「神経型PASドメインタンパク質」の版間の差分

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[[ファイル:Tsuboi NPAS Fig3.png|サムネイル|'''図3. 健常時と損傷時の脳におけるNPAS4の役割'''<br>健常時にNPAS4は、興奮性ニューロンでの標的遺伝子(BDNFなど)を活性化させて、抑制性シナプスの数を増加させることで、回路全体の活動を低下させる一方、抑制性ニューロンでの標的遺伝子(MDM2など)を不活性化させて、シナプス形成を促進しGABAの放出を増加させることで、回路全体の活動を低下させるという、恒常的な可塑性を維持する役割を果たす。<br>
[[ファイル:Tsuboi NPAS Fig3.png|サムネイル|'''図3. 健常時と損傷時の脳におけるNPAS4の役割'''<br>健常時にNPAS4は、興奮性ニューロンでの標的遺伝子(BDNFなど)を活性化させて、抑制性シナプスの数を増加させることで、回路全体の活動を低下させる一方、抑制性ニューロンでの標的遺伝子(MDM2など)を不活性化させて、シナプス形成を促進しGABAの放出を増加させることで、回路全体の活動を低下させるという、恒常的な可塑性を維持する役割を果たす。<br>
脳梗塞時にNpas4は、興奮性ニューロンでの標的遺伝子(GEMなど)を活性化させて、[[L型電位依存性カルシウムチャネル]]の細胞膜への局在をブロックすることで、細胞内へのCa<sup>2+</sup>流入を減少させ、神経細胞死を抑制するという神経保護の役割を果たす。]]
脳梗塞時にNpas4は、興奮性ニューロンでの標的遺伝子(GEMなど)を活性化させて、[[L型電位依存性カルシウムチャネル]]の細胞膜への局在をブロックすることで、細胞内へのCa<sup>2+</sup>流入を減少させ、神経細胞死を抑制するという神経保護の役割を果たす。]]
[[ファイル:Tsuboi NPAS Fig4.png|サムネイル|'''図4. 神経活動依存的なDNA切断とその修復におけるNPAS4の役割'''<br>Fos, Npas4, Egr1などの最初期遺伝子(immediately early gene: IEG)のプロモーターでは、感覚刺激によりtopoisomerase IIβ(TOP2B)を介してDNA二本鎖切断(double-strand break: DSB)が形成される。マウス海馬ニューロンをカイニン酸で刺激した2時間後に観察されるDSB部位の大部分(69%)は、NPAS4/ARNTヘテロダイマーが最も多く結合しているNpas4遺伝子座と重なっていた(Pollina et al. 2023)。NPAS4/ARNTとNuA4(lysine acetyltransferaseのTIP60を含む)の複合体は、神経活動により生じた二本鎖切断を、DSB修復タンパク質MRE1とRAD50をリクルートすることにより修復する。尚、Npas4プロモーターは感覚刺激により二本鎖切断を受けるが、NPAS4結合部位を含んでいるので、神経活動により誘導されたDSBをNPAS4がフィードバック制御していることになる(Delint-Ramirez I & Madabhushi R.(2023)の図を改変)。]]
[[ファイル:Tsuboi NPAS Fig4.png|サムネイル|'''図4. 神経活動依存的なDNA切断とその修復におけるNPAS4の役割'''<br>文献<ref name=Delint-Ramirez2023><pubmed>37084713</pubmed></ref>(Delint-Ramirez I & Madabhushi R.(2023)の図を改変)。]]
== 機能 ==
== 機能 ==
 [[転写調節因子]]としての機能を通じて、個体レベルでの多様な生理現象に関与する。
 [[転写調節因子]]としての機能を通じて、個体レベルでの多様な生理現象に関与する。
=== 分子レベル ===
=== 転写調節 ===
==== 転写調節 ====
 最も基本的な分子機能は、転写因子としての役割である。適切なパートナーと安定なヘテロ二量体を形成した後、標的遺伝子の[[プロモーター]]や[[エンハンサー]]領域に存在する[[E-boxコンセンサス配列]](主にCACGTGまたはその周辺配列)に特異的に結合する<ref name=Wu2016><pubmed>noPMID</pubmed></ref><ref name=Sun2022><pubmed>36343253</pubmed></ref>(Wu et al., 2016; Sun et al. 2022)。結合後、C末端領域などを介して[[転写コアクチベーター]](例:[[サイクリックAMP応答因子結合タンパク質]] ([[cyclic AMP response element-binding protein]], [[CBP]]/[[p300]])、[[ヒストンアセチル基転移酵素]] ([[HAT]]]]、[[steroid receptor coactivator 1]] ([[SRC-1]])や[[コリプレッサー]](例:ヒストン脱アセチル化酵素 (histon deacetylase, HDAC)、[[nuclear receptor co-repressor]] ([[NCoR]])/[[silencing mediator of retinoic acid and thyroid hormone receptor]] ([[SMRT]]))をリクルートすることにより、標的遺伝子の転写を活性化または抑制する<ref name=Bersten2013><pubmed>24263188</pubmed></ref><ref name=Luoma2018><pubmed>30509165</pubmed></ref>(Bersten et al., 2013; Luoma and Berry, 2018)。どの共役因子をリクルートするかは、NPASメンバーの種類、細胞種、細胞の状態、あるいはプロモーターの文脈によって変化する可能性がある。
 最も基本的な分子機能は、転写因子としての役割である。適切なパートナーと安定なヘテロ二量体を形成した後、標的遺伝子の[[プロモーター]]や[[エンハンサー]]領域に存在する[[E-boxコンセンサス配列]](主にCACGTGまたはその周辺配列)に特異的に結合する<ref name=Wu2016><pubmed>noPMID</pubmed></ref><ref name=Sun2022><pubmed>36343253</pubmed></ref>(Wu et al., 2016; Sun et al. 2022)。結合後、C末端領域などを介して[[転写コアクチベーター]](例:[[サイクリックAMP応答因子結合タンパク質]] ([[cyclic AMP response element-binding protein]], [[CBP]]/[[p300]])、[[ヒストンアセチル基転移酵素]] ([[HAT]]]]、[[steroid receptor coactivator 1]] ([[SRC-1]])や[[コリプレッサー]](例:ヒストン脱アセチル化酵素 (histon deacetylase, HDAC)、[[nuclear receptor co-repressor]] ([[NCoR]])/[[silencing mediator of retinoic acid and thyroid hormone receptor]] ([[SMRT]]))をリクルートすることにより、標的遺伝子の転写を活性化または抑制する<ref name=Bersten2013><pubmed>24263188</pubmed></ref><ref name=Luoma2018><pubmed>30509165</pubmed></ref>(Bersten et al., 2013; Luoma and Berry, 2018)。どの共役因子をリクルートするかは、NPASメンバーの種類、細胞種、細胞の状態、あるいはプロモーターの文脈によって変化する可能性がある。


==== パートナー選択性と標的遺伝子特異性 ====
=== パートナー選択性と標的遺伝子特異性 ===
 NPAS1, 3, 4は[[ARNT]]/[[ARNT2]]と、NPAS2は[[BMAL1]]/[[BMAL2]]とヘテロ二量体を形成するが、それぞれのメンバー間における結合親和性や、認識・結合するE-box配列の微妙な違い、あるいはゲノム上の結合部位(プロモーター vs エンハンサー)の選択性が異なる可能性がある。これが、各NPASメンバーが制御する標的遺伝子群の特異性を生み出す一因となっていると考えられる<ref name=Bersten2013><pubmed>24263188</pubmed></ref><ref name=Wu2016><pubmed>noPMID</pubmed></ref>(Bersten et al., 2014; Wu et al., 2016)。
 NPAS1, 3, 4は[[ARNT]]/[[ARNT2]]と、NPAS2は[[BMAL1]]/[[BMAL2]]とヘテロ二量体を形成するが、それぞれのメンバー間における結合親和性や、認識・結合するE-box配列の微妙な違い、あるいはゲノム上の結合部位(プロモーター vs エンハンサー)の選択性が異なる可能性がある。これが、各NPASメンバーが制御する標的遺伝子群の特異性を生み出す一因となっていると考えられる<ref name=Bersten2013><pubmed>24263188</pubmed></ref><ref name=Wu2016><pubmed>noPMID</pubmed></ref>(Bersten et al., 2014; Wu et al., 2016)。
 
=== 転写共役因子との相互作用 ===
==== リガンド応答性 ====
 NPAS2は[[ヘム]]をリガンドとして結合し、細胞内のガス状分子([[CO]], [[酸素|O<sub>2</sub>]], [[NO]])の濃度変化に応じてその立体構造や転写活性が変化する可能性が示唆されている<ref name=Dioum2002><pubmed>12446832</pubmed></ref><ref name=Gilles-Gonzalez2005><pubmed>15598487</pubmed></ref>(Dioum et al., 2002; Gilles-Gonzalez & Gonzalez, 2005)。これにより、NPAS2は細胞の代謝状態(例:ヘム生合成レベル)やガス環境を感知し、概日リズムや代謝関連遺伝子の発現を調節する役割を担っていると考えられる<ref name=Kitanishi2008><pubmed>18479150</pubmed></ref>(Kitanishi et al., 2008)。NPAS1, 3, 4も、PAS-Bドメイン内にリガンド結合ポケットを有することが構造的に示されており<ref name=Wu2016><pubmed>noPMID</pubmed></ref><ref name=Sun2022><pubmed>36343253</pubmed></ref>(Wu et al., 2016; Sun et al., 2022)('''図2''')、これらのタンパク質は未知の内因性リガンドによって活性が制御されている可能性が考えられる。
==== 転写共役因子との相互作用 ====
 NPASタンパク質のC末端領域は、転写調節に必須なコアクチベーター(例:CBP/p300, HAT)やコリプレッサー(例:HDAC)との相互作用部位を含む<ref name=Luoma2018><pubmed>30509165</pubmed></ref>(Luoma and Berry, 2018)。これらの相互作用を通じて、ヒストンのアセチル化・脱アセチル化などのクロマチン修飾を誘導し、標的遺伝子の転写効率を精密に制御する。
 NPASタンパク質のC末端領域は、転写調節に必須なコアクチベーター(例:CBP/p300, HAT)やコリプレッサー(例:HDAC)との相互作用部位を含む<ref name=Luoma2018><pubmed>30509165</pubmed></ref>(Luoma and Berry, 2018)。これらの相互作用を通じて、ヒストンのアセチル化・脱アセチル化などのクロマチン修飾を誘導し、標的遺伝子の転写効率を精密に制御する。
 
===シグナル伝達経路とのクロストーク ===
====シグナル伝達経路とのクロストーク ====
 NPASファミリーの活動は、他の細胞内シグナル伝達経路と密接に連携している。例えば、NPAS4の発現は神経活動に伴う[[カルシウム]]流入によって厳密に制御されており <ref name=Lin2008><pubmed>18815592</pubmed></ref>(Lin et al., 2008)、[[カルシウム/カルモジュリン依存的タンパク質リン酸化酵素]]や[[転写因子]] ([[cAMP response element-binding protein]] ([[CREB]]), [[myocyte enhancer factor 2]] ([[MEF2]])がNPAS4遺伝子の発現制御に関与している<ref name=Sun2016><pubmed>26987258</pubmed></ref>(Sun and Lin, 2016)。また、NPAS2の活性は概日時計のフィードバックループや代謝産物によって調節される<ref name=Reick2001><pubmed>11441147</pubmed></ref><ref name=Eckel-Mahan2013><pubmed>23303907</pubmed></ref>(Reick et al., 2001; Eckel-Mahan & Sassone-Corsi, 2013)。このように、NPASファミリーは様々な細胞内外の刺激に応答し、それを転写レベルの変化へと変換する重要な結節点として機能している。
 NPASファミリーの活動は、他の細胞内シグナル伝達経路と密接に連携している。例えば、NPAS4の発現は神経活動に伴う[[カルシウム]]流入によって厳密に制御されており <ref name=Lin2008><pubmed>18815592</pubmed></ref>(Lin et al., 2008)、[[カルシウム/カルモジュリン依存的タンパク質リン酸化酵素]]や[[転写因子]] ([[cAMP response element-binding protein]] ([[CREB]]), [[myocyte enhancer factor 2]] ([[MEF2]])がNPAS4遺伝子の発現制御に関与している<ref name=Sun2016><pubmed>26987258</pubmed></ref>(Sun and Lin, 2016)。また、NPAS2の活性は概日時計のフィードバックループや代謝産物によって調節される<ref name=Reick2001><pubmed>11441147</pubmed></ref><ref name=Eckel-Mahan2013><pubmed>23303907</pubmed></ref>(Reick et al., 2001; Eckel-Mahan & Sassone-Corsi, 2013)。このように、NPASファミリーは様々な細胞内外の刺激に応答し、それを転写レベルの変化へと変換する重要な結節点として機能している。


=== 個体レベル ===
=== 各論 ===
 分子レベルでの転写調節機能を通じて、各NPASメンバーは個体レベルで以下のような多様な生理機能を発揮する。
==== NPAS1 ====
==== NPAS1 ====
===== 神経発生 =====
===== 神経発生 =====
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===== 気管形成 =====
===== 気管形成 =====
 [[気管]]上皮細胞と[[間葉系細胞]]の相互作用に関与し、正常な気管軟骨輪のパターン形成に必須である<ref name=Levesque2007><pubmed>17110583</pubmed></ref>(Levesque et al., 2007)。
 [[気管]]上皮細胞と[[間葉系細胞]]の相互作用に関与し、正常な気管軟骨輪のパターン形成に必須である<ref name=Levesque2007><pubmed>17110583</pubmed></ref>(Levesque et al., 2007)。
===== 低酸素応答の調節 =====
===== 低酸素応答の調節 =====
 HIF経路の構成因子として、特に[[HIF1α]]や[[HIF2α]]の活性を調節(主に抑制)する役割を持つ可能性が、特定の状況下で示唆されている<ref name=Makino2002><pubmed>12119283</pubmed></ref>(Makino et al., 2002)。
 HIF経路の構成因子として、特に[[HIF1α]]や[[HIF2α]]の活性を調節(主に抑制)する役割を持つ可能性が、特定の状況下で示唆されている<ref name=Makino2002><pubmed>12119283</pubmed></ref>(Makino et al., 2002)。
==== NPAS2 ====
==== NPAS2 ====
===== リガンド応答性 =====
 NPAS2は[[ヘム]]をリガンドとして結合し、細胞内のガス状分子([[CO]], [[酸素|O<sub>2</sub>]], [[NO]])の濃度変化に応じてその立体構造や転写活性が変化する可能性が示唆されている<ref name=Dioum2002><pubmed>12446832</pubmed></ref><ref name=Gilles-Gonzalez2005><pubmed>15598487</pubmed></ref>(Dioum et al., 2002; Gilles-Gonzalez & Gonzalez, 2005)。これにより、NPAS2は細胞の代謝状態(例:ヘム生合成レベル)やガス環境を感知し、概日リズムや代謝関連遺伝子の発現を調節する役割を担っていると考えられる<ref name=Kitanishi2008><pubmed>18479150</pubmed></ref>(Kitanishi et al., 2008)。NPAS1, 3, 4も、PAS-Bドメイン内にリガンド結合ポケットを有することが構造的に示されており<ref name=Wu2016><pubmed>noPMID</pubmed></ref><ref name=Sun2022><pubmed>36343253</pubmed></ref>(Wu et al., 2016; Sun et al., 2022)('''図2''')、これらのタンパク質は未知の内因性リガンドによって活性が制御されている可能性が考えられる。
===== 概日リズム制御 =====
===== 概日リズム制御 =====
 視交叉上核(SCN)において、CLOCKと共にコア[[時計遺伝子]](period (Per)、cryptochrome (CRY)など)の転写を制御する転写活性化因子として機能し、約24時間周期の概日リズム発振に寄与する<ref name=Reick2001><pubmed>11441147</pubmed></ref><ref name=Parekh2019><pubmed>30962277</pubmed></ref>(Reick et al., 2001; Parekh et al., 2019)。末梢組織(肝臓、肺など)においても、それぞれの組織における概日時計の維持に関与する<ref name=Storch2002><pubmed>11967526</pubmed></ref>(Storch et al., 2002)。NPAS2変異マウスは、正常な光周期下では比較的正常な活動リズムを示すが、恒常暗黒下での活動周期の不安定性や、特定の光パルスに対する位相シフト反応の変化、睡眠ホメオスタシスの異常などを示す<ref name=Dudley2003><pubmed>12843397</pubmed></ref><ref name=Mongrain2011><pubmed>22039518</pubmed></ref>(Dudley et al., 2003; Mongrain et al., 2011)。
 視交叉上核(SCN)において、CLOCKと共にコア[[時計遺伝子]](period (Per)、cryptochrome (CRY)など)の転写を制御する転写活性化因子として機能し、約24時間周期の概日リズム発振に寄与する<ref name=Reick2001><pubmed>11441147</pubmed></ref><ref name=Parekh2019><pubmed>30962277</pubmed></ref>(Reick et al., 2001; Parekh et al., 2019)。末梢組織(肝臓、肺など)においても、それぞれの組織における概日時計の維持に関与する<ref name=Storch2002><pubmed>11967526</pubmed></ref>(Storch et al., 2002)。NPAS2変異マウスは、正常な光周期下では比較的正常な活動リズムを示すが、恒常暗黒下での活動周期の不安定性や、特定の光パルスに対する位相シフト反応の変化、睡眠ホメオスタシスの異常などを示す<ref name=Dudley2003><pubmed>12843397</pubmed></ref><ref name=Mongrain2011><pubmed>22039518</pubmed></ref>(Dudley et al., 2003; Mongrain et al., 2011)。
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===== 神経活動依存的な遺伝子発現のマスターレギュレーター =====
===== 神経活動依存的な遺伝子発現のマスターレギュレーター =====
 ニューロンが活動すると迅速に発現が誘導され、その後、抑制性シナプスの形成や機能に関わる遺伝子群([[glutamate decarboxylase 1]]/[[glutamate decarboxylase 2|2]] ([[GAD1]])/[[GAD2|2]]), [[ソマトスタチン]] ([[SST]])、[[神経栄養因子]]([[brain-derived neurotrophic factor]], [[BDNF]])、[[イオンチャネル]]、その他の転写因子など、多岐にわたる標的遺伝子の発現を協調的に制御する<ref name=Lin2008><pubmed>18815592</pubmed></ref><ref name=Bloodgood2013><pubmed>24201284</pubmed></ref><ref name=Pollina2023><pubmed>36792830</pubmed></ref>(Lin et al., 2008; Bloodgood et al., 2013; Spiegel et al., 2014; Pollina et al. 2023)。これにより、神経回路の活動レベルに応じた適応的な変化を引き起こす('''図3、図4''')。
 ニューロンが活動すると迅速に発現が誘導され、その後、抑制性シナプスの形成や機能に関わる遺伝子群([[glutamate decarboxylase 1]]/[[glutamate decarboxylase 2|2]] ([[GAD1]])/[[GAD2|2]]), [[ソマトスタチン]] ([[SST]])、[[神経栄養因子]]([[brain-derived neurotrophic factor]], [[BDNF]])、[[イオンチャネル]]、その他の転写因子など、多岐にわたる標的遺伝子の発現を協調的に制御する<ref name=Lin2008><pubmed>18815592</pubmed></ref><ref name=Bloodgood2013><pubmed>24201284</pubmed></ref><ref name=Pollina2023><pubmed>36792830</pubmed></ref>(Lin et al., 2008; Bloodgood et al., 2013; Spiegel et al., 2014; Pollina et al. 2023)。これにより、神経回路の活動レベルに応じた適応的な変化を引き起こす('''図3、図4''')。
 Fos, Npas4, Egr1などの最初期遺伝子(immediately early gene: IEG)のプロモーターでは、感覚刺激によりtopoisomerase IIβ(TOP2B)を介してDNA二本鎖切断(double-strand break: DSB)が形成される。マウス海馬ニューロンをカイニン酸で刺激した2時間後に観察されるDSB部位の大部分(69%)は、NPAS4/ARNTヘテロダイマーが最も多く結合しているNpas4遺伝子座と重なっていた<ref name=Pollina2023><pubmed>36792830</pubmed></ref>(Pollina et al. 2023)。NPAS4/ARNTとNuA4(lysine acetyltransferaseのTIP60を含む)の複合体は、神経活動により生じた二本鎖切断を、DSB修復タンパク質MRE1とRAD50をリクルートすることにより修復する。尚、Npas4プロモーターは感覚刺激により二本鎖切断を受けるが、NPAS4結合部位を含んでいるので、神経活動により誘導されたDSBをNPAS4がフィードバック制御していることになる<ref name=Delint-Ramirez2023><pubmed>37084713</pubmed></ref>。


===== シナプス可塑性・学習記憶 =====
===== シナプス可塑性・学習記憶 =====