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=== ヘテロフィリック結合(異種分子親和性結合) === | === ヘテロフィリック結合(異種分子親和性結合) === | ||
異種の分子が特異性をもって結合する様式をヘテロフィリック結合(Heterophilic adhesion)という。代表的なヘテロフィリック結合ペアとして、[[L1]]ファミリーと[[Contactin]]ファミリーの結合、[[ICAM]]ファミリーと[[β2インテグリン]]ファミリーの結合などが報告されている。異なったタイプの細胞間の相互作用で使われる接着様式であり、最も研究が進展している例として、ニューロンと[[シュワン細胞]](あるいは[[オリゴデンドロサイト]])の接着による軸索の[[髄鞘化]]における[[免疫グロブリンスーパーファミリー]] | 異種の分子が特異性をもって結合する様式をヘテロフィリック結合(Heterophilic adhesion)という。代表的なヘテロフィリック結合ペアとして、[[L1]]ファミリーと[[Contactin]]ファミリーの結合、[[ICAM]]ファミリーと[[β2インテグリン]]ファミリーの結合などが報告されている。異なったタイプの細胞間の相互作用で使われる接着様式であり、最も研究が進展している例として、ニューロンと[[シュワン細胞]](あるいは[[オリゴデンドロサイト]])の接着による軸索の[[髄鞘化]]における[[免疫グロブリンスーパーファミリー]]分子群(Contactin、[[TAG-1]]、[[NrCAM]]、[[Neurofascin]]、[[Necl]]など)の役割が知られている(詳細は「免疫グロブリンスーパーファミリー」の項を参照)。また、[[シナプス前部]]に存在する多様な[[Neurexin]]アイソフォームと[[シナプス後部]]の[[Neuroligin]]ファミリーが選択的ヘテロフィリック結合をすることによって、シナプス形成の特異性を規定すると考えられている。 | ||
=== リガンド架橋型結合 === | === リガンド架橋型結合 === | ||
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[[Image:Furutani fig 2.jpg|thumb|300px|'''図2.カドヘリン・スーパーファミリー'''<br>カドヘリンは細胞外領域に複数のカドヘリンドメインを持つ蛋白質である。プロトカドヘリン1-21のカドヘリン様ドメイン数は分子によって異なる(6個または7個)。]] | [[Image:Furutani fig 2.jpg|thumb|300px|'''図2.カドヘリン・スーパーファミリー'''<br>カドヘリンは細胞外領域に複数のカドヘリンドメインを持つ蛋白質である。プロトカドヘリン1-21のカドヘリン様ドメイン数は分子によって異なる(6個または7個)。]] | ||
カドヘリン・スーパーファミリー(Cadherin superfamily)は、細胞外領域にカドヘリン様ドメインを有し、[[カルシウム]]イオン依存的なホモフィリック結合により細胞接着活性を現す膜蛋白質群の総称である<ref><pubmed>17133224</pubmed></ref>。マウスにおいて少なくとも80種類のメンバーが存在する(図2)。これまでのカドヘリン分子群の発見及び機能解析においては、多くの日本人研究者が中心的役割と果たしてきた。1980年代に[[竹市雅俊]]らによって次々と発見されたクラシックカドヘリンファミリー([[N-カドヘリン|N-]] | カドヘリン・スーパーファミリー(Cadherin superfamily)は、細胞外領域にカドヘリン様ドメインを有し、[[カルシウム]]イオン依存的なホモフィリック結合により細胞接着活性を現す膜蛋白質群の総称である<ref><pubmed>17133224</pubmed></ref>。マウスにおいて少なくとも80種類のメンバーが存在する(図2)。これまでのカドヘリン分子群の発見及び機能解析においては、多くの日本人研究者が中心的役割と果たしてきた。1980年代に[[竹市雅俊]]らによって次々と発見されたクラシックカドヘリンファミリー([[N-カドヘリン|N-]]、[[E-カドヘリン|E-]]、[[P-カドヘリン|P-]]、[[R-カドヘリン]])は、細胞内領域で[[カテニン]]と結合し、[[アクチン]][[細胞骨格]]系や様々なシグナル伝達を制御する<ref><pubmed>2197976</pubmed></ref>。 | ||
1993年、鈴木信太郎らは新たなカドヘリン多重遺伝子群の神経系における発現を報告した<ref><pubmed>8508762</pubmed></ref>。 | 1993年、鈴木信太郎らは新たなカドヘリン多重遺伝子群の神経系における発現を報告した<ref><pubmed>8508762</pubmed></ref>。 | ||
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[[wikipedia:jp:抗体|抗体]]分子([[wikipedia:ja:免疫グロブリン|免疫グロブリン]]:Ig)の構造と類似した免疫グロブリン様ドメイン(Igドメイン)を細胞外領域に有する膜蛋白質群を免疫グロブリンスーパーファミリー(Immunoglobulin superfamily, IgSF)と総称する<ref><pubmed>1710044</pubmed></ref><ref><pubmed>8528906</pubmed></ref>。 | [[wikipedia:jp:抗体|抗体]]分子([[wikipedia:ja:免疫グロブリン|免疫グロブリン]]:Ig)の構造と類似した免疫グロブリン様ドメイン(Igドメイン)を細胞外領域に有する膜蛋白質群を免疫グロブリンスーパーファミリー(Immunoglobulin superfamily, IgSF)と総称する<ref><pubmed>1710044</pubmed></ref><ref><pubmed>8528906</pubmed></ref>。 | ||
1987年、EdelmanらはIgドメインを有し、神経細胞に発現する膜蛋白質[[NCAM]]([[Neural cell adhesion molecule]])を最初に発見した<ref><pubmed>3576199</pubmed></ref>。その後、神経系に発現する100種類以上ものIgSFが同定された(図3)。代表的なIgSF分子として、軸索伸長・ガイダンスに機能する[[L1]] | 1987年、EdelmanらはIgドメインを有し、神経細胞に発現する膜蛋白質[[NCAM]]([[Neural cell adhesion molecule]])を最初に発見した<ref><pubmed>3576199</pubmed></ref>。その後、神経系に発現する100種類以上ものIgSFが同定された(図3)。代表的なIgSF分子として、軸索伸長・ガイダンスに機能する[[L1]]、Contactin、[[DCC]]、[[Robo]]、樹状突起発達、シナプス形成に関与する[[Telencephalin]]、[[SynCAM]]、[[Dscam]]、[[Sidekick]]、髄鞘形成を司るP0などがあり、神経系発達の様々な過程で機能的役割を果たしている(詳細は「[[免疫グロブリンスーパーファミリー]]」の項を参照)。 | ||
=== インテグリン・ファミリー === | === インテグリン・ファミリー === | ||
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[[Image:Furutani fig 4.jpg|thumb|300px|'''図4.インテグリン。A, インテグリンの構造'''<br>インテグリンはα、βサブユニットのヘテロ2量体からなる。 B, α、βサブユニットの組み合わせとそのリガンド分子。Col: Collagen, Fb: Fibrinogen, Fn: Fibronectin, FX: factor X, ICAM: Intercellular adhesion molecule, Ln: Laminin, MadCAM: Mucosal addressin cell adhesion molecule, Tn: Tenascin, VCAM: Vascular cell adhesion molecules, vWF: von Willebrand’s factor.]] | [[Image:Furutani fig 4.jpg|thumb|300px|'''図4.インテグリン。A, インテグリンの構造'''<br>インテグリンはα、βサブユニットのヘテロ2量体からなる。 B, α、βサブユニットの組み合わせとそのリガンド分子。Col: Collagen, Fb: Fibrinogen, Fn: Fibronectin, FX: factor X, ICAM: Intercellular adhesion molecule, Ln: Laminin, MadCAM: Mucosal addressin cell adhesion molecule, Tn: Tenascin, VCAM: Vascular cell adhesion molecules, vWF: von Willebrand’s factor.]] | ||
インテグリンはαサブユニットとβサブユニットのヘテロ2量体からなる2価[[wikipedia:ja:カチオン|カチオン]](Mg<sup>2+</sup>あるいはCa<sup>2+</sup>)依存性の接着分子である。マウスでは16種類のαサブユニットと8種類のβサブユニット遺伝子が存在し、図4に示す組み合わせにより機能的なヘテロ2量体を形成する。 | |||
多くのインテグリンは、[[コラーゲン]]、[[ビトロネクチン]]、[[ラミニン]]、[[フィブロネクチン]]などの細胞外マトリックス蛋白質をリガンドとして細胞−基質間の接着を司る。一方、一部のインテグリンはIgSFやカドヘリンと結合することで細胞間接着を担う。例えばβ2サブユニットを含むインテグリンLFA-1(αLβ2; CD11a/CD18)は、Telencephalin([[ICAM-5]])などのICAMファミリーIgSF分子群と結合し、免疫系および神経系における細胞間認識・接着において機能することが報告されている<ref><pubmed>17201681</pubmed></ref><ref><pubmed>18367254</pubmed></ref>。 | |||
インテグリンの細胞内領域は[[Talin]]、[[α-Actinin]]、[[Vinculin]]などと結合し、アクチン細胞骨格系や様々な細胞内シグナル伝達系を制御する<ref><pubmed>12297042</pubmed></ref>。神経系におけるインテグリンの機能として、ニューロンの移動、軸索の伸長、シナプスの形成、神経可塑性の制御などが報告されている<ref><pubmed>15250583</pubmed></ref><ref><pubmed>17049262</pubmed></ref><ref><pubmed>16567651</pubmed></ref><ref><pubmed>19047646</pubmed></ref><ref><pubmed>19758485</pubmed></ref><ref><pubmed>22232691</pubmed></ref><ref><pubmed>23083738</pubmed></ref>。 | |||
=== その他のシナプス接着分子 === | === その他のシナプス接着分子 === | ||
上述した分子の他に、[[Netrin-G1]]、Netrin-G2|-G2]]などのロイシンリッチリピート蛋白質、Neurexins / [[Neuroligins]]、[[Neuropilins]] / [[Plexins]] / [[Semaphorins]]、[[Ephrins]] / [[Ephs]]、[[Syndecans]]などの細胞認識・接着分子がシナプス部位に局在しており、シナプス形成・維持・可塑性を制御している(詳細は「[[シナプス接着因子]]」の項目を参照)<ref><pubmed>15882774</pubmed></ref><ref><pubmed>18923512</pubmed></ref><ref><pubmed>21740233</pubmed></ref><ref><pubmed>22449939</pubmed></ref><ref><pubmed>22895477</pubmed></ref>。 | |||
また、膜7回貫通型受容体である[[Latrophilin]]、Celsr、[[Brain-specific angiogenesis inhibitor]] (BAI)は脳において高発現している。これらの細胞外領域には[[細胞外マトリックス]]蛋白質や[[カドヘリン]]と共通するドメインを持っているため、細胞接着に関連するドメインを介した相互作用によりシナプス形成を調節すると考えられる<ref><pubmed>21724987</pubmed></ref><ref><pubmed>21262840</pubmed></ref><ref name=ref31><pubmed>22262843</pubmed></ref><ref><pubmed>22405201</pubmed></ref>。 | |||
=== 細胞外マトリックス分子 === | === 細胞外マトリックス分子 === | ||
細胞外マトリックスは主にコラーゲンやラミニンに代表される分泌蛋白質と[[ヒアルロン酸]]や[[コンドロイチン硫酸]]などの糖から構成されており、これらの分子が自己組織化することにより細胞の周囲にシート状またはメッシュ状の線維を形成する。それぞれの細胞は細胞外マトリックス分子(Extracellular Matrix Molecules)を分泌し、その細胞自体に適した細胞外環境を構築している。 | |||
また、細胞外マトリックス分子は[[Matrix metalloproteinase]]などの細胞外プロテアーゼによって分解され、細胞外環境を随時最適なものにカスタマイズしている。 | |||
細胞外マトリックスは単に細胞間を埋め尽くしているだけでなく、細胞を支える構造体となり、細胞の増殖、分化、行動、運命などを決定する。細胞外マトリックス分子の情報は主にインテグリンを介して細胞内へと伝えられる。その他、Telencephalin、NeclなどのIgSF分子群も[[ビトロネクチン]]などの細胞外マトリックス蛋白質と結合することで細胞内へと情報を伝える<ref><pubmed>17446174</pubmed></ref><ref name="ref33"><pubmed>23019340</pubmed></ref>。 | |||
[[運動ニューロン]]と筋細胞のシナプス([[神経筋接合部]])ではシート状の細胞外マトリックス([[基底膜]])が存在し、細胞外マトリックス蛋白質がシナプス形成を制御している<ref><pubmed>10202544</pubmed></ref> | [[運動ニューロン]]と筋細胞のシナプス([[神経筋接合部]])ではシート状の細胞外マトリックス([[基底膜]])が存在し、細胞外マトリックス蛋白質がシナプス形成を制御している<ref><pubmed>10202544</pubmed></ref>。一方、中枢神経系におけるシナプスでは明らかな細胞外マトリックス構造が見られないが、ビトロネクチンや[[トロンボスポンジン]]などの細胞外マトリックス蛋白質が[[スパイン]]成熟やシナプス形成を制御している<ref><pubmed>15707899</pubmed></ref><ref name="ref33" />。また、細胞外マトリックス分子はシナプス形成のみならず、幹細胞の維持、細胞移動の制御、軸索伸長の促進・抑制などにも関与している<ref><pubmed>20497467</pubmed></ref><ref><pubmed>21898854</pubmed></ref><ref><pubmed>23083738</pubmed></ref>。(詳細は「細胞外マトリックス」の項を参照) | ||
== ギャップジャンクション == | == ギャップジャンクション == | ||
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[[Image:Furutani fig 5.jpg|thumb|300px|'''図5.ギャップジャンクション'''<br>Connexinsはホモまたはヘテロ6量体(Connexon)として細胞膜に存在し、対面する細胞膜にあるConnexonと細胞間チャネルを形成する。]] | [[Image:Furutani fig 5.jpg|thumb|300px|'''図5.ギャップジャンクション'''<br>Connexinsはホモまたはヘテロ6量体(Connexon)として細胞膜に存在し、対面する細胞膜にあるConnexonと細胞間チャネルを形成する。]] | ||
約1000ダルトン以下の低分子を通すことのできる細胞間チャネルを有する接着構造をギャップジャンクション(Gap Junction)という。ギャップジャンクションを介して、栄養素、代謝産物、[[セカンドメッセンジャー]]、陽イオン、陰イオンなどの様々な分子が細胞間で輸送される。この細胞間チャネルは[[Connexins]]と[[Pannexins]]により形成され、[[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]やマウスのゲノムには約20種類のConnexin遺伝子と、3種類のPannexin遺伝子が存在する。ニューロン間のギャップジャンクションは、主に6種類のConnexin-26, -30.2, -31.1, -36, -45, -57と2種類のPannexin-1, -2で構成される。Connexinsは細胞膜でホモまたはヘテロ6量体(Connexon)として存在し、対面する細胞膜のConnexonどうしでさらにホモフィリックあるいはヘテロフィリックに結合することで細胞間接合部チャネル、すなわちギャップジャンクションを形成する(図5)。ギャップジャンクションはニューロン間のみならず、[[小脳プルキンエ細胞]]と[[バーグマングリア]]の接着部位などにも存在し、ニューロン−グリア細胞間の情報伝達にも機能している<ref><pubmed>15738956</pubmed></ref>。 | |||
== タイトジャンクション == | == タイトジャンクション == | ||
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[[Image:Furutani fig 6.jpg|thumb|300px|'''図6.タイトジャンクション'''<br>Occuludins、Claudins、JAMsはホモフィリック結合を形成し、その細胞内ではZOとの結合を介してアクチン骨格に固定され強固なタイトジャンクションとして機能する。]] | [[Image:Furutani fig 6.jpg|thumb|300px|'''図6.タイトジャンクション'''<br>Occuludins、Claudins、JAMsはホモフィリック結合を形成し、その細胞内ではZOとの結合を介してアクチン骨格に固定され強固なタイトジャンクションとして機能する。]] | ||
神経細胞におけるタイトジャンクションの存在に関しての報告はないが、[[血液−脳関門]]([[Blood-Brain Barrier]]: [[BBB]])の維持におけるタイトジャンクション(Tight Junction)の役割は欠かせない。血管内皮細胞同士がタイトジャンクションを介して強固に結合することで、脳実質内への血液の浸潤を妨げるバリア構造が形成される。タイトジャンクションは[[Claudins]]、[[Occludins]]、[[JAMs]]によるホモフィリック結合を基盤として構築され、これら分子の細胞内領域が[[Zonula occludens]] ([[ZO]])を介してアクチン細胞骨格と結合することで、強固な細胞間接着構造が形成される(図6)<ref><pubmed>11283726</pubmed></ref><ref><pubmed>21349151</pubmed></ref>。また、末梢神経系でのシュワン細胞による軸索の髄鞘形成においては、Claudin-19を介したタイトジャンクション構造が重要な役割を果たしている<ref><pubmed>15883201</pubmed></ref>。 | |||
== 関連項目 == | == 関連項目 == |