英語名:amnestic syndrome 独:amnestische Syndrome 仏:syndrome amnestique

 健忘症候群とは、新しい情報を獲得したり保持することの障害で、他の認知機能が比較的保たれている状態を表す[1]。より広義には過去の記憶の想起の障害をも含んだ、記憶障害を主症状とする症候全般を表す。健忘は、認知症高次脳機能障害の主要症状で、患者の生活の質(quality of daily life, QOL)を下げ介護を困難にする大きな要因である。本稿では、最初に記憶の分類と神経機構について述べ、次いで健忘症候群に含まれる主な疾患を解説する。

症例と機能解剖

記憶に関する歴史的症例

 
図1.Papez回路(青・赤矢印)とYakovlev回路(緑矢印)
A:視床前核, CA:固有海馬, D:歯状回, MB:乳頭体, PM:視床背内側核。Nolte J. eds. The Human Brain. An introduction to its functional anatomy. Figure 24-20 を改変。
 
図2.アセチルコリン神経系の分布
(佐藤 2012[2]を引用)

1:内側中隔核(Ch1) 2:ブローカ対角帯・背側部(Ch2) 3:ブローカ対角帯・腹側部(Ch3) 4:マイネルト基底核(Ch4) 5:海馬 6:扁桃体 7:嗅神経 8:脳梁 9:脳弓 10:帯状回 11:前頭葉 12:頭頂葉 13:後頭葉

患者HM

 Brocaによるタン氏の報告に代表されるように、神経心理学ではある一人の患者の存在が学問を大きく進展させることがある。記憶についても同様で、二人の患者なかでもHMの脳損傷とその結果現れた症状により、ヒトの記憶のメカニズムの研究がおおいに進んだ。

 HM(名はヘンリー)は、10歳のころからてんかん小発作が頻発するようになり、16歳からは大発作へと移行した。神経学的所見は正常。脳波で両側側頭葉に2~3Hzのspike & wave complexを認めた。薬物治療の効果のない難治性てんかんと診断され、1953年25歳時に両側側頭葉切除術を受けた。その結果、てんかん発作は消失したが重度の記憶障害を呈するようになった。HMは、手術を受けてからの記憶はまったくなく、主治医も担当ナースも毎朝会う時は“初対面の人”であった。新しいものごとについては、7秒間だけ覚えていることができた。手術前1~2年の記憶は曖昧で、2年以上前の記憶は正常に保たれていた。鏡像模写などの新しい技能については、毎日の訓練により上達がみられるが、練習したこと自体は覚えていなかった。HMは、自分が容易に課題をこなしてしまうので「なんでこんなに上手くできるのだ?」と驚いた。後年の脳MRI検査により、両側の側頭葉内側の先端部、扁桃体嗅内野(海馬傍回前部)の大部分、海馬の前半分が切除されていることが明らかになった[3]

 HMは学用患者として現在も米国の某大学内で居住しており、半世紀を経た現在でも数年に一度、彼に関する論文が発表されている(2008年に亡くなりました)。現在も症状に変化はない。HMに鏡を見せると、映った自分の顔に驚愕する。なぜならHMの記憶に貯えられている自分の顔は、25歳時の顔だからだ。鏡が見ている人の容貌を映すということは知っているので、「この老人は誰だ!いったいどうなっているのだ!」と現在の自分の姿に非常なショックを受ける。しかし、鏡を取り除いて10分もするとHMは、さっきあれほどショックを受けたこと自体を覚えていない。

 HMの症状の詳細は、数年間にわたって彼を観察・取材した結果であるルポルタージュ[4]に詳しい。HMの所見から、記憶には7秒くらいしか続かない短いものと、数年以上の長期間にわたって保持される長いものの最低でも2種類あること、記憶には両側側頭葉の内側部、特に海馬が重要であること、技能はそのほかの記憶とは異なる機序で脳内に蓄えられることが明らかになった。    

患者NA

 記憶に関係する部位は海馬だけではない。1960年22歳のNAは、フェンシングのサーベルが右鼻孔から脳まで突き刺さるという傷を負った。その後NAは、日々の出来事を記憶することができなくなった。言語性記憶の方が非言語性よりも障害が強かった。1960年以前の事柄は思いだせ、IQは124あった。頭部CTの結果、サーベルは右鼻孔から入り篩骨洞を経て中心線を超え、前頭眼窩皮質さらには脳梁吻、左側脳室前核線条体を通り、最終的に視床背内側核に至ったと考えられた[5]。脳弓や乳頭体も障害されている可能性があるが、著者はNAの記憶障害の主たる責任病巣を視床背内側核としている。NAの結果から、海馬以外の皮質下構造物の障害によっても記憶障害が生じること、障害の半球差により言語性/非言語性記憶障害の間に乖離が生じ得ることが明らかになった。

記憶回路:PapezとYakovlev

 記憶を担う重要な神経回路としてPapez回路Yakovlev回路が知られている(図1)。Papez回路は、海馬脳弓(fornix)→乳頭体(mamillary body)→乳頭体視床路(mamillothalamic tract)→視床前核(anterior thalamic nucleus)→帯状回(cingulate gyrus, Brodmann 24野)→→海馬という閉鎖回路を形成している。

 Yakovlev回路は、側頭葉皮質前部(Brodmann 38野)→扁桃体(amygdale)→視床背内側核(dorsomedial thalamic nucleus)→前頭眼窩皮質(frontoorbital cortex)→鉤状束(uncinate fascicle)→側頭葉皮質前部という回路である。上記の患者HM, NAの病巣は、これらの回路を含んでいる。

 記憶に関連する他の脳部位として、前脳基底部がある(図2)。前脳基底部は、マイネルト基底核ブローカ対角帯、内側中隔核からなっており、ともにアセチルコリン神経(ACh)の起始核である。マイネルト基底核からのACh線維は新皮質、扁桃体に、内側中隔核とブローカ対角帯からの線維は海馬に投射しており、アルツハイマー病ではこれらの起始核が脱落している。

記憶の分類

 
図3.時間軸からみた記憶の分類(三村 2012[6]を引用)
 
図4.ワーキングメモリーのモデル
2000年にBaddeleyは、それまでの視空間記銘メモ音韻ループに加え、エピソードバッファを追加し、それぞれ視覚的意味、言語エピソード長期記憶と対応するとした。図で白抜きの部分は注意や記憶の一時的な保持と関係している(Baddeley[7]を訳)。
 
図5.内容による記憶の分類

時間の流れからみた記憶の分類

 記憶の分類として、記憶の時間的流れからみた分類と、記憶の内容から見た分類がある。記憶の脳内過程として、記銘(encoding)、保持(storage)、想起(retrieval)が考えられている。時間的流れによる分類では、現在からみたある事象が保持されている長さ、あるいは発症時点を中心として記憶障害の及ぶ時間により分けられる(図3)。遠隔記憶(remote memory)は、数週から何十年にも及ぶ、ほぼ永久的に保持される記憶を指す。近時記憶(recent memory)は数日から数時間、即時記憶(immediate memory)は数十秒以内の記憶を表す。近時記憶は、健常人でも急速に忘却が進む記憶であり、記憶障害の患者ではさらに顕著となる。即時記憶には容量制限があり、数列や無意味な文字列ならばほぼ7個(±2)である。この特性はマジカルナンバー7といわれ[8]、記憶障害の患者でも保たれることが多い。心理学では、即時記憶を短期記憶(short-term memory)、近時記憶と遠隔記憶を合わせて長期記憶(long-term memory)と呼ぶ。

 ワーキングメモリーは、時間的区分では短期記憶から近時記憶の一部を含む。われわれは日常生活で、情報を単に保持するのではなく、保持した情報にいろいろな処理を加える。もっとも単純な例は繰り上がりのある計算である。15+17を行う時、まず一の位の5+7=12を行い、十の位への繰り上がりを記憶しつつ十の位の1+1=2を行い、さらにそこに繰り上がった分の1を加え3を導く。あるいは会話などでも、直前の話の内容を記憶しそれに基づいて自分の話を組み立てる。このようにワーキングメモリーとは、記憶と情報処理機能を併せ持った概念である。

 ワーキングメモリーのモデルとして、Baddely[7]のモデルが有名である(図4)。音韻ループは、会話や文章の理解などの際に言語的な情報を一時的に保持するものである。視空間記銘メモは、視覚イメージなど言語化できない情報を一時的に保持するもので、黒板やホワイトボードに譬えられる。中央実行系とは、音韻ループと視空間記銘メモの活動を調整し、仕事を割り振り、情報の流れを統御する。2000年に新たに加えられたエピソードバッファは、音韻ループや視空間記銘メモの情報を統合したり、意味に関する情報を担うとともに、長期記憶へのアクセスを可能とする。

 1990年代以降に盛んになった脳賦活化実験の結果から、ワーキングメモリー、なかでも中央実行系には、前頭前野(Brodmann 9,10,46野)の関与が想定されている。ワーキングメモリー仮説は、記憶が単に事物を保存するための容れ物ではなく、注意や意識などを含むダイナミックな活動であることに研究者の目を向けさせた。しかし、Bladdeleyのモデルでは短期記憶が障害されているにも関らず長期記憶は保たれている症例の存在を説明できない。また、複雑なヒトの認知メカニズムをこのモデルだけで解釈するのは不可能である。現在のところ、ワーキングメモリーは機能的観念の域を超えてはいない。

 これまで述べてきた記憶はすべて、過去の事柄に関する記憶である。しかし、われわれの日常生活では「この原稿の締め切りは3月末だ」というように、未来に起こる事象について憶えていることが求められる。これを展望記憶という。3月末の締め切りという知識・情報を保持し続けるという意味で、記憶の一種と解釈される。展望記憶には実行機能が関与すると考えられる。

 神経心理学では、脳損傷や発症を起点とした時間的流れにより、記憶障害を分類することがある。前向性健忘は受傷・発症以降に生じた出来事を記憶できなくなること、逆行性健忘は受傷・発症前の出来事を想起できなくなることを表す。記憶障害の患者は一般に両者を合併している。逆行性健忘の及ぶ時間的幅は、数分にとどまることもあれば数十年にも及ぶこともあり、症例により異なる。受傷・発症に近い出来事ほど忘却されやすく、遠いものほど保たれる傾向がある。これを記憶の時間的勾配と呼ぶ。

内容による記憶の分類

 自分の経験として思い出すことのできる記憶を顕在記憶(explicit memory)、そうでないものを潜在記憶(implicit memory)とよぶ。エピソード記憶(episodic memory)とは、特定の時と場所で学習された記憶で、いつ、どこで、何をしたか・何があったかという個人史・社会的記憶のことである。その記憶や知識を有していることを本人が意識し、意図的にアクセスすることができるため、顕在記憶に属する。

 意味記憶(semantic memory)は、単語や数字、物事の概念など一般的な知識に関する記憶である。エピソード記憶は“覚えている”という状態であるのに対し、意味記憶は“知っている”という表現に相当する。エピソード記憶と意味記憶は、本人が何らかの形で言葉やイメージで表すことができるため、両者を合わせて陳述記憶(declarative memory, 宣言的記憶ともいう)と呼ぶ。

 手続き記憶(procedural memory)は、いわゆる技能に該当する記憶で、“体で覚えている”と例えられるものである。

 プライミング(priming)とは、ある課題の遂行がその後に行われる類似の課題の遂行に促進効果を持つという、心理学実験上の事象を表す。もっとも単純な例は、「あきたけん」という言葉を見せた後に「あ○○けん」の○○に語を入れる課題を行うと、「あ○き○たけん」という返答が「あ○い○ちけん」よりも有意に多くなる。プライミングの効果は一般に2時間で消失する。

 古典的条件付け(classical conditioning)とは、パブロフの犬に代表される記憶に基づく生理反応である。

 手続き記憶、プライミング、古典的条件付けは、言葉やイメージで表すことができないため非陳述記憶(non-declarative memory, 非宣言的記憶)と呼ばれる。またこれら3つと意味記憶は、それらを有していることを本人は自覚できないため潜在記憶に属している。]]

 健忘患者では一般に、エピソード記憶の障害が目立つが、潜在記憶の障害は目立たない。特に手続き記憶は、重度の健忘患者でも保たれている。神経変性疾患のなかには、初期に意味記憶だけが顕著に障害されることがあり、意味性認知症(semantic dementia)と総称される。手続き記憶には、小脳大脳基底核が関与しており、パーキンソン病脊髄小脳変性症ハンチントン病などで低下すると報告されている[9]

健忘症候群を来す主な疾患

 損傷された脳の部位や病変の大きさ、原因疾患により臨床症状はさまざまである(表1)。一般に損傷が優位半球(左半球)の場合は言語性記憶、劣位半球(右半球)の場合は視覚性記憶の障害が優勢となる。また、前脳基底部の障害による健忘と、それ以外の部位すなわち側頭葉や、乳頭体や視床などを含む間脳の障害による健忘のあいだに、質的相違を認めたとする報告もある[10]。Damasio [11]は、前脳基底部の損傷による健忘の特徴として、

  1. 名前や顔などの個別の情報は覚えられるが、それらの統合ができない。
  2. 刺激を時間的に正しく配列して記銘することができず、仮にできたとしても適切に想起することができない。
  3. 再生課題の成績が手がかり・ヒントによりかなり改善する。

 としている。前脳基底部から脳内に広く投射するアセチルコリン神経の障害による健忘と、PapezやYakovlevの閉鎖回路の断絶により生じた健忘という機序の違いを鑑みると、両者の健忘に質的相違が存在することは十分考えられる。しかし、両者に特別な違いはないとする報告もあり[12]、さらなる検討を要する。

 以下、主な疾患について説明する。

表1. 健忘症候群と主な症状 (Cummings[13]を訳)

症候群 臨床症状
ウェルニッケ-コルサコフ症候群 眼振失調末梢神経障害ビタミンB1欠乏(アルコール多飲)
側頭葉切除術後 対側の上四分盲、手術の既往
頭部外傷 前頭葉機能障害、外傷の既往
海馬梗塞 同側の同名半盲、両側性病変の際は皮質盲
視床梗塞/出血 突然発症、血管性危険因子の存在
無酸素脳症 心停止、呼吸停止の既往
ヘルペス脳炎 クリューバー-ビューシー症候群失語けいれん
腫瘍 同名半盲片麻痺頭痛
前脳基底部損傷(前交通動脈瘤破裂) 性格変化、尿崩症、低体温
初期のアルツハイマー病 高齢者での緩徐進行性の健忘
電気けいれん療法 うつと電気けいれん療法の既往
一過性全健忘 血管性機序
低血糖 インスリン過量投与
心因性健忘 自分が誰か分からない

ウェルニッケ-コルサコフ症候群(Wernicke-Korsakoff syndrome)

 間脳性の健忘の代表。ビタミンB1欠乏により、乳頭体や脳弓、視床に変性が生じ、Papez, Yakovlevの両回路が遮断されることにより健忘を生じる。意識障害、眼球運動障害、失調を示すウェルニッケ脳症が生じ、意識障害から回復してくるとコルサコフ症候群としての記憶障害が顕在化してくる[6]見当識障害、前向性健忘、逆行性健忘、作話が特徴で、以前はアルコール多飲者の栄養不良が代表的原因とされた。今日では栄養状態の良くない患者にビタミンB1を含まないブドウ輸液の点滴を行ったことによる医原性もしばしばみられる。“ビタミンB1の補充が1時間遅れると、患者の回復は1日遅れる”と言われるほど、いかにこの疾患を疑いいち早くビタミンを補充するかが、患者の予後を大きく左右する。

視床梗塞/出血

 視床は脳梗塞脳出血の好発部位で、その障害によって生じた健忘を視床性健忘という。視床は、血管性認知症のstrategic infarctionの責任病巣の一つで、脳底動脈の遠位部が閉塞すると両側視床が一度に障害され覚醒度の障害、健忘、眼球運動障害を呈する(Top of the basilar syndrome)。視床性健忘は普通、エピソード記憶の障害に限られ、意味記憶や手続き記憶は保たれる。前向性健忘が主体であるが、逆行性健忘も伴うこともある。側頭葉障害での健忘と視床性健忘とでは、前向性健忘の性質が異なるとされる[14]。すなわち、側頭葉障害の場合には記憶の貯蔵が障害され早い忘却率を示すのに対し、視床性健忘では時間をかけるとかなりの程度まで記憶が可能で忘却率も低いが、記憶した内容の時間的・空間的な文脈が障害される。これは視床性健忘では、記憶の符号化や記銘が主として障害されるのに対し、想起は比較的保たれていることを示唆する。

ヘルペス脳炎

 単純ヘルペスウイルス(HSV)による脳炎で、成人発症の脳炎の約20%を占め、1型(HSV-1)が大部分である。HSV-1は、空気や唾液の接触で伝播し、初感染の後は三叉神経節に潜伏する。何年も後に再活性化し口唇ヘルペスを生じ、三叉神経を介して脳底部の髄膜に到達し、側頭葉や前頭葉眼窩面で脳炎を起こす。HSV-1による脳炎の25%は、初回の直接感染で生じる。動物実験の結果から、嗅神経を介して感染し前頭葉眼窩面や側頭葉に到達すると考えられている。急性に発熱、頭痛、意識障害が進行し、後遺症を残すこともある。クリューバー-ビューシー症候群(Klüver-Bucy syndrome)は両側側頭葉前部を切除されたサルの動物実験での行動異常として報告されたが、ヘルペス脳炎でも認めることがある。口唇傾向、馴化、視覚失認、性欲亢進、異食などを呈し、ヒトの場合特に前二者が目立つことが多い。

前脳基底部損傷(前交通動脈瘤破裂)

 前交通動脈は、前脳基底部のすぐ下に位置する。前交通動脈瘤は、脳動脈瘤の約30%を占め、破裂するとしばしば前脳基底部を損傷し、後遺症として健忘を来す。出血による直接損傷の他に、動脈瘤のクリッピングにより同部を灌流する枝が閉塞されることもあるという[15]

初期のアルツハイマー病

 アルツハイマー病(Alzheimer's disease, AD)では、初期から前脳基底部のコリン作動性線維の起始核が変性・脱落する。健忘で発症することが多く、経過とともに他の認知機能障害が加わる。ADの症状に脳内のアセチルコリン濃度の低下が関与するとする仮説があり(コリン仮説)、臨床的にもアセチルコリンの分解を阻害する薬物によりADの認知機能の改善が得られている。詳細はADの章を参照していただきたい。

一過性全健忘(Transient global amnesia, TGA)

 一過性全健忘(TGA)とは、一過性に強い前向性健忘と、さまざまな程度の逆行性健忘を生じる病態で、通常は24時間以内に元通りになる。発作の間の記憶は戻らないこともある。患者は一見正常に活動しているように見えるが、当惑し同じ質問を何度もする。“何かいつもと違う状態が自分に生じている”という病識はある。原因は不明であるが海馬の一過性虚血、てんかん、静脈灌流異常などの可能性が指摘されている。

まとめ

 記憶障害の研究に一大転機をもたらした症例HMに始まり、記憶の機能解剖、分類、そして健忘症候群に属するいくつかの疾患について解説した。健忘は認知症の主症状であり、超高齢者社会を迎えるわが国おいて、医療面・社会面・経済面のいずれにおいても重要性が増している。記憶のメカニズムを明らかにすることにより、治療法やリハビリ、代替手段の開発に役立つと期待される。

参考文献

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(執筆者:佐藤正之、冨本秀和 編集委員:高橋良輔)