胞は誕生時期の早い神経細胞を追い越し、より脳の表層側に配置されるようになる(図2B, iii)。この細胞配置の仕組みは“インサイドアウト”様式と呼ばれ、哺乳類の大脳新皮質でのみ観察される特徴的な組織構築様式である。  


 ''dab1''欠損マウスでは神経細胞は正常に産生されるが、神経細胞はプレプレートの間に入って分割することが出来ず、プレプレートスプリッティングが起らない。また、肉眼的に同定出来る辺縁帯が形成されず、皮質板を構成する神経細胞が脳表面近くまで分布する。後続の神経細胞は正常に移動出来ずに、脳表面から脳室方向に異所性に配置され、“アウトサイドイン”と呼ばれる異常な組織構築を行うようになり、全体として層構造が逆転する異常な大脳新皮質が形成される。異常な構造中には、内網状帯(internal plexiform zone)と呼ばれる細胞密度の低い領域が散在し、神経細胞の樹状突起がこの領域に向かい展開される傾向がある<ref><pubmed>12205665</pubmed></ref>。  
 ''dab1''欠損マウスでは神経細胞は正常に産生されるが、神経細胞はプレプレートの間に入って分割することが出来ず、プレプレートスプリッティングが起らない。また、肉眼的に同定出来る辺縁帯が形成されず、皮質板を構成する神経細胞が脳表面近くまで分布する。後続の神経細胞は正常に移動出来ずに、脳表面から脳室方向に異所性に配置され、“アウトサイドイン”と呼ばれる異常な組織構築を行うようになり、全体として層構造が逆転する異常な大脳新皮質が形成される。異常な構造中には、内網状帯(internal plexiform zone)と呼ばれる細胞密度の低い領域が散在し、神経細胞の樹状突起がこの領域に向かい展開される傾向がある<ref><pubmed>12205665</pubmed></ref>。  
117行目: 117行目:
 また、''dab1''を欠損した''scrambler''マウスや''yotari''マウスに''dab1''を[[wikipedia:ja:レトロウイルス|レトロウイルス]]や[[電気穿孔法#胎仔や組織の細胞の電気穿孔法|''in utero'' エレクトロポレーション法]]<ref><pubmed>11301197</pubmed></ref>により導入し、''dab1''の発現をレスキューした場合においても、''dab1''を導入された神経細胞は''dab1''を欠損した神経細胞を追い越して脳表層まで到達し<ref name="sanada"><pubmed>15091337</pubmed></ref><ref name="morimura" />、プレプレートスプリッティングも引き起こす<ref name="morimura" />ことから、''dab1''欠損による移動障害が主には細胞内在性に引き起こされていることが示されている。  
 また、''dab1''を欠損した''scrambler''マウスや''yotari''マウスに''dab1''を[[wikipedia:ja:レトロウイルス|レトロウイルス]]や[[電気穿孔法#胎仔や組織の細胞の電気穿孔法|''in utero'' エレクトロポレーション法]]<ref><pubmed>11301197</pubmed></ref>により導入し、''dab1''の発現をレスキューした場合においても、''dab1''を導入された神経細胞は''dab1''を欠損した神経細胞を追い越して脳表層まで到達し<ref name="sanada"><pubmed>15091337</pubmed></ref><ref name="morimura" />、プレプレートスプリッティングも引き起こす<ref name="morimura" />ことから、''dab1''欠損による移動障害が主には細胞内在性に引き起こされていることが示されている。  


 では、''dab1''の欠損により、何が一次的に障害されているのか?この問題を解明する為に、周囲の細胞が正常な環境下で、一部の神経細胞でのみDab1の機能を阻害し、''dab1''の欠損によりどのような移動障害が引き起こされるのかが詳細に観察された。大脳新皮質の神経細胞は誕生時期の違いにより、異なる移動過程を経ることが知られている<ref><pubmed>20182622</pubmed></ref>。早生まれの神経細胞は脳室帯で誕生した後、もともと脳の表層にアンカリングしてあった突起を用いて[[細胞体]]を引き上げる、細胞体トランスロケーション(somal translocation)と呼ばれる形式で移動する<ref><pubmed>11567613</pubmed></ref>。一方、遅生まれの神経細胞の多くは、脳室帯で誕生した後、その直上で多極性の形態(多極性細胞)をとって突起を繰り返し伸縮する多極性移動(multipolar migration)と呼ばれる移動を行い<ref name=tabata><pubmed>14602813</pubmed></ref>、その後、紡錘形の形態にトランスフォームして、放射状グリアの突起を足場として脳表面に向かってロコモーション(locomotion)と呼ばれる方式で移動する<ref name=tabata /><ref><pubmed>14703572</pubmed></ref>。さらに、脳表面付近では神経細胞の進行方向に長く伸びた先導突起(leading process)の先端が辺縁帯に届くと、細胞体は放射状グリア線維から離れ、先導突起が先端をアンカリングしたまま短縮して細胞体を引き上げる様に移動するターミナルトランスロケーションと呼ばれる移動様式により移動を行う<ref><pubmed>11175874</pubmed></ref>。
 ''dab1''の欠損により、何が一次的に障害されているのかを解明する為に、周囲の細胞が正常な環境下で、一部の神経細胞でのみDab1の機能を阻害し、''dab1''の欠損によりどのような移動障害が引き起こされるのかが詳細に観察された。大脳新皮質の神経細胞は誕生時期の違いにより、異なる移動過程を経ることが知られている<ref><pubmed>20182622</pubmed></ref>。早期に分化した神経細胞は脳室帯で誕生した後、もともと脳の表層にアンカリングしてあった突起を用いて[[細胞体]]を引き上げる、[[細胞体トランスロケーション]](somal translocation)と呼ばれる形式で移動する<ref><pubmed>11567613</pubmed></ref>。一方、後期に分化した神経細胞の多くは、脳室帯で誕生した後、その直上で多極性の形態(多極性細胞)をとって突起を繰り返し伸縮する[[多極性移動]](multipolar migration)と呼ばれる移動を行い<ref name=tabata><pubmed>14602813</pubmed></ref>、その後、紡錘形の形態にトランスフォームして、[[放射状グリア]]の突起を足場として脳表面に向かって[[ロコモーション]](locomotion)と呼ばれる方式で移動する<ref name=tabata /><ref><pubmed>14703572</pubmed></ref>。さらに、脳表面付近では神経細胞の進行方向に長く伸びた先導突起(leading process)の先端が辺縁帯に届くと、細胞体は放射状グリア線維から離れ、先導突起が先端をアンカリングしたまま短縮して細胞体を引き上げる様に移動する[[ターミナルトランスロケーション]]と呼ばれる移動様式により移動を行う<ref><pubmed>11175874</pubmed></ref>。


 ''In utero''エレクトロポレーションによって移動神経細胞の''dab1''のノックダウンが行われた結果、神経細胞は脳の表層近くまで移動するが、移動の最終過程であるターミナルトランスロケーションが障害されることがわかった<ref name=dab1KD><pubmed>16467525</pubmed></ref><ref name="sekine1"><pubmed>21697392</pubmed></ref><ref><pubmed>20720102</pubmed></ref>。さらに、Dab1依存的に神経細胞がターミナルトランスロケーションを始める部位は、移動を終えたばかりの未成熟神経細胞が辺縁帯直下で密に集まった領域である[[原皮質帯]] (primitive cortical zone: PCZ) の下端近くであること、及びこのターミナルトランスロケーションによってPCZを通過することが、最終的な神経細胞の“インサイドアウト”様式での細胞配置に必須であることが示されている<ref name="sekine1" />。また、''dab1''のコンディショナルノックアウトマウスを用い、''in utero''エレクトロポレーションにより一部の細胞で''dab1''をノックアウトした実験では、早生まれの細胞では細胞体トランスロケーションが阻害され、遅生まれの細胞ではターミナルトランスロケーションが阻害されていることが示された<ref><pubmed>21315259</pubmed></ref>。一方、これらの実験では樹状突起形成にも異常が生じる結果が報告されているが、ターミナルトランスロケーションも阻害されていることから、樹状突起形成の[[発達障害]]は二次的な影響との可能性も考えられる。
 [[電気穿孔法|''In utero''エレクトロポレーション]]によって移動神経細胞の''dab1''のノックダウンが行われた結果、神経細胞は脳の表層近くまで移動するが、移動の最終過程であるターミナルトランスロケーションが障害されることがわかった<ref name=dab1KD><pubmed>16467525</pubmed></ref><ref name="sekine1"><pubmed>21697392</pubmed></ref><ref><pubmed>20720102</pubmed></ref>。さらに、Dab1依存的に神経細胞がターミナルトランスロケーションを始める部位は、移動を終えたばかりの未成熟神経細胞が辺縁帯直下で密に集まった領域である[[原皮質帯]] (primitive cortical zone: PCZ) の下端近くであること、及びこのターミナルトランスロケーションによってPCZを通過することが、最終的な神経細胞の“インサイドアウト”様式での細胞配置に必須であることが示されている<ref name="sekine1" />。また、''dab1''のコンディショナルノックアウトマウスを用い、''in utero''エレクトロポレーションにより一部の細胞で''dab1''をノックアウトした実験では、早生まれの細胞では細胞体トランスロケーションが阻害され、遅生まれの細胞ではターミナルトランスロケーションが阻害されていることが示された<ref><pubmed>21315259</pubmed></ref>。一方、これらの実験では[[樹状突起]]形成にも異常が生じる結果が報告されているが、ターミナルトランスロケーションも阻害されていることから、樹状突起形成の発達障害は二次的な影響との可能性も考えられる。


 しかしながら、海馬において生後3日に時期特異的に''dab1''をノックアウトした場合に、樹状突起形成に異常が生じること<ref name=matsuki><pubmed>18477607</pubmed></ref>、''dab1''ノックアウトマウスから得られた神経細胞を培養した場合にも樹状突起の形成に障害が生じること<ref name=Niu><pubmed>14715136</pubmed></ref>等から、dab1には樹状突起形成を促進する働きがあることが示唆されている。  
 しかしながら、海馬において生後3日に時期特異的に''dab1''をノックアウトした場合に、樹状突起形成に異常が生じること<ref name=matsuki><pubmed>18477607</pubmed></ref>、''dab1''ノックアウトマウスから得られた神経細胞を培養した場合にも樹状突起の形成に障害が生じること<ref name=Niu><pubmed>14715136</pubmed></ref>等から、dab1には樹状突起形成を促進する働きがあることが示唆されている。  


[[Image:Dab1 signaling pathway4.png|thumb|400px|<b>図3.大脳新皮質層形成時におけるDab1を介するシグナル伝達系の模式図</b><br>主にカハールレチウス細胞から分泌されたリーリンは移動神経細胞に発現するApoER2やVLDLRに結合し、FynあるいはSrc等のSrcファミリーチロシンキナーゼの活性化により、Dab1をリン酸化する。リン酸化されたDab1にはPI3K, SOCS3, Nck&beta;, Crk等が結合する。Crkの下流でC3GがRap1をGDP結合型からGTP結合型に変換し、活性化されたRap1はインテグリン&alpha;5&beta;1の活性を制御すると考えられている(青線で示された経路)。一方、N-カドヘリンについては、少なくとも脳室下帯〜中間帯においては他のGEFを介したRap1の活性化によって機能制御を受けている可能性が示唆されている(緑線の経路)。NotchとDab1の結合にDab1のリン酸化が必要かは明らかになっていない。]]
[[Image:Dab1 signaling pathway4.png|thumb|400px|<b>図3.大脳新皮質層形成時におけるDab1を介するシグナル伝達系の模式図</b><br>主にカハール・レチウス細胞から分泌されたリーリンは移動神経細胞に発現するApoER2やVLDLRに結合し、FynあるいはSrc等のSrcファミリーチロシンキナーゼの活性化により、Dab1をリン酸化する。リン酸化されたDab1には[[ホスファチジルイノシトール-3キナーゼ]] ([[PI3K]]), [[サイトカインシグナル抑制因子3]] ([[SOCS3]]), [[Nckアダプタータンパク質2]] ([[NCK2]]、[[Nck&beta;]]), [[Crk]]等が結合する。[[アダプター分子Crk]]の下流で[[Rapグアニンヌクレオチド交換因子1]] ([[RAPGEF1]], [[C3G]])がRap1をGDP結合型からGTP結合型に変換し、活性化されたRap1はインテグリン&alpha;5&beta;1の活性を制御すると考えられている(青線で示された経路)。一方、N-カドヘリンについては、少なくとも脳室下帯〜中間帯においては他の[[グアニンヌクレオチド交換因子]] ([[GEF]])を介したRap1の活性化によって機能制御を受けている可能性が示唆されている(緑線の経路)。[[Notch]]とDab1の結合にDab1のリン酸化が必要かは明らかになっていない。]]


===シグナル伝達機構===
===シグナル伝達機構===


 Dab1が神経細胞移動を制御する分子メカニズムについては、チロシンリン酸化Dab1に結合する分子を中心に解析が進められて来ている。現在までに[[Phosphoinositide 3-kinase]] ([[PI3K]])<ref><pubmed>12882964</pubmed></ref>、[[SOCS3]]<ref><pubmed>17974915</pubmed></ref>、[[NCKβ]]<ref><pubmed>14517291</pubmed></ref>、[[Lis1]]<ref><pubmed>14578885</pubmed></ref>、[[Src family kinase]]<ref name=Howell_EMBO /><ref name=feng />、[[Crkファミリータンパク質]](Crk、CrkL)<ref name="crk"><pubmed>15062102</pubmed></ref><ref><pubmed>15316068</pubmed></ref><ref><pubmed>15110774</pubmed></ref>がDab1のチロシンリン酸化依存的に結合することが報告されている。
 Dab1が神経細胞移動を制御する分子メカニズムについては、チロシンリン酸化Dab1に結合する分子を中心に解析が進められて来ている。現在までに[[ホスファチジルイノシトール-3キナーゼ]] ([[PI3K]])<ref><pubmed>12882964</pubmed></ref>、 [[サイトカインシグナル抑制因子3]] ([[SOCS3]])<ref><pubmed>17974915</pubmed></ref>、[[Nckアダプタータンパク質2]] ([[NCK2]]、[[NCKβ]])<ref><pubmed>14517291</pubmed></ref>、[[血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ]] ([[PAFAH1B1]], [[Lis1]])<ref><pubmed>14578885</pubmed></ref>、Srcファミリーキナーゼ<ref name=Howell_EMBO /><ref name=feng />、[[アダプター分子Crk]]ファミリータンパク質([[Crk]]、[[CrkL]]<ref name="crk"><pubmed>15062102</pubmed></ref><ref><pubmed>15316068</pubmed></ref><ref><pubmed>15110774</pubmed></ref>がDab1のチロシンリン酸化依存的に結合することが報告されている。


このうち''crk''と''crkl''のダブルノックアウトマウス<ref name="crk_crkl_dKO"><pubmed>19074029</pubmed></ref>、及び''src''と''fyn''のダブルノックアウトマウス<ref><pubmed>16162939</pubmed></ref>においてはリーラーフェノタイプ様の異常が生じること、Crk/Crklの結合分子
 このうち''crk''と''crkl''のダブルノックアウトマウス<ref name="crk_crkl_dKO"><pubmed>19074029</pubmed></ref>、及び''src''と''fyn''のダブルノックアウトマウス<ref><pubmed>16162939</pubmed></ref>においてはリーラーフェノタイプ様の異常が生じること、Crk/Crklの結合分子[[Rapグアニンヌクレオチド交換因子1]] ([[RAPGEF1]], [[C3G]])のジーントラップ系統マウスでリーラーフェノタイプが観察されること<ref><pubmed>18506028</pubmed></ref>等から、その下流分子として[[Rap1]]が注目された。Rap1は[[Rasファミリー]]に属する[[低分子量Gタンパク質]]で、[[カドヘリン]]やインテグリンを介して細胞接着を制御する重要な分子であり、リーリンにより活性化されることが報告されている<ref name="crk" />。
''c3g''のジーントラップ系統マウスでリーラーフェノタイプが観察されること<ref><pubmed>18506028</pubmed></ref>等から、その下流分子として[[Rap1]]が注目された。Rap1は[[Rasファミリー]]に属する[[低分子量Gタンパク質]]で、[[カドヘリン]]やインテグリンを介して細胞接着を制御する重要な分子であり、リーリンにより活性化されることが報告されている<ref name="crk" />。


 最近の研究では、早生まれ(マウス胎生12.5日)の神経細胞の''dab1''をノックアウトした場合、あるいは、Rap1を不活性化するGTPase活性化タンパク質(GTPase-activating protein, GAP)であるRap1GAPを強制発現させた場合、いずれも移動(この時期の移動様式は主に細胞体トランスロケーションと考えられている)が障害されること、Rap1GAPによる移動障害がN-カドヘリンの強制発現によりレスキューされること等から、リーリン-Dab1シグナルはRap1によるN-カドヘリンの活性化を介して、細胞体トランスロケーションの過程に関与している可能性が示唆されている<ref name=santos><pubmed>21315259</pubmed></ref>。ただし、''dab1''の変異マウスにN-カドヘリンを導入するのみでは移動障害がレスキューされないことから、N-カドヘリン以外の分子も必要であることが示されている<ref name=santos />。
 最近の研究では、早期に分化した(マウス胎生12.5日)の神経細胞の''dab1''をノックアウトした場合、あるいは、Rap1を不活性化する[[GTPアーゼ活性化タンパク質]]([[GTPase-activating protein]], [[GAP]])である[[Rap1GAP]]を強制発現させた場合、いずれも移動(この時期の移動様式は主に細胞体トランスロケーションと考えられている)が障害されること、Rap1GAPによる移動障害がN-カドヘリンの強制発現によりレスキューされること等から、リーリン-Dab1シグナルはRap1によるN-カドヘリンの活性化を介して、細胞体トランスロケーションの過程に関与している可能性が示唆されている<ref name=santos><pubmed>21315259</pubmed></ref>。ただし、''dab1''の変異マウスにN-カドヘリンを導入するのみでは移動障害がレスキューされないことから、N-カドヘリン以外の分子も必要であることが示されている<ref name=santos />。


 また、Rap1GAPを遅生まれ(マウス胎生14.5日)の神経細胞に強制発現した場合、多極性移動からロコモーションへの変換が障害され、この障害がN-カドヘリンの強制発現によりレスキューされること。また、細胞内ドメインを欠いたVLDLRを強制発現すると、同様に多極性移動からロコモーションへの変換が阻害され、この異常は恒常的活性化型Rap1により部分的にレスキューされること等から、Reelin-Dab1シグナルは、遅生まれの神経細胞に対しては、Rap1-N-カドヘリン経路を介して多極性移動からロコモーションへの変換を促進していることが示唆された<ref><pubmed>21516100</pubmed></ref>。しかしながら、''dab1''のコンディショナルノックアウトマウスを用いた解析では、多極性移動からロコモーションの過程は障害されないとの報告<ref name=santos />もあり、Reelin-Dab1シグナルの多極性移動からロコモーションへの変換への関与については更なる検証が必要であると思われる。
 また、Rap1GAPを遅生まれ(マウス胎生14.5日)の神経細胞に強制発現した場合、多極性移動からロコモーションへの変換が障害され、この障害がN-カドヘリンの強制発現によりレスキューされること。また、細胞内ドメインを欠いたVLDLRを強制発現すると、同様に多極性移動からロコモーションへの変換が阻害され、この異常は恒常的活性化型Rap1により部分的にレスキューされること等から、リーリン-Dab1シグナルは、後期に分化する神経細胞に対しては、Rap1-N-カドヘリン経路を介して多極性移動からロコモーションへの変換を促進していることが示唆された<ref><pubmed>21516100</pubmed></ref>。しかしながら、''dab1''の[[コンディショナルノックアウトマウス]]を用いた解析では、多極性移動からロコモーションの過程は障害されないとの報告<ref name=santos />もあり、リーリン-Dab1シグナルの多極性移動からロコモーションへの変換への関与については更なる検証が必要であると思われる。


 これらの実験結果では、遅生まれの神経細胞が脳表面近くで行うターミナルトランスロケーションに関してReelinシグナルがどのように関与しているかは不明であったが、リーリン受容体や''dab1''のノックダウンによって生じるターミナルトランスロケーション異常と同様の異常が、インテグリンα5やβ1のノックダウンでも見られることや、脳表層で見られるインテグリンβ1の活性化がリーラーマウスでは見られないこと、リーリン刺激によってインテグリンα5β1が活性化しそのリガンドであるフィブロネクチンへの神経細胞の接着が促進されること等から、リーリン-Dab1シグナルが、Crk/CrkL-C3G(下記)-Rap1経路を介してインテグリンα5β1を細胞内から活性化し、ターミナルトランスロケーションを制御していることが示された<ref name=sekine2><pubmed>23083738</pubmed></ref>。一方でインテグリンβ1のノックアウトマウス<ref><pubmed>11516395</pubmed></ref>やコンディショナルノックアウトマウス<ref><pubmed>18077697</pubmed></ref>では神経細胞の移動過程には大きな異常がないことが示されていることから、何らかの分子がターミナルトランスロケーションに関して補償的に働きうる可能性が示唆されている<ref name=sekine2 />。
 これらの実験結果では、後期に分化する神経細胞が脳表面近くで行うターミナルトランスロケーションに関してリーリンシグナルがどのように関与しているかは不明であったが、リーリン受容体や''dab1''のノックダウンによって生じるターミナルトランスロケーション異常と同様の異常が、インテグリンα5やβ1のノックダウンでも見られることや、脳表層で見られるインテグリンβ1の活性化がリーラーマウスでは見られないこと、リーリン刺激によってインテグリンα5β1が活性化しそのリガンドである[[フィブロネクチン]]への神経細胞の接着が促進されること等から、リーリン-Dab1シグナルが、Crk/CrkL-C3G(下記)-Rap1経路を介してインテグリンα5β1を細胞内から活性化し、ターミナルトランスロケーションを制御していることが示された<ref name=sekine2><pubmed>23083738</pubmed></ref>。一方でインテグリンβ1のノックアウトマウス<ref><pubmed>11516395</pubmed></ref>やコンディショナルノックアウトマウス<ref><pubmed>18077697</pubmed></ref>では神経細胞の移動過程には大きな異常がないことが示されていることから、何らかの分子がターミナルトランスロケーションに関して補償的に働きうる可能性が示唆されている<ref name=sekine2 />。


 また、Rap1のGAPの一つであるSpaIをプロモーター活性の強さの異なるベクターで強制発現した場合、弱いプロモーターで発現させた場合はターミナルトランスロケーションが障害され、強いプロモーターで発現させた場合では多極性移動からロコモーションへの変換が障害されて中間帯深部に細胞が蓄積していた。この結果より、Rap1には中間帯深部での移動と、ターミナルトランスロケーションという二つの異なる移動過程に関わっている可能性が示唆された<ref name=sekine2 />。さらに、Rap1の活性化を担うグアニンヌクレオチド交換因子(guanine nucleotide exchange factor、GEF)であるC3Gのドミナントネガティブ変異体(dominant negative mutant)を強制発現させた場合、ロコモーションへの変換はほとんど阻害されず、ターミナルトランスロケーションが主に障害されていた。これらの実験結果より、N-カドヘリンが関わる多極性移動からロコモーションへの変換過程では、Rap1はC3G以外のGEFにより活性化され、ターミナルトランスロケーションの過程ではC3Gにより活性化される可能性が示唆されている<ref name=sekine2 />。
 また、Rap1のGAPの一つである[[Spa-I]](編集コメント:議論をご参照下さい)を[[プロモーター]]活性の強さの異なる[[ベクター]]で強制発現した場合、弱いプロモーターで発現させた場合はターミナルトランスロケーションが障害され、強いプロモーターで発現させた場合では多極性移動からロコモーションへの変換が障害されて中間帯深部に細胞が蓄積していた。この結果より、Rap1には中間帯深部での移動と、ターミナルトランスロケーションという二つの異なる移動過程に関わっている可能性が示唆された<ref name=sekine2 />。さらに、Rap1の活性化を担うグアニンヌクレオチド交換因子(guanine nucleotide exchange factor、GEF)であるC3Gのドミナントネガティブ変異体(dominant negative mutant)を強制発現させた場合、ロコモーションへの変換はほとんど阻害されず、ターミナルトランスロケーションが主に障害されていた。これらの実験結果より、N-カドヘリンが関わる多極性移動からロコモーションへの変換過程では、Rap1はC3G以外のGEFにより活性化され、ターミナルトランスロケーションの過程ではC3Gにより活性化される可能性が示唆されている<ref name=sekine2 />。


 さらに、Dab1のチロシンリン酸化非依存的にDab1に結合する分子として、[[Notch]]<ref name="notch"><pubmed>18957219</pubmed></ref>、[[Dab2IP]]<ref><pubmed>12877983</pubmed></ref>、[[N-WASP]]<ref><pubmed>15361067</pubmed></ref>が知られている。特にNotchについては、その活性化型フォームをリーラーマウスの移動神経細胞に導入した場合に神経細胞の移動をほぼ完全にレスキューすることから、リーリン-Dab1シグナルにおいて何らかの重要な役割を果たしていることが考えられるが、その作用メカニズムは不明である<ref name="notch" />。
 さらに、Dab1のチロシンリン酸化非依存的にDab1に結合する分子として、[[Notch]]<ref name="notch"><pubmed>18957219</pubmed></ref>、[[Dab2IP]]<ref><pubmed>12877983</pubmed></ref>、[[N-WASP]]<ref><pubmed>15361067</pubmed></ref>が知られている。特にNotchについては、その活性化型フォームをリーラーマウスの移動神経細胞に導入した場合に神経細胞の移動をほぼ完全にレスキューすることから、リーリン-Dab1シグナルにおいて何らかの重要な役割を果たしていることが考えられるが、その作用メカニズムは不明である<ref name="notch" />。
 制約上、引用出来なかった多くの関連論文があることを最後に付記してお詫び致します。


== 関連項目==
== 関連項目==
148行目: 145行目:
*[[ApoER2]]
*[[ApoER2]]
*[[VLDLR]]  
*[[VLDLR]]  
*[[Rap1]]
*[[辺縁帯]]
*[[エレベーター運動]]


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==
<references />
<references />

案内メニュー